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22 サーリャの迷い
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あれからまた繁華街を見て周り、サーリャさんがくれたお茶の茶葉を見つけたので、それだけ買って雑貨屋さんに戻った。
サーリャさんとアンソニーさんが出迎えてくれ、今回の旅の間にあったことや、今日行ったお店の話をしながら食事をした。客室に案内され、アンソニーさんは湯船を用意してくると言ってその場を離れた。入れ替わるようにサーリャさんが入ってきた。
「二人に最後に話しておきたいことがあるの」
ソファーに座るよう促され、レオンと共に座る。
「二つあるわ。一つはエレンのことについて。エレン本人には話したけど、今すぐどうこう出来る問題ではないし、今はまだ動く時じゃないの。動くタイミングはその時になれば分かるはずよ。その時は、レオン、あなたが助けてあげて」
「分かった」
「知らないことが多いから心配かもしれないけど、エレンから話したくなるまで待ってあげて」
「気は長い方だ」
「レオン……ありがとう」
「そして、二つ目。シドとラキについて。」
そう、気になっていたことだ。ラキが主人公というなら、二人には現時点で既に、更に今後も困難や危険が待ち構えていることになる。可能なら手を貸して助けられるものなら助けたい。
「今回一緒に過ごして、二人からあなたたちには何も話さなかったのでしょう? 彼らはレナセール国から逃亡し、転々としている状況なの。巻き込まれないように、名前以外のことは話さなかったと思うわ」
「レナセール国……」
俺と縁がある国だ……。いつか行くことになる国……。
「今は目立つ行動は避けるべき。それはエレンも同じく。シドたちが拠点を構えるまで待つの。その後は……好きにすれば良いわ」
「え……良いんですか?」
物語に介入することに、あまり積極的ではないように感じたので、二人のことは放っておくように釘を刺されるのかと思っていたのだ。
「私はここが現実の世界だと分かっている。既に本筋とは外れた、別の物語。そしてあなたたちはシドとラキと出会い、縁が出来た。私はそういう縁が大事だと思っているの。エレンは二人の力になりたいのでしょう?」
「はい。俺は実際の物語がどうなっているかは分かりません。でも、二人のことを大事な友人だと思っています。自分に出来ることなら、力になりたいです」
「そう、気持ちが大事よ。思うがままに行動していけば、未来がどんどん変えられる。私はレオンに接触し、声を掛けた。未来を少しだけ変えたくて。でも人の気持ちやそれぞれの事情を勝手に話したことは無いわ。その人の気持ちも意思も、自分自身のことをどう、誰に、いつ話すかもその人次第。私はそれすらを自分の思い通りにしようとは思わないの」
サーリャさんが話していることは少し分かる。おそらく客観的な事実を俺たちに話すことはあっても、感情やその背景まで詳しいことを話すつもりはないのだろう。サーリャさんが物語を変えるためにバタフライエフェクトを生みだしたとして、俺たちに押し付けるつもりはなく、だがその一つの羽ばたきで変わってしまった現在と未来を気にかけながら、それぞれの心を大事に思ってくれている。
「もしシドとラキから連絡が来たり、助けを求められたりしたら、その時は自分の気持ちのまま動いて。別に私のことを話しても構わないわ。あなたたちの縁が繋がって、みんながそれぞれの幸せを掴むことを祈っているわ」
「サーリャさん。あなたは俺のことを、客観的な事実においては俺自身よりご存知でした。あなたのことを信じます。そして、これまでのことも、これからどうなっても、サーリャさんのせいではありません。俺がこれまで生きてきた出来事も、レオンと出会ったことも、運命だと思い、これからも自分の意思で自分の生き方を選びます。あなたのおかげで、知らなかった幸せや生き方を知ることが出来ました。心を許せる友人が出来ました。感謝しています。ありがとうございます」
俺がそう話すと、サーリャさんはほろりと涙を零した。徐々に大きくなりつつある変化に、プレッシャーや迷い、後悔があったのかもしれない。比較することは出来ないけど、本当に今が一番幸せだと思うから、気にしないで欲しい。
「ごめんなさい。自分の意志で始めたことなのに、最初の一言が大きな波乱や変化を生み、他の人の人生も変えてしまったかもしれないと思うと、やっぱり怖かったの……」
「サーリャさん。あなたに声を掛けられたのは事実だが、あの後ここに来たのも、その後の行動も自分自身の意思だ。人の気持ちや意志まではあなたに変えることは出来ない。気に病むことは無い。あとはオレたちに任せておけ。あなたが今後すべきことは、健康に気を使って長生きすることだ」
「ふふ……あんなに小さくて生意気だった子が気を遣うようになるなんてね」
「オレは元々優しい子だったよ」
「最初に声を掛けた時に言われたのは『何言ってんだおばさん』だったけど?」
「エレンの前でバラすなよ」
「そういうのもっと聞きたいです」
