1 / 1
頭おかしいやつの話
しおりを挟む
中学時代のクラスメートに頭おかしいやついたんですよ。
いつもパペット持ってて、やたら家の事情が複雑で、学校は休みがちで、男女関係なく仲良くなってたやつ。あ、そいつ女でしたけど、なんでか性別が感じられるやつではありませんでしたね。
合わないやつは徹底的に合わなくて嫌われてたけど、それでも裏表がそんな無いやつで人をまとめるのもうまかった。
でも何かをやると別のものがおろそかになるみたいな、不器用な奴でもありました。
そんなやつの話になります。
すぐ終わるんで付き合ってやってください。
_____
パペットって、口がパカパカ開くやつで。
いや中学ですよ?普通そんなの持ってきちゃダメでしょ。
でもあいつ、パペットの頭魔改造してポーチにしちゃったらしくて、そこに持病の薬入れてたんです。
だから先生も誰も注意できなくて。
……持病が何かって?さすがにそんなこと知りませんよ。
やたら家の事情が複雑なやつでした。
「わたしの一族はまともな人があんまりいないからね」とか言って、一族ってなんだよってなったりして。
一番親しかったらしい従姉妹の葬式で学校休んだこともあったな、確か。
母親の家は、その地域じゃ有名な名家だったそうですよ。
父親の家は別にそうでもなかったそうですけど、父親の家は頭がおかしい人ばっかだったそうで。
ははは、そうですね。そいつの頭のおかしさも父親譲りだったんでしょうね。
休み時間とかは延々とパペットと喋ってて、俺隣の席だったんですけど、よく会話に付き合わされるんですよ。
「ねえねえ、こいつがひどいこと言うんだよ」『ぼくは本当のこと言ってるだけですぅ』「はい~!?」とか、最終的に俺忘れ去られるんですけど、まあ見てて飽きないやつでした。
正義感が強いのかお人好しなのか、ああ、なんか女子と男子の間に壁があったでしょ。
あいつはそんな垣根どうでもいいやつだったから、男子がドアのあたりでたむろって邪魔なとき『ぼくが通るぞー!』とかパペット使って突撃して、通れなくなってた女子を助けたりしてました。
そうですね、やっぱり正義感が強いやつだったんです。
俺、いじめられてたんですよ。
昔はこんな風に、しゃべるためだけに知らない人に話しかけるとかマジで無理で。
でも三年のときにあいつが話しかけてくれて、それでまあ、嫌われるときは嫌われたやつだって言ったでしょ?
俺をいじめてたやつにはすっかり嫌われてました。
それでもあいつがどんなやつも平等にパペット攻撃してくれたおかげで、俺は”あいつの被害者枠”で哀れなやつになれたんです。
そしたらいじめも無くなって。
だからかな、……気づかないうちに好きになっちまった。
ああ、すみません。
結局付き合うとかはできませんでした。
「一族は頭がおかしいんだ。わたしも頭がおかしいんだよ。ごめんね、少なくともきみのことは嫌いじゃない」ってフラれました。
一族がどうとかはどうでもいいから、あいつの一番になりたいって高望みしましてね。
でもダメだった。
俺はフラれたあとあいつを忘れようと躍起になって今はコミュ障も治ったわけですが、なんかいろいろあいつのおかげだな考えてみると。
あいつそれなりに頭も良かったんですよ。
だから俺みたいな底辺とアイツは当然同じ高校に行けるとかそう言うのはなくて、中学でサヨナラしました。
最後に「きみは今まで見た中で一番まんまるだね。好きになるってまんまるになるってことなのかな?」とだけ言われて。
卒業文集に、みんなのあだ名を書こうみたいなところがあって。
あいつクラスメートのこと「しかく」とか「とげとげ」とか、「ふわふわ」だの「明朝」だの「ゴシック」だの書いてたんです。
クラスメートそれなりにあだ名被ってた奴も多くて、つか大前提としてあいつ全員のこと苗字で呼んでたのに、いつあだ名つけたんだってことになるんですけど。
そのあだ名の中で俺だけやっぱり「まんまる」でした。
はい、そうですね。
視覚異常だったのかな、と思います。
人間が色とか数字で見えたりする人がいるって言うでしょ?
あいつは多分人間が文字と立体図形で見えてたんだと思います。
そうするとまんまるがいい感じだったんかな。
俺は、…俺は、あいつにちゃんと見てもらえてたんだなとか、俺があいつにとっての無害な救いになれてたんだと思ったら嬉しくなって。
一族は頭がおかしいも、多分そういう視覚だったりする人が他にもいたんだと思います。
はは、フラれたこと?
