イマドキ!

灰色

文字の大きさ
上 下
21 / 24
第2章 イマドキの呼び出し

21話~不良と滴る適正率~

しおりを挟む
「大変ですねぇ、ダメな舎弟を持つと。」

にやにやとした笑み。
いつも思うが、月岡は下手な不良よりずっと悪い顔をしている。

「……よく教育しておく。」

「教育がてらこっちの…竹上くんの召喚の世話もお願いしたいのですが。もうすぐ召喚式でしょう?」

月岡が示す先へと目をやると、そこにいた小柄な生徒がびくりと身を震わせた。
パッと見ただけで全身の筋肉が緊張していることがわかる。
俺はつい溜息を吐く。
バカをやった舎弟を教員ではなく、こちらに引き渡す、その代わりに良いように使われるのはいつものことだ。

「…元より俺に拒否権はないだろう。引き受ける。その代わり、ソイツは返して貰う。」

そこまで言ってから、情けなく廊下に転がされている舎弟に視線を落とす。
体は細い。あまり重たくはなさそうだ。
持ち上げ、肩に担ぐ。

「じゃ、お願いしますね。小林先輩!」

「…大森だ。」

わざとらしく名前を間違える月岡に再度視線をやる。
怯える素振りもなく黄金色の目を細めて笑う月岡に、またも溜息が漏れた。
改めて、月岡に押し付けられた生徒に目をやる。

「…竹上だったか。今日は悪いが、相手は出来ない。明日の放課後、図書館で待ってる。」

「は、はいっ!」

ん、いい返事だ。
返事が出来るのは、良いことだ。
月岡の知り合いなんて、どうせとんでもない奴だろうと思ったが、案外そうでもないかもしれない。
そう思うと、つい表情が緩んだ。












「早速2ペア来たか。一応、名前を頼む。」

「蘇芳茜で、こっちは蘇芳蓮斗。」

「俺が坂崎雹太でー、月岡凜音センパイ!」

落ち着き払った、寧ろ冷たささえ感じるような声に対し、やや明るい声が二つ続く。
質問をした当の本人、天宮玲司あまみやれいじはそれをメモに残す。
茜と蓮斗の姉弟ペア、雹太と凜音の人外ペア。
玲司は4人を見やり、その後机の上に置いてあった白い付箋紙のようなそれを手に取った。

「これは魔導具の呼名紙メタモルサモナー。この紙の先に血液を付けるとその者の召喚の適正率に応じて色が変わる。変化しなければ適正率皆無、それに次いで青が適正率が低く赤が適正率が最も高い。つまり、色が赤に近ければ近いほど適正率が高いわけだな。この学校では、緑以上の者に召喚を推奨している。」

「因みに私は黄色だったわ。」

「私は明るめのオレンジだったかなー」

説明に続き、茜が両手を腰に当てツインテールを揺らしながら自身の適正率について述べる。
更にそれに続く凜音。
どちらも適正率としては十分な値なのだろうということが想像に易い。

「…で、どうやって血を出せばいいの?俺あんまり痛いのは好きじゃないっていうか…」

「安心しろ、一瞬だ。」

玲司の説明をどうにか理解した雹太が緩く首を傾げる。
それに対し、さらりとそう答え左手を雹太へ差し出した玲司。
その手には何も握られておらず、何かがある様子はない。

「……ほら、手を出しなさいよ」

一瞬といえどどんなかたちで出血をすることになるのか。
それが分からず自然と眉を寄せていた蓮斗の背を、姉である茜が押す。
小柄で、容姿だけでは力が強いという印象を他者に与えないであろう彼女であるが、実際にはそうではない。
身長差28cmの青年が背を叩かれただけで前のめりになってしまうことが、仕方ないと判断される程の物理的なパワーを、茜はその体に宿している。

「っ、いや、まずはどうするのかを聞かせろって」

「男でしょ?そんなちっさいこと気にしてないでさっさと左手を差し出しなさい」

流石に言い返してみた弟であったがその有無を言わせない雰囲気に圧倒されて黙る。
そしてしぶしぶ、利き手とは逆の左手を差し出した。
玲司はその手をてのひらが上になるようにして握る。
普段から竹刀を振るう蓮斗の手は所々皮膚が厚くなっている。
玲司は蓮斗の人差し指の腹に視線を落とし、自分の右手の人差し指をそこに向けた。
自然と蓮斗の体が強ばる。

「『シャープ』。」

静かな声で紡がれたのは『支援バッキング』に属する呪文。
短く切りそろえられていた玲司の人差し指の爪が白く発光し、呪文の通りに鋭く尖る。
その爪先で素早く指の腹を撫でると、一瞬にして赤い線が出来上がる。
じわりと溢れた鮮血にすぐさま呼名紙メタモルサモナーを寄せる。
白い紙の先へと染み入る血液。
それを見つめる5人。
紙の色はゆっくりと淡いオレンジへと変化した。

「…適正は充分、といったところか」

静かに伝えられた言葉に、蓮斗はほっと胸を撫で下ろす。
赤に充分近しいその色。
適正率を比べるとするならば黄色であった茜以上、明るいオレンジであった凜音以下といったところであろう。

「良かった…俺にも召喚、出来るんだな…」

誰に言うでもない小さく吐息混じりの安堵の言葉。
隣に立つ姉の茜もどこか満足げに頷いた。
そんな蓮斗に玲司は絆創膏を1枚差し出す。

「さあ、次は坂崎だな。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

処理中です...