「まだまだあるのよ。レオンが雑貨屋に初めて来た時はね───」
アンソニーさんが戻るまで、三人で昔話に花を咲かせたのだった。
サーリャさんとアンソニーさんが出迎えてくれ、今回の旅の間にあったことや、今日行ったお店の話をしながら食事をした。客室に案内され、アンソニーさんは湯船を用意してくると言ってその場を離れた。入れ替わるようにサーリャさんが入ってきた。
「二人に最後に話しておきたいことがあるの」
ソファーに座るよう促され、レオンと共に座る。
「二つあるわ。一つはエレンのことについて。エレン本人には話したけど、今すぐどうこう出来る問題ではないし、今はまだ動く時じゃないの。動くタイミングはその時になれば分かるはずよ。その時は、レオン、あなたが助けてあげて」
「分かった」
「知らないことが多いから心配かもしれないけど、エレンから話したくなるまで待ってあげて」
「気は長い方だ」
「レオン……ありがとう」
「そして、二つ目。シドとラキについて。」
そう、気になっていたことだ。ラキが主人公というなら、二人には現時点で既に、更に今後も困難や危険が待ち構えていることになる。可能なら手を貸して助けられるものなら助けたい。
「今回一緒に過ごして、二人からあなたたちには何も話さなかったのでしょう? 彼らはレナセール国から逃亡し、転々としている状況なの。巻き込まれないように、名前以外のことは話さなかったと思うわ」
「レナセール国……」
俺と縁がある国だ……。いつか行くことになる国……。
「今は目立つ行動は避けるべき。それはエレンも同じく。シドたちが拠点を構えるまで待つの。その後は……好きにすれば良いわ」
「え……良いんですか?」
物語に介入することに、あまり積極的ではないように感じたので、二人のことは放っておくように釘を刺されるのかと思っていたのだ。
「私はここが現実の世界だと分かっている。既に本筋とは外れた、別の物語。そしてあなたたちはシドとラキと出会い、縁が出来た。私はそういう縁が大事だと思っているの。エレンは二人の力になりたいのでしょう?」
「はい。俺は実際の物語がどうなっているかは分かりません。でも、二人のことを大事な友人だと思っています。自分に出来ることなら、力になりたいです」
「そう、気持ちが大事よ。思うがままに行動していけば、未来がどんどん変えられる。私はレオンに接触し、声を掛けた。未来を少しだけ変えたくて。でも人の気持ちやそれぞれの事情を勝手に話したことは無いわ。その人の気持ちも意思も、自分自身のことをどう、誰に、いつ話すかもその人次第。私はそれすらを自分の思い通りにしようとは思わないの」
サーリャさんが話していることは少し分かる。おそらく客観的な事実を俺たちに話すことはあっても、感情やその背景まで詳しいことを話すつもりはないのだろう。サーリャさんが物語を変えるためにバタフライエフェクトを生みだしたとして、俺たちに押し付けるつもりはなく、だがその一つの羽ばたきで変わってしまった現在と未来を気にかけながら、それぞれの心を大事に思ってくれている。
「もしシドとラキから連絡が来たり、助けを求められたりしたら、その時は自分の気持ちのまま動いて。別に私のことを話しても構わないわ。あなたたちの縁が繋がって、みんながそれぞれの幸せを掴むことを祈っているわ」
「サーリャさん。あなたは俺のことを、客観的な事実においては俺自身よりご存知でした。あなたのことを信じます。そして、これまでのことも、これからどうなっても、サーリャさんのせいではありません。俺がこれまで生きてきた出来事も、レオンと出会ったことも、運命だと思い、これからも自分の意思で自分の生き方を選びます。あなたのおかげで、知らなかった幸せや生き方を知ることが出来ました。心を許せる友人が出来ました。感謝しています。ありがとうございます」
俺がそう話すと、サーリャさんはほろりと涙を零した。徐々に大きくなりつつある変化に、プレッシャーや迷い、後悔があったのかもしれない。比較することは出来ないけど、本当に今が一番幸せだと思うから、気にしないで欲しい。
「ごめんなさい。自分の意志で始めたことなのに、最初の一言が大きな波乱や変化を生み、他の人の人生も変えてしまったかもしれないと思うと、やっぱり怖かったの……」
「サーリャさん。あなたに声を掛けられたのは事実だが、あの後ここに来たのも、その後の行動も自分自身の意思だ。人の気持ちや意志まではあなたに変えることは出来ない。気に病むことは無い。あとはオレたちに任せておけ。あなたが今後すべきことは、健康に気を使って長生きすることだ」
「ふふ……あんなに小さくて生意気だった子が気を遣うようになるなんてね」
「オレは元々優しい子だったよ」
「最初に声を掛けた時に言われたのは『何言ってんだおばさん』だったけど?」
「エレンの前でバラすなよ」
「そういうのもっと聞きたいです」
「まだまだあるのよ。レオンが雑貨屋に初めて来た時はね───」
アンソニーさんが戻るまで、三人で昔話に花を咲かせたのだった。
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