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2章 少年期 1部シーバムの大森林編

6話 記憶

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タケルは今は主の居なくなった玉座に座り、遥か昔には家臣が控えて居たであろう階段の下に居るアルミスとサビオに向かいまるで王のように手を上げ手を振った。アルミスとサビオは何かを察したのか、片膝をつき跪づき頭を垂れた。

「うむ、苦しゅうない、面を上げよ・・・・なんちゃって・・・」 

タケルが王の真似を堪能し、立ち上がろうとした時、タケルの目の前の景色が一変した。
 玉座には鎧を着て兜をサイドテーブルのような物の上に置き、顔は30代であろうか、まだ若く感じられるが顔の半分は髭で覆われており、綺麗に整えられている。鎧の隙間から見える体は逞しく、歴戦の猛者のようである。

「これは・・・夢・・・いや過去の光景・・・か?」

タケルは辺りを見渡すと、玉座に座る人物は王であろうか、次々にやって来る伝令らしき兵士からの報告を受ける度に苦々しい顔をし、兵士に伝令を出しているようだ。

「音が聞こえないから何を言ってるか解らないな。」

タケルがそう考えた瞬間、音が聞こえて来た。

「申し上げます、魔王の軍勢の攻撃により、王都の城門が破られました。現在、金獅子騎士団が防衛に当たっておりますが、街への侵攻を半刻遅らせるのが限界との事、王族の皆さまは至急避難願います。」

駆け込んで来た兵士が王に早口で告げた。その兵士の話を聞いた王は立ち上がり周囲の人間に声を粗げ命令し始めた。

「直ちに白鷲騎士団を増援に向かわせろ!私も追って駆けつける!」

「なりません、陛下。貴方の身に何か有ったら、この国はどうするのですか!それよりも兵士の言うとおり避難をしてください。」

自分も魔王の軍勢の迎撃に出ると言った王に対し家臣であろうか、思い留まり、避難するよう進言した。

「何を言っておる!国とは民があってこそ、その民を守れず何が王と言えるか!近衛騎士団、出陣撃準備せよ!」

「陛下・・・判りました、それでは王妃様と王女様だけでも避難なされますようご命令を!」

家臣は玉座の脇にある扉の前で祈るように王を見ている王妃と王女を指し示し、逃がすよう進言した。

「わかった、お主らは即刻避難せよ!アルセリオ!アルセリオは居るか。」

王が叫ぶとアルセリオと呼ばれた男が玉座脇の扉から歩み出て来た。

「はっ陛下、ここに。」

アルセリオは玉座の脇に跪づいた、王は男に歩み寄り、腰を落とすと男の肩に手を置き話始めた。

「アルセリオ、良いかお前は母さんと妹のミレイアを連れて隣国のモンターザアリア国に逃げるんだ。あそこの王族とは旧知の仲だ、きっと助けてくれる。」

アルセリオは王子のようである、王妃と王女を連れて逃げるよう言われてアルセリオは驚いたような顔をした。

「出来ません!父上!私も魔王軍と戦います!」

「ならん!お前が母さんを守らないで誰が守るんだ!」

「それならば父上もご一緒に!」

「アルセリオ、私はこの国の王だ、王は国を、民を守る義務が有るのだ、今は街の民も魔物と戦っている、そんな状況で王が逃げ出す訳にはいかぬのだ!例え逃げたとして、そんな王に民は付いて来ぬであろう。だから私は逃げる訳にはいかんのだ!」

この王は善王なのだろうか、民を置いて逃げられないと言っている、そして王子も王の血を確実に受け継いでいるようだ。

「ベルナルド!ここへ。」

王を間近で警護していた兵士の一人が歩み出た。

「ハッ!陛下。」

「ベルナルド、お前はアルセリオの剣の師範であったな、お前はアルセリオ達を守ってモンターザアリアに連れて行ってくれ。頼む。」

「陛下、頭をおあげ下さい、このベルナルド、陛下の命とあらば必ずやアルセリオ殿下と王妃様達をモンターザアリアに無事に送り届けます。」

「うむ、頼んだぞベルナルド」

王が頼むと、ベルナルドは立ち上がり、王と共に戦おうとして動こうとしないアルセリオを無理やり奥へと連れて行った。
 王は連れていかれるアルセリオを泣きながら見ている王妃に近寄り話しかけた。

「ルシアナ、必ず迎えに行く、それまではアルセリオ達と居てくれ、達者でな。」

王はそう言って王妃にキスをすると、兜を手に取り家臣の元へと階段を降りて行き、兵士と共に城門へと向かった。

すると景色が移り変わり、誰も居ない謁見の間に王と数名の兵士が慌ただしく戻って来て、大きな扉を閉めて閂をした。
 王を含め全員が傷だらけで鎧もボロボロである。その事から城門の防衛は失敗に終わった事が判る。王が壊れた兜を脱ぎ捨てると、兵士達が王に向かい次々に何かを言い始めた。