俺も立体図形と付き合えって言われたら意味わからんって言うしかないんで、もう全然気にしてません。
あー、気分が楽になった。
付き合ってくれてありがとうございました、話さなきゃなんか気が済まなくて。
実は今日あいつの月命日なんです。
……あれ言ってませんでしたっけ、もうあいつ死んでるんですよ。
中学出てすぐ、高校にも全然通わないままぽっくり逝ったそうで。
んじゃお礼にここは奢ります。
本当にありがとうございました。
いつもパペット持ってて、やたら家の事情が複雑で、学校は休みがちで、男女関係なく仲良くなってたやつ。あ、そいつ女でしたけど、なんでか性別が感じられるやつではありませんでしたね。
合わないやつは徹底的に合わなくて嫌われてたけど、それでも裏表がそんな無いやつで人をまとめるのもうまかった。
でも何かをやると別のものがおろそかになるみたいな、不器用な奴でもありました。
そんなやつの話になります。
すぐ終わるんで付き合ってやってください。
_____
パペットって、口がパカパカ開くやつで。
いや中学ですよ?普通そんなの持ってきちゃダメでしょ。
でもあいつ、パペットの頭魔改造してポーチにしちゃったらしくて、そこに持病の薬入れてたんです。
だから先生も誰も注意できなくて。
……持病が何かって?さすがにそんなこと知りませんよ。
やたら家の事情が複雑なやつでした。
「わたしの一族はまともな人があんまりいないからね」とか言って、一族ってなんだよってなったりして。
一番親しかったらしい従姉妹の葬式で学校休んだこともあったな、確か。
母親の家は、その地域じゃ有名な名家だったそうですよ。
父親の家は別にそうでもなかったそうですけど、父親の家は頭がおかしい人ばっかだったそうで。
ははは、そうですね。そいつの頭のおかしさも父親譲りだったんでしょうね。
休み時間とかは延々とパペットと喋ってて、俺隣の席だったんですけど、よく会話に付き合わされるんですよ。
「ねえねえ、こいつがひどいこと言うんだよ」『ぼくは本当のこと言ってるだけですぅ』「はい~!?」とか、最終的に俺忘れ去られるんですけど、まあ見てて飽きないやつでした。
正義感が強いのかお人好しなのか、ああ、なんか女子と男子の間に壁があったでしょ。
あいつはそんな垣根どうでもいいやつだったから、男子がドアのあたりでたむろって邪魔なとき『ぼくが通るぞー!』とかパペット使って突撃して、通れなくなってた女子を助けたりしてました。
そうですね、やっぱり正義感が強いやつだったんです。
俺、いじめられてたんですよ。
昔はこんな風に、しゃべるためだけに知らない人に話しかけるとかマジで無理で。
でも三年のときにあいつが話しかけてくれて、それでまあ、嫌われるときは嫌われたやつだって言ったでしょ?
俺をいじめてたやつにはすっかり嫌われてました。
それでもあいつがどんなやつも平等にパペット攻撃してくれたおかげで、俺は”あいつの被害者枠”で哀れなやつになれたんです。
そしたらいじめも無くなって。
だからかな、……気づかないうちに好きになっちまった。
ああ、すみません。
結局付き合うとかはできませんでした。
「一族は頭がおかしいんだ。わたしも頭がおかしいんだよ。ごめんね、少なくともきみのことは嫌いじゃない」ってフラれました。
一族がどうとかはどうでもいいから、あいつの一番になりたいって高望みしましてね。
でもダメだった。
俺はフラれたあとあいつを忘れようと躍起になって今はコミュ障も治ったわけですが、なんかいろいろあいつのおかげだな考えてみると。
あいつそれなりに頭も良かったんですよ。
だから俺みたいな底辺とアイツは当然同じ高校に行けるとかそう言うのはなくて、中学でサヨナラしました。
最後に「きみは今まで見た中で一番まんまるだね。好きになるってまんまるになるってことなのかな?」とだけ言われて。
卒業文集に、みんなのあだ名を書こうみたいなところがあって。
あいつクラスメートのこと「しかく」とか「とげとげ」とか、「ふわふわ」だの「明朝」だの「ゴシック」だの書いてたんです。
クラスメートそれなりにあだ名被ってた奴も多くて、つか大前提としてあいつ全員のこと苗字で呼んでたのに、いつあだ名つけたんだってことになるんですけど。
そのあだ名の中で俺だけやっぱり「まんまる」でした。
はい、そうですね。
視覚異常だったのかな、と思います。
人間が色とか数字で見えたりする人がいるって言うでしょ?
あいつは多分人間が文字と立体図形で見えてたんだと思います。
そうするとまんまるがいい感じだったんかな。
俺は、…俺は、あいつにちゃんと見てもらえてたんだなとか、俺があいつにとっての無害な救いになれてたんだと思ったら嬉しくなって。
一族は頭がおかしいも、多分そういう視覚だったりする人が他にもいたんだと思います。
はは、フラれたこと?
俺も立体図形と付き合えって言われたら意味わからんって言うしかないんで、もう全然気にしてません。
あー、気分が楽になった。
付き合ってくれてありがとうございました、話さなきゃなんか気が済まなくて。
実は今日あいつの月命日なんです。
……あれ言ってませんでしたっけ、もうあいつ死んでるんですよ。
中学出てすぐ、高校にも全然通わないままぽっくり逝ったそうで。
んじゃお礼にここは奢ります。
本当にありがとうございました。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしを救ったあいつの話
うっきっき
恋愛
昔、同じクラスにすごい人がいたんだよ。
わたしとたくさん喋ってくれたすごいひと。わたしを邪険にしなかったすごいひと。ぬいぐるみともたくさん喋ってくれた優しい人。
なんでいじわるされてたのかわからないくらいにいい人だったの。
顔はまんまるでね、ううん。そうじゃないの。まんまるだったんだよ。
とげとげとかつんつんがいっぱいいるあの場所で、あの人だけがまんまるだった。
ふふ、疑ってる?
ほんとにいるんだよ。
頭おかしかったアイツの話のアンサーみたいな感じです。
正直意味わからないと思います。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~
及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら……
なんと相手は自社の社長!?
末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、
なぜか一夜を共に過ごすことに!
いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる