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2章〜光は明日を照らし、鬼は大地を踏みしめ、影は過去を喰らう〜

48話「這い寄る影、蠢く破滅、その先に3」

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 一通り新しい階層を見終わったレイジは魔物達に向き直った。

「とりあえず階層主は設定しておこう。誰かやりたい奴はいるか?」

 レイジの問いに手をあげる者はいなかった。
 この劣悪の環境下、仮に生まれた自身の下位の魔物達が生き延びれる自信が各々には無かったのだ。

「そうか⋯⋯ま、別に絶対に設定する必要もないし、この環境だけでも十分と言えば十分かもな」

 レイジとしては本音のつもりだった。
 この劣悪な環境下でまともに生きて次の階層に来たやつの中で何人が戦えるか⋯⋯レイジは想像しても自分には無理だろうと思っていた。

 しかし、それでも手を挙げるものがいたーーパンドラである。

「⋯⋯この話を持ちかけたのは私です。ですので、階層主は私にお任せください」
「いや別に、階層の増築は元からあった予定だ。気を負う必要は無いんだぞ?」
「いえ! これは私の余計な気持ちが招いた結果です⋯⋯」
「いやだからーー」
「それに、私の下位の魔物なら生きられるかもしれません! ですから!」
「⋯⋯」

 生まれてくる新たな魔物達に劣悪な環境で生きろと強要するのはレイジとしても忍びなかった。
 しかし、パンドラの真剣な説得と表情から折れないだろうとレイジは感じた。

「⋯⋯わかった。この階層の階層主はパンドラにする」
「あ、ありがとうございます!」
「ま、別にこの階層で戦わなければいい話だからな。さて、戻るか」
「はい!」

 レイジの提案にパンドラは元気に返し、他の魔物達も二人の後に続いた。

「⋯⋯自分の先輩ってどんな環境に住んでたんすかね」

 一人、餓鬼と言う魔物をよく知らないハクレイがポツリとそう呟きながら最後尾を歩いていった。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 最下層に戻るとゼーレがベットの布団から顔を出していた。

 そのベットはここ数日レイジが寝るために購入された物だった。
 勿論、ゼーレ自身の物もある。

「あ、お帰りー」

 ゼーレは冬場にコタツに潜り込む猫のように幸せそうな表情で出迎えた。

「なぁ、ゼーレ⋯⋯」
「ん? なあに?」
「そのベット俺のだよな?」
「そうだねー」
「いつも寝るなら自分のベットで寝ろって言ってるだろ!」
「いつもお兄ちゃんのベットで寝たいって言ってるでしょ!」

 注意するレイジに逆ギレするゼーレ。
 この光景はベットを購入した日から何度も起きている。

「⋯⋯ったく、俺のベットで寝る理由がわからんぞ」
「もう、温もりがあるって言ってるでしょ」
「ゼーレお姉様ぁ、私も入って良いですかぁ?」
「もちろん! おいでー」
「わぁい!」
「あ、おい!」

 ゼーレの姿を見ていたエイナは許可を取りレイジのベットの中に入っていった。
 当然レイジの注意は無視である。

「あったかいねー」
「そうですねぇ」
「⋯⋯いい、な」
「あ、あの私も⋯⋯」
「待てパンドラ! 行くな! お前が行けば収集が本当に着かなくなる!」

 唯一の成人女性のパンドラが入ればその夜はどんな気持ちで寝る羽目になるか、と考えると絶対に阻止しなくては行けないことだった。
 理由を知らないパンドラは若干不満げでったが⋯⋯

「⋯⋯はい、わかりました」

 一回で引き下がってくれた。
 レイジとしても争う回数が少ないのは助かるところだろう。

「それでお兄ちゃん、新しい階層はどうだったの?」

 ベット勢を見て行動を起こそうとする面々を必死に止めるレイジにゼーレが顔を出しながら聞いた。

「結構意外な階層だったよ」
「どんな感じ?」
「一言で言えば砂漠だな。そして、入り口がランダムな場所に現れる可能性がある」
「⋯⋯ふーん、なんか面白い階層だね」
「ああ、それに環境が厳しい上に目印もないから移動が正確にできないから奇襲は向かないな」
「まぁ、足止めだけでも十分効果ありそうだけど」
「やっぱそうなるよーーッ!」

 この瞬間、レイジは急な不快感に襲われた。
 口から手を突っ込まれて胃の中を吐き出させるかのような不快感。何か間違ったものを飲み込み、体が必死になってそれを吐き出そうとする、あの感じだ。

「うっ⋯⋯」
「どうしたのお兄ちゃん!? ーーまさか!」

 急に苦しみ出したレイジを見たゼーレはすぐさま布団から抜け出し駆け寄った。
 そして、レイジの姿を見て何が起きているかを感じ取った。

「ああ、そのまさかだ⋯⋯」

 レイジは嫌な気分に耐えながら言葉を続けた。

「侵入者だ」

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 ー異世界某所ー

 冒険者ギルド受付にて何処か似ている二人の少女が一枚の紙を持ってやってきた。

「いらっしゃいまーーヒッ!」

 受付嬢は笑顔で対応しようとした。
 しかし、少女達の風貌を見て声が裏返ってしまった。

「お姉ちゃん怖がられてるよ」

 お姉ちゃん、と呼ぶ少女は短く切りそろえられた赤髪を揺らし片方の少女を金色の瞳で見た。

 その服装は動きやすさを重視した半袖短パン。
 腰には左右に一つずつポーチをつけている。
 そして、背中には少女の背丈を越える大きな金棒が背負われていた。

「私じゃなくて怖がられてるのはあなたよ」

 言い返した少女は同様に短く切りそろえられている青い髪を揺らし、金色の眼差しを向け返した。

 こちらも動きやすさを重視した半袖短パン。
 だが、ポーチは持っていない。その代わりに背中にはリュックを一つ背負っている。
 そして、そのリュックと背中の間には少女の背丈を越える大きな鎌が挟まっていた。

 そして、その二人の少女を見た周りが騒がしくなった。

「お、おいアレって⋯⋯」
「ああ、姉妹揃って上級冒険者の『鬼姉妹』だ」
「嘘だろ? 『鬼姉妹』と言やあ⋯⋯」
「ああ、姉は『恐怖を誘う大鎌ブルーオーガ』のブラウ・ヴァオレット。妹の方は『恐怖を与える金棒レッドオーガ』のロート・ヴァオレットだ」
「何だってこんなところに⋯⋯」
「何でも、最近現れたダンジョンの危険度が上がったらしい」
「ああ、それでか」

 しかし、そんな騒めきは少女たちにとっては囀(さえず)りでしかなかった。

「で、この依頼なのだけど」
「は、はいぃ! 」
「受理してくれますか?」
「あ、あの、一応冒険者カードを確認してもーーひっ!ごめんなさい!」
「ではこれを」
「はいどーぞ」

 少女達は慣れたように冒険者カードを差し出した。
 受付嬢は恐ろしさの余り既に涙目だ。ガタガタと手を震えさせカードを曖昧に確認し、急いで返した。

「は、はい。た、確かに本人と確認しました。で、ではお気をつけて⋯⋯」
「ええ、ありがとう」
「じゃーねー」

 少女達は受付嬢からカードと受注確認書貰いギルドを後にした。
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