極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

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69 待ち遠しかったはずの便り

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 翌日。
 俺はここを離れる場合に最低限必要な物を集めている。お母様にはお父様と一緒に緊急で話したいことがあると伝え、今日この後お父様が城から戻り次第話し合う予定だ。
 
 以前フリードから言われたように、他国へ逃れた方が良いことには違いない。国を出た先で襲われる可能性もあるが、どちらにしろアキスト王家は俺のために動くことなどないのだから、本当に俺が狙いなら屋敷に留まっていてもただ捕まるだけだ。周りの人に危害が及ぶ可能性を少しでも減らしたい。
 
 考え事をしながら黙々と荷造りをしていると、部屋の扉がノックされ、俺の返事を待ってからレオが入って来た。レオは今日朝から指名依頼の確認のため、ギルドへと赴いていた。
 
「レオ、お帰り。どうだった?」
「うん……。座って話そうか」
 
 深刻そうな顔をしたレオに促され、部屋にある長ソファーに横並びで座る。問いただしたくなるのを抑えて、レオの言葉をじっと待った。
 
「安心させるために言うと、恐らく俺を陥れるための指名依頼じゃないよ」
「そう……なんだ……。良かった。でも、じゃあ普通の依頼だったの?」
 
 ガルダニア帝国とも、レナセール国の紛争とも関係ないなら安心出来るんだけど……。
 
 
「シドだった」
「えっ……?」
「シドからの指名依頼という名のオレたち宛の手紙だ。色んな国を介してアキュレのギルドに届いたそうだ。足がつかないようにするためだろう」
「何て、何て書いてあったの? 二人とも元気なの?」
「手紙は持ち帰って良かったからあるよ。ティアが読みたいと思って。はい」
 
 レオに渡された手紙を順に読んでいく。一緒に過ごした思い出から始まり、彼ら兄弟はレナセール国の市民派と共にいること、家族が囚われていること、恐らくこのまま内戦に突入するから、近付かないように、ということが書かれていた。戦いが終わったらまた俺とレオに会いたいと最後にしるして。
 
「そんな……。二人は内戦になったら戦うことになるの? ラキくんなんて……まだ子どもなのに……!」
「それが……戦争になるということだから……」
「どうにかして……戦いを止められないかな……」
 
 理想を口にするものの、ここまで来たら人の手でどうにか出来る段階にないことは分かっていた。レオが口を開く。
 
「気になることが二つあるんだ」
「うん、聞きたい」
「まず一つ。サーリャさんが言う物語ではラキくんとオレが出会うのは5年後だと言っていた。サーリャさんの語り口と現状を照らし合わせると、恐らくこの内戦が終わった後に初めて会ったことになる」
「なるほど……」
「現実では既に二人に会っているし、こうやって手紙も届いた。確実にオレたちの行動の変化によって大きな違いを生んでいる。つまり五年待たずとも内戦を終わらせることが可能かもしれないということだ」
 
 そう、サーリャさんが前世で読んだという物語に書いてあったことはこの世界での人物や出来事と酷似している。
『一人でも少ない犠牲で、少しでも早く救えたら』
 そう話していたサーリャさんは、内戦が始まり、ラキくんが成長しレナセール国を救う物語を読んだのだろうか……。あれ、でもそしたら……。
 
「二つ目に気になることは……シドの生存だ」
 
 息を飲んだ。今俺も疑問に思ったことだ。サーリャさんはラキくんが主人公だと言っていた。シドは? シドのことは何か話していただろうか……。シドは……シドはその物語で……。
 
「少し違和感があったから覚えていた。あの時、オレがシドとラキの二人と物語で出会うのはいつか? と聞いたら、サーリャさんは『レオンがラキと・・・・・・・会うのが五年後』だと言ったんだ。シドのことだけ、何も言わなかった。シドは今冒険者としてラキの傍にいて、そのラキはまだ子どもだ。内戦が長引けば……もしかすると……」
「そんな……! シドもラキくんも助けたい……!」
「変えられるはずだ、きっと……。内戦を止められなくても、せめて二人を保護するくらいは……」
「でも、シドたちの家族が囚われているって……。きっと……二人はレナセール国から離れたくないよね……」
 
 安否の知れない家族を残して祖国を離れることは辛いに違いない……。理由は違えど、今まさに似たような境遇になりつつある自分にはその感情が少し分かる気がした。
 
「二人を説得してナルカデア王国に連れていくのが一番良いけど……ただ自分たちの保護が目的ならそこから動かないと思う。市民派の代表としてシドたちを連れ出し、ナルカデアの国王と同盟を結ぶという名目で安全なところに……」
「それだとナルカデア王国も戦争に介入したことになって危なくない?」
「同盟だけなら別に問題無い。帝国も同じくらい大国であるナルカデアに準備も意義もなく戦争を仕掛けることは無いだろう」
「レオやナルカデア王国に害が及ばないなら……うん……」
「王陛下にオレから働きかけておく」
 
 ただ、それだと二人だけを危険な場所から逃しても、他の多くの人が助けられないままになる……。
 
「俺、レナセール国に行きたい。シドとラキくんに会いに行く。直接俺が説得したいし、無理なら何か自分に出来ることがないか考えたい」
「ティア、遊びに行くんじゃないんだ。戦争をしているんだ。命の危険がある。ティアはレナセール国民を守る義務も無いし、ティアに何かあればオレは生きていけない。ティアのご家族だってそれを許しはしない」
「分かってる……分かってるけど……」
「いいや、分かってない」
 
 今まで俺に対して穏やかな優しい感情しか向けてこなかったレオが本気で怒っている。声を荒らげることはないが、俺を想って本気で止めようとしている。
 レナセール国での紛争は今のところ死者は出ていないと聞いているが、危ないことには変わりない。勿論分かっている。でも一人じっと終わりを待つことなんて出来ない。
 
「自分のことだけなら……どこかに身を潜めておけば危険なことにはならないのかもしれない。でも俺以外の家族は? 友人は? 代わりに連れ去られるかもしれないし、無事じゃ済まないかもしれない。それに、どれだけ隠れていれば良いの? 三ヶ月? 半年? 物語では約五年だったよね? 五年間、ガルダニア派と帝国から逃れ続けることなんて出来ると思う? 帝国が俺に何かしようとしている可能性があるのは分かるけど、それと今回の紛争が繋がるかはまだ分からない。もし自分に関係することだったら、いつか、今動かなかった自分を後悔するよ。自分の手で調べて知りたいんだ。本来の物語を逸脱して、たくさんの人が救われる道を探りたい。お願い、お願い、レオ……」
 
 部屋の中は二人の呼吸音と、風でカタカタと鳴る窓の音しかしない。
 レオはいつも俺に甘くて、なんでも聞いてくれた。そんなレオが初めて俺に怒った。自分の気持ちは伝えつつ、初めて怒られて、レオに嫌われたくない思いから心がしおしおと萎み、目線を床に下げる。
 
 はぁ……。
 
 俯いた俺の頭の先で、レオのため息が聞こえた。呆れられたのかもしれない。それでも仕方がないと思いながら、レオの言葉を待った。
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