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27 本当の自己紹介
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「俺は、レオンを信じてる。でも、何も知らないナルカデア王国については、まだ信じられない」
「そうか……そうだよな」
「判断する時間が欲しい。あと、俺からも話したいことがあるんだけど……。俺との話はレオンからナルカデア王国に筒抜けになる?」
「いや、この件はオレに一任されている。また、オレ個人の気持ちとして、エレンが嫌なことは絶対にしない」
「……分かった。ありがとう。信じるよ。レオンのことは好きだから」
「エレン……」
俺の言葉に安心したのか、レオンが俺の手を握り、じっと見つめた。体温が高い気がする。
「俺の本当の名前は、エルティア・クロスフェード。伯爵家の次男だ。俺は、レオンの探している人に間違いない。母親がリティーダ共和国で生き残った人物の血縁者で、俺は本当は黒い髪と目をしている。普段、街に下りる時は色を変えている。でもそれはリティーダ云々とは関係がない」
「?? アキスト王国は誰もリティーダの『愛し子』のことを知らないのか?」
「そもそも『愛し子』という言葉自体、俺は初めて聞いたし、俺がリティーダの血を濃く受け継いでいることは、アキスト王国の王族と王族から連なる公爵家しか知らない」
「何故その事を国は隠しているんだ?」
「さぁ……。俺に大した力が今のところはないことを知っているから、利用しようとは思っていないみたい。でも俺が自主的でも無理やりでも他国に渡るのを防ぐため、情報統制しつつ、監視はされている。保護魔法のことを知る前は、少し温めたり冷やしたりするくらいの魔法しか使えなかったから…ほぼ意味なかったし」
「でも、なら何故黒い色を隠しているんだ。一部の人間以外は愛し子だと知らないのだろう?」
「それは………」
「それは?」
「俺が……『愛し子』どころか『黒い悪魔』と呼ばれているからかな」
「……………は?」
自分で自分のことを愛し子だとか黒い悪魔とか言ってるのが、恥ずかしくなってきた。どれも俺が自称したんじゃないんだ!
「その……リティーダの血のことを知らない上位貴族から黒は恐ろしくて不吉な色だと言われて元々良く思われてなかったんだけど、後押しのように俺が小さい頃に家に招いた友人二人が倒れたんだ」
「倒れた? まさか……魔法が暴走したとか……!?」
レオンが心配してくれているが、そんな深刻なことではない。
「俺のクッキーを食べて」
「………ん?」
「俺のクッキーが不味すぎて、倒れたんだ。それで悪い噂が重なりに重なって極悪非道の伯爵令息と言われるように」
「そんな……そこまで……」
続く言葉は言わずとも分かる。「そこまで不味かったなんて」だ。レオン、俺のクソマズ料理食べたことないもんな。
「『毒が入っていたに違いない』と友人たちの家が調べたが何も出ず……。そりゃ間違いなくクッキーの材料しか口には入れてないんだから毒なんて出るはずもなく……。当時は俺も自分の料理の下手さや原因も知らなかったから……まぁ謝りつつも反論して。そこから関係が拗れて今も友人が一人もいない状態だったんだ」
「そんなことが……その、オレはサーリャさんから結局聞いてないけど、料理が何故か不味くなる原因ってもしかして『愛し子』と関係あるのか?」
「うん……そうらしい……」
サーリャさんから聞かされた内容をレオンに話す。リティーダ共和国の最後と保護の魔法のこと。その代償と対価の話。魔法のコントロールを覚えれば保護魔法の効力は失い、同時に対価である料理の味問題は解決するということ。魔法のコントロールを学ぶには、レナセール国で魔法を使える人を探すか残っているかもしれない書籍で覚えるしかないこと。だが今はレナセール国に行くタイミングではないので待つこと。レオンは真剣に俺の話を聞いてくれた。
「なるほど、分かった。とりあえずオレはナルカデア王国には報告せず、このままアキスト王国に留まり、今まで通りエレンと過ごせば良いな」
「え? うん、それで……良いのかな?」
「エレンはいつかレナセール国に行きたいが、まだ行かない。あ、行く時はオレも一緒に行くからな。シドたちからの連絡も無いし、しばらくは様子を見よう」
「うん……。自分から言っておいてなんだけど、本当に俺、ナルカデア王国に行かなくても大丈夫なの?」
「構わない。オレとしてはエレンに対するアキスト王国の対応も貴族連中も気に食わないし、今すぐにでも連れ去りたいが、エレンがしたいことを一番に優先させるよ」
「そこまでしてもらって良いのかな」
「エレンが幸せに笑えるようにしてあげたい、料理上手くなりたいっていう希望を叶える手助けがしたいってオレが個人的に思ってこれまで一緒にいたんだ。最後まで手伝わせてくれ」
「いつレナセール国に行けるか分からないのに……ナルカデア王国にも行けるかどうか……」
「人探しをしなくて良くなったから、エレンが学校に行っている間は冒険者してるさ。お金もある程度確保しといた方が今後助かるかもしれないし。ナルカデアに亡命したいとかじゃなければ、行くのは最後で良い。父も、愛し子に強要はしないだろう。ただ、ずっと悲願だった愛し子の顔を見たい、会いたいだけだと思う」
「レオン……ありがとう」
「ナルカデアには、リティーダ共和国の書籍がいくつか残っているから、一緒に行けた時は見せたいと思ってる」
本当に優しい人だ……。俺の兄も優しいが、甘やかすタイプの優しさで、レオンは包み込みつつ、隣にそっと並んでくれるというか。そういえば。
「名前、他の人の前ではエレンのままじゃないとダメだけど、二人の時は『エル』か『ティア』が良い」
「良いのか? じゃあティアって呼びたい。可愛いから。オレのことはレオって呼んでくれ。今と変わらないからレオンのままでも良いぞ」
「ううん。二人の時はレオって呼びたい」
「ティアは可愛いなぁ」
「子どもじゃないぞ。なんだかレオはお兄様みたい」
「あー、お兄様じゃあヤダなぁ」
「え?」
「出来れば友人以上が良いな」
「それって……」
親友……ってこと!? 人生初の親友ってこと!?
「あ、多分思ってるのと違うけどそれで良いよ、今は。ティアはオレにとって特別ってことだよ。あれ、ねぇ、聞いてる?」
レオに隠し事をしなくてよいことと、本当の名前を呼んでもらったこと、黒い髪と目であることを教えても態度が変わらなかったことで、俺の心は軽くなり、レオの家にいる間、ずっと口角が上がりっぱなしだった。
「そうか……そうだよな」
「判断する時間が欲しい。あと、俺からも話したいことがあるんだけど……。俺との話はレオンからナルカデア王国に筒抜けになる?」
「いや、この件はオレに一任されている。また、オレ個人の気持ちとして、エレンが嫌なことは絶対にしない」
「……分かった。ありがとう。信じるよ。レオンのことは好きだから」
「エレン……」
俺の言葉に安心したのか、レオンが俺の手を握り、じっと見つめた。体温が高い気がする。
「俺の本当の名前は、エルティア・クロスフェード。伯爵家の次男だ。俺は、レオンの探している人に間違いない。母親がリティーダ共和国で生き残った人物の血縁者で、俺は本当は黒い髪と目をしている。普段、街に下りる時は色を変えている。でもそれはリティーダ云々とは関係がない」
「?? アキスト王国は誰もリティーダの『愛し子』のことを知らないのか?」
「そもそも『愛し子』という言葉自体、俺は初めて聞いたし、俺がリティーダの血を濃く受け継いでいることは、アキスト王国の王族と王族から連なる公爵家しか知らない」
「何故その事を国は隠しているんだ?」
「さぁ……。俺に大した力が今のところはないことを知っているから、利用しようとは思っていないみたい。でも俺が自主的でも無理やりでも他国に渡るのを防ぐため、情報統制しつつ、監視はされている。保護魔法のことを知る前は、少し温めたり冷やしたりするくらいの魔法しか使えなかったから…ほぼ意味なかったし」
「でも、なら何故黒い色を隠しているんだ。一部の人間以外は愛し子だと知らないのだろう?」
「それは………」
「それは?」
「俺が……『愛し子』どころか『黒い悪魔』と呼ばれているからかな」
「……………は?」
自分で自分のことを愛し子だとか黒い悪魔とか言ってるのが、恥ずかしくなってきた。どれも俺が自称したんじゃないんだ!
