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56 俺の彼氏を紹介します
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「キール、リアム。こんなところで珍しいね」
ここは貴族街なので、二人がいるのも不思議ではないが、俺が毎週末マルタ食堂に通っていた間に一度も会ったことが無かったので、そう頻繁に街まで外出してるようには見えない。まぁほとんどの物は使用人が買ってくる為、自分たちが街へ出てくる必要無い。そんな中、わざわざ二人きりでお出かけするとすれば……。
「あ、もしかしてキールたちもデート?」
「な! で!」
「そうだ」
「な! リアム! ちが、違うぞ! ちが……え? たちも?」
「君たちがティアのお友達かな?」
「えっと……?」
「初めまして。ティアの恋人のレオンです。もしかしてお二人はティアの幼なじみかな」
「はい、そうです。オレはゴードン子爵家次男リアムです」
「……プリムローズ侯爵家末子キールです……」
「二人ともよろしく。オレのことはレオンと呼んで欲しい。今のところは」
「今のところはですか……分かりました。エルティアをよろしくお願いします」
「それはもう末永くティアを幸せにすると、君たちの前で誓おう」
「ちょ、ちょっとレオ……」
「エル……」
「ん?」
キールがこちらを伺うように見上げてくる。
「エル、今日デートだったの?」
「そうだよ」
「……楽しかった?」
「うん、初めてこんな風に出かけたんだけど、楽しかったよ」
「その……髪と目の色を変えてるのは僕のせい?」
あ……そうだった。今は一応変装しているんだった。フリードの言う通り顔は変えてないから俺を知っている人が見ればすぐに気付いてしまう。
「これは念の為だよ。噂を信じる人がいてゴタ付くのも嫌だし。平民街では俺のこと知られてないから必要ないんだけど」
「そか……ごめんね……」
「キールのせいじゃないよ。噂が出たのは俺のせいでもあるし、広まったのは別の理由がある」
そう、アキスト王国の王族たちが貴族集めて話を盛ってバラ撒いたからな。
「別の?」
「うん、でも今はまだ内緒」
「むぅ……」
「あはは。キールは本当に可愛いね」
小動物みたいで。
「「「!!!?」」」
キールは顔が真っ赤に、そんなキールをリアムは後ろから抱き寄せ、俺はレオに引っ張られて腕の中だ。
「ティア、オレがティアに言った言葉を他の人に言って試してる?」
「なんのこと?」
「あ、自分から言うのは平気なパターンか」
四人でいるのに二人ずつ分かれて小声で話し合う。向こうの二人の会話は聞こえないがリアムがキールの耳元でボソボソ喋ってる。キールは頷くおもちゃみたいにずっとこくこく首を動かしている。内容は知らない方が良さそうだ。というか進展早くない? 俺が言えることじゃないけど。
目立つ四人が目立つ行動をしていたら仕方の無いことだが、街の人たちが俺たちを囲うように遠巻きに見ていた。衆人環視の状態だ。今日そういうの多いな。
そろそろ帰宅しようとキールとリアムに別れの言葉を告げるため口を開いた。
「ティア!」
雑踏の中、聞き覚えのある声が響き人の壁が掻き分けるまでもなくサッと開いたかと思えば、そこから茶髪と茶色の瞳を持つ美丈夫が現れた。家族とレオ以外で俺をティアと呼ぶ人はいない。
「お兄様!」
「ティア! 会いたかった!」
走り寄るお兄様が俺の前に止まるとこちらをジロリと睨んだ。正確には俺の頭の上の……。そこで俺はようやくレオに抱きとめられていることを思い出した。レオに触れられることに徐々に慣らされている弊害が……!
「あの……お兄様……この人は……」
「分かっている」
「え?」
「事前に話は聞いている。それも含めて今日帰ったら話そう。そこの男も一緒にな」
「初めまして、オルフェス様。レオンと申します。どうぞよろしくお願いします」
「ティアを抱き締めたまま挨拶するな、ばぁぁぁか!」
たくさんの視線に耐えらなくて、助けて欲しい気持ちを込めてキールたちを見ると「じゃあまた学校で」と二人は無情にも去って行った。酷い。
その後、ひょっこり現れたお兄様の側近であるシャムが何とかお兄様を落ち着かせた。シャムは少し離れたところでこの状況を面白がってしばらく眺めていたのだろう。性格の悪い奴なのに有能で、確かお兄様の二歳年上だったはず。今回の仕事でもお兄様と一緒だったので、帰宅して俺のことを聞き二人でそのままやって来たのだろう。多分『疲れているのに手間焼かせやがって』というシャムのちょっとした嫌がらせに違いない。ともあれ刺さるような視線から逃れ、やっと帰宅することに成功したのだった。
「オルフェス、よくぞ帰った。無病息災であったか?」
「はい。お父様もお母様もお元気そうで何よりです」
「うむ。他国の情勢も知りたいが、まずは皆で食事をすることにしよう」
お兄様とレオに左右それぞれの手を取られ帰宅したのが一時間前。久しぶりにお父様が定刻通りに帰宅出来るとジェイムズから聞いて、レオ含め久しぶりに家族全員で夕食を摂ることとなった。
お兄様はレオのことを侍従やジェイムズから聞いていたのか苛立ちや冷たい視線は隠さないものの、お父様とお母様の前でレオと口論になるようなことは無かった。
家族間で食事をする際は上座や下座などは設けず、お父様とお母様は横並びで座り、向かいにレオ、俺、お兄様が座っている。食事が終わった今は給仕から新しいお茶を用意され、話のきっかけを待っているところだ。
「機密性の高い内容だ。申し訳ないがジェイムズ以外は外へ」
お父様の一言で使用人たちはサッと機敏に出ていった。ジェイムズは使用人たちが離れたことを確認し、扉を閉めその前に立った。
「既に知っての通り、レナセール国はいつ内戦が始まってもおかしくない。情報を共有し、万が一の場合我々がどう動くかを決めておきたい」
俺自身の未来を決める家族会議が始まった。
ここは貴族街なので、二人がいるのも不思議ではないが、俺が毎週末マルタ食堂に通っていた間に一度も会ったことが無かったので、そう頻繁に街まで外出してるようには見えない。まぁほとんどの物は使用人が買ってくる為、自分たちが街へ出てくる必要無い。そんな中、わざわざ二人きりでお出かけするとすれば……。
「あ、もしかしてキールたちもデート?」
「な! で!」
「そうだ」
「な! リアム! ちが、違うぞ! ちが……え? たちも?」
「君たちがティアのお友達かな?」
「えっと……?」
「初めまして。ティアの恋人のレオンです。もしかしてお二人はティアの幼なじみかな」
「はい、そうです。オレはゴードン子爵家次男リアムです」
「……プリムローズ侯爵家末子キールです……」
「二人ともよろしく。オレのことはレオンと呼んで欲しい。今のところは」
「今のところはですか……分かりました。エルティアをよろしくお願いします」
「それはもう末永くティアを幸せにすると、君たちの前で誓おう」
「ちょ、ちょっとレオ……」
「エル……」
「ん?」
キールがこちらを伺うように見上げてくる。
「エル、今日デートだったの?」
「そうだよ」
「……楽しかった?」
「うん、初めてこんな風に出かけたんだけど、楽しかったよ」
「その……髪と目の色を変えてるのは僕のせい?」
あ……そうだった。今は一応変装しているんだった。フリードの言う通り顔は変えてないから俺を知っている人が見ればすぐに気付いてしまう。
「これは念の為だよ。噂を信じる人がいてゴタ付くのも嫌だし。平民街では俺のこと知られてないから必要ないんだけど」
「そか……ごめんね……」
「キールのせいじゃないよ。噂が出たのは俺のせいでもあるし、広まったのは別の理由がある」
