極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

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20 自分を知る

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「さ、お茶を一口飲んで少し落ち着いて」
 
 サーリャさんが俺のカップにお茶を新しく注いでくれた。一口、二口飲んで深呼吸した。
 
「私が知っているのは本当に断片的なもので、あなた自身のことはほとんど知らないの。もし私の言葉で嫌な思いをしたり、聞きたくないこと、聞かれたくないことがあれば遠慮なく言って。約束して」
「はい、分かりました。大丈夫です」
 
 カップを置いて、サーリャさんを見つめる。
 
「あなたの本来の色から分かるように、リティーダ共和国の特徴が強く出ているはずよ。不思議な力が使えるのでしょう?」
「はい……ただ、本当に些細なものなんです。ほんのちょっとだけ便利、くらいのもので」 
「実際はそんなものじゃないはず。あなたは艶やかな漆黒を持ち、歴史上、類を見ない程の力を持っている。ただ、その使い方を教えてくれる人はこの世にいない。大きすぎる力は自分自身をも傷付ける。リティーダ共和国が滅ぼされる際、強い力を持った為政者たちが国に残り、ガルダニア帝国人に刈られる前に、その命を代償に願ったの。いつか遠い未来で、リティーダの血が流れる強い力を持つ子が生まれたら、その誕生した瞬間からその子を守る保護魔法が発動するようにと。これは外部・内部、どちらからもよ。攻撃されても、エレン自身の魔法が暴走しても、その保護魔法は発動される。直接魔法の使い方を教えることが出来ないから、彼らは保護を掛けるしかなかった。リティーダ共和国の為政者たちは対価として命を捧げた。その複雑で強い魔法を掛けられたあなたにも影響が出たの。あなた自身にも対価が必要になった。生まれて一番最初にあなたが強く抱いた願いを対価とし、ねじ曲げてしまった。あなたの料理が上手くならないのは、その保護魔法の影響なのよ。あくまで、私の予想だけど」
 
 俺が知っていたリティーダ共和国は、かつてあった場所と、その人々の特徴だけで、亡国となる寸前の話は初めて聞いた。これも、サーリャさんが読んだという物語に書いてあったのだろうか。
 
「リティーダ共和国、今のレナセール国に行けばもっと何か分かるかもしれないけど、まだ時期じゃない。しばらくそのままアキスト国で過ごして欲しいの」
「……分かりました。この保護魔法の対価として払ったのなら、俺はもう他の人に美味しい料理を振る舞うことは出来ないのでしょうか……」
「いえ、そもそも保護魔法が掛けられたのは、その子が……あなたのことね、エレンを守る為。あなたが魔法をコントロール出来るようになれば、その保護魔法の効力は消えるはず。でも、そしたら料理が美味しくなってもせっかくの保護魔法消えちゃうのは勿体なく感じるわ」
「それだけ魔法のコントロールが出来るようになるなら、他人からの攻撃を防ぐことも可能なはずです。俺はそれを目標にしてみます」
「そうね、そのためにここに来たんですものね。さっきも言ったように、魔法のコントロールを学ぶならレナセール国に行けば何か分かるかもしれない。リティーダ人の血が残った人も多いでしょうから、あなたと同じように魔法が使える人もいるかもしれない。でも今はダメ。しばらくはレオンと共にアキスト国にいなさい」
「……分かりました。レオンが何者なのかは知らない方が良いんでしょうか……。さっき馬車で、秘密があるとか、言えないこともあるとか話していて……」
「私からは話せないわね。レオンからあなたに話す時はそう遠くないでしょう。レオンも目的があって人を探しているのよ。その人探しが終わる頃、あなたにも真実を伝えるでしょう」
 
 人探し……。自分の知らないレオンがいて、自分の知らない誰かをずっと探していることに、胸が少しツキンと痛んだ。
 
「エレン、またそんな顔して。大丈夫よ、何もかも上手くいくわ。私、あなたのことが気になってしゃしゃり出て来たんだから。きっと、あなたの思うようになるわ。思ったこと、知りたいこと、伝えたいことをどんどん言っていきなさい。後悔がないように」
 
 サーリャさんがいつの間にか傍に寄り、優しく抱き締めてくれた。ここ数日でよく抱き締められるな……と思いながら、優しい香りがするサーリャさんを抱き締め返した。
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