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18 この世界と知らない世界
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この世界……? サーリャさんの話していることがよく理解出来ない。
「レオンにも、あまり詳しくは話していないの。私は呪師と呼ばれているけど、大層なことは出来ないの。昔趣味で齧ったタロット占いを少しばかりしててね。カードも手作りで。一応初対面の時にレオンには呪師だと話したけど…。特別な能力はないのだけど、ただ……あなたのことは知っている」
突然のことに、どういう反応をしたら良いのか分からず、口を開いたまま何も言葉が出ず、また閉じた。レオンはじっと成り行きを見守っている。
「怖がらせるつもりはないの。信じられないかもしれないけど、まずは私のことを話すわ」
サーリャさんから聞いた話は、まさに信じられない内容だった。彼女は生まれた時に前世の記憶があった。だが、年齢と共にその前世の記憶は薄れていったという。小さい頃は文字も書けないし、残っている記憶を書き留めることは出来なかったと。だがある日、急に強烈な既視感を覚えた。旅先でナルカデア王国に寄った際に幼いレオンを見た時だった。その時初めて、前世で自分が読んだ物語の世界にいるのでは、という可能性に気付いたという。その時、彼女は50歳を超えていた。
「驚いたわ。知っている物語が始まる大分前に生まれたものだから、登場人物もストーリーも全然関係ないし。ただ、この先何が起こるのかは少し分かっていた。ただ、私はもう50歳を過ぎていて、事前に誰かを救ったり、国を守ったり、そういうことが出来るほどの体力もなかった。元々私が介入せずとも、そのままにしておけば主人公は問題を解決してエンディングを迎えるの。それまで元気で過ごすことが私の目標の一つだった。ただ、自分自身が何十年も生きてきて、両親に育てられ、結婚し、子供を産み、孫が出来たからこそ分かるの。ここはただの物語の中じゃないって。だから、可能なら、一人でも少ない犠牲で、少しでも早く救える人がいたらと思って……レオンに声を掛けた」
俺はレオンを見ると微笑まれ、頷かれる。
「急に近付いてきて、オレの秘密や過去の出来事を話し始めた。驚きで固まってる間に、畳み掛けるように今後起こりうる未来のことを言われた。そして、もし自分を信じるのなら、この雑貨屋に来いと言ってきたんだ。十歳の子どもにそんなこと言うか?」
「ふふ……賭けだったの。レオンが頭の良い子だと知っていた。もしレオンが来なければ諦めようと思っていた。何もせず、この世界のサーリャとして人生を全うしようと。でもレオンは来た。だから、少しだけ、物語を変えることにしたの」
「その……実際に物語は、未来は変えることが出来たんですか?」
「ええ。その証拠が今ここにあるの」
「え?」
「本来、ここにはあなた一人が来るはずだった。本来のあなたが」
エレンではなく、エルティアのことを言っているのだろうか……。
「エレンのことは、実は物語で詳しく描かれていないの。ただ、私が気になっていた子だった。私が唯一直接関わるはずの子だったから」
「……レオンはこの事、知っていたの……?」
物語も気になったが、聞きたかったことは別にあった。マルタ食堂からずっと優しくしてくれたレオン。それはサーリャさんに言われて行動し、ここに連れてきたのだろうか……。もし、そうだとしたら……少し悲しかった。優しくされて、嬉しかったのに、それが義務感や演技だったとしたら、それはとても辛かった。
「ふふ。安心して。レオンにエレンに関することは何も話してないし、連れてこいなんて言ってない。何もしなければあなたは私の所にくる予定なんだから、そんなこと言わないわ。レオンの意思であなたと仲良くなってここに一緒に来たの。だからそんな顔をしないで」
俺がどんな顔をしているというのか。これまでのことは、レオンの意思であることが分かって安心していたところをグイッと横から引っ張られる。
「エレンは可愛いなぁ。オレがエレンを可愛がるのはオレがただ好きでやっていることだよ。拗ねるだなんて、随分懐いてくれて嬉しいよ」
横からぎゅーっと抱き締められ、レオンの頬が俺の頭にグリグリと押し付けられた。急に恥ずかしくなり、離れようとするが力が強くてレオンの腕が離れない。さ、流石A級冒険者……!
「拗ねるとか可愛いとか言うな!」
「なんで? すごい可愛いよ。そっかー、悲しませてごめんね。オレのエレンを想う気持ちはホンモノだよ」
「誤解を招く言い方をするな!! それに子ども扱いするな!」
「大人の扱いするとレオンは持たないと思うけど大丈夫?」
「……え、な、なにが……?」
カチャリ。
お茶の入ったカップがソーサーに置かれた音がした。
「その話、後でお願いしてもよろしいかしら?」
「は、はい。すみません」
「悪い」
サーリャさんの身の上話が