そう、アキスト王国の王族たちが貴族集めて話を盛ってバラ撒いたからな。
「別の?」
「うん、でも今はまだ内緒」
「むぅ……」
「あはは。キールは本当に可愛いね」
小動物みたいで。
「「「!!!?」」」
キールは顔が真っ赤に、そんなキールをリアムは後ろから抱き寄せ、俺はレオに引っ張られて腕の中だ。
「ティア、オレがティアに言った言葉を他の人に言って試してる?」
「なんのこと?」
「あ、自分から言うのは平気なパターンか」
四人でいるのに二人ずつ分かれて小声で話し合う。向こうの二人の会話は聞こえないがリアムがキールの耳元でボソボソ喋ってる。キールは頷くおもちゃみたいにずっとこくこく首を動かしている。内容は知らない方が良さそうだ。というか進展早くない? 俺が言えることじゃないけど。
目立つ四人が目立つ行動をしていたら仕方の無いことだが、街の人たちが俺たちを囲うように遠巻きに見ていた。衆人環視の状態だ。今日そういうの多いな。
そろそろ帰宅しようとキールとリアムに別れの言葉を告げるため口を開いた。
「ティア!」
雑踏の中、聞き覚えのある声が響き人の壁が掻き分けるまでもなくサッと開いたかと思えば、そこから茶髪と茶色の瞳を持つ美丈夫が現れた。家族とレオ以外で俺をティアと呼ぶ人はいない。
「お兄様!」
「ティア! 会いたかった!」
走り寄るお兄様が俺の前に止まるとこちらをジロリと睨んだ。正確には俺の頭の上の……。そこで俺はようやくレオに抱きとめられていることを思い出した。レオに触れられることに徐々に慣らされている弊害が……!
「あの……お兄様……この人は……」
「分かっている」
「え?」
「事前に話は聞いている。それも含めて今日帰ったら話そう。そこの男も一緒にな」
「初めまして、オルフェス様。レオンと申します。どうぞよろしくお願いします」
「ティアを抱き締めたまま挨拶するな、ばぁぁぁか!」
たくさんの視線に耐えらなくて、助けて欲しい気持ちを込めてキールたちを見ると「じゃあまた学校で」と二人は無情にも去って行った。酷い。
その後、ひょっこり現れたお兄様の側近であるシャムが何とかお兄様を落ち着かせた。シャムは少し離れたところでこの状況を面白がってしばらく眺めていたのだろう。性格の悪い奴なのに有能で、確かお兄様の二歳年上だったはず。今回の仕事でもお兄様と一緒だったので、帰宅して俺のことを聞き二人でそのままやって来たのだろう。多分『疲れているのに手間焼かせやがって』というシャムのちょっとした嫌がらせに違いない。ともあれ刺さるような視線から逃れ、やっと帰宅することに成功したのだった。
「オルフェス、よくぞ帰った。無病息災であったか?」
「はい。お父様もお母様もお元気そうで何よりです」
「うむ。他国の情勢も知りたいが、まずは皆で食事をすることにしよう」
お兄様とレオに左右それぞれの手を取られ帰宅したのが一時間前。久しぶりにお父様が定刻通りに帰宅出来るとジェイムズから聞いて、レオ含め久しぶりに家族全員で夕食を摂ることとなった。
お兄様はレオのことを侍従やジェイムズから聞いていたのか苛立ちや冷たい視線は隠さないものの、お父様とお母様の前でレオと口論になるようなことは無かった。
家族間で食事をする際は上座や下座などは設けず、お父様とお母様は横並びで座り、向かいにレオ、俺、お兄様が座っている。食事が終わった今は給仕から新しいお茶を用意され、話のきっかけを待っているところだ。
「機密性の高い内容だ。申し訳ないがジェイムズ以外は外へ」
お父様の一言で使用人たちはサッと機敏に出ていった。ジェイムズは使用人たちが離れたことを確認し、扉を閉めその前に立った。
「既に知っての通り、レナセール国はいつ内戦が始まってもおかしくない。情報を共有し、万が一の場合我々がどう動くかを決めておきたい」
俺自身の未来を決める家族会議が始まった。
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