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52 レナセール国の現状
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グループ課題の発表は優秀なフリードのまとめとトーク力で滞りなく終わった。フリードを始め学内でも高位貴族で組まれた俺たちの発表は好評で、アキスト国の経済部にも送られるらしい。
発表後、フリードにお礼を言おうと近付くと、フリードから俺の耳元に口を寄せてきた。少したじろいでいると、真剣な声色でフリードが小声で話し始めた。
「話がある。場所を移そう」
フリードに連れられ、中庭へとやってきた。今は昼休みでほとんどの学生は食堂にいるため、周りには誰もいない。ガゼボの椅子に座り、フリードは周囲を警戒しながら俺だけに聞こえる声量で話し始めた。
「今回私がエルと親しくなったことが陛下の耳に入り、メンブルク公爵家に探りが入った。私たちは何を聞かれても知らぬ存ぜぬで貫く。だがエル自身は気をつけておけ。おそらく、レナセール国でいつ内戦が起こってもおかしくない状況なのだろう」
「そんな……」
「内戦が起きた場合、レナセール国から距離のあるアキスト王国は傍観することになると思うが、戦いが大きくなり、他国と共闘、または協力関係となる可能性もゼロじゃない」
「協力関係……」
確かに、以前フリードから聞いていたように国内の一部地域での紛争から他国を巻き込む戦争に発展することは有り得るし、そうなればアキスト王国にも被害が被る。確か、レナセール国の内戦の発端は……。
「ガルダニア帝国がエルの存在を知り、アキスト王国に君の身柄を求めた場合、その条件によっては君を明け渡すかもしれない」
ガルダニア帝国……リティーダ共和国を突如襲い、その理由も未だに分からず、リティーダ共和国の跡地に出来たレナセール国を半支配下に置いている大帝国。何かしら理由や執着があることは明白だ。何をされるか分からない状態で俺が捕えられる訳にはいかない。
「アキスト王国は過去のエルへの対応からして匿うことはしないだろう。内戦の予兆や同盟の噂でも何でも、もし問題が起こればすぐに国を出る準備をしといた方が良い。留学でも旅行でも、理由なんてなんでも良いから」
「分かった……本当に、教えてくれてありがとう」
荷物と心の準備をしておいた方が良いだろう。両親とレオにも話さないと……。話は終わりかと思ったが、フリードは切り上げる様子が無く、居然強ばった表情を保ち俺を見ていた。
「100%確定ではないから、この事を話すかどうか迷ったんだけど……しかしたら、既にガルダニア帝国はエルのことを知っているかもしれない」
「え……どうしてそんなことが分かるの」
「エルがアルテナからアキュレに戻る時に盗賊に襲われたよね。あれ、ガルダニア帝国の息が掛かっていたんだ」
俺は息をのみ、衝撃で周りの空気と共に体が固まったように感じた。
「アルテナの商人を捕え、我が公爵家で直接調査を行った。すると、背後に帝国の存在が判明した。遥か離れたガルダニア帝国からわざわざ訪れて来て、貴重な物品や薬を売りにくる常連客がいたらしい。遠くまで売りに来るとは訳ありだろうと分かっていたが、持ち込まれるのは貴重な物ばかりで、特に事情も経歴も名前すら聞かずに取引していた。ある時その商人はアキュレの貴族、つまり私たちが国内では手に入らないヴィダ草を探していることを知った。商人はその常連客に手に入るか聞くと、一週間後に用意出来ると返され、本当に持って来たそうだ」
「その常連客がガルダニア帝国の人だというのは確かなのか?」
「ガルダニア人の特徴である褐色の肌に黄色の瞳と髪色だったそうだ。わざとガルダニア人だと勘違いするように、そんな分かりやすい特徴に変装した可能性もあるが……」
「その盗賊も、ガルダニア帝国に関わる人たちだったってこと?」
「そうだ。商人が言うには、ヴィダ草を売った商人を馬車に乗っている全員の口を塞ぎ、ヴィダ草を取り戻せば、高額のヴィダ草の利益が丸々二重取り出来ると商人を唆したらしい。盗賊を用意したのもそのガルダニア人だと」
「確かに……盗賊のリーダーらしき人の目は黄色だった」
肌の色は暗かったから分からない。頭は頭巾を被っていたし、馬車の中では目隠しをしていたから、その特徴を忘れていた。
「不安にさせてすまない。だが、どれもただの偶然である可能性はある。盗賊のリーダーは口を割る前に自害してしまった。そのガルダニア人の常連客も行方知れずで……力不足で申し訳ない」
「いやいや! 公爵家独自で調べたことを、俺にここまで教えてくれるだけでありがたいよ。うん、気をつける」
「うん。話は以上だ。遅くなったけど食堂に行こうか」
フリードと並んでガゼボを出て校舎内に入る。フリードの話を聞いて、あの時の状況を思い出していたが、あることに気付き、不安に襲われる。俺がアマービレを庇おうとした時、目に入った盗賊のリーダーの黄色の瞳に違和感を覚えたのは何だったか。その瞳には、驚きと、焦りの気持ちが浮かんでいた。変装していた俺をエルティアと分かっていたとしたら……。
