上 下
65 / 66
四章〜最悪の世代と最後の世代〜

第64話「古の王が追求」

しおりを挟む
「【ダンジョンマスター】を破滅に導く⋯⋯か」


喰貝の鬼の形相を前にレイジは小さく呟いた。
困惑するわけでもなく、驚くわけでもないレイジ達の反応に喰貝は異常だとすら感じた。


「んだよその反応⋯⋯まさかじゃねぇが、テメェ等このことを知ってんのか?」
「一応は⋯⋯と言えばいいか」


思い出されるのは異世界で涼宮にあった日のこと。
涼宮はレイジ達のダンジョンにやってくると早々にゼーレを殺そうとした。そして、その理由は単純だった。

——私達に良くないことが起きるから。

この言葉の真意が何なのか,涼宮は何を知っているのか。
レイジはこの事実について知らなければならないと感じていた。


「俺が知っているのはゼーレが——アドバイザーの魔物が【ダンジョンマスター】に良くないことを起こすと言うことだけだ」
「⋯⋯」
「だから教えてほしい。何が起きるのか、何が原因なのかを。俺はゼーレを殺したくないんです」


そう言ってレイジは頭を下げた。ゼーレを殺したくないという切実な願いを込めて。
そして、レイジの行動に続くようにエイナとパンドラも頭を下げた。

あまりに異様な光景に喰貝は目を見開いた。
そして、頬をポリポリとかじると「はあぁー」と深いため息を吐きながら振り上げた拳を下ろした。


「わぁったよ。そこまで出来んなら大丈夫だろ。いいぜ、話してやる」


そう言って喰貝は先ほどまでいた岩の上まで跳躍し、腰を下ろした。
攻撃をしないことへの意思表示か、はたまたゼーレのそばに居たくなかっただけなのかは分からない。


「さて、初めにだがテメェはアイツ等アドバイザーの魔物について何を知っている?」
「ダンジョンについて知らないことを教えてくれる⋯⋯くらいか?」
「他には?」
「⋯⋯」


改めて振り返ってみればレイジはゼーレのことをあまり知らなかった。


「普通の魔物の出自は魔界だ。じゃあ、コイツ等アドバイザーの魔物は?
コイツゼーレのステータスは見たことあるか?
コイツゼーレ以外のヤツ等アドバイザーの魔物には会ったことがあるか?
コイツ等アドバイザーの魔物の知識はどこから得たものだ? そもそも何で知ってんだ?
「そもそもコイツ等アドバイザーの魔物の目的は何だ? ダンジョンの運営を助けるだけか?


矢継ぎ早にされる質問にレイジは押し黙ってしまった。
まともに答えられないレイジはゼーレのことをあまりにも知らなすぎた。

そして、ゆっくりと振り返りながら他のメンバーが知っているかを確認するが——誰一人として首を縦に振る者はいなかった。


「ははっ、まさか本当に何も知らねぇのか。よくそんなんで『守る』とかたいそうなことが言えたな」
「くっ⋯⋯」
「別に責めてるわけじゃねぇよ。コイツ等にとって『知られる』ことは死ぬのと同じだ。そういう意味ではテメェはちゃんと守れてたんだよ」


俯くレイジに喰貝は目を細めながらそう言った。
まるで誰かをレイジを重ね合わせているかのようだったが、顔を横に振るうと次は気絶しているゼーレへ視線が向けられた。


「⋯⋯ところでよぉ、いつまで寝たフリしてるつもりだ?」


喰貝の視線に気づいたレイジ達の意識が一斉にその先——ゼーレへと向けられる。


「さっきの質問、テメェが答えるのが筋ってモンじゃねぇのか?」
「⋯⋯」
「それともアタシが全部バラしてやろうか? テメェを必死に守っていたコイツ等によお!」
「⋯⋯」
「何とか言ったらどうだ! あぁ!」
「⋯⋯」


ピクリとも動かないゼーレに対して徐々に怒りのボルテージを上げていく喰貝。
まるで壁に叫んでいるかのような無意味な光景。止めに入ろうとレイジの煮詰まった言葉が喉元まで差し迫った瞬間——


「⋯⋯うるさいなぁ」


——ムクリと体を起こし、ゼーレが立ち上がった。
何の変哲もなく,朝のベットから起き上がるようにゆっくりと,ゆっくりと。

だがしかし,そこには普段の天真爛漫な笑顔はなく——氷のような冷ややかな雰囲気が漂っていた。


「ゼーレ⋯⋯なのか?」


あまりの印象の違いにレイジは絞り出すようにゼーレに問いかけてしまった。


「⋯⋯そうだよ。お兄ちゃんのことが大だいDAIダイ大di~e好きなゼーレ、だよ? 忘れちゃった?」


瞳孔が開き切り、感情の欠片も感じられない空な言葉を並べるゼーレ。
そんなゼーレはレイジにニコリと微笑みかけた後、喰貝へと目を据えた。


「はぁ、ホント⋯⋯五月蝿いうるさのが来ちゃったよ。で、ゼーレの秘密をバラす⋯⋯だっけ?」
「随分といい度胸してるじゃねぇか」
「それをしてお姉さんに何の意味があるの?」
「理由が分かればコイツ等もテメェをぶっ殺すのに邪魔をしないだろ」
「⋯⋯ふーん、なるほどね。お姉さんの中ではそう言う予定なんだね。でも、そう簡単に思い通りにいくかな?」
「⋯⋯んだと?」


拳を握り締め『力』を誇示する喰貝とは対照的に、ゼーレは人差し指を顎に添えて可愛らしく顔を傾けた。


「どんな独裁者も手に入れられない物が二つある。その一つは『敬意』だよ。力任せに解決したってお兄ちゃんは納得しないんじゃないかな?」


挑発するように目を細めるゼーレ。
その態度に食ってかかろうとする喰貝だったが、レイジ達から向けられる戸惑いの視線に気がついた。


「⋯⋯なるほどな。確かに一理はある⋯⋯が、テメェの正体をバラす分には関係ねぇな」
「このまま怒りに任せて帰ってくれれば最高だったのに⋯⋯まぁ、しょうがないか」


手をヒラヒラとさせ、降参のポーズを取るゼーレ。


「いいよ、話してあげる。ゼーレのこと、アドバイザーの魔物のこと全部⋯⋯全部、ね」


そう言ってゼーレは語り始めた。
今まで秘めていた思いの丈を全部、全部吐き出し始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

最弱国の転生魔王の異世界統一 

ねいばー
ファンタジー
ベタなオチにも程があると言いたいが、俺は冬に車に轢かれて死んだ。 そしてなんでも願いを叶えると言う約束の下、異世界を統一する為に、俺は一国の魔王に転生する。 しかし、俺が転生した国は滅亡1週間前で…⁈ 俺は本当に異世界統一なんて出来るのか⁈ 最弱国からスタートの魔王はどんな世界を作り上げるのか… 500〜1000文字程度で投稿します。 勉強、仕事の合間や長編小説の箸休めとして美味しくいただいてください。 オワリ ト サイセイ ここはオワリの場所 サイセイの場所はマダナイ

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜

福寿草真
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】 何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。 魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!? これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。 スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...