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2章〜光は明日を照らし、鬼は大地を踏みしめ、影は過去を喰らう〜

57話「湧き立つ希望、溢れる光、その後に5」

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 パンドラへのトドメの一撃。それを横入りに邪魔されたラルカの表情は驚愕に彩られていた。

「ど、どうして受け止められる!?」

 奥の手でもあった雷属性の解放。そして、かなりの魔力を投入し作った雷の剣はまさに必殺だった。少なくともラルカ本人はそう信じていた。それゆえに、目の前で起きている光景に理解が追いつかない。
 
「ハッ! 確かに受け止めてるだけで結構ヤバイよ」
「ならーーッ!」

 そして、ようやく現実を認識したラルカはある異変に気付いた。
 自分の剣に付与されている魔法が、魔力がレイジの持つ妖刀に流れていくことに。

「なんだっ?!」

 気づいてからの行動は早かった。ラルカは即座に鍔迫り合いの中止を決断し、距離を取った。

「私の魔力が⋯⋯吸収された?」
「チッ、気づくのが早すぎんだろ」
「⋯⋯それが貴様の能力か?」
「さぁてね、答えてやれるほど時間がないんだな」

 レイジは何処か焦った様子でそう答えた。
 手の内があっさりバレてしまった以上、対策を練られてしまえば戦闘のプロであるラルカに初心者であるレイジが敵うはずはなかった。そういう意味では確かに焦る気持ちがあるのだろう。

「ならば早急に終わらせてやろう!」

 ラルカとしても決着は早くつけたいのは本心であった。
 ただでさえ、パンドラとの戦いで疲弊した上に魔力を吸収する存在は厄介以外の何者でもなかった。長期戦になれば敗色はさらに濃くなる一方。そう考えたのだ。

 そして、二人は各々の構えをとった。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 レイジ が パンドラ の元に駆けつける少し前に遡る。戦況は侵入者側に傾いていた。

(何だあの姿!?)

 レイジ は ロート の変化、更に続いた ブラウ の変化に焦りを感じていた。

(ッ! 旦那、紫の姉ちゃんも危ないで!)
(マジか⋯⋯どうする)
(アカン、あのままやと直ぐに紫の姉ちゃんは負けるで!)
(⋯⋯妖刀、直ぐに刃を戻せ!)
(了解や!)

 妖刀は レイジ からの命令を即座に受け入れ地中、壁に散乱した自身の刃を元に戻した。地中で刀身が一つ、また一つと繋がってくる。
 だが、妖刀の刀身が戻るよりも先に パンドラ の『厄災』の消滅が始まった。

(まずいッ! 早くしろ!)
(ま、待つんや! もう少し!)

 その次には、 ハクレイ の鎖の球体が真っ二つに割かれた。

(アカン! 鎖の嬢ちゃんが⋯⋯!)
(妖刀! 早く戻せ!)
(わかっとる! せやけど鎖の嬢ちゃんが⋯⋯)
(いやよく見ろ! 死体も、血痕もない)
(ほ、ホンマや)
(恐らく、上手い具合に逃げたんだろう)
(さ、さよか)

 この一瞬を争う事態でよく全体が見えていると妖刀は感心していた。
 実際、先頭の技術はド素人。魔物達の中では『暴食』がなければお荷物であることは間違いなかった。しかし、魔物達にはない何か特殊なものを持っているのではないかと妖刀は感じていた。

 そして、レイジと妖刀がそうこうしている内に パンドラ の闇魔法が詠唱を中断させられるようになった。

(おい!)
(待つんや⋯⋯もう少しーー終わったで!)

 急いで地面から妖刀を引き抜く。パンドラ の頭上には恐怖をばら撒く光の剣が振り上げられていた。その姿はさながら罪深き者を断罪するギロチンの様だ。

(ダンジョン内転移ッ! 間に合え!)

 ダンジョンマスターとしての特殊な能力。
 ダンジョン内の特定の場所に移動することができるこの能力が示すのはパンドラとラルカの間。滑り込むようにして入り込むがこの時レイジは僅かな変化を感じ取った。

(ーーエイナの魔力が⋯⋯消えた?)

 唐突に起きた予想外の出来事。
 しかし、その疑問を吟味する暇もなくパンドラの元へ転移された。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 レイジ とラルカ の剣のぶつかり合いは均衡した。

(流石、騎士団副団長と言ったところか)

 しかし、レイジ と ラルカ の剣術には大きな差があった。
 それでも均衡していられるのは一重に レイジ の技能と妖刀の意思の力だった。

「チッ、面倒な技能だ」

 ラルカ が魔力が吸収されることを理解してから剣に、鎧に魔力を纏わせることをやめていた。

「これはどうだ!」

 そう言って放たれたのは雷魔法。飛び出した雷電が レイジ に不規則に向かい、襲った。

(妖刀!)
(任せな!)

 妖刀は意思の操作により剣を一つのベールの様に変化させ レイジ を包んだ。そして、変化した妖刀に衝突した雷電は妖刀に吸収されレイジの元に辿り着く前に消えてしまった。

「魔法⋯⋯と言うより、魔力そのものを吸うか」

 数合の撃ち合いにして相手の能力の大まかな部分をラルカは把握した。
 その推察は的を得てはいた。流石に騎士団の副隊長をやっているだけのことはある。しかし、全体像が見えたとしても能力そのものが厄介なために決定打が思いつかない。

 そして、レイジもまた剣術において一枚も、二枚も上手な相手に単純な剣技では決定打はなかった。唯一、長期戦になれば魔力か体力が底を尽きるだろうと考えるが、エイナの魔力が急に消えたことに悠長なことはできなかった。

(吸収の技能はあの刀にあるか⋯⋯?もし、正しいならアレ妖刀をどうにかするのが先か)

 ここでラルカは読みを外していた。
 実際、妖刀を介して魔力を吸う光景を見せつけられてたためにと誤解していた。

(さぁて、どうしたものか。多分、アイツは妖刀が魔力を吸収してると考えるか?)
(それなら、その隙をついて一気に決めるんやな)
(ああ、魔力も十分充電し終わった。アイツ一人ならいけるだろ)

 両者の中で次なる戦いの光景が浮かび上がっていた。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 影の中の戦闘はすでに決着が着いていた。

「う、うぅ⋯⋯」
「悪いな嬢ちゃん。お前たちがいくら小細工を仕掛けようと本職の俺からすればわかるもんだわ」

 この戦い、始まった直後から マーダ は レイジ の妖刀による吸収に気づいていた。そして、それを逆手に取り位置を変え、魔力の波長を狂わせ レイジ を誤認させていた。

 結果、エイナ は持続的に魔力を吸われる形になり早急に魔力切れ。立つこともままならず決着は着いた。

「お、お兄様ぁ⋯⋯」
「さて、嬢ちゃんお別れだ」

 そう言って マーダ が腰から取り出したのは一本のナイフ。
 そのナイフは答申に奇妙な波紋を描き、何処か禍々しい雰囲気を醸し出している。

「う⋯⋯いやぁ⋯⋯!」
「ふんっ」

 マーダ はナイフを振りかぶり エイナ の背中に突き刺した。

「うっ⋯⋯!」

 ナイフが突き刺さった場所からは一滴の血も流れなかった。しかし、代わりに蠢く闇が エイナ の中に潜り込んで行った。

「さて、これで仕事も完璧だろう」

 ナイフは役割を果たしたのか粉々に砕け散ってしまった。そこに残ったのは傷一つ見当たらない眠っている エイナ の姿のみ。

「元勇者パーティー斥候担当にして歴代最強の暗殺者か⋯⋯はぁ、昔は良かったな」

 誰に言うわけでもなく マーダ は遠い目をし、今起きている戦いを眺めた。
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