「陛下、陛下はお逃げ下さい!ここは我々が何としても守り抜きます!」
「そうです、陛下は王妃様の元へお急ぎ下さい!」
「陛下!」「陛下!」・・・・・

兵士達の話を聞いた王がゆっくりと首を振った。

「もう良い、お前達。良くここまで戦ってくれた、私は良い兵士に恵めれ幸せだ・・・しかし今逃げた所で私は助からんだろう、ならばここで一匹でも多くの魔物を殺し、ルシアナ達が逃げる時間を稼ぐ事にしよう。お前達こそもう良いぞ、力の無い王ですまなかったな。」

王は兵士達に頭を下げた。すると兵士達が王に近寄った。

「陛下!どうか頭をお上げ下さい!陛下のお気持ちは良く判りました、われわれも最期までお供致します!」
「陛下!私も魔物共を一匹でも多く殺してやります!」

その時謁見の間の扉が大きな音をたてて揺れた、魔物が扉の外まで来たようだ。

「さて、お出ましだ。お前達、ありがとう。感謝する。」

「陛下、私こそ陛下と最期まで戦えて幸せです。」
「陛下私は死んでもお供致しますよ。」

その時扉が大きな音をたて大きな穴が空いた、そしてその穴から大量の魔物が雪崩れ込んできた。

そこでまた景色が移り変わった、どこかの地下通路であろうか、明かりの魔道具が有るが、薄暗く窓が無く狭い通路を数人が走り抜けていく。

「ルシアナ様、こちらです。お急ぎ下さい!」

先頭を走るのはベルナルドでその後を王妃達が走っている、殿しんがりをベルナルドの部下であろうか、兵士が後ろを警戒しながら後を追って来ている。
 暫く通路を進むと通路が左右に別れており、ベルナルドが右に曲がって行ったがすぐに戻って来た。

「こっちは駄目だ!もうこんな所まで来てやがる!こっちだ!」

ベルナルドは王妃達を反対の通路へ連れて走って行った。しかしその先にも魔物が居り、前後を魔物に挟まれる形になった。既に殿を努めていた兵士の姿は無くなっており、ベルナルド達は窮地に立たされていた。すると突然通路の壁が開きフードを被った人物が現れた。

「入れ!」

フードの人物は声で男性と判った、男性は王妃を引っ張り入れると、ベルナルド達に早く入れと言うように大きく手を振り、全員を中に招き入れた。

「王妃様、お久し振りです。」

男声がフードをぬぐと、王妃が驚いたような顔をして声をあげた。

「あ、貴方はサカリアス!どうしてここに!」

ベルナルドが王妃の言葉を聞いてサカリアスと言われた男を見る。

「サカリアスと言うと筆頭休廷魔導師の?」

サカリアスと言われた男が頷いた。

「そうだ、筆頭宮廷魔導師のサカリアスだ、俺の事よりも王妃様、お話が有ります。」

サカリアスが王妃の元へと歩み寄る。

「サカリアス貴方は死んだ筈では・・・」

「いえ、来るべき日の為に姿を隠し、ある研究をしていたのです。」

「来るべき日に、ある研究ですか?」

「そうです、魔王が現れこのような日が来るかもと、準備していたのです、王の命令によって。」

「それはどんな・・・」

「強力な結界と封印の魔法の研究です。」

王妃とサカリアスが話をしているとベルナルドが口を挟んで来た。

「話の途中悪いんだか、早くここから逃げ出さなくてはならないんだ、出口はどこだ?」

出口を聞かれたサカリアスがベルナルドの方を見て答えた。

「出口なんか無いさ、ここはただの研究施設だからな。」

「なっ!そ、それじゃあどうするんだ、このままじゃあ奴等に・・・」

「心配するな、簡単には破られはしないさ。言ったろ、結界の研究をしてるって。」

サカリアスの話を聞き、ベルナルドは黙り込んだ、しかし王妃が心配そうに聞いてきた。

「サカリアス、しかしこのままでは助かったとは言えないのでは・・・」

「そうですね、言えませんね。だからお話が有ると言ったのです。良いですか、ここからは質問は無しです、最期まで話を効いて下さい。」

サカリアスはグルッと全員を見渡し、また話をし始めた。

「私が研究してたのは結界と封印と言いましたよね、本来魔王に対して使う予定でしたが、こんなに早く向こうから来るとは誤算でした。そこで提案です王妃様、私の研究した封印の魔法で封印されて下さい。」

とんでもない話を聞いてベルナルドが声を粗げて剣を抜いた。

「貴様!王妃様をどうするつもりだ!」

「言っただろ、質問はは無しだと、それに最期まで話を聞け、筋肉バカ。」

「なっ!筋肉バ・・・」

「良いから剣を仕舞え。ミレイア様が震えている。」

そう言われ、ベルナルドは渋々剣を鞘に納めた。それを確認しサカリアスは話を続けた。

「王妃様、このままでは全員ここで死ぬのを待つしか有りません。残る手段は封印の魔法により、未来託し、何者かに封印が解かれるのを待つしか有りません、今の段階で王妃様とアルセリオ殿下とミレイア王女のお三方だけは封印により守る事が出来ます。どうされますか?」

サカリアスは王妃に決断を迫った、王妃としてはそれは避けたかったが、通路に魔物が居る以上答えは1つしか無かった、しかし王妃は答えが出せずにいた。

「そ、それは・・・」

そこでアルセリオが口を開き、王妃に訴えた。

「母上、封印を受けましょう。このままでは、全員飢え死にするしか有りません。ならば少しでも希望の有る方法を選びましょう!」

アルセリオの言葉で王妃は決断したようだ。

「アルセリオ・・・・立派になりましたね。」

王妃はサカリアスの方に向き直り、サカリアスの目をジッと見据え口を開いた。

「サカリアス、その方法を受けます。」

「分かりました。王妃様、こちらへ。」

サカリアスは王妃達を少し奥まった部屋へと案内した。そこは何も無い部屋でテーブルがひとつひとつ有り、テーブルの上にハンドボール大の魔石のような物が3つ置いてあった。

「魔法でこの封印石にお三方を封印致します。封印の解除は何年先になるか判りません、数年か、数十年か、それとも、もっと先か・・・」

王妃はアルセリオとミレイアの肩に手を置き、真剣に話を聞いている。

「構いません。おねがいします。」

王妃の決意を確認し、サカリアスは封印の作業に取りかかった。サカリアスは床に魔方陣を3つ作成し、魔方陣の中央にそれぞれ封印石を置いた。そして王妃達を魔方陣の前に並べ、分厚い本を手に取り開いた。サカリアスが詠唱を始めると魔方陣が光だし、続いて封印石も光だした。するとサカリアスが3人に向かって手をかざした。すると光が3人を包み、そして強く輝き出し周囲が光に包まれ、光が収まると3人の姿は消えており、封印石が淡く光っていた。

「ッッッ!!ハアッハアッハアッ、成功だ。」

サカリアスは体力を使い果たしたのか、その場に崩れ落ちた、ベルナルドはサカリアスに近づき抱え起こすと、小部屋を出て簡易的なベッドに寝かせた。
 1日程経ったであろう頃、サカリアスは目を覚まし、体を起こした。

「そうか、気絶して。」

「おう、目が覚めたか。」

「ああ、すまない。」

「あの中に王妃様達が封印されてるのか?」

ベルナルドは封印石を視線で指し示し、サカリアスに尋ねた。

「ああ、そうだ。中は時間も止まってる筈だ。」

「あのまま置いておくのか?」

「いや。」

サカリアスは一言そう言って立ち上がると、壁の一部を押すと小部屋の更に奥に部屋が現れた。

「ここに入れて更に結界を張る。」

サカリアスは封印石を小部屋の更に奥の小部屋に置くと、隠し扉を閉めてそこに結界を張った。  それを見てベルナルドがサカリアスに尋ねた。

「それで、俺達はどうするんだ?このまま飢え死にするまで待つのか?」

そう聞いてサカリアスは神妙な顔つきでベルナルドに話始めた。

「そうだな、何もしなければこのまま死を待つしかない、しかしある魔法で生き長らえる事が出来る。」

「どんな方法だ?」

「焦るな、説明する。今から使おうとする魔法は不老長寿の魔法だ、ただし効果はこの部屋に居る時のみだ、ここを出たら効力が失われ、老いて死んでしまうだろう。そしてその効力は封印が解けるまでか、1000年程だ。どちらかが達成されたら同様に効力を失うだろう。」

その話を聞いてベルナルドが黙り込み、暫くして口を開いた。

「サカリアス、それを俺に掛けてくれ。」

「良いのか?」

ベルナルドは頷いた。 

「俺はここで王妃を見守る事にしよう。」

「判った。」

そう言ってサカリアスは先日とは別の分厚い本を取りだし、ベルナルドに向かい魔法を掛けた。

「何も変わらないな。なっ、おい!サカリアス。」

ベルナルドが自分の体を確かめて居ると、サカリアスが倒れ込んだ。

「おい。サカリアス大事か?」

ベルナルドがサカリアスに問い掛けると、サカリアスは弱々しく口を開き、話始めた。

「すまない。不老長寿の魔法は一種の呪いだ、掛けられた方はここから出られないし、掛けた方は今すぐでは無いが死んでしまうんだ。」

サカリアスが、掛けた魔法は呪いの一種であった、呪いを掛けた反動でサカリアスは死の淵に立っていた。

「そ、そうだったのか。こちらこそすまない。」

「良いんだ、それよりも王妃様を頼む。必ず封印を解除する者が現れる、必ず。」

「ハッ!!!」

タケルは息を飲んだ、これは記憶の映像で自分の存在はそこに無い筈なのに、サカリアスが最後の言葉を言った時、目が合ったのだ、気のせいでは無く、間違いなく目が合った。
 タケルがそう思って直ぐにサカリアスは目を閉じて息を引き取った。

そこでタケルの意識は玉座で立ち上がろうとしてる瞬間に戻った。

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