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2章〜光は明日を照らし、鬼は大地を踏みしめ、影は過去を喰らう〜
58話「湧き立つ希望、溢れる光、その後に6」
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パンドラ は レイジ に助けられた時、歓喜に震えていた。
しかし、レイジ と ラルカ の斬り合いが続けば続くほど喜びは薄れ、次第に後悔に染まっていった。
(なにを⋯⋯なにを私は喜んでいるのですか? 私は配下⋯⋯ですのにダンジョンマスターである貴方様が代わりに戦っているのですよ?)
いつの間にか震えは止まっていた。
しかし、切られた左腕や太腿の血が止まらない。痛みが止まらない。動くことができない。
(私は何をしているの? 動かなくては、戦わなくては)
無理に動かそうとするが一度抜けた力が戻ることはなく反応が無い。
(動いて、動いて下さい!)
残る右手で切られた右足を殴りつけるも結果は変わらなかった。
「うぅ⋯⋯どうして私はこんなにも弱いのですか⋯⋯」
溢れ出した言葉は普段の彼女からは見られないほどか細く、弱々しかった。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
レイジ と ラルカ は互いに脳内での戦闘シミュレーションが終わり、構えをとった。
「ハッ!」
先に動いたのは ラルカ だった。その一足で離れていた距離を縮め レイジ に差し迫った。
「うらっ!」
しかし、その接近はレイジが妖刀の蛇腹を伸ばすことで中断させられ、さらにレイジが下がることで距離を戻した。結局、間合いは元に戻り中距離まで伸ばすことができるレイジがやや優勢になってしまった。
「⋯⋯本当に面倒な剣だ」
「応用が効く便利な剣と言って欲しいね」
「フン、そんな物は剣ではなく鞭ではないか」
そう言って、ラルカ は再度構えを取り同じように レイジ に迫った。レイジ も先ほどと同様に蛇腹を伸ばす。
しかしーー
「何度も通じると思うな!」
ーーラルカ は光魔法で片足分の足場を作り、それを蹴り妖刀を躱しつつ、レイジ に更に迫った。
「マジかよ!?」
ラルカ は何度も見たその動きに対応し始めた。
その突然の対応に レイジ は狙ったように妖刀を手元に戻す。
「そに動き、先ほど見たぞ!」
自由意志を持つ妖刀の刃はレイジを囲うように舞う。まるで、一枚の布でできた衣のように強固な守りを作ろうとする。
しかし、想定していたラルカの方が対応が早かった。一寸の隙間に自身の剣を差し込み妖刀の回る方に沿う様に高速で剣先を回し、振り抜いた。
「ハッ!」
巻き技。
力に沿った ラルカ の巻き技は伸びた妖刀を自身の剣に巻き取り レイジ から妖刀を奪った。
「これで私の勝ーー」
「いいや、お前の負けだ」
振り抜き、ようやく魔力を吸収する原因を取り除けたと勘違いしたラルカは無防備となっていた。
この瞬間をレイジは待っていた。急接近し、その距離は目と鼻の先ほどになる。絶対に避けることのできない間合い。しかし、近すぎて手を振るうことすらできない0距離の間合い。
「喰らえ」
レイジは大きく口を開ける。向けられたラルカは唖然とするが、次の瞬間には目を見開いた。色彩を吸い込むような虚空が目の前に広がっていたのだ。そして、この瞬間に自身の間違いを悟る。
(魔力を吸っていたのはこの刀ではないっ?!)
気付くのが遅かった⋯⋯遅すぎた。
そして、虚空は吸い込むだけでなく吐き出すこともできることに気づいたのもこの時だった。口元から光が見える。それは見覚えのある光。ラルカが見せた恐怖の剣の光。
「そ、その光はーー」
ラルカ が光の正体に気づき驚愕する。そして、それを嘲笑うかのように レイジ は派きだす。
一閃。
不協和音と共に放たれた一条の光。
その光は ラルカ の腹部を消失させ、広場の壁を抉った。光によってまった砂が収まればそこにはーー
「ア⋯⋯ぁ⋯⋯」
ーー声という声も出せず倒れ伏した ラルカ の姿があった。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
レイジ の口元には先程の魔力はかけらも残っておらず、ただ、疲労による荒い呼吸が通り抜けるだけだった。
「なんとか⋯⋯倒せた」
レイジ は ラルカ を一瞥し、その姿を確認し安堵した。そして、ラルカ の剣に巻き取られている妖刀に近づき、解いた。
(上手く行ったみたいやな、旦那)
「ああ、お陰でこっちは疲労困憊だ」
レイジ は僅かな安心をした。
そしてーー
「貴方様後ろですッ!」
ーーその安心は大いなる隙を生んでしまった。
「ーーえ?」
パンドラ の叫びにも似た声が響き渡った。
レイジ は反射的に振り向いた。その先にあった光景はーー
「アヒャヒャヒャぁ!」
ーー狂気的な笑い声をあげる一人の少女が大きな金棒を振りかぶっていた。
しかし、レイジ と ラルカ の斬り合いが続けば続くほど喜びは薄れ、次第に後悔に染まっていった。
(なにを⋯⋯なにを私は喜んでいるのですか? 私は配下⋯⋯ですのにダンジョンマスターである貴方様が代わりに戦っているのですよ?)
