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72 旅立ち
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早朝。まだ屋敷の使用人とパン屋しか起きていないような時間に俺とレオは両親とジェイムズにしばしの別れを告げていた。
今度いつ会えるか分からない。そう思うと涙腺が緩んだが、自分の意思で出ていくのだからと涙を精一杯引っ込めた。体を壊さないように、無理しないように、生きていれば勝ちだ、と言われ送り出された。お母様はしっかりと俺を見つめ抱き締め、お父様は俺と同じように涙を堪えたあと、レオを捕まえて話し込んでいた。
自分のしたいこと、すべきことが終わったら、絶対に家族の元へ帰るんだ。
「レオ、どの馬車に乗るの?」
「とりあえず一日毎に馬車を降りて、万が一追跡していた場合行き先が特定されないようにする」
レオが言うには、直接レナセール国経由のナルカデア王国に向かう馬車に乗ると先回りされるため、〇〇行きの馬車を乗り継いで行くとのこと。
「街まで行かずに野宿する場合も出てくるかもしれない……ティアは大丈夫?」
「もちろん大丈夫だよ! 使い道の無かった俺の魔法がやっと役に立てるかも」
「たくさん使わないように。じゃないと野外で朝までコースだよ」
「………はい……」
レオとのえっちな触れ合いは嫌ではない、むしろ好きだが、誰が来るかも分からない外で致すのは嫌だ……! 以前魔力欠乏でフラフラになった時は口付けやお互いの陰茎を舐めあって魔力を補充したが、今レオが言う『朝までコース』は性行為を意味してるだろうことは容易に分かる。というか既に経験している。初夜で。調子に乗らないように気をつけよう。
馬車に乗り、今日はアキスト王国南部、鉱山の麓にある街まで向かう。馬車に乗るのはアルテナに行った時以来で、こんな状況にも関わらずレオとの二人旅に少し嬉しくなる気持ちを抑えきれない。
レオと体を寄せ合いながら馬車に揺られていると、同じ馬車に乗り合わせた老夫婦と目が合い、にっこりと笑いかけられた。
「こんにちは。二人はとても仲が良いのね」
「こんにちは。今日は一日ご一緒することになります。よろしくお願いします。実は婚約しているんです」
「あらそうなの。婚姻前に二人で旅行だなんて素敵だわ。私たちは学校卒業と共に結婚したから、二人だけで旅をすることなんて無くて……」
おばあさんはそう言うけども、とても幸せそうな顔をしている。レオも同じように感じたのか口を開く。
「こんにちは。お二人はご夫婦なんですね。とても幸せそうに見えます。ご旅行ですか?」
「ええ。若い頃は働いたり子供の世話をしたりと自分たちの時間が無かったから、子供たちが独り立ちしたのを機に色んな場所へ足を運んでいるのよ」
「ワシらの今回の目的は湯治なんじゃ。年に何度か通っておる。疲れや腰痛に効くんじゃよ」
「「湯治?」」
「なんじゃ、知らんのにこの馬車にのったんか。アキスト鉱山の麓にあるレブという街は温泉があるんじゃ。土地柄、鉱員が多いからいつも賑わっとる。ある程度の旅館に泊まるなら部屋に温泉が付いとると思うぞ」
「し……知らなかった……」
馬車で一日で行ける街にも関わらず知らないのは、自分が料理以外のことに興味が無かったことと、家業である貿易の仕事と温泉が直接繋がらなかったせいだ。温泉の湯が売れる物だったなら耳に入っていたはずだ。だが今はそんなことより。
「レオ…ン、温泉だって!」
「エレンは温泉は初めて?」
「うん。アルテナ以外の街は行ったことないんだ」
「そっか、じゃあ一緒に温泉に入ろうね」
「うん!」
初めて見る温泉を楽しみにしつつ、老夫婦との話を楽しんだ。俺の髪と目はいつものように茶髪とレンガ色の瞳に変え、二人きりの時以外は偽名で呼び合うことにしている。
途中何度か休憩を挟みつつ、日が暮れる前に温泉街レブに到着した。
「私たちはいつもの宿を予約しているから行くわ。良い旅を」
「はい、お二人も」
老夫婦と別れレオと手を繋ぎ今日泊まる宿を探す。お腹も空いたがまずは寝場所だ。
「かなり人が多いけど、空いてる宿あるのかな」
「中級以上の宿なら空いていると思う。この街の人の殆どは温泉目当てで来た、ある程度金払いの良い旅行客と長期間安宿を予約している鉱員だと思う。安宿は空いてない可能性が高いけど、そこそこする宿なら多分大丈夫」
「初日からそんなお金使って大丈夫?」
