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30 王家の血を引く者
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フリードリヒ・メンブルク。綺麗な顔立ちで、評判の良い公爵令息。王家に連なる家系で、つまりは『俺』のことを知っている数少ない人の一人だ。もちろん全ては把握していないかもしれないが、ちょっとした魔法みたいなものが使えるくらいは聞いているかもしれない。黒髪と黒目の理由も。
フリードリヒは今まで一同級生としか接触して来なかった。噂が嘘偽りであることを知っているはずなので、もちろん怖がることもないが、友人関係になろうと近付いてくることも無かった。今更二人で会話しようとする理由が見付からない。
「急に引き止めてごめんね」
「いや……それは構わないけど……」
ここ数年、生徒から普通に話しかけられたことが無いので新鮮に感じる。少し警戒したけど、彼からはやはり悪感情は感じない。むしろ……。
「君に、どうしてもお礼を言いたくて」
「お礼?」
フリードリヒに何かした記憶が無いが……?
「君のおかげでヴィダ草を弟に与えることが出来た。完治はしていないが、以前より大分元気になった。公爵家を代表して、君に感謝を伝えたい」
「え……!? ヴィダ草って……まさか……」
あの時商人が話していた貴族とはメンブルク家のことだったのか。確かに希少で高価な薬草を手に入れる手段も資金もある国内の貴族は限られている。だが、あの時の俺はエレンとしてその場にいたし、商人もエルティアのことは知らないはずだが……。
「エルティアくんを知っている人が見れば、色を変えたところで誰だかは分かるよ。馬車がアキュレに着いた時から公爵家の偵察部隊が見張っててね。最初は君だと気付いて無かったようだけど、クロスフェード家に入った後、一緒にいた冒険者だけ家から出ていったから、君がエルティアくんだと確信したらしい」
「なるほどな……」
「というかエルティアくん、色を変えただけで、それ以外は特に隠そうともしてないじゃないか」
「そりゃあまぁ……あまり騒がれずに街に出るためだけの変装だから。顔を知ってる人以外は分からないだろうし」
「私はあまり干渉するつもりはないけど、今後は少し警戒した方が良い。国内でも国外でも少しずつきな臭い雰囲気が漂ってきた」
「そうなの? でもヴィダ草の件は一緒にいた冒険者が解決したことで、俺はただ居合わせただけなんだけど」
暗に俺は力を使ってないから危なくないよ、と伝える。
「商人の息子のアマービレが言っていたぞ。身を呈して守ってくれたと。商人と父は学生時代からの友人でな、二人に何かあれば父も悲しんだだろう。だから、感謝している。父も弟もエルティアくんに会いたがっているから、グループ課題をうちでやるていで遊びに来て欲しい」
またもや「はい」以外の選択肢がないお願いが。
「それは良いけど、さっきのきな臭い話というのは? 俺に関係あるのか?」
「正直、関係あるかは分からない。レナセール国の各地で紛争が起こっているらしい。今は国内で収めているが、市民から政府への弾劾が強まれば内戦に発展する可能性がある」
レナセール国……! 俺の縁ある国であり、シドとラキくんの母国でもある。彼らは逃亡中だとサーリャさんが話していた。二人に何があったんだ……。
「レナセール国の上層部はガルダニア帝国と繋がりがある。ガルダニア派と、市民派の二大派閥で政治を行っていたが、最近になって市民派の貴族たちが次々と罰せられているらしい。ろくに裁判もせず牢に入れられ処刑され、かってないほどに荒れている。アキスト王国からは離れているが、内戦となれば影響はあるだろう。何かがきっかけで君の存在が分かれば、滅亡させるほど注視していたリティーダの血と力を恐れたガルダニア派から何をされるか分からない」
「……ありがとう、何も知らなかった」
「まだ王族と私たち、そして各地に間諜を忍ばせている家しか知らない話だ。各国の動きに敏感なクロスフェード卿とオルフェス氏はご存知だとは思う」
「……そうか……」
そろそろ兄が帰国する頃だ。聞けば何か教えてくれるかもしれない。
「アキスト王国でも、君を自由にさせるつもりはないようだ。積極的に君の悪い噂を流したのは王家だ。貴族の集まるパーティーで拡散させ、子世代まで一気に広がった。だが、他国にはバレないよう箝口令を敷いているようだ。もし何か他にも力があったとしても悟られないようにした方が良いだろう。実際、幼い頃キールくんたちが倒れたのは君の力だと王室は考えているようだ」
うーん、半分正解だ。力そのものではなく、力の代償による状態異常発動の結果だ。言わないけど。
「とにかく、君は警戒心も緊張感も無さすぎだから気をつけるように。本当は私が君と接触するのも王室によく思われないだろうけど、ヴィダ草のことは本当に助かったし、グループ課題で一緒になれば会って話せる口実になって良いなと思ったんだ」
あ、これグループ操作したのこの人だ。めっちゃ権力使ってる。
「びっくりしたけど……色々と教えてくれてありがとう。王室の目があるのに気付かないふりをしてくれているのも。助言を無駄にしないように、これからは気をつけるよ」
「そうしてくれ。私のことはフリードと呼んでくれ」
「フリードが構わないならそう呼ぼう。俺のことはエルとでも」
「分かった。じゃあエル、そろそろ帰ろうか」
二人で帰宅の準備をし、「また明日」と言って別れてそれぞれの馬車に乗った。心配事は増えたけど、味方とまでは言えないが好意的なフリードと出会えたことは憂鬱なだけだった学校生活を変えてくれるかもしれないと思い、これからが少し楽しみになった。
フリードリヒは今まで一同級生としか接触して来なかった。噂が嘘偽りであることを知っているはずなので、もちろん怖がることもないが、友人関係になろうと近付いてくることも無かった。今更二人で会話しようとする理由が見付からない。
「急に引き止めてごめんね」
「いや……それは構わないけど……」
ここ数年、生徒から普通に話しかけられたことが無いので新鮮に感じる。少し警戒したけど、彼からはやはり悪感情は感じない。むしろ……。
「君に、どうしてもお礼を言いたくて」
「お礼?」
フリードリヒに何かした記憶が無いが……?
