極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

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28 日常へ

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 しばらくレオの家で休み、俺は帰宅することにした。一週間帰っていなかったし、分かっていたとはいえ長期の外出に心配しているだろう。俺が『愛し子』であることと、レオがナルカデア王国の旧王族の公爵であることは秘密にしようと二人で決めた。
 両親も知らないリティーダ共和国であった出来事や、自分の今の状況を伝えても混乱するだけだし、現状は何も行動出来ないので、一旦は伏せることにする。レオは冒険者としてアキスト王国に来ているし、ナルカデア王国の公爵と分かれば国としても対応が必要となり、面倒臭いことになりそうなので、こちらも秘密に。
 馬車で襲われ、盗賊を退治した件で警察から事情聴取された場合の口裏合わせも行った。──盗賊のリーダーは俺が保護魔法発動を体感したけど、何が起こったのかは分からなかったはず。それにすぐに気絶してたし。剣を振り下ろされる前にレオが間に合い、盗賊のリーダーをぶっ飛ばしたことにした。
 
 レオが俺の家まで送ってくれた。両親へ挨拶をすると、帰りの馬車でと出来事を説明した。父も母もびっくりして心配していたが、レオの活躍で俺には傷一つ無いことを伝え、ひとまず安心させた。が、しばらくは外出を控えるように言われた。ガルロさんたちに帰国報告が出来ないのは残念だが、レオにはマルタ食堂へ伝言を頼んでおいた。お土産は自分から渡そう。もし警察から事情聴取があった場合は、レオが俺を迎えに来てくれるそうだ。
 
 
 レオの家で意外と長く過ごしていたのか、自室に入った頃にはもう日が落ちる寸前だった。夕食を食べ、湯浴みをすると疲れを思い出したのか眠たくなってきた。今日はもう休むと使用人に伝えると、そのままベッドへと入り込む。ふかふかのベッドは久しぶりだな……。
 うとうとしながら思い浮かぶのは、レオのこと、シドとラキくんのこと、サーリャさんから聞いた自分のこと……。シドたちは元気だろうか。逃亡中ならば、困ることも怖いこともたくさんあるはずだ。友達だと言ってくれたのに、友達だからこそ彼らは何も言わずに行ってしまった。また、早く会いたい。
 意識が薄れていく。毎日一緒に寝ていたレオがいないことに、少し寂しく感じながら、今度こそ意識を手放した。
 
 
 夏の休みは、もう残り一週間となっていた。
 
 
 
 
 あれからまだ事情聴取もなく一週間が過ぎた。過保護による外出規制があったものの、家に居ても勉強しかやることが無いので、ゴネて強請ねだってみたらマルタ食堂に行けることになった。なんと3回も行った。母はにこにこと送り出してくれたが、父は心配性なので夕方5時までには帰って来なさいと言ってきた。もしかして俺のこと10歳くらいだと思ってない? 夏休み最後となる今日も「暗くなるのが早くなったから出来るだけ早く帰りなさい」と言われた。成人男性だと思われてないかもしれない。
 
 アキュラに帰って来てから久しぶりにマルタ食堂へ行った際、ガルロさんとダンさんを始めとした常連の冒険者さんたちにお土産を手渡した。みんなにはお茶とハンカチを贈り、ガルロさんには、赤ちゃんが産まれた時に使えるアルテナで人気のあるガーゼ素材のタオルと、まだ会ったことがない奥さんのナターシャさんにと購入した産後の栄養補給に良いドライフルーツの詰め合わせも渡した。気に入ってくれたようで良かった。
 心配させたので、旅の収穫も伝えた。詳しいことは話せないと謝ってから、俺の料理の味は呪いではないけど、すぐに治らないこと、どの段階で味が大変なことになるのか試したいことを話すと、俺の料理の実験を手伝ってくれるという。俺は自分が食べても美味しく感じてしまうので、とても助かる。またうちの使用人有志たちが倒れでもしたら悪い噂の上塗りになるのは目に見えていた。
 
 今日はお昼のピークを手伝い、明日からは学校が始まるのでマルタ食堂に来られるのが週末の休みだけになることを伝えた。はぁ……ほぼ毎日来てたのに寂しいなぁ……と項垂れていると、ガルロさんが頭をグリグリと雑に撫でてきた。
 
「週末以外でも、店手伝わなくても好きな時に来な。週末しかエレンと会えないなんて、俺もアイツらも寂しいからな」
「ガルロさん……! ありがとうございます。学校早めに終わる日は寄りますね」
 
