ツンデレでごめんなさい!〜素直になれない僕〜

ハショウ 詠美

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第一章

届かぬ思い Lu/S

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 私があの時気付かなければ、運命は違ったのだろうか。あの人は傷付かなかったのだろうか。

 誰かいる気がして、先に部下達を避難させて、一人で確認したのがダメだったのか・・・。

 その後、援助を呼べなかったのが悪いのか。

 攻撃魔法は得意では無いから、防ぐ事しか出来なくて進展もなく、魔力と時間が減って行くだけだったのが一番悪いのだろうか。


 ―――


 魔力が無くなって終わりを感じた瞬間、騎士団長のレリスライト様が来てくれた。

 レリスライト様はカッコ良くて本当に素敵で、流石騎士団長だと思った。レイピアを使うレリスライト様は神秘的で見惚れてしまう程だった。


 いつも、あんな事を言ってるから、

 騎士団長なんだから、出来るモノだと思っていた。

 そんなモノは偏見に過ぎず、自分の願いで在り、唯の空想でしか無かった。


 レリスライト様は正義感の強い人だから・・・。でも、そんなに極度だとは思って居なくて。レイピアが壊れるのに、人を傷付け無いと、何も出来ず、滴る血を悲しく見つめる。

 怯える姿は、子供の様にしか見えなくて。普段の高貴なレリスライト様からは想像のつかない様な、幼い姿。

 そんな姿を見てしまったら、気にせずには居られなくて名前を呼んだ。そうしたら何かを思い出したかの様に動いた。

 これで終わりだ、そう思ったのに私に炎の弓が飛んできた。避けれないと思い目を閉じたのに、身体に当たったのはレリスライト様だった。

 必然の如く私の代わりに炎の弓が刺さってしまい、疑問で頭が染まった。咄嗟にレリスライト様の身体を支えたが、あらゆる場所が血で濡れている。


 どうして私なんかを守ってしまったのですか。貴方は私の事は嫌いなのに・・・・・どうしてこんな事をしたのですか。

 私は知らぬ間に泣いていた。

 数える程しか泣いた事が無いのに泣いてしまって居て・・・だけども自分でも止めようとは思えなくて。

 レリスライト様は、いつもの様に話したと思ったら、少し笑って遺言の様な物を言い始める。このまま消えてしまいそうで、手を握る。


 貴方が居なくなるなんて、考える事が出来ない。死なないと、断言して欲しいのに、一文字もそんな事は言ってくれない。


 泣くな、だなんて・・・、この状況で泣かない人なんか居ないと思う。そう考える私の涙を、優しく暖かく拭って下さった。

 血を吐くのに話し続けるからやめて欲しいと言うのに、止めてはくれない。結局私はこの人にとってそんな存在なのだと実感させられる。

 私の代わりに弓を受けたから、レリスライト様は死んでしまうのでは・・・?最悪の結果が脳裏に浮かぶ。

 なのに私に、笑えと言った。

 冷たい手が私の頬に触れ、少し唇をなぞって上にあげられた。手と同様に、目が力ない。

 何故かと問うのに、レリスライト様は笑った。そして、最期の様に一言発した。


『・・・ルド、ウィン・・・感謝、する・・・』


 これが初めての感謝の言葉で、初めて名前を呼ばれて、初めて見た笑顔だなんて、信じたくなかった。

 ダラりとレリスライト様の腕は床へ落ちた。

 何かを最期に言おうとしていた。言葉は出ず、少し口が動いただけだった。

 私に隠し事をするなんて、怒りますよ。まだ、言いたい事がたくさん在るのです。怒りそこねている事も在るのです。

 だから、起きて下さいよ。

 何度も、何度も名前を呼ぶけれど、返事は無い。死ぬだなんて信じられない。もう貴方に会えないなんて・・・死んでしまったなんて信じたくなくて、心臓に手を当てる。


 ──────まだ、動いてる


 まだ、間に合うかもしれない。

 死なせてたまるものか、絶対にさせない・・・!


 レリスライト様を抱えコア室まで走る。きっと大神官様がいらっしゃるだろう。他の人なんて、今はどうでもいい。魔力が無くて、余り視界は見えて居ないけれど走る。

 辛いけど、この人の方が辛いんだ。


 作法なんて後回しだ。今は人の命を・・・

 レリスライト様の命を助けてくれ・・・!


 両手が塞がって居るので、蹴って扉を開ける。修理費は私の私財産で払うので許して下さい。陛下もこの程度ならば許して下さるでしょう。緊急事態ですから。


「──────大神官様!」


 蹴って開けたので騎士が剣を抜いたが、剣は床に落ち、静止した。・・・当たり前だろう。宰相と騎士団長が血まみれになって居るのだから。・・・そんな人も無視。大神官様に用が有るのです。

 大神官様は騎士団の人を治療中だったが、許可も得ず話した。


「大神官様!騎士団長様が・・・!」

「・・・!?何があったのです!?」

「っ、あの・・・!先程城内に侵入者が居りまして・・・応援も呼びに行けず一人で対応して居たのですがっ、レリスライト様が来て下さって、その際に、弓から、私を庇って・・・!こんな事になってしまってっ!助けて下さい、大神官様!」


 たどたどと、言う事が纏まらないまま口を開き、状況を説明する。

 私のせいで、レリスライト様はこんな事になってしまった。何も出来なくて悔しい。もし私に力があったら・・・。


「・・・私に任せなさい・・・、最善を尽くします。」

「大神官様・・・あの、っ・・・助かりますよね・・・?大丈夫、ですよね?まさか・・・」


 大神官様は辛そうに、優しく慈愛に溢れた様にレリスライト様を見つめた。そして、私を見つめた。


 何故・・・その様な目で見るんですか?

 エルフ一の回復技術をお持ちなのに、どうしてその様な目で見るんですか。私を憐れむ様に見ないで下さい。

 嫌です、信じません・・・信じたくありません。


「・・・出来る限りは、力を尽くします・・・」

「そう、ですか・・・」


 ──────終わりだ

 私がせいだ。全て、全て・・・何もかも・・・。


 ふと、身体が重くなって目を閉じた。


 
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