都市のアルカナ

hoshino

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第1話

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 広場ではなにかのお祭りが催されているようで、音楽が奏でられ、それに合わせて脚や肩を大胆に露出した複数の女性が踊っている。その周囲には人が集まり、ピューッと指笛を鳴らしたり、拍手をしたりして盛り上げている。
 魔獣退治の専門家であるハンターたちの拠点を起源とするこの都市は、現在では大きく発展し、さまざまな業種の人や物が集まる場所となっている。
 中でもこのメイン通りは、連日何がしかのイベントが催され、多くの旅行者や観光客が行き交っている。

「都会って、毎日がお祭りみたいなんだなぁ。」

 きょろきょろと周囲を見回しながら少年は石畳の道を歩いていた。何度か通行人とぶつかりそうになったが、ぺこりとおじぎをすると、皆なにごともなかったかのようにそのまま歩いて行ってしまう。それが少年には不思議だった。少年が育ってきた場所であれば、ぶつかりそうになったときはお互いに目を合わせて謝り、ついでに少しくらい会話をするのに。すれ違う人がどこの誰かなど、こんなに多くの人がいる場所では、いちいち気にしていられないのかもしれない。この都市では田舎から旅行に来る者や出稼ぎに来る者が珍しくはない。ここでは少年は、ウルウ・ダインという一人の人間ではなく、単なるその中の一人になる。想像して、ぶるっと身体を震わせた。

 少年がこの都市に到着してから、今日で三日目。宿代も食事代も、決して安くはない。とにかく都市に着けばなんとかなると思っていたが、うまくいかない。そろそろ路銀が危うくなっている。
「早く村に帰りたいな。」
 少年は独りごちた。
 そのためには、一人都会へと送り出されたその目的を果たさなければならない。
 気持ちを新たにして、少年は親切そうなおばさんを見つけ、ギルドへの道を聞こうと近付いた。
 少年が村へ帰ることができない理由。それは、ギルドの場所が分からないことだった。

「なんだい、そんなことも知らないのか。」
 目を丸くして、おばさんが少年の頭のてっぺんからつま先まで見た。
「この都市のシンボル、ランドマーク、自慢の塔さ。この街のどこからでも、ギルドの塔を眺めることができるよ。ほら、あんたの目の前にも。」
 指差されたその先を見ると、この三日間、常に視界にあった高い塔があった。


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