いつの間にか震えは止まっていた。
しかし、切られた左腕や太腿の血が止まらない。痛みが止まらない。動くことができない。
(私は何をしているの? 動かなくては、戦わなくては)
無理に動かそうとするが一度抜けた力が戻ることはなく反応が無い。
(動いて、動いて下さい!)
残る右手で切られた右足を殴りつけるも結果は変わらなかった。
「うぅ⋯⋯どうして私はこんなにも弱いのですか⋯⋯」
溢れ出した言葉は普段の彼女からは見られないほどか細く、弱々しかった。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
レイジ と ラルカ は互いに脳内での戦闘シミュレーションが終わり、構えをとった。
「ハッ!」
先に動いたのは ラルカ だった。その一足で離れていた距離を縮め レイジ に差し迫った。
「うらっ!」
しかし、その接近はレイジが妖刀の蛇腹を伸ばすことで中断させられ、さらにレイジが下がることで距離を戻した。結局、間合いは元に戻り中距離まで伸ばすことができるレイジがやや優勢になってしまった。
「⋯⋯本当に面倒な剣だ」
「応用が効く便利な剣と言って欲しいね」
「フン、そんな物は剣ではなく鞭ではないか」
そう言って、ラルカ は再度構えを取り同じように レイジ に迫った。レイジ も先ほどと同様に蛇腹を伸ばす。
しかしーー
「何度も通じると思うな!」
ーーラルカ は光魔法で片足分の足場を作り、それを蹴り妖刀を躱しつつ、レイジ に更に迫った。
「マジかよ!?」
ラルカ は何度も見たその動きに対応し始めた。
その突然の対応に レイジ は狙ったように妖刀を手元に戻す。
「そに動き、先ほど見たぞ!」
自由意志を持つ妖刀の刃はレイジを囲うように舞う。まるで、一枚の布でできた衣のように強固な守りを作ろうとする。
しかし、想定していたラルカの方が対応が早かった。一寸の隙間に自身の剣を差し込み妖刀の回る方に沿う様に高速で剣先を回し、振り抜いた。
「ハッ!」
巻き技。
力に沿った ラルカ の巻き技は伸びた妖刀を自身の剣に巻き取り レイジ から妖刀を奪った。
「これで私の勝ーー」
「いいや、お前の負けだ」
振り抜き、ようやく魔力を吸収する原因を取り除けたと勘違いしたラルカは無防備となっていた。
この瞬間をレイジは待っていた。急接近し、その距離は目と鼻の先ほどになる。絶対に避けることのできない間合い。しかし、近すぎて手を振るうことすらできない0距離の間合い。
「喰らえ」
レイジは大きく口を開ける。向けられたラルカは唖然とするが、次の瞬間には目を見開いた。色彩を吸い込むような虚空が目の前に広がっていたのだ。そして、この瞬間に自身の間違いを悟る。
(魔力を吸っていたのはこの刀ではないっ?!)
気付くのが遅かった⋯⋯遅すぎた。
そして、虚空は吸い込むだけでなく吐き出すこともできることに気づいたのもこの時だった。口元から光が見える。それは見覚えのある光。ラルカが見せた恐怖の剣の光。
「そ、その光はーー」
ラルカ が光の正体に気づき驚愕する。そして、それを嘲笑うかのように レイジ は派きだす。
一閃。
不協和音と共に放たれた一条の光。
その光は ラルカ の腹部を消失させ、広場の壁を抉った。光によってまった砂が収まればそこにはーー
「ア⋯⋯ぁ⋯⋯」
ーー声という声も出せず倒れ伏した ラルカ の姿があった。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
レイジ の口元には先程の魔力はかけらも残っておらず、ただ、疲労による荒い呼吸が通り抜けるだけだった。
「なんとか⋯⋯倒せた」
レイジ は ラルカ を一瞥し、その姿を確認し安堵した。そして、ラルカ の剣に巻き取られている妖刀に近づき、解いた。
(上手く行ったみたいやな、旦那)
「ああ、お陰でこっちは疲労困憊だ」
レイジ は僅かな安心をした。
そしてーー
「貴方様後ろですッ!」
ーーその安心は大いなる隙を生んでしまった。
「ーーえ?」
パンドラ の叫びにも似た声が響き渡った。
レイジ は反射的に振り向いた。その先にあった光景はーー
「アヒャヒャヒャぁ!」
ーー狂気的な笑い声をあげる一人の少女が大きな金棒を振りかぶっていた。
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