編在する世界より

静電気妖怪

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はじまりで、おわりの村

見在する世界より4

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「して、キヨシよ。どうしてそこの婆さんを連れてきたんじゃ?」

 心底嫌そうにカムイは尋ねた。
 カムイの心の内側を見透かすような双眸はキヨシも苦手とするところで、この眼力にはいつまで経っても強気に出れない。

「えっと、連れてきたっていうよりは⋯⋯」
「私が見たいと言ったのですよ」

 気まずそうに答えるキヨシを庇うようにティアばあちゃんが答えた。
 実際、キヨシはカムイとティアばあちゃんを引き合わせたらどうなるかは知っていた。そのため、ティアばあちゃんが一緒に来たことにずっと疑問を持っていた。

「なら要件は⋯⋯修行か」
「ええ、理解が早くて助かるわ」
「え?どうゆうこと?僕の修行に問題があるの?」

 カムイは直ぐに察したようだがキヨシには中身が全く見えてこない。
 キョロキョロと二人の顔を交互に見るキヨシ。それを安心させるようにティアばあちゃんは優しく語りかける。

「いいえ、キヨシが修行をするのは問題ないのよ。でも⋯⋯あんまり無茶なことをティアばあちゃんはやって欲しくないのよ」
「そ、そりゃあ、僕だって怪我とかはしたくないけど⋯⋯厳しくないと修行じゃなくない?」
「そうじゃ。生易しいものは修行とは言わん」
「でもねぇ⋯⋯限度ってものがあるのよ」

 食い下がるキヨシだがティアばあちゃんは折れない。
 だがキヨシにとってはそこが不思議だった。かすり傷程度ならは探せば至る所にあるが、残るような傷はどこにもない。
 じっと睨み合うティアばあちゃんとカムイ。しばらくの沈黙の末に——、

「⋯⋯はぁ、わかったわい。少し考えてやろう」
「カムイじいちゃん⋯⋯わかったよティアばあちゃん。今後は気をつけるよ」
「そう、わかってくれたなら良かったわ」

 カムイが折れたことでキヨシも納得せざるを得なかった。一応は、心の傷か何かかとキヨシは思うことにした。

「それじゃあ今日はどうするかのぉ⋯⋯」
「あ、それならカムイさんの知ってる昔話でもしたらどうですか?」
「なにぃ?」

 いつの間にか帰ってきたセム兄ちゃんが提案した。そして、その提案に一番驚いたのは当然カムイだった。

「今日のカムイさんは連敗中みたいなものですし、ここら辺でキヨシ君へ名誉挽回しておかないと後々尾を引いたりしますよ?」
「連敗などしておらんじゃろうが!適当を抜かすんじゃない!それにキヨシからの評価など落ちわせんわ。のうキヨ——」
「カムイじいちゃんの昔話?!」

 カムイの言い訳をよそにキヨシの興味はカムイの昔話の方に向かっていた。
 振り返ったカムイの視界にはキラキラと目を輝かせているキヨシがいる。

「ほらほら、キヨシ君も楽しみにしていますよ?いいんですかこんな美味しいところを逃しても?」
「むぐぐぅ」
「カムイじいちゃんって昔は『軍神』って呼ばれてたんだよね?!」
「ぬぐうぅ」

 後ろから煽ってくるセム兄ちゃんと目を輝かせているキヨシ。
 セム兄ちゃんの挑発に乗るのはカムイのプライド的には絶対に避けたいところだった。
 しかし、孫のように可愛がっているキヨシに期待されてしまっては答えたいのが爺の本能。

 迷った末にカムイは——、

「⋯⋯はぁ、仕方ない話してやるか。セムの挑発に乗るのは癪じゃがな」

 肩を崩しながら、またもや折れた。今回はキヨシの期待の眼差しに軍配が上がったようだ。

「やったーっ!」
「よかったねキヨシ君」
「うん!」
「少しだけじゃからな!」

 全員が座り直すと、カムイは無くなった左足の代わりになっている義足をさすりながら考えた。

「さて、なにを話すのが良いかのぉ」
「せっかくキヨシ君もいるわけだし、『あの人』のことを話すのはどうでしょうか?」
「なにぃ!?奴のことじゃと!」
「『あの人』?」

 思いかけずオーバーな反応をしてからカムイは、しまったと思った。
 キヨシが興味を持ってしまった以上、遅かれ早かれ話題に出てしまうことに気づいたのだ。

 セム兄ちゃんを苦虫をすり潰したような目で睨むカムイ。一方のセム兄ちゃんはしてやったりと笑みを浮かべていた。
 カムイはため息を吐くと言葉を選びながら話し始めた。

「まあ、よいわ。これは又聞きした話じゃぞ。まだこの世界がここまで平穏ではなかった頃の話じゃ——」

 そう切り出し、カムイはとある英雄と勇者の昔話を語り始めた。
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