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第2章 イマドキの呼び出し
21話~不良と滴る適正率~
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「大変ですねぇ、ダメな舎弟を持つと。」
にやにやとした笑み。
いつも思うが、月岡は下手な不良よりずっと悪い顔をしている。
「……よく教育しておく。」
「教育がてらこっちの…竹上くんの召喚の世話もお願いしたいのですが。もうすぐ召喚式でしょう?」
月岡が示す先へと目をやると、そこにいた小柄な生徒がびくりと身を震わせた。
パッと見ただけで全身の筋肉が緊張していることがわかる。
俺はつい溜息を吐く。
バカをやった舎弟を教員ではなく、こちらに引き渡す、その代わりに良いように使われるのはいつものことだ。
「…元より俺に拒否権はないだろう。引き受ける。その代わり、ソイツは返して貰う。」
そこまで言ってから、情けなく廊下に転がされている舎弟に視線を落とす。
体は細い。あまり重たくはなさそうだ。
持ち上げ、肩に担ぐ。
「じゃ、お願いしますね。小林先輩!」
「…大森だ。」
わざとらしく名前を間違える月岡に再度視線をやる。
怯える素振りもなく黄金色の目を細めて笑う月岡に、またも溜息が漏れた。
改めて、月岡に押し付けられた生徒に目をやる。
「…竹上だったか。今日は悪いが、相手は出来ない。明日の放課後、図書館で待ってる。」
「は、はいっ!」
ん、いい返事だ。
返事が出来るのは、良いことだ。
月岡の知り合いなんて、どうせとんでもない奴だろうと思ったが、案外そうでもないかもしれない。
そう思うと、つい表情が緩んだ。
※
「早速2ペア来たか。一応、名前を頼む。」
「蘇芳茜で、こっちは蘇芳蓮斗。」
「俺が坂崎雹太でー、月岡凜音センパイ!」
落ち着き払った、寧ろ冷たささえ感じるような声に対し、やや明るい声が二つ続く。
質問をした当の本人、天宮玲司はそれをメモに残す。
茜と蓮斗の姉弟ペア、雹太と凜音の人外ペア。
玲司は4人を見やり、その後机の上に置いてあった白い付箋紙のようなそれを手に取った。
「これは魔導具の呼名紙。この紙の先に血液を付けるとその者の召喚の適正率に応じて色が変わる。変化しなければ適正率皆無、それに次いで青が適正率が低く赤が適正率が最も高い。つまり、色が赤に近ければ近いほど適正率が高いわけだな。この学校では、緑以上の者に召喚を推奨している。」
「因みに私は黄色だったわ。」
「私は明るめのオレンジだったかなー」
説明に続き、茜が両手を腰に当てツインテールを揺らしながら自身の適正率について述べる。
更にそれに続く凜音。
どちらも適正率としては十分な値なのだろうということが想像に易い。
「…で、どうやって血を出せばいいの?俺あんまり痛いのは好きじゃないっていうか…」
「安心しろ、一瞬だ。」
玲司の説明をどうにか理解した雹太が緩く首を傾げる。
それに対し、さらりとそう答え左手を雹太へ差し出した玲司。
その手には何も握られておらず、何かがある様子はない。
「……ほら、手を出しなさいよ」
一瞬といえどどんなかたちで出血をすることになるのか。
それが分からず自然と眉を寄せていた蓮斗の背を、姉である茜が押す。
小柄で、容姿だけでは力が強いという印象を他者に与えないであろう彼女であるが、実際にはそうではない。
身長差28cmの青年が背を叩かれただけで前のめりになってしまうことが、仕方ないと判断される程の物理的なパワーを、茜はその体に宿している。
「っ、いや、まずはどうするのかを聞かせろって」
「男でしょ?そんなちっさいこと気にしてないでさっさと左手を差し出しなさい」
流石に言い返してみた弟であったがその有無を言わせない雰囲気に圧倒されて黙る。
そしてしぶしぶ、利き手とは逆の左手を差し出した。
玲司はその手をてのひらが上になるようにして握る。
普段から竹刀を振るう蓮斗の手は所々皮膚が厚くなっている。
玲司は蓮斗の人差し指の腹に視線を落とし、自分の右手の人差し指をそこに向けた。
自然と蓮斗の体が強ばる。
「『鋭』。」
静かな声で紡がれたのは『支援』に属する呪文。
短く切りそろえられていた玲司の人差し指の爪が白く発光し、呪文の通りに鋭く尖る。
その爪先で素早く指の腹を撫でると、一瞬にして赤い線が出来上がる。
じわりと溢れた鮮血にすぐさま呼名紙を寄せる。
白い紙の先へと染み入る血液。
それを見つめる5人。
紙の色はゆっくりと淡いオレンジへと変化した。
「…適正は充分、といったところか」
静かに伝えられた言葉に、蓮斗はほっと胸を撫で下ろす。
赤に充分近しいその色。
適正率を比べるとするならば黄色であった茜以上、明るいオレンジであった凜音以下といったところであろう。
「良かった…俺にも召喚、出来るんだな…」
誰に言うでもない小さく吐息混じりの安堵の言葉。