「その……リティーダの血のことを知らない上位貴族から黒は恐ろしくて不吉な色だと言われて元々良く思われてなかったんだけど、後押しのように俺が小さい頃に家に招いた友人二人が倒れたんだ」
「倒れた? まさか……魔法が暴走したとか……!?」
レオンが心配してくれているが、そんな深刻なことではない。
「俺のクッキーを食べて」
「………ん?」
「俺のクッキーが不味すぎて、倒れたんだ。それで悪い噂が重なりに重なって極悪非道の伯爵令息と言われるように」
「そんな……そこまで……」
続く言葉は言わずとも分かる。「そこまで不味かったなんて」だ。レオン、俺のクソマズ料理食べたことないもんな。
「『毒が入っていたに違いない』と友人たちの家が調べたが何も出ず……。そりゃ間違いなくクッキーの材料しか口には入れてないんだから毒なんて出るはずもなく……。当時は俺も自分の料理の下手さや原因も知らなかったから……まぁ謝りつつも反論して。そこから関係が拗れて今も友人が一人もいない状態だったんだ」
「そんなことが……その、オレはサーリャさんから結局聞いてないけど、料理が何故か不味くなる原因ってもしかして『愛し子』と関係あるのか?」
「うん……そうらしい……」
サーリャさんから聞かされた内容をレオンに話す。リティーダ共和国の最後と保護の魔法のこと。その代償と対価の話。魔法のコントロールを覚えれば保護魔法の効力は失い、同時に対価である料理の味問題は解決するということ。魔法のコントロールを学ぶには、レナセール国で魔法を使える人を探すか残っているかもしれない書籍で覚えるしかないこと。だが今はレナセール国に行くタイミングではないので待つこと。レオンは真剣に俺の話を聞いてくれた。
「なるほど、分かった。とりあえずオレはナルカデア王国には報告せず、このままアキスト王国に留まり、今まで通りエレンと過ごせば良いな」
「え? うん、それで……良いのかな?」
「エレンはいつかレナセール国に行きたいが、まだ行かない。あ、行く時はオレも一緒に行くからな。シドたちからの連絡も無いし、しばらくは様子を見よう」
「うん……。自分から言っておいてなんだけど、本当に俺、ナルカデア王国に行かなくても大丈夫なの?」
「構わない。オレとしてはエレンに対するアキスト王国の対応も貴族連中も気に食わないし、今すぐにでも連れ去りたいが、エレンがしたいことを一番に優先させるよ」
「そこまでしてもらって良いのかな」
「エレンが幸せに笑えるようにしてあげたい、料理上手くなりたいっていう希望を叶える手助けがしたいってオレが個人的に思ってこれまで一緒にいたんだ。最後まで手伝わせてくれ」
「いつレナセール国に行けるか分からないのに……ナルカデア王国にも行けるかどうか……」
「人探しをしなくて良くなったから、エレンが学校に行っている間は冒険者してるさ。お金もある程度確保しといた方が今後助かるかもしれないし。ナルカデアに亡命したいとかじゃなければ、行くのは最後で良い。父も、愛し子に強要はしないだろう。ただ、ずっと悲願だった愛し子の顔を見たい、会いたいだけだと思う」
「レオン……ありがとう」
「ナルカデアには、リティーダ共和国の書籍がいくつか残っているから、一緒に行けた時は見せたいと思ってる」
本当に優しい人だ……。俺の兄も優しいが、甘やかすタイプの優しさで、レオンは包み込みつつ、隣にそっと並んでくれるというか。そういえば。
「名前、他の人の前ではエレンのままじゃないとダメだけど、二人の時は『エル』か『ティア』が良い」
「良いのか? じゃあティアって呼びたい。可愛いから。オレのことはレオって呼んでくれ。今と変わらないからレオンのままでも良いぞ」
「ううん。二人の時はレオって呼びたい」
「ティアは可愛いなぁ」
「子どもじゃないぞ。なんだかレオはお兄様みたい」
「あー、お兄様じゃあヤダなぁ」
「え?」
「出来れば友人以上が良いな」
「それって……」
親友……ってこと!? 人生初の親友ってこと!?
「あ、多分思ってるのと違うけどそれで良いよ、今は。ティアはオレにとって特別ってことだよ。あれ、ねぇ、聞いてる?」
レオに隠し事をしなくてよいことと、本当の名前を呼んでもらったこと、黒い髪と目であることを教えても態度が変わらなかったことで、俺の心は軽くなり、レオの家にいる間、ずっと口角が上がりっぱなしだった。
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