暗闇の中でじわじわとにじり寄って来るような恐怖に寒気を覚え、今すぐレオに会いたいと強く願った。
発表後、フリードにお礼を言おうと近付くと、フリードから俺の耳元に口を寄せてきた。少したじろいでいると、真剣な声色でフリードが小声で話し始めた。
「話がある。場所を移そう」
フリードに連れられ、中庭へとやってきた。今は昼休みでほとんどの学生は食堂にいるため、周りには誰もいない。ガゼボの椅子に座り、フリードは周囲を警戒しながら俺だけに聞こえる声量で話し始めた。
「今回私がエルと親しくなったことが陛下の耳に入り、メンブルク公爵家に探りが入った。私たちは何を聞かれても知らぬ存ぜぬで貫く。だがエル自身は気をつけておけ。おそらく、レナセール国でいつ内戦が起こってもおかしくない状況なのだろう」
「そんな……」
「内戦が起きた場合、レナセール国から距離のあるアキスト王国は傍観することになると思うが、戦いが大きくなり、他国と共闘、または協力関係となる可能性もゼロじゃない」
「協力関係……」
確かに、以前フリードから聞いていたように国内の一部地域での紛争から他国を巻き込む戦争に発展することは有り得るし、そうなればアキスト王国にも被害が被る。確か、レナセール国の内戦の発端は……。
「ガルダニア帝国がエルの存在を知り、アキスト王国に君の身柄を求めた場合、その条件によっては君を明け渡すかもしれない」
ガルダニア帝国……リティーダ共和国を突如襲い、その理由も未だに分からず、リティーダ共和国の跡地に出来たレナセール国を半支配下に置いている大帝国。何かしら理由や執着があることは明白だ。何をされるか分からない状態で俺が捕えられる訳にはいかない。
「アキスト王国は過去のエルへの対応からして匿うことはしないだろう。内戦の予兆や同盟の噂でも何でも、もし問題が起こればすぐに国を出る準備をしといた方が良い。留学でも旅行でも、理由なんてなんでも良いから」
「分かった……本当に、教えてくれてありがとう」
荷物と心の準備をしておいた方が良いだろう。両親とレオにも話さないと……。話は終わりかと思ったが、フリードは切り上げる様子が無く、居然強ばった表情を保ち俺を見ていた。
「100%確定ではないから、この事を話すかどうか迷ったんだけど……しかしたら、既にガルダニア帝国はエルのことを知っているかもしれない」
「え……どうしてそんなことが分かるの」
「エルがアルテナからアキュレに戻る時に盗賊に襲われたよね。あれ、ガルダニア帝国の息が掛かっていたんだ」
俺は息をのみ、衝撃で周りの空気と共に体が固まったように感じた。
「アルテナの商人を捕え、我が公爵家で直接調査を行った。すると、背後に帝国の存在が判明した。遥か離れたガルダニア帝国からわざわざ訪れて来て、貴重な物品や薬を売りにくる常連客がいたらしい。遠くまで売りに来るとは訳ありだろうと分かっていたが、持ち込まれるのは貴重な物ばかりで、特に事情も経歴も名前すら聞かずに取引していた。ある時その商人はアキュレの貴族、つまり私たちが国内では手に入らないヴィダ草を探していることを知った。商人はその常連客に手に入るか聞くと、一週間後に用意出来ると返され、本当に持って来たそうだ」
「その常連客がガルダニア帝国の人だというのは確かなのか?」
「ガルダニア人の特徴である褐色の肌に黄色の瞳と髪色だったそうだ。わざとガルダニア人だと勘違いするように、そんな分かりやすい特徴に変装した可能性もあるが……」
「その盗賊も、ガルダニア帝国に関わる人たちだったってこと?」
「そうだ。商人が言うには、ヴィダ草を売った商人を馬車に乗っている全員の口を塞ぎ、ヴィダ草を取り戻せば、高額のヴィダ草の利益が丸々二重取り出来ると商人を唆したらしい。盗賊を用意したのもそのガルダニア人だと」
「確かに……盗賊のリーダーらしき人の目は黄色だった」
肌の色は暗かったから分からない。頭は頭巾を被っていたし、馬車の中では目隠しをしていたから、その特徴を忘れていた。
「不安にさせてすまない。だが、どれもただの偶然である可能性はある。盗賊のリーダーは口を割る前に自害してしまった。そのガルダニア人の常連客も行方知れずで……力不足で申し訳ない」
「いやいや! 公爵家独自で調べたことを、俺にここまで教えてくれるだけでありがたいよ。うん、気をつける」
「うん。話は以上だ。遅くなったけど食堂に行こうか」
フリードと並んでガゼボを出て校舎内に入る。フリードの話を聞いて、あの時の状況を思い出していたが、あることに気付き、不安に襲われる。俺がアマービレを庇おうとした時、目に入った盗賊のリーダーの黄色の瞳に違和感を覚えたのは何だったか。その瞳には、驚きと、焦りの気持ちが浮かんでいた。変装していた俺をエルティアと分かっていたとしたら……。
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