21 / 36
第一章
ごめんなさいと
しおりを挟むチュンチュンと優雅な小鳥の囀りが耳に響き、目を覚ました。
右手に温もりを感じると、勝手に目から水が溢れてくる。左裾でソレを拭ってから、起き上がろうと右手を付くけど、大分か弱くなってしまったみたいでぽすんと音を立てベッドを揺らしただけだった。
そんな少しの音で隣に居た人は起き、僕にぎゅっと抱き着いた。
両手を使って起き上がると、僕もそっとその人に・・・、父上の背中に腕を回した。丁度、視線の先には部屋の隅では母上とカレアが寄り添う様に寝ていた。
さっき拭った筈の涙は、嘘だったのだろうか。ずっと、溢れてくる。
「レリィ・・・レリィ・・・!」
「父上・・・ごめんなさい・・・本当に・・・!」
本当にごめんなさいなんて言えない僕に父上は謝るし、言い合いが止まらなくなりながらしばらく二人で泣き腫らした後、話があると言った。
そして、母上とカレアには聞かせれないと言った。
それに対して父上は寝ているから大丈夫だ、早く教えてくれと言った。二人には聞かせたく無かったけれど、僕は今すぐにでもこのどうしようも無い気持ちをどうにかしたかった。
だから正直に泣きながら話した。
魔力を探知した時は頭が割れそうなくらい痛かった、吐血して口が血の味になって本当に嫌だった、ソレを拭う時、マントの内側が赤くて嬉しかった。
深海の眠りを使ってめっちゃ疲れた、伝達をする時、手が震えた、皆死んじゃうのかと思って凄く怖かった。
そして辛かったから、いっぱい笑った。
いっぱい魔法を打って、火傷しまくって痛かった。皆の求めている人になりたかった。
話し方が気持ち悪い奴が居てびっくりした。しかもソイツに腹パンされたせいでアバラの骨が折れて痛かったし、右手首も痛くなった。
ベンに酷い事を言わせた、酷い事を言った。辛い思いを、させた。
王城の中に侵入者が居て、ルドウィン様を結界で守った。僕が遅かったせいで頬と頭に怪我させてしまった。
侵入者に、レイピアを折られた。
血を・・・飲まされた。
怖かった、痛かった、辛かった、息が出来なかった。
沢山悔いた、助けて欲しかった・・・。
経験した事、思った事、全部全部、洗いざらい話して行った。
侵入者は父上と母上とカレアがくれた魔宝石で眠らせた。でも、ルドウィン様に弓が当たりそうになって、守りに行ったけど、結界は間に合わなくて、自分に刺さっちゃった。
ルドウィン様が僕のせいで泣いてしまったけど、優しくて嬉しかった。ルドウィン様が、余計に死ぬのを怖くさせた。そのせいで、そのお陰で生きたいと思えた。みんなに会いたいと思った。
涙を拭ってあげた。笑えなんて言っちゃった。最後も僕らしく、素直に言えなかった。
初めて、感謝を伝える事が、名前を呼ぶ事が出来た。
僕はずっと、泣きたかった。
ずっと、苦しかった。
襲撃事件を思い出すと・・・痛みと、辛さと、血の味と、壁に頭がぶつかる音と、赤い液体が、僕の視界を埋め尽くしてくる。
感覚や思いも、全部全部フラッシュバックする。
もう無いと心では分かって居ても、ずっとずっと止まらなくて、何度も何度も夢に、視界に出てくる。眠ればソレに魘され、過ごして居ればその人が僕を襲って来る様に感じる。
誰かに話してしまえばそれが正夢と化すのでは無いかと、不安で不安でしょうが無かった。弱さを見せたら殺されてしまう気がして、食べた物を全て吐いてるなんて、ベンにすら言えなかった。
自分が可笑しくなってしまったなんて、信じたく無かった。
裏切られるのが、怖かった。
目に映るモノが全て偽物に変わってしまうのが嫌だった。実際は、自分が変わって居るだけなのに。僕は分かって居るのに信じる事が出来なかった。
僕が生きてココに居るのは、皆が助けてくれたからなのに。
捨てられるのでは無いかと、要らないのでは無いかと、何も信じられなくなってしまって。知っているモノすら無くなった。
なのに変わらず僕に優しくて、心を温かくしてくれた。
だから本当だって、信じられた事。
胸で突っかえて居たモノも、全部言った。
最後に僕は言った。
例え今、裏切られて殺されようが、ココに居る人達が大好きだと。僕は絶対に皆を裏切らないと。
この二つの想いは、生涯ずっと変わらないと。
全部話すと、私のせいだと父上は言う。勿論ソレを否定して、泣いて謝った。僕に勇気があったのならば、こんなにもみんなを悲しませる事はなかっただろう。素直に言えばよかったと、後悔した。
既に母上とカレアは起きて居た様で、静かに涙を流して居る。
「母上・・・カレア・・・!」
「レリィ!」「っお兄ちゃん・・・!」
呼べば、駆け寄って抱き締めてくれる。より一層、涙が溢れた。二人も同様に、僕に謝った。二人にも同様に、僕は謝った。
たくさんの言葉を伝えた。
ごめんなさいと、ありがとうを、
そして、愛の言葉を──────
泣いて泣いて泣いて、笑った。
沢山笑った。泣いたよりも多く笑った。
たくさんの愛を乗せて、みんなで笑った──────
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる