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4章〜崩れて壊れても私はあなたの事を——〜

96話「崩壊の招き人9」

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 ー香、響、零の魔物達 vs 冒険者、騎士団ー

「かー、もう何体目だよ」
「私はもう⋯⋯30は壊したよ⋯⋯」
「アタシは⋯⋯20後半くらいかな」

 ボールス、ロート、ネビラ は背中合わせに己が倒した人型の機械の魔物の数を示しあった。
 無尽蔵に湧き出る人型の機械。その入り口となる“穴”の前にはさらに多くの人型の機械が待機している。

「ぬおおおおおぉぉっっ!!」
「はいぞっ!」
「今だっ!」
「はいです? はいですっ!」

 別の場所では騎士団が個人ではなく連携によってその数を減らしていたがそれでも数は減る所を見せない。そして悪い事は数の優劣だけではなかった。

「きゃあっ!」

 騎士団の中で最も火力に優れていたのは魔法使いの女性だった。彼女の放つ氷魔法は騎士団が壊した数の大半を占めていた。
 そして、その魔法使いを仕留めんと人型の機械達は一斉に狙いを定め、更には地中からの奇襲まで行った。

「ふんぬぅ!」
「大丈夫ぞ?」

 間一髪間に合った副団長と鞭使いの クラリス。副団長の剣が地中から現れた人型の機械を破壊し、クラリス の鞭が狙いを定めた個体の頭部を破壊した。

「此奴等、魔物の癖に学習しているというのか!?」

 その後も人型の機械達は執拗に魔法使いの女性に狙いを定めて光弾を放つ。

「ッ! やはりか!」

 副団長の超絶な剣技により光弾を弾く、切るなどして女性の守りに着いてしまった。そしてこれは必然的な悪手となった。
 最高火力を持つ女性が攻撃の対象として絞られる様になった結果、副団長は攻めに転じれなくなり同時に——

「チッ! 上手く捌けんぞ?!」

 クラリス は一人で人型機械の撃破に出なくてはならなくなり、撃破数をより多くするために一箇所に集めるのもまた困難になっていった。その結果——

「『白銀の世界アブソリュート・ゼロ』ッ!」

 突如出現する巨大な氷。本来ならその一回で20を超える人型機械が閉じ込められ粉々になるが、今回はその半数しか捉えられなかった。

「ぬぅ、これでは⋯⋯」

 現状の危険性を感じた副団長は眉間のシワを深く刻む。そんな副団長の隣に一つの人影が立った。

「よお、副団長様」

 ボールス だった。軽々しい口調で声をかけてきたが、その表情を見れば疲労が現れているのは一目瞭然だった。

「ボールス か!」
「魔法使いの嬢ちゃんの方には ロート が行った。暫くは持つだろうよ」
「そうか、助かる」
「で、この状況どう考えてる?」
「ジリ貧だ。このまま続けば此方の負けだろう」
「打開案なしかぁ」

 会話をしながらも手近に来た人型機械を破壊していく二人。チラリと視線を変えれば二人の魔法使いを守るように戦っている ロート と クラリス。

「そういう貴様はどうなのだ?」
「あー、微妙なところだな」
「『軍神』とまで呼ばれた貴様をそうまで言わせるか。酒のつまみで聞きたかった話よ」
「こりゃまた懐かしい呼び名だねえ。とまあ、無いことはないんだよ」
「有るのか?!」
「ま、憶測も込みでな。アレを見てみ」

 そう言って ボールス はある一箇所を指差した。そこには無尽蔵に人型機械を湧き出す“穴”とその隣に立つ機械仕掛けの少女。

「この魔物の嫌のところは三つ。物量、学習能力、そして視覚共有だ」
「視覚共有だと?」

 数と学習能力は片鱗が見えていたため理解は難しくなかったが、視覚共有については副団長も予想をしていなかった。

「ああ。コイツ等どういうわけか不意打ちが効かねえ。それどころかこっちの死角を的確に突いてきやがる」
「成る程。それで視覚共有の可能性と言うことか」

 仮説に過ぎないが、織り込み済みで動く方が対処はしやすい。副団長が話についてきていることを確認すると、ボールスは続けた。

「まあ、他の技能スキルかも知れないけどな。そしてコイツ等を殲滅する方法は二つ。一つはあの“穴”を破壊する。二つ目は“穴”の近くにいる嬢ちゃんを殺すことだな」
「それが出来たら苦労せぬわ!」
「そうカッカなさるな。ここまでは確認で、こっからが予想。あの“穴”が開いた時、魔力を感じなかった」
「む、それは確かだったな」
「つまりあれは魔法じゃなくて何かしら技能スキルの可能性が高い。であるなら、発動したのがあの嬢ちゃんなら維持してるのもあの嬢ちゃん一体だけだ」

 魔力に対する視点は意外だったが、それだけでは打開策が見えてこない副団長は結論を急いだ。

「⋯⋯それでどうなるのだ?」
「つまり、あの嬢ちゃんの意識が一時的にでも外れれば“穴”は消える可能性がある」
「そうか! その瞬間に殲滅、そしてあの魔物を叩くのか!」
「その通りだ。そして、その準備も進めている」
「なにっ!?」

