極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

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23 帰路につく

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 入浴を終え、ベッドに横になる。怒涛の一日だった。シドとラキくんとの別れが寂しくて泣いて、サーリャさんから衝撃の事実を聞いて、レオンと一緒にカフェで食事して、これから自分がどうするのか、どうしたいのか意思が固まった。疲れたけど、スッキリした気持ちだ。
 レオンに俺がアキュレの貴族間で有名な黒い悪魔ですと伝えても、態度が変わらないどころか笑い飛ばしそうだけど、また今度にしよう。平民街でエルティナのことは知られていないのに、急に「俺の二つ名は『黒い悪魔』なんだ」とか言っても「なにそれ?」再びになりそうだ。
 俺の本当の名前がエルティナであることは早く言いたいな……レオンのことも、もっと知れると良いな……。そんなことを考えながらうつらうつらとし、いつの間にか眠ってしまっていた。
 
 
 
 意識が浮上すると、身動きが出来なかった。あれ、最近毎朝コレじゃない? 体は動かさず、そっと頭だけ動かすと、眠っているレオンの顔が見える。冒険者らしく、話す言葉は荒っぽい時があっても、基本的には丁寧で優しく、眠っている姿などは容姿も相まって高貴な雰囲気さえある。
 今日のベッドはダブルサイズで広いにも関わらず、背中に手を回され抱きとめられている。俺寝相悪くないけどな……。身長も平均くらいはあるのに、一回り大きいレオンに抱き締められると、包まれているような感覚に陥る。安心するってこんな感じなのかな。A級冒険者なので、もちろん武力的にも強いし安心だけど、心が落ち着くというか……。お互い隠し事があるのに、目で見て感じた部分だけで、もう信頼してるというか……。四歳違いでこんなに違うものかな? 俺は成人したばかりだけど、まだまだ独り立ちは先だし、学生だし、レオンは一人でなんでも出来るし経験豊富だもんな……。目が覚めたものの、まだ若干ふわふわした頭で考えていると、頭を撫でられた。
 
「おはよう、エレン」
「レオンおはよう」
「朝から何難しそうな顔して考えてたんだ?」
「……? レオンのことを考えてた」
「………天然は怖い」
 
 あー……とか、うー……とか言いながらグリグリと頭に顎を乗せてくる。普通に痛い。
 
「レオン、俺の頭がヘコむから止めて」
「ごめんね」
 
 そう言って頭を撫でてくる。レオンは結構人と触れ合うことが好きなのかもな。レオン情報を更新させた俺はのそのそと起き上がり準備を始めた。目薬も欠かさない。今日でもうアキュレに帰るのか……濃厚な日々だったからか、たった数日だと言うのに思い出が多く、旅が終わる名残惜しさを感じる。
 
「レオン、ここでみんなにお土産買いたい」
「おお、良いな。一緒に選ぼう」
 
 ベッドを軽く整え、荷物をまとめて客室を出る。二階から良い香りがした。アンソニーさんが階段の上から顔を出した。
 
「起きたか! 朝ごはん出来てるから一緒に食べよう」
「ありがとう、お腹が空いてたんだ。エレン行こう」
 
 4人で朝食を食べ、乗合馬車の時刻を確認する。雑貨屋でお土産を買っていると時間が来てしまった。そろそろ出なくては。
 
「サーリャさん、アンソニーさん。本当にありがとうございました。急に来たのに泊まる部屋もお食事まで……」
「こちらこそ、会えて嬉しかったわ。またいつでも来てね」
「レオンもエレンも体に気を付けてな」
「あぁ、また顔見せに来るよ」
 
 二人に手を振って乗合馬車の乗り場に向かう。
 
「レオン、本当にありがとう。レオンがいないと、自分自身のことが何も分からず、何も無い自分に嫌気がさして、いつか自暴自棄になっていたかもしれない。レオンが背中を押して、手を引いて一緒にいてくれなきゃ、今の自分はいなかったと断言出来る。もし、今後レオンが困った時や助けが必要な時は、絶対に俺が駆けつけるよ。いつだって、どこへだって行くよ」
「エレンはカッコ良いな。自分がエレンに何かしてあげたいと思ったから今回連れてきたけど、エレンが元気になって嬉しいよ。オレはいつでも力になるし、何かあればエレンに頼ることにする。これからもよろしくな」
 
 二人でへへへと笑いながら、馬車へと乗り込んだ。
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