【本編完結済み】藍より深き幽冥に咲く

温風

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解術**

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 男性の持つ手提灯の明かりが藍鹿の顔を照らす。

「いい匂いがする。上等な酒の匂いだ。だいぶ飲んでる?」
「ひ、人……? 助けて……助けてくださあい!」

 ガバッと相手の腰にしがみつく。男が「わお、大胆」と軽い口調で茶化したが、藍鹿の必死さに察するものがあったのか、すぐに背を宥めるようにさすった。

「蛇、蛇、蛇がいたんですう!!」
「落ち着いてよ、大丈夫だから。もしかしてきみ、あの邸から来た?」

 水簾閣のことだろうと思って頷く。男は藍鹿の腕をほどくと、顔を覗き込み額に手を当てた。ひんやりと冷たくて指が長い、大きな手だった。

「息が荒いし、熱もある。それにずいぶん薄着だ、ね……?」

 藍鹿の身体に提灯を傾けた男がぴたりと動きを止めた。視線が藍鹿の股間で固まっている。

「……っ!」

 腰紐も巻かずに出てきたから藍鹿の下半身はすっぽんぽんだ。慌てて股を手で隠すと、意外にも優しい声が降ってきた。

「……さぞ難儀だったろうな」

 男はそこで一度言葉を切り、藍鹿の顎に指をかけて持ち上げた。藍鹿も徐々に火明かりに目が慣れて、助けてくれた人物の容貌を間近に見上げることができた。
 ゆるくまとめた長髪、上等な玉の彫像のような浮世離れした美貌、切れ上がった眦の鋭さ――老船頭の舟で見かけた、崖の上にいた男だ。こんな場所でこんな夜更けに再会するとは奇縁もあったものだ。

「やはりあの女に一服盛られたか。あれは蠱師だから近づかないほうがいいんだけど」
「コシ?」
「呪い師だよ。きみ、媚薬を盛られたろ?」
「媚薬……? 酒でしょうか……?」
「それだけじゃないかもな」

 男が言うには媚薬をおおまかに分けると五種類あり、『呑む・吸う・塗る・塞ぐ・洗う』のいずれかの形に分類されるという。

「何か妙な振る舞いをされなかったか?」
「そ、そういえば手のひらを……こちょこちょと……」

 浴堂ふろばで女性に迫られたことまでは、さすがに言えなかった。

「盛りのつく植物油でも塗り込められたのかもな。手を出してみて」

 男は何を思ったか、藍鹿の左手のひらに唇を落とした。唇を押し当てたまま、目線だけを持ち上げて藍鹿を窺う。妖艶な目元の造形にうっと息を詰まらせていると手のひらに小さな瘤ができていた。何事かと驚いて目を瞠っていれば、男はそれを摘み上げ、指に挟んで潰してしまった。

「今のは……」
「これが蠱術。だけどまだ解術には至らないな。きみはおそらく何段階かに分けて媚薬を摂取してる。特に腹に入ったヤツは強力そうだよ」
「あ、お腹……なんだかずっと、お、おかしく、て……」

 膝を閉じて、もぞもぞと動かす。

「少し移動しよう。運ぶよ」
「えっ!?」

 言うや否や、美貌の男は軽々と藍鹿に肩に担ぎ上げた。


 連れてこられたのは朽ちかけの家屋だった。長くは歩かなかったから村の近くなのだろうが、不慣れな土地での夜歩きは不安にならないほうが難しい。
 男は竹筒に入った水をくれた。ありがたく頂いたが手が震えてうまく飲めず、大半を口の端からこぼしてしまった。藍鹿の傍に腰をおろした男が腕を組んで唸る。

「うーん、優秀な媚薬だな。持続力が高いみたいだ」
「どうしたら……治りますか……?」
「一度吐いたって言ってたし、朝には収まるよ。でもこのままじゃ生気を損なうから早く抜いたほうがいい」
「は、あの、なんで体を押し倒すんです……?」

 肩を手で押してみたが、男は藍鹿の上に体を重ねる。

「解毒するには、ここ。腹の中で悦くなるしかない」

 言いながら、男が藍鹿の臍の下へ手を伸ばす。
 男が顔を近づけてぱくりと口を開けた。赤い舌が藍鹿の口を丸呑みするように覆う。

「……っ? ……んっ、んーっ……!」

 男はさらに深く唇を重ね、分厚い舌を藍鹿の中に入り込ませた。重なった体が擬似性交をするように上下して、藍鹿の下腹部を刺激する。密着しているからわかるが、男の半身も硬く存在を主張していた。

(こいつ……!)

 体格も力も叶わず、何度体を起こそうとしても容易く組み敷かれた。唇を離した隙を見計らって頬を殴ろうとしたが、手首を掴まれあっけなく阻止される。
 火明かりに浮かび上がった男の美しい顔は、間違えようもなく欲情していた。親の仇のように睨みつけたら、うすら笑いを浮かべたまま手首を引かれ、うつ伏せに倒された。背中から床に押さえつけられてひどい屈辱を感じたが、弾んだ息が興奮に引きつりはじめる。認めたくないが男の動きで性的興奮が高まったのだ。甘ったるい熱が毒のように体に回っていく。
 男の手が臍から下におり、藍鹿の尻肉を押し上げた。外気に晒されて萎縮する細い窄まりを長い指が刺激する。

「ひぁっ……や、やめろ……!」
「きみはお腹の感覚に集中して」

 救いのためというが、陵辱するように男の指は誰にも許したことのない狭き門を押し拓いた。時折ぐりっと指の関節が肉を擦って、その刺激に恐怖を感じる。
 忌々しいが、男の性を切り取られても欲望は存在した。発散できない熱が腹にこもって苦しくてもどかしくて。すがるように男の腕を掴んだ。男は甘えられたのだと勘違いしたかもしれない。藍鹿は自分の体を恨みながら、獣みたいに男の腕に歯を立てた。
 意外にも男は逃げなかった。

「俺に噛みつくとか、度胸あるね」

 心底おかしそうに喉奥でくつくつ笑うのだ。
 前触れもなく、長い指がぐっと道の奥へ突き入れられた。

「……ぁ! あ、あああ……!!」

 藍鹿の体が魚のようにびくびく跳ねた。何が起きたかわからなくて、反射的にこぼれた涙で視界が濡れた。

「ほーら、うまく上り詰められた」
「あっ、あ……あ、や、やめろ……いや……」
「怖いだろうけど出せるものは全部出して。早く良くなる」

 優しい声で語りかけたかと思えば、逃げを打つ藍鹿の腰を片手で固定した。男は藍鹿の背に体を重ね、耳朶を甘く喰む。くすぐったさに身を捻っていたら油断を誘われた。腹に回った手に力がこめられ、明確な意図を持って腹を刺激する。
 尿意の抑制が効かなくなった。

「手、……いや……っ!」
「出せるものは全部出して」

 冷徹に言い放つ。
 局部を失った宦官は元々この機能が弱い。わずかな刺激で藍鹿はあっけなく決壊した。股の間をぬるい液体が流れ、床を濡らす。快感と恥辱でぐちゃぐちゃになった。
 最悪なのは自分を乱す男が余裕に満ちていることだ。結い崩れた髪を愛おしげに撫でる甘ったるいしぐさ。まるで愛されて抱かれているような混沌を藍鹿にもたらす。

「ああ、泣かないで。まいったな……どうしたら泣き止んでくれる?」
「……あなただけ涼しそうな顔して……納得いかない……!」

 涙と洟水で濡れた顔で睨むと、男はとろんとした表情で藍鹿を見つめた。

「それって、誘ってるの?」
「っ……んぅ……んんっ……!!」

 藍鹿の首に手がかかった。顔を無理やり持ち上げられ、再び口を塞がれる。今度は初めから深く繋がるような口づけだった。
 じたばたと手足をばたつかせるが、男は藍鹿を離さない。何度か腕を引っかいたことでようやく唇が離れた。首は掴まれたままだ。怒りと恥辱にわなわな震えるが、そんな藍鹿を男は呆れたように見下ろした。

「自覚ないんだね。……じゃあ遠慮すんのやめる」

 散々抵抗しても抜こうとしなかった指を一気に引き抜いた。

「えっ、あっ、何? な、なんっ……っ!?」

 変化に対応できずにいると、うつぶせの体に上体を重ねられ、床に手を縫い止められる。何をしようとしているのか、わざわざ聞かなくてもさすがに察せられた。男が自身の下穿きをずり下ろした。

「待って! ま、待って待って!」
「やだ。待たない。煽ったのはきみだからね」
「がっ……! あ、ぅ」

 ひたりと門に添えたそれは太くて硬かった。幾度か手で扱くと諌める暇も与えず、ぐいと藍鹿の内に腰を沈ませる。肘をついて逃げようと前に這うが、男は欲望をむき出しにして力づくで抑え込み、安易な逃走を許さない。おまけに指で十分に馴らされた道は、男が腰を揺さぶるだけで雄を奥深いところまで呑み込んでしまった。自分の体が自分の意思を裏切ったことに泣き声が止まらなくなる。

「……狭い、けど、ぐいぐい行けちゃうな」
「や……これ抜き、あ、いや、あっ……」

 抜け、やめろ、と毅然と拒否するはずの声にも悦びが漏れだした。感じやすい場所を的確に突くので、快感にぶるぶると背がしなる。
 後ろから責め立てる男がくすりと笑った。腰を支えている手が腹から上を愛おしげに撫で、胸の小さな飾りをもてあそぶ。女性のように扱われるのが嫌で、手で引き剥がそうとすれば背にかかる力がぐいと増した。触らせろという無言の意思表示らしい。

「悦くなれそうなところは試したいじゃないか。ほら、ね?」

 いやいやと頭を振る藍鹿の首に、熱を含んだ吐息がかかった。甘えるように首筋に頭を埋められるとぞくぞくと痺れが走り、あっ、と高い声を漏らせば、孔の中の雄が膨らむのがわかった。

 肉を穿つ勢いが早くなる。強くなる快感に体が焦げそうだ。……くたりと折れた体は、優しく抱き締められた。
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