極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

文字の大きさ
上 下
45 / 79

43 挨拶

しおりを挟む
 朝起きて食堂に行くとお父様とお母様が既に座っていた。久しぶりにお父様に会ったな……。まだ食事も話もしていないのに苦虫を噛み潰したような顔をしている。
 
「ティア、久しぶりに会えて嬉しいよ。まぁまずは座りなさい」
「はい……」
「休み中に色々あったようで心配していた。だが、同時に成長もしたようで誇りに思うよ。頑張っているね」
「ありがとうございます。お父様」
「とりあえず、話に聞いた冒険者が来る前に朝食をってしまおう」
 
 最初に見たお父様の表情の理由は分からないが、とりあえず急ぎ目に朝食を終えた。そして時間ぴったりに、家のベルが鳴った。
 
「クロスフェード卿、クロスフェード伯爵夫人様、本日は急な申し出にも関わらず訪問を許してくださりありがとうございます」
「構わない。お互い話したあことも多いだろうから、応接室に案内しよう」
 
 執事長と両親が前を歩いている後ろをレオと俺が続く。横目でレオを見上げると、銀色の髪が輝いて美しかった。
 
「レオおはよう。今日はいつもの服装と違うね」
 
 そう、いつもの冒険者然とした服装ではなく、綺麗に洗濯された白いシャツに黒いベストと黒いパンツ、グレイのジャケットを羽織っていた。
 
「ティアのご両親にご挨拶するんだ。ちゃんとした服装でないと失礼だろう?」
 
 ん? 今日は多分愛し子のこととか、レナセール国の反乱の可能性とか、そのせいでリティーダの血を引く俺が危険な状況になるかもしれないことを話すんだよな? そんなに堅くならなくても……と思いながら応接室のソファーに座った。
 俺とレオが同じソファーに座り、向かいにお父様おお母様が座った。お茶をテーブルに置いた執事長は扉の前に立った。
 
「初めまして。プロテヘール公爵閣下・・・・・・・・・アレハンドロ・クロスフェードだ。そして妻のカレン。今日は腹を割ってお話をしよう」
 
 お父様がレオのことを知っていたことに驚いた。いや、密偵が俺をずっと見ていたとしたら、レオンの存在は知っていたとは思うが、ナルカデア王国の公爵だとは分からないはずだ。
 
「名乗ることが遅くなり申し訳ございません。レオナルド・ジョゼ・ナルカデア・プロテヘールと申します。──やはり、ご存知でしたか」
「あぁ。ナルカデア国とも流通経路があるし、陛下ともお会いしたことがある。一人冒険者となった子どもがいることも聞いている。カレンがリティーダ共和国の血縁であることから昔から気にかけてくださっていた。我が子エルティアにリティーダの血が濃く表れたことは話していないが……」
「陛下はリティーダの愛し子の保護に熱心ですから……。少し盲信的なところもありますし、知ればすぐにナルカデアに連れて行ってしまう可能性があるので、まだ秘密にしておいた方が良いでしょう。今日は他国の情勢と、それに伴うエルティアの保護についてお話したく参りました。因みに『愛し子』のことについてはご存知ですか」
「いや、リティーダ人は皆一様に黒髪と黒目を持ち、不思議な力があることしか知らない。魔力が原因だと言うことは口伝くでんでカレンから伺っている」
 
 俺は口を挟む暇も必要も無く、お父様まレオの会話を聞いていた。向かいに座ったお母様がビスケットやチョコが入ったお皿をスス……と俺の方に押し出してきた。いつも優しく俺を心配しつつも自由にさせてくれるお母様は、今回の件をお父様に一任しているのか、俺と同じく二人の会話に耳を傾けながらお茶を飲んでいる。俺も飲も。
 
 その間にレオからの話はひと段落ついたようだった。かつてリティーダ共和国で起こったこと。いつか現れるかもしれない『愛し子』とその保護魔法、その代償のこと。レナセール国での紛争とガルダニア帝国と繋がりのあるガルダニア派の圧政について。ガルダニア帝国が恐れているリティーダの愛し子の存在が判明した場合に俺に危険が迫る可能性が高いこと。
 お父様は深刻そうな顔を歪ませながら息をついた。
 
「リティーダ共和国について詳しいことがついぞ分からなかったが、まさかそんなこととは……」
 
 額に親指と人差し指をあてぐりぐりと押している。一気に代理の情報が入ってきたのだ、頭が痛くなるのも無理はない。
 
「閣下が想像されている通り、私はここ数日レナセール国内における内紛と、次々に平民派の貴族が行方をくらましている件について調べていた。長男のオルフェスからも便りがあり、様子がおかしいと。いつ内戦が始まってもおかしくないと」
「やはり、そうですか」
「詳しい情勢はオルフェスが戻り次第話そう。──で、状況は把握出来たが、貴殿の言う保護とはどういったものかな? ナルカデア王国に連れていくなどと戯言をまさか話すわけではなかろうな」
 
 厳格でありながらも俺にはどこか甘いお父様の言葉と雰囲気に、部屋の中の空気ピリ……と張り詰めた。思わず俺も緊張する。確かに、守る内容としては屋敷から出る時にレオが帯同するくらいで詳しい話はしていない。
 
 
「クロスフェード卿に初めてお会いしたにも関わらず、このようなお話を申し出ることをご容赦ください。エルティアさんと、私。結婚を前提にお付き合いすることをお許しください」
 
 俺はびっくりして固まり、お母様は嬉しそうに頬に両手をあて、お父様は俺に似た切れ長の目をより鋭くし、レオを睨んだ。張り詰めた空気がより緊迫し、重くなった気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

処理中です...