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4章〜崩れて壊れても私はあなたの事を——〜

90話「崩壊の招き人3」

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 轟音、爆風、閃光。それらが一瞬にして レイジ達を包み込んだ。
 ひどい耳鳴り、吹き飛ばされる体、チカチカする視界の中、どうにか立ち上がり レイジ は周囲に声をかけた。

「勇者か?! 全員無事か!」
「⋯⋯ん」
「だ、大丈夫です貴方様!」
「こちらもなんとかぁ」
「じ、自分はちょっと⋯⋯」
「全員無事だな」
「ちょっ、自分の扱いが雑っす!」

 零との間にあった殺伐とした空気も見事に浮き飛ばされてしまった。
 そのあまりにも大胆な登場を歓迎するようにレイジ達は発信源——門のあった場所へ警戒を向けた。

「どいつがダンジョンマスターだ?」
「あの白い頭の奴よ」
「おっじゃまー」
「やけに多いな⋯⋯」
「貴方達に怨みはありません。ですが、これは世界の為なのです」
「ようやく見つけたぜ」
「先日の借り、返させてもらおう」

 砂埃から現れる面々は勇者パーティー、冒険者、騎士団。その中には戦々恐々とする者、威風堂々とする者など様々だ。そして——

「お前が娘を殺した奴か?」

 過去に遡っても越える存在はいない侵入者、勇者アレックス が レイジ を視界の中心に捉えた。

 明確な殺意、圧迫する威圧、絶大な力量。
 ただ立ち、前を向き、言葉を発するだけでそれらを知らしめる勇者の肩書きは間違いなく本物だとレイジは感じた。

「娘⋯⋯か。誰のことを言っているのかはわからないが——そうだ、と言ったら?」
「無論——殺す」

 私怨に導かれ、レイジ以外何も見えていないアレックスは一直線に疾走しかけた時——、

「ちょっと待て アレックス!」

 声をかけ、止めたのは エルグランド。そして、エルグランド の後ろには ボールス と パローラ が構え、驚愕に彩られている。

「ダンジョンマスターはアイツだけじゃねえ」
「あっちにいる女二人と男一人もだ」
「黒髪とー、獣人とー、植人族アウラウネ?」

 ボールス が指をさした方には 零達が状況の変化を伺っていた。

「あっちはどうする?」
「好きにしろ。俺はコイツを始末する。他の奴らで残りを討て」
「しゃあねえな。お前等! 俺達はアッチを殺やるぞ!」
「ふむ、では我等は⋯⋯」
「テメエ等騎士団もコッチだ! 勇者の戦闘に巻き込まれるぞ!」

 そう言って ボールス 率いる冒険者、副団長率いる騎士団は 香 と 響 の方へ走って行った。
 アレックス と エルグランド、この二人が レイジ達の前に残り、対峙した。

「すまない ラルカ⋯⋯俺がもっとお前を強くしてやれれば⋯⋯だが、ここでお前の仇は必ず討つ——約束しようっ!」

 言葉の終わりとともに アレックス は踏み込んだ。
 数メートルは離れていただろう距離を一瞬にして無に変えた。

「速っ⋯⋯!?」
「終わりだ」

 初見殺しのような脚力には流石のレイジも反応はできなかった。
 アレックス は振りかぶっていた西洋剣を振り下ろす。狙いは頭部。その塵も残さぬような脅威の刃は——

「⋯⋯なに?」

 横から突き出された何かによって大きな金属音を立て レイジ の横を通り過ぎて行った。

「お前は⋯⋯なんだ?」
「⋯⋯ますたー、は⋯⋯ころさせない⋯⋯」
「ミサキ!」

 アレックスの剣撃を見事にいなしたのは、レイジ達の中で最速を誇る少女、ミサキだ。
 そして、レイジ の背後には音もなく一つの影が薄っすらと現れる。

「その首貰ったッ!」

 そう言ったのは一人の男。
 動きやすいスーツの様な服装に腰にはいくつものポーチやナイフの類。汚れない様にか頭には布を巻きつけ、顔まで保護している。
 その男、勇者パーティー現斥候担当 ザット が両手に持つ二つの短刀で レイジ の首を捉えていた。