 ボールス は副団長の驚きの顔を見ながらハンドサインで ネビラ を示した。

「重力魔法の使い手か? 奴にできるのか?」
「ああ。コイツ等の特性を逆手に取った。奴等は ネビラちゃんの魔法の発動距離を学習している」
「それでは意味がないだろう」
「いいや、学習したのは偽の情報だ」
「なに?!ならば!」
「ああ、奴等は魔法使いを一定の距離まで近ずかせないように行動しているがあの距離はネビラちゃんの射程範囲内だ」

 ボールス は口角を僅かにあげそう言った。聞いた副団長は驚き半分呆れ半分の表情を ボールス に向けた後、人型機械の軍団に体を向けた。

「『軍神』の二つ名も伊達ではない、か。合図を出せ。その瞬間に今いる魔物共の半数を削ろう」
「そりゃあまた、隠し技かい?」
「無論。これは国を揺るがす時にしか使わぬよう言われていたが⋯⋯終わった後の報告書には書かぬ。口を合わせるのだぞ?」

 その言葉の返事を聞かず副団長は人型機械が密集する戦場へ飛び込んで行った。

「おいおい、俺は返事を返してねえぞ⋯⋯ったく、まあいいや。さぁて——」

 ボールス は片手に持つ両刃斧を構えた。
 直接より間接。殴るより指揮。得意分野から離れているが決して戦えない訳ではない。

 必要最低限の力で構えられる両刃斧。
 それは無駄な力は余計な隙を作り、体力を消耗させるのをキチンと理解しているからだ。
 力を込めるのは振り下ろす瞬間。
 手を絞るのは振り抜く一瞬。それ等はその一瞬で武器の速度を最大にし、その一瞬で武器の威力を最大にすることを理解しているからだ。

 そして ボールス は——


「——反撃の狼煙を上げますか」


 ロート の負担を減らすために ネビラ達の周囲にいる魔物と近づきそうな魔物の殲滅にかかった。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 機械人形達が物量で戦う光景を 香 と 響 は機械仕掛けの少女のすぐ後ろで見ていた。

「これなら何とかなりそうだね!」
「だと良いんだけど⋯⋯えっと」

 響 に声をかけられた少女は一瞥した後、視線を戦場に向けながら口を開いた。

「何でしょうか」
「俺達にできることって⋯⋯ありませんか?」
「私達の目的は時間稼ぎでございます。それ以上でも、それ以下でもございません。故に、この状況が続く間はお二人の出番はありません」

 少女は冷たくあしらった。しかし、何もできないことが歯痒いのか 響 はなおも食い下がった。

「それでも⋯⋯何かないですか? じっとしてるのは気分が落ち着かないんだ」
「響君⋯⋯ねえ、涼宮さんの魔物さん、本当にないんですか? 私達にできること」

 楽観的に見ていた 香 だったが 響 の訴えを目の当たりにし気持ちが変わったのか自身も少女に詰め寄った。

「何度も申し上げますがお二人にできることははございません」
「で、でも⋯⋯!」
「ですが、相手方も愚かでなければこの状況は続きません」
「「え?」」
「もし、相手方がこの状況を正しく認識しているのであれば次の行動は私か、門を対象にしたものでしょう。門が狙われた場合は私が動けます。ですが、私が対象になった場合はお二人を守れないでしょう」
「そ、それって⋯⋯」

 少女は状況の確認をすませると 響 と 香 に向き直った。

「はい、ですからもし私が倒された場合は 響様は手持ちの魔物で 香様をお守りして下さい」
「わ、わかった!」
「香様 は 響様と共に何としてでも逃げ切って下さい」
「う、うん!」

 なにもできなかった状況から、万が一の備えでもやるべきことができた。それだけで、二人の気持ちは軽くなり、不安まみれに表情に明るさが灯った。
 そんな二人を見て、少女は⋯⋯言うべきか迷っていた話を始めた。

「⋯⋯マスターは酷くダンジョンマスターであるお二人が亡くなられるのを恐れています」
「そ、そうなのか?」
「涼宮さんって私達のことをそんな風に思ってくれてたの?」

 普段の態度からは想像もできない話だった。香と響が顔を合わせて驚いていてしまう。

「それは存じておりません。ですが、マスターはダンジョンマスターと言う存在を気にかけている節がございました。ですので、お二人はマスターとして死なないようにして下さい」
「うーん、なんか釈然としないけど分かったよ!」
「それでは私は指揮をとりますので」
「うん!」

 少女は一礼すると戦いの場に目を向けた。

「ありがとう」

 響 の気持ちは少女の配慮により落ち着きを取り戻し、その心の温かさや優しさに感謝した。

「必ず、生き延びて下さい」

 少女は 響 の感謝を聞いての返事なのか重い口調で言葉を綴った。
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