「今後は野宿の時もあるかもしれないし、街がある時はしっかりと体を休めておこう。温泉にも入りたいしね」
「うん、温泉には入りたい」
温泉の誘惑には逆らえず、治安が良く部屋に温泉が付いている宿を無事に確保したのだった。
今度いつ会えるか分からない。そう思うと涙腺が緩んだが、自分の意思で出ていくのだからと涙を精一杯引っ込めた。体を壊さないように、無理しないように、生きていれば勝ちだ、と言われ送り出された。お母様はしっかりと俺を見つめ抱き締め、お父様は俺と同じように涙を堪えたあと、レオを捕まえて話し込んでいた。
自分のしたいこと、すべきことが終わったら、絶対に家族の元へ帰るんだ。
「レオ、どの馬車に乗るの?」
「とりあえず一日毎に馬車を降りて、万が一追跡していた場合行き先が特定されないようにする」
レオが言うには、直接レナセール国経由のナルカデア王国に向かう馬車に乗ると先回りされるため、〇〇行きの馬車を乗り継いで行くとのこと。
「街まで行かずに野宿する場合も出てくるかもしれない……ティアは大丈夫?」
「もちろん大丈夫だよ! 使い道の無かった俺の魔法がやっと役に立てるかも」
「たくさん使わないように。じゃないと野外で朝までコースだよ」
「………はい……」
レオとのえっちな触れ合いは嫌ではない、むしろ好きだが、誰が来るかも分からない外で致すのは嫌だ……! 以前魔力欠乏でフラフラになった時は口付けやお互いの陰茎を舐めあって魔力を補充したが、今レオが言う『朝までコース』は性行為を意味してるだろうことは容易に分かる。というか既に経験している。初夜で。調子に乗らないように気をつけよう。
馬車に乗り、今日はアキスト王国南部、鉱山の麓にある街まで向かう。馬車に乗るのはアルテナに行った時以来で、こんな状況にも関わらずレオとの二人旅に少し嬉しくなる気持ちを抑えきれない。
レオと体を寄せ合いながら馬車に揺られていると、同じ馬車に乗り合わせた老夫婦と目が合い、にっこりと笑いかけられた。
「こんにちは。二人はとても仲が良いのね」
「こんにちは。今日は一日ご一緒することになります。よろしくお願いします。実は婚約しているんです」
「あらそうなの。婚姻前に二人で旅行だなんて素敵だわ。私たちは学校卒業と共に結婚したから、二人だけで旅をすることなんて無くて……」
おばあさんはそう言うけども、とても幸せそうな顔をしている。レオも同じように感じたのか口を開く。
「こんにちは。お二人はご夫婦なんですね。とても幸せそうに見えます。ご旅行ですか?」
「ええ。若い頃は働いたり子供の世話をしたりと自分たちの時間が無かったから、子供たちが独り立ちしたのを機に色んな場所へ足を運んでいるのよ」
「ワシらの今回の目的は湯治なんじゃ。年に何度か通っておる。疲れや腰痛に効くんじゃよ」
「「湯治?」」
「なんじゃ、知らんのにこの馬車にのったんか。アキスト鉱山の麓にあるレブという街は温泉があるんじゃ。土地柄、鉱員が多いからいつも賑わっとる。ある程度の旅館に泊まるなら部屋に温泉が付いとると思うぞ」
「し……知らなかった……」
馬車で一日で行ける街にも関わらず知らないのは、自分が料理以外のことに興味が無かったことと、家業である貿易の仕事と温泉が直接繋がらなかったせいだ。温泉の湯が売れる物だったなら耳に入っていたはずだ。だが今はそんなことより。
「レオ…ン、温泉だって!」
「エレンは温泉は初めて?」
「うん。アルテナ以外の街は行ったことないんだ」
「そっか、じゃあ一緒に温泉に入ろうね」
「うん!」
初めて見る温泉を楽しみにしつつ、老夫婦との話を楽しんだ。俺の髪と目はいつものように茶髪とレンガ色の瞳に変え、二人きりの時以外は偽名で呼び合うことにしている。
途中何度か休憩を挟みつつ、日が暮れる前に温泉街レブに到着した。
「私たちはいつもの宿を予約しているから行くわ。良い旅を」
「はい、お二人も」
老夫婦と別れレオと手を繋ぎ今日泊まる宿を探す。お腹も空いたがまずは寝場所だ。
「かなり人が多いけど、空いてる宿あるのかな」
「中級以上の宿なら空いていると思う。この街の人の殆どは温泉目当てで来た、ある程度金払いの良い旅行客と長期間安宿を予約している鉱員だと思う。安宿は空いてない可能性が高いけど、そこそこする宿なら多分大丈夫」
「初日からそんなお金使って大丈夫?」
「今後は野宿の時もあるかもしれないし、街がある時はしっかりと体を休めておこう。温泉にも入りたいしね」
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