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頭おかしいやつの話
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中学時代のクラスメートに頭おかしいやついたんですよ。
いつもパペット持ってて、やたら家の事情が複雑で、学校は休みがちで、男女関係なく仲良くなってたやつ。あ、そいつ女でしたけど、なんでか性別が感じられるやつではありませんでしたね。
合わないやつは徹底的に合わなくて嫌われてたけど、それでも裏表がそんな無いやつで人をまとめるのもうまかった。
でも何かをやると別のものがおろそかになるみたいな、不器用な奴でもありました。
そんなやつの話になります。
すぐ終わるんで付き合ってやってください。
_____
パペットって、口がパカパカ開くやつで。
いや中学ですよ?普通そんなの持ってきちゃダメでしょ。
でもあいつ、パペットの頭魔改造してポーチにしちゃったらしくて、そこに持病の薬入れてたんです。
だから先生も誰も注意できなくて。
……持病が何かって?さすがにそんなこと知りませんよ。
やたら家の事情が複雑なやつでした。
「わたしの一族はまともな人があんまりいないからね」とか言って、一族ってなんだよってなったりして。
一番親しかったらしい従姉妹の葬式で学校休んだこともあったな、確か。
母親の家は、その地域じゃ有名な名家だったそうですよ。
父親の家は別にそうでもなかったそうですけど、父親の家は頭がおかしい人ばっかだったそうで。
ははは、そうですね。そいつの頭のおかしさも父親譲りだったんでしょうね。
休み時間とかは延々とパペットと喋ってて、俺隣の席だったんですけど、よく会話に付き合わされるんですよ。
「ねえねえ、こいつがひどいこと言うんだよ」『ぼくは本当のこと言ってるだけですぅ』「はい~!?」とか、最終的に俺忘れ去られるんですけど、まあ見てて飽きないやつでした。
正義感が強いのかお人好しなのか、ああ、なんか女子と男子の間に壁があったでしょ。
あいつはそんな垣根どうでもいいやつだったから、男子がドアのあたりでたむろって邪魔なとき『ぼくが通るぞー!』とかパペット使って突撃して、通れなくなってた女子を助けたりしてました。
そうですね、やっぱり正義感が強いやつだったんです。
俺、いじめられてたんですよ。
昔はこんな風に、しゃべるためだけに知らない人に話しかけるとかマジで無理で。
でも三年のときにあいつが話しかけてくれて、それでまあ、嫌われるときは嫌われたやつだって言ったでしょ?
俺をいじめてたやつにはすっかり嫌われてました。
それでもあいつがどんなやつも平等にパペット攻撃してくれたおかげで、俺は”あいつの被害者枠”で哀れなやつになれたんです。
そしたらいじめも無くなって。
だからかな、……気づかないうちに好きになっちまった。
ああ、すみません。
結局付き合うとかはできませんでした。
「一族は頭がおかしいんだ。わたしも頭がおかしいんだよ。ごめんね、少なくともきみのことは嫌いじゃない」ってフラれました。
一族がどうとかはどうでもいいから、あいつの一番になりたいって高望みしましてね。
でもダメだった。
俺はフラれたあとあいつを忘れようと躍起になって今はコミュ障も治ったわけですが、なんかいろいろあいつのおかげだな考えてみると。
あいつそれなりに頭も良かったんですよ。
だから俺みたいな底辺とアイツは当然同じ高校に行けるとかそう言うのはなくて、中学でサヨナラしました。
最後に「きみは今まで見た中で一番まんまるだね。好きになるってまんまるになるってことなのかな?」とだけ言われて。
卒業文集に、みんなのあだ名を書こうみたいなところがあって。
あいつクラスメートのこと「しかく」とか「とげとげ」とか、「ふわふわ」だの「明朝」だの「ゴシック」だの書いてたんです。
クラスメートそれなりにあだ名被ってた奴も多くて、つか大前提としてあいつ全員のこと苗字で呼んでたのに、いつあだ名つけたんだってことになるんですけど。
そのあだ名の中で俺だけやっぱり「まんまる」でした。
はい、そうですね。
視覚異常だったのかな、と思います。
人間が色とか数字で見えたりする人がいるって言うでしょ?
あいつは多分人間が文字と立体図形で見えてたんだと思います。
そうするとまんまるがいい感じだったんかな。
俺は、…俺は、あいつにちゃんと見てもらえてたんだなとか、俺があいつにとっての無害な救いになれてたんだと思ったら嬉しくなって。
一族は頭がおかしいも、多分そういう視覚だったりする人が他にもいたんだと思います。
はは、フラれたこと?
俺も立体図形と付き合えって言われたら意味わからんって言うしかないんで、もう全然気にしてません。
あー、気分が楽になった。
付き合ってくれてありがとうございました、話さなきゃなんか気が済まなくて。
実は今日あいつの月命日なんです。
……あれ言ってませんでしたっけ、もうあいつ死んでるんですよ。
中学出てすぐ、高校にも全然通わないままぽっくり逝ったそうで。
んじゃお礼にここは奢ります。
本当にありがとうございました。
いつもパペット持ってて、やたら家の事情が複雑で、学校は休みがちで、男女関係なく仲良くなってたやつ。あ、そいつ女でしたけど、なんでか性別が感じられるやつではありませんでしたね。
合わないやつは徹底的に合わなくて嫌われてたけど、それでも裏表がそんな無いやつで人をまとめるのもうまかった。
でも何かをやると別のものがおろそかになるみたいな、不器用な奴でもありました。
そんなやつの話になります。
すぐ終わるんで付き合ってやってください。
_____
パペットって、口がパカパカ開くやつで。
いや中学ですよ?普通そんなの持ってきちゃダメでしょ。
でもあいつ、パペットの頭魔改造してポーチにしちゃったらしくて、そこに持病の薬入れてたんです。
だから先生も誰も注意できなくて。
……持病が何かって?さすがにそんなこと知りませんよ。
やたら家の事情が複雑なやつでした。
「わたしの一族はまともな人があんまりいないからね」とか言って、一族ってなんだよってなったりして。
一番親しかったらしい従姉妹の葬式で学校休んだこともあったな、確か。
母親の家は、その地域じゃ有名な名家だったそうですよ。
父親の家は別にそうでもなかったそうですけど、父親の家は頭がおかしい人ばっかだったそうで。
ははは、そうですね。そいつの頭のおかしさも父親譲りだったんでしょうね。
休み時間とかは延々とパペットと喋ってて、俺隣の席だったんですけど、よく会話に付き合わされるんですよ。
「ねえねえ、こいつがひどいこと言うんだよ」『ぼくは本当のこと言ってるだけですぅ』「はい~!?」とか、最終的に俺忘れ去られるんですけど、まあ見てて飽きないやつでした。
正義感が強いのかお人好しなのか、ああ、なんか女子と男子の間に壁があったでしょ。
あいつはそんな垣根どうでもいいやつだったから、男子がドアのあたりでたむろって邪魔なとき『ぼくが通るぞー!』とかパペット使って突撃して、通れなくなってた女子を助けたりしてました。
そうですね、やっぱり正義感が強いやつだったんです。
俺、いじめられてたんですよ。
昔はこんな風に、しゃべるためだけに知らない人に話しかけるとかマジで無理で。
でも三年のときにあいつが話しかけてくれて、それでまあ、嫌われるときは嫌われたやつだって言ったでしょ?
俺をいじめてたやつにはすっかり嫌われてました。
それでもあいつがどんなやつも平等にパペット攻撃してくれたおかげで、俺は”あいつの被害者枠”で哀れなやつになれたんです。
そしたらいじめも無くなって。
だからかな、……気づかないうちに好きになっちまった。
ああ、すみません。
結局付き合うとかはできませんでした。
「一族は頭がおかしいんだ。わたしも頭がおかしいんだよ。ごめんね、少なくともきみのことは嫌いじゃない」ってフラれました。
一族がどうとかはどうでもいいから、あいつの一番になりたいって高望みしましてね。
でもダメだった。
俺はフラれたあとあいつを忘れようと躍起になって今はコミュ障も治ったわけですが、なんかいろいろあいつのおかげだな考えてみると。
あいつそれなりに頭も良かったんですよ。
だから俺みたいな底辺とアイツは当然同じ高校に行けるとかそう言うのはなくて、中学でサヨナラしました。
最後に「きみは今まで見た中で一番まんまるだね。好きになるってまんまるになるってことなのかな?」とだけ言われて。
卒業文集に、みんなのあだ名を書こうみたいなところがあって。
あいつクラスメートのこと「しかく」とか「とげとげ」とか、「ふわふわ」だの「明朝」だの「ゴシック」だの書いてたんです。
クラスメートそれなりにあだ名被ってた奴も多くて、つか大前提としてあいつ全員のこと苗字で呼んでたのに、いつあだ名つけたんだってことになるんですけど。
そのあだ名の中で俺だけやっぱり「まんまる」でした。
はい、そうですね。
視覚異常だったのかな、と思います。
人間が色とか数字で見えたりする人がいるって言うでしょ?
あいつは多分人間が文字と立体図形で見えてたんだと思います。
そうするとまんまるがいい感じだったんかな。
俺は、…俺は、あいつにちゃんと見てもらえてたんだなとか、俺があいつにとっての無害な救いになれてたんだと思ったら嬉しくなって。
一族は頭がおかしいも、多分そういう視覚だったりする人が他にもいたんだと思います。
はは、フラれたこと?
俺も立体図形と付き合えって言われたら意味わからんって言うしかないんで、もう全然気にしてません。
あー、気分が楽になった。
付き合ってくれてありがとうございました、話さなきゃなんか気が済まなくて。
実は今日あいつの月命日なんです。
……あれ言ってませんでしたっけ、もうあいつ死んでるんですよ。
中学出てすぐ、高校にも全然通わないままぽっくり逝ったそうで。
んじゃお礼にここは奢ります。
本当にありがとうございました。
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