「君のおかげでヴィダ草を弟に与えることが出来た。完治はしていないが、以前より大分元気になった。公爵家を代表して、君に感謝を伝えたい」
「え……!? ヴィダ草って……まさか……」
あの時商人が話していた貴族とはメンブルク家のことだったのか。確かに希少で高価な薬草を手に入れる手段も資金もある国内の貴族は限られている。だが、あの時の俺はエレンとしてその場にいたし、商人もエルティアのことは知らないはずだが……。
「エルティアくんを知っている人が見れば、色を変えたところで誰だかは分かるよ。馬車がアキュレに着いた時から公爵家の偵察部隊が見張っててね。最初は君だと気付いて無かったようだけど、クロスフェード家に入った後、一緒にいた冒険者だけ家から出ていったから、君がエルティアくんだと確信したらしい」
「なるほどな……」
「というかエルティアくん、色を変えただけで、それ以外は特に隠そうともしてないじゃないか」
「そりゃあまぁ……あまり騒がれずに街に出るためだけの変装だから。顔を知ってる人以外は分からないだろうし」
「私はあまり干渉するつもりはないけど、今後は少し警戒した方が良い。国内でも国外でも少しずつきな臭い雰囲気が漂ってきた」
「そうなの? でもヴィダ草の件は一緒にいた冒険者が解決したことで、俺はただ居合わせただけなんだけど」
暗に俺は力を使ってないから危なくないよ、と伝える。
「商人の息子のアマービレが言っていたぞ。身を呈して守ってくれたと。商人と父は学生時代からの友人でな、二人に何かあれば父も悲しんだだろう。だから、感謝している。父も弟もエルティアくんに会いたがっているから、グループ課題をうちでやるていで遊びに来て欲しい」
またもや「はい」以外の選択肢がないお願いが。
「それは良いけど、さっきのきな臭い話というのは? 俺に関係あるのか?」
「正直、関係あるかは分からない。レナセール国の各地で紛争が起こっているらしい。今は国内で収めているが、市民から政府への弾劾が強まれば内戦に発展する可能性がある」
レナセール国……! 俺の縁ある国であり、シドとラキくんの母国でもある。彼らは逃亡中だとサーリャさんが話していた。二人に何があったんだ……。
「レナセール国の上層部はガルダニア帝国と繋がりがある。ガルダニア派と、市民派の二大派閥で政治を行っていたが、最近になって市民派の貴族たちが次々と罰せられているらしい。ろくに裁判もせず牢に入れられ処刑され、かってないほどに荒れている。アキスト王国からは離れているが、内戦となれば影響はあるだろう。何かがきっかけで君の存在が分かれば、滅亡させるほど注視していたリティーダの血と力を恐れたガルダニア派から何をされるか分からない」
「……ありがとう、何も知らなかった」
「まだ王族と私たち、そして各地に間諜を忍ばせている家しか知らない話だ。各国の動きに敏感なクロスフェード卿とオルフェス氏はご存知だとは思う」
「……そうか……」
そろそろ兄が帰国する頃だ。聞けば何か教えてくれるかもしれない。
「アキスト王国でも、君を自由にさせるつもりはないようだ。積極的に君の悪い噂を流したのは王家だ。貴族の集まるパーティーで拡散させ、子世代まで一気に広がった。だが、他国にはバレないよう箝口令を敷いているようだ。もし何か他にも力があったとしても悟られないようにした方が良いだろう。実際、幼い頃キールくんたちが倒れたのは君の力だと王室は考えているようだ」
うーん、半分正解だ。力そのものではなく、力の代償による状態異常発動の結果だ。言わないけど。
「とにかく、君は警戒心も緊張感も無さすぎだから気をつけるように。本当は私が君と接触するのも王室によく思われないだろうけど、ヴィダ草のことは本当に助かったし、グループ課題で一緒になれば会って話せる口実になって良いなと思ったんだ」
あ、これグループ操作したのこの人だ。めっちゃ権力使ってる。
「びっくりしたけど……色々と教えてくれてありがとう。王室の目があるのに気付かないふりをしてくれているのも。助言を無駄にしないように、これからは気をつけるよ」
「そうしてくれ。私のことはフリードと呼んでくれ」
「フリードが構わないならそう呼ぼう。俺のことはエルとでも」
「分かった。じゃあエル、そろそろ帰ろうか」
二人で帰宅の準備をし、「また明日」と言って別れてそれぞれの馬車に乗った。心配事は増えたけど、味方とまでは言えないが好意的なフリードと出会えたことは憂鬱なだけだった学校生活を変えてくれるかもしれないと思い、これからが少し楽しみになった。
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