隣に立つ姉の茜もどこか満足げに頷いた。
そんな蓮斗に玲司は絆創膏を1枚差し出す。
「さあ、次は坂崎だな。」
にやにやとした笑み。
いつも思うが、月岡は下手な不良よりずっと悪い顔をしている。
「……よく教育しておく。」
「教育がてらこっちの…竹上くんの召喚の世話もお願いしたいのですが。もうすぐ召喚式でしょう?」
月岡が示す先へと目をやると、そこにいた小柄な生徒がびくりと身を震わせた。
パッと見ただけで全身の筋肉が緊張していることがわかる。
俺はつい溜息を吐く。
バカをやった舎弟を教員ではなく、こちらに引き渡す、その代わりに良いように使われるのはいつものことだ。
「…元より俺に拒否権はないだろう。引き受ける。その代わり、ソイツは返して貰う。」
そこまで言ってから、情けなく廊下に転がされている舎弟に視線を落とす。
体は細い。あまり重たくはなさそうだ。
持ち上げ、肩に担ぐ。
「じゃ、お願いしますね。小林先輩!」
「…大森だ。」
わざとらしく名前を間違える月岡に再度視線をやる。
怯える素振りもなく黄金色の目を細めて笑う月岡に、またも溜息が漏れた。
改めて、月岡に押し付けられた生徒に目をやる。
「…竹上だったか。今日は悪いが、相手は出来ない。明日の放課後、図書館で待ってる。」
「は、はいっ!」
ん、いい返事だ。
返事が出来るのは、良いことだ。
月岡の知り合いなんて、どうせとんでもない奴だろうと思ったが、案外そうでもないかもしれない。
そう思うと、つい表情が緩んだ。
※
「早速2ペア来たか。一応、名前を頼む。」
「蘇芳茜で、こっちは蘇芳蓮斗。」
「俺が坂崎雹太でー、月岡凜音センパイ!」
落ち着き払った、寧ろ冷たささえ感じるような声に対し、やや明るい声が二つ続く。
質問をした当の本人、天宮玲司はそれをメモに残す。
茜と蓮斗の姉弟ペア、雹太と凜音の人外ペア。
玲司は4人を見やり、その後机の上に置いてあった白い付箋紙のようなそれを手に取った。
「これは魔導具の呼名紙。この紙の先に血液を付けるとその者の召喚の適正率に応じて色が変わる。変化しなければ適正率皆無、それに次いで青が適正率が低く赤が適正率が最も高い。つまり、色が赤に近ければ近いほど適正率が高いわけだな。この学校では、緑以上の者に召喚を推奨している。」
「因みに私は黄色だったわ。」
「私は明るめのオレンジだったかなー」
説明に続き、茜が両手を腰に当てツインテールを揺らしながら自身の適正率について述べる。
更にそれに続く凜音。
どちらも適正率としては十分な値なのだろうということが想像に易い。
「…で、どうやって血を出せばいいの?俺あんまり痛いのは好きじゃないっていうか…」
「安心しろ、一瞬だ。」
玲司の説明をどうにか理解した雹太が緩く首を傾げる。
それに対し、さらりとそう答え左手を雹太へ差し出した玲司。
その手には何も握られておらず、何かがある様子はない。
「……ほら、手を出しなさいよ」
一瞬といえどどんなかたちで出血をすることになるのか。
それが分からず自然と眉を寄せていた蓮斗の背を、姉である茜が押す。
小柄で、容姿だけでは力が強いという印象を他者に与えないであろう彼女であるが、実際にはそうではない。
身長差28cmの青年が背を叩かれただけで前のめりになってしまうことが、仕方ないと判断される程の物理的なパワーを、茜はその体に宿している。
「っ、いや、まずはどうするのかを聞かせろって」
「男でしょ?そんなちっさいこと気にしてないでさっさと左手を差し出しなさい」
流石に言い返してみた弟であったがその有無を言わせない雰囲気に圧倒されて黙る。
そしてしぶしぶ、利き手とは逆の左手を差し出した。
玲司はその手をてのひらが上になるようにして握る。
普段から竹刀を振るう蓮斗の手は所々皮膚が厚くなっている。
玲司は蓮斗の人差し指の腹に視線を落とし、自分の右手の人差し指をそこに向けた。
自然と蓮斗の体が強ばる。
「『鋭』。」
静かな声で紡がれたのは『支援』に属する呪文。
短く切りそろえられていた玲司の人差し指の爪が白く発光し、呪文の通りに鋭く尖る。
その爪先で素早く指の腹を撫でると、一瞬にして赤い線が出来上がる。
じわりと溢れた鮮血にすぐさま呼名紙を寄せる。
白い紙の先へと染み入る血液。
それを見つめる5人。
紙の色はゆっくりと淡いオレンジへと変化した。
「…適正は充分、といったところか」
静かに伝えられた言葉に、蓮斗はほっと胸を撫で下ろす。
赤に充分近しいその色。
適正率を比べるとするならば黄色であった茜以上、明るいオレンジであった凜音以下といったところであろう。
「良かった…俺にも召喚、出来るんだな…」
誰に言うでもない小さく吐息混じりの安堵の言葉。
隣に立つ姉の茜もどこか満足げに頷いた。
そんな蓮斗に玲司は絆創膏を1枚差し出す。
「さあ、次は坂崎だな。」
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