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俺、人間に戻る
しおりを挟む人に戻れたのはほっとしたが、当然、全裸だった。
「は、はだか……肌色……!」
久我がうろたえている。
俺もいたたまれない気持ちになった。まず最初に俺の下腹部の小さな俺を見つめるの、やめてほしい。
「ごめん、いつも戻ると真っ裸なんだよ」
そっと手で覆うと、こちらの恥じらいを察したらしい。
「はっ! ごめん! ピンク色できれいだったから……」と、しどろもどろになっていた。だけど、
「あっ……乳首もピンク色してるんだ……」といって、手のひらをべたりと胸に貼り付けた。
「おい、おまえ調子に乗るなよ!」
赤くなって久我の手を引き剥がすと、あのさ、と少しトーンを落とした声になる。
「さっき、咲也に告白したんだけど……返事って今、聞けたりする?」
真摯なまなざしで俺を見つめた。
昨日からのポメの時間と、急に人に戻った時間、それと高校時代の思い出がないまぜになって、俺の中をぐるぐると駆け巡っている。
正直、こいつと再会した時は、重くて苦い気持ちでいっぱいになった。フィンレイ大佐をバカにされた記憶はあまりに悔しく生々しかった。
だけど、恨み続けるのを辞めて許すのなら……今しか機会はないのだと思う。
こいつも謝ってくれたし、フィンレイ大佐を保護してくれた恩人だし、俺としても、できることなら高校時代の禍根をずっと引きずりたくないのだ。
過去のしこりは現在にも影を落とす。いつまでも胸につかえを残したくない。俺は、好きなものをすなおに好きと言える、そんな人生を生きたい。
久我のまっすぐな視線はゆらがずに俺の返事を待っている。そんなふうにお前が待っていてくれるから、俺は、俺は──……、
「──許すよ」と、ポツリと言った。
「え?」
「高校時代、お前がからかったこと。他のやつらはぜってー許さないけど、お前だけは許す」
「あ、俺だけ……あ、ありがとう! うれしい」
「それから、告白の返事だけど」
「あ、うん。無理に気を遣わなくても、覚悟はできてる」
痛みに耐えるように顔を歪めている。
そんな久我に俺は全裸のまま、にじりよった。
「おまえ……いいにおい、するよね」
「匂い? 汗臭いか?」
「ううん、そうじゃなくて、あまくてあったかくて……あんしんする」
ポメになっていた時のようには嗅覚が効かなくて、すぴすぴと鼻を慣らしていると、ふふっと久我が笑った。
「咲也。人間でも犬でも、どっちも可愛い」
まなじりを下げてやわらかく微笑むと、イケメンの甘さマシマシになる。どきんと胸が跳ねて、かあっと顔に血が巡った。
「あ、うう……」
「もしかして、告白の返事はイエスだと思っていい?」
顔を近づけてそっと訊くので、こくんと頷く。すると頬を両手で包まれて唇に温かいものが重なった。
(ちゅっ、チューだ!)
一度触れたものをそっと離した久我。けれど続けてまた触れ合わせる。
唇をついばまれて、体が熱を持ちはじめる。俺、どうして興奮するんだろう……。
ふしぎに思いながら身を任せた。
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