「そうは行きませんわぁ」
「なにっ!?」

 大胆にもアレックスを囮とした完全な奇襲であった。しかし、その二本の短刀は蠢く影によって完全に動きを止められてしまった。

「お兄様に手を出そうなど生きているうちでは早いですわぁ」

 変幻自在、有形無形の影を指先だけで操る少女、エイナがしっとりとした笑顔でザットに微笑んだ。
 そして、その後方では——

「んー、オールオッケー。それじゃーいってみよー——『紅蓮の世界インフィニティ・ゼロ』!」

 勇者パーティ遠距離攻撃を担うパローラ から発せられた呪文は轟々とした炎の塊を レイジ に向けた。

「やらせないっすよ!」

 人一人くらいは簡単に飲み込んでしまいそうな炎球の進行を妨げるように大量の鎖が地面から生えた。
 鎖は幾重にも重なり、絡まり合い、一つの無骨な鉄壁を作った。そして、全てを燃やさんとした炎球の進行を溶解されながらも耐え切った。

「ありゃー? マジかー」
「お兄さんや先輩達の邪魔はさせないっすよ!」
「んー、これはー、どうしよっかなー」

 そして、パロール のさらに後方。
 後方支援を担当し、その純白さから美の化身とも言われる女性、テレス がその白い服が土に汚れるのを厭わずに片膝をつき天に向かって祈りを捧げていた。

「皆様方、援護いたします! 神よ、どうか私達を救い——ッ!?」

 陣を展開し、呪文を唱えようとしたその時、闇の塊がその儀式に水を差した。
 テレス は闇の塊を横に飛ぶことで回避し、闇の塊が飛んできた方向を見た。

「その魔法⋯⋯神聖魔法を完成させるわけにはいきません」

 妖艶な美貌と完成された所作はまさに芸術。空想、創作から生まれた美の化身、パンドラ が闇の剣を片手に近づいてきていた。

「不思議ですね⋯⋯どうしてこの魔法神聖魔法の事を知っているのでしょうか?」
「先人の知恵、と言うものですよ」
「そうですか⋯⋯どうやら今回は私も戦わなくてはいけないのですね」

 そして、テレスは持っている黄金の錫杖を両手で握り新たな魔法を紡いだ。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

「マズイッ!テレス の方にも魔物が!アレックス、 手伝った方がいいか?!」

 全体の状況を見ていた エルグランド が ミサキ と見合う アレックス に声を飛ばす。

「要らん。お前は別の方へ回れ」
「分かった! 気をつけろよ!」

 そう言ってその場を離れる エルグランド。
 目指すはパーティの生命線とも言える後方支援の テレス。その場所まで急いで走るが——

「——ッ!?」

 身の危険を感じた エルグランド は直様その場から飛び退くことで難を逃れた。
 避ける前にいた場所にはいくつかの小さな穴が空いていた。

「なんだ!?」
「貴方があぶれ者ね」

 声がしたのは頭上。顔を上に向け声の人物を捉えた。

 そこにいたのは零——ただし、その容貌はかなり異なっていた。
 様々なパーツが組み合わさり一つの軽装となって全身を守り、背部からは幾つもの電子的な砲台がこちらを覗き込み、零 本人の周囲には複数の盾の形をしたユニットが飛び回っている。

「おいおい⋯⋯何だよそれは?」
「言うならば科学の力、と言ったところね」
「か、科学だと?!」

 この世界にほいて科学は認知されている。
 しかし、その歴史は浅く、魔法の補助という扱いから抜け出せていないため、その認知度は市中においては眉唾に近い。

「理解する必要はない。もし、冥土の土産にしたいなら別よ」
「ほぉ⋯⋯大した自信じゃねえか」
「誤解とは既に解が出ている。それを指摘する義理はない」
「意味がわかんねえ、よッ!」

 零 を見据えていた エルグランド は片手に持つ盾を構えて 零 のいる空中へ跳んだ。

「『機械人形マシンドール』起動——殲滅を開始しましょう」

 飛び込む エルグランド に全ての砲台の先端が輝き——放たれた。
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