 鞄にスプレーと目薬を入れておけば学校終わりでも寄れるだろう。
 
 みんなとたわいも無い話をしていると随分と時間が経ってしまった。残念ながら門限が夕方5時の為、帰る準備をしているとレオが食堂にやってきた。
 
「レオン!」
 
 二人きりの時以外はレオンと呼ぶ必要があるので、ちょっと意識しながら名前を呼んだ。
 
「エレン、いたのか。中々会えないから家まで行こうかと思った」
「おい、レオン。お前エレンの自宅まで突き止めたのか? A級冒険者の力をそんなことに使うな」
「なんで俺が合法ギリギリの手段でエレンの住所を探し当てたことになるんだ。許可を得て家まで送り届けただけだ」
「本当か? エレン」
「本当だよ。それに俺もレオンの家に遊びに行ったし」
「お前……お前……!?」
「落ち着け。オレたちは、本当に、嘘偽りなく、清い交際だ。な? エレン」
「ん? 清くない交際なんてあるの?」
「見ろよこの澄んだ純粋な瞳を。まるで分かっていない顔だ」
「あー……そうだな。オレの早とちりのようだ……」
「反省しろよガルロさん」
「調子に乗るといよいよ出禁にするぞ」
「許してくださいガルロさん」
 
 よく分からないが仲が良いなぁと思いながら二人の会話を聞いていた。
 
「あ、じゃあそろそろ帰りますね。また今度。遅くても週末には来ます!」
「おお、またな。気をつけて」
「エレン、送るよ」
 
 お店を出ようと入口扉の取っ手を掴もうとした俺より先にレオが扉を開けた。もちろん一人で帰れるが、レオと久しぶりに会えたので喋りながら帰ることにしよう。
 
「レオが大丈夫ならお願いしても良い?」
「もちろん。じゃあ行こうか」
 
 マルタ食堂から家まで歩いて30分くらいだ。一週間前まで毎日ずっと一緒にいて話してたのに、今日は30分だけか……と少し残念に思う。
 
「久しぶりにティアに会えて良かった」
「俺も。事情聴取でレオに会えるかと思ったのに無かったね」
「この後もしかしたらあるかもしれないが、今回は貴族が関係しているから、ことを大きくしたくなくて、事件として取り扱わなかったのかもしれないな。それにしては口止めもないが……。念の為探っておくよ」
「分かった」
 
 レオと話すのは気が楽で気持ちが良い。明日から……学校か……。思わず溜息が出てしまう。
 
「どうした? 憂鬱なのか?」
「明日から学校で……仲の悪い元友人がまた絡んでくるだろうし、俺も他の人と敢えて一線引いてたから親しい人はいないし、悪い噂を信じてる人は触らぬ神に祟りなし状態だから……自分が招いた種だけど息が詰まるよ。レオといる間が楽しすぎた」
「嬉しいことを言うなぁ……。いや、ティアにとっては深刻な問題なんだろうけど」
「全ては話さなくとも、もう一度アイツらとちゃんと話した方が良いのかな、とは思ってる」
 
 何やかんやで俺もひねくれて無視したり拒絶したりしちゃったけど、あれだけ頑なな態度を取ってもキールは変わらず話しかけてきた。当てこすりみたいな言葉ばっかだけど。リアムは何を考えているのか分からない。昔は普通に話してたのに、体がでかくなるに連れて無口になった。キールのように皮肉る訳でもなく、積極的に関わる訳でもなく、謎だ。
 
「ティアがやりたいようにやったら良いと思う。友人に戻りたい戻りたくないは抜きにして、一度話してみたいならそうしたら良いし、本心で関わりたくないならそのままで。まぁそんなに拒絶されてもその元友人の子の態度が変わらないんなら、ティアが変われば何か変わるかもな」
「本当に……変わるかな。変えられるかな……」
「サーリャも言ってただろ? 最初は蝶の羽ばたきでもいつか竜巻となり得ると。仲違いしたその時は小さなひずみだったのが、今は大きくなってしまった。今のままだと変わるとしてもひずみが更に大きくなるだけだ。ティアが何か望みがあるなら何でとやってみる価値はある。たった一言の言葉が、一つの行動が、未来を変える可能性があるよ。オレがティアと出会えたように」
 
 レオは俺に強制することなく、だが優しく背中を押してくれる。明日がちょっと憂鬱だったが、少しだけ頑張ってみようかな、という気持ちになってきた。
 
「ありがとうレオ。すぐには無理かもしれないけど、頑張ってみる」
「おお、応援してる。まぁどうなろうと、ティアにとって一番深くてい仲なのはオレってことは変わらないし。このままの方がオレがティナを独占出来て良いから、急がす気持ちが定まったら行動に移せば良いと思うよ」
「ありがとう。……確かに俺の中でレオが一番(の友達)だな」
「……ありがとな」
「レオも?」
「ん?」
「レオにとって一番は俺?」
「……っ! そうだよ!」
「ふふん」
「はぁ……ティアには叶わないなぁ……」
 
 俺はその答えに満足し、レオとの時間を楽しみながら帰路に着いた。父の言う通り、昼が短くなった空はもう黄昏たそがれていた。
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