26 / 79
25 帰還
しおりを挟む
盗賊のリーダーだけ、証人として口を塞ぎ目隠しをし、両手両足を拘束し、足の腱を切り馬車の隅に転がした。レオンが。怖いが再犯を防ぎ、アルテナの商人を罰するためには必要だ。
男の子は泣いて俺に謝ってきた。俺が勝手にしたことだから、謝らなくても大丈夫だと伝えたが、ずっと「ごめんなさい、ありがとう」を繰り返し伝えてきた。父親も謝罪と感謝を何度も伝えられたが、こちらも気にしなくて良いと返した。
おそらく保護魔法が発動したと思われるが、俺は男の子を庇っていて発動の瞬間を見ていないし、男の子は言わずもがな。父親の商人も怖くて目を閉じていたらしい。御者は馬車の中。残るはレオンだが……。
今まさに強く抱き締められている。苦しいくらいぎゅうぎゅうに。
「レオン……ごめんね」
「……………」
「レオン……心配かけて、無茶して、ごめんなさい」
「………目の前で、エレンが切られそうになった時のオレの絶望と胸をえぐられるような辛く悲しい気持ちが分かるか?」
「……本当にごめんなさい……」
「生きてきて、こんなに堪えたのは初めてだ。守るって言ったのに。こんな危ないことして……。守りきれなかったオレも、不甲斐なくて……」
「レオンは悪くない! 俺が……俺が勝手に動いたから……」
「それも含めて守るのがオレの役目だ。これからは自分のことも、そばに居るオレのことも考えて動くこと。約束して」
「うん。約束する」
「よし」
頭をぐちゃぐちゃに撫でられる。一応俺成人してるんだけどな。保護魔法のこと、聞きたいけどここじゃ人目があるからアキュレに着いてからだな。レオンが魔法発動の瞬間を見てないにしても、野盗が急に気絶した状態で遠くに飛ばされているなんて異常事態、不思議に思うことは当たり前だ。さて、どう説明しようか……。
今は商人の男が、御者の代わりに馬を引いている。もう既に明け方で、数時間もすればアキュレに到着しそうだ。御者と男の子、アマービレは疲れて眠っている。
「エレンも少しは眠った方が良い。盗賊の奴はオレが見張っているから」
「ううん、なんだか眠くなくて……」
「神経が高ぶってるのかもな。オレにもたれかかって目だけでも瞑っておけ。少しは回復する」
「うん……レオン。守ってくれて、ありがとう……」
「……ああ。これからは絶対守りきってみせるよ」
レオンのいつもと変わらない優しい声に心ゆるび、言われるがまま目を瞑った。目から一粒涙が零れた。目元にレオンの唇が寄せられる感触がした。
「エレンの涙は甘いな…。───今日は頑張ったな。ゆっくりお休み」
そのまま抱き寄せられ、レオンの胸に凭れた。星はもう見えない。レオンと朝の匂いがした。
数時間後。アキュレに到着した。すぐさま憲兵に盗賊を引き渡し、詳しい事情を聞くため商人父子は同行し、御者は病院へと移送された。俺とレオンは後日参考人として呼ばれる可能性があるということだった。その場合、レオン宛に冒険者ギルドに言付けるとのこと。
俺は疲弊しているものの、レオンと話がしたくて、だがどう誘おうか分からず困っていた。あまりにも何も言わなすぎて怖い。俺が何しても興味ないとか……? いや、あれ程俺の無事を喜んでくれたのだから無関心な訳では無い……? 分からない……。俺がうんうんと唸っていると、レオンから声を掛けてきた。
「エレン、疲れていると思うが、まだ時間大丈夫か?」
「え!? うん! 大丈夫だよ」
レオンから誘ってくれるのなら万々歳だ。どう説明するかはまだ考えてないけど。
「オレの家に来ないか」
男の子は泣いて俺に謝ってきた。俺が勝手にしたことだから、謝らなくても大丈夫だと伝えたが、ずっと「ごめんなさい、ありがとう」を繰り返し伝えてきた。父親も謝罪と感謝を何度も伝えられたが、こちらも気にしなくて良いと返した。
おそらく保護魔法が発動したと思われるが、俺は男の子を庇っていて発動の瞬間を見ていないし、男の子は言わずもがな。父親の商人も怖くて目を閉じていたらしい。御者は馬車の中。残るはレオンだが……。
今まさに強く抱き締められている。苦しいくらいぎゅうぎゅうに。
「レオン……ごめんね」
「……………」
「レオン……心配かけて、無茶して、ごめんなさい」
「………目の前で、エレンが切られそうになった時のオレの絶望と胸をえぐられるような辛く悲しい気持ちが分かるか?」
「……本当にごめんなさい……」
「生きてきて、こんなに堪えたのは初めてだ。守るって言ったのに。こんな危ないことして……。守りきれなかったオレも、不甲斐なくて……」
「レオンは悪くない! 俺が……俺が勝手に動いたから……」
「それも含めて守るのがオレの役目だ。これからは自分のことも、そばに居るオレのことも考えて動くこと。約束して」
「うん。約束する」
「よし」
頭をぐちゃぐちゃに撫でられる。一応俺成人してるんだけどな。保護魔法のこと、聞きたいけどここじゃ人目があるからアキュレに着いてからだな。レオンが魔法発動の瞬間を見てないにしても、野盗が急に気絶した状態で遠くに飛ばされているなんて異常事態、不思議に思うことは当たり前だ。さて、どう説明しようか……。
今は商人の男が、御者の代わりに馬を引いている。もう既に明け方で、数時間もすればアキュレに到着しそうだ。御者と男の子、アマービレは疲れて眠っている。
「エレンも少しは眠った方が良い。盗賊の奴はオレが見張っているから」
「ううん、なんだか眠くなくて……」
「神経が高ぶってるのかもな。オレにもたれかかって目だけでも瞑っておけ。少しは回復する」
「うん……レオン。守ってくれて、ありがとう……」
「……ああ。これからは絶対守りきってみせるよ」
レオンのいつもと変わらない優しい声に心ゆるび、言われるがまま目を瞑った。目から一粒涙が零れた。目元にレオンの唇が寄せられる感触がした。
「エレンの涙は甘いな…。───今日は頑張ったな。ゆっくりお休み」
そのまま抱き寄せられ、レオンの胸に凭れた。星はもう見えない。レオンと朝の匂いがした。
数時間後。アキュレに到着した。すぐさま憲兵に盗賊を引き渡し、詳しい事情を聞くため商人父子は同行し、御者は病院へと移送された。俺とレオンは後日参考人として呼ばれる可能性があるということだった。その場合、レオン宛に冒険者ギルドに言付けるとのこと。
俺は疲弊しているものの、レオンと話がしたくて、だがどう誘おうか分からず困っていた。あまりにも何も言わなすぎて怖い。俺が何しても興味ないとか……? いや、あれ程俺の無事を喜んでくれたのだから無関心な訳では無い……? 分からない……。俺がうんうんと唸っていると、レオンから声を掛けてきた。
「エレン、疲れていると思うが、まだ時間大丈夫か?」
「え!? うん! 大丈夫だよ」
レオンから誘ってくれるのなら万々歳だ。どう説明するかはまだ考えてないけど。
「オレの家に来ないか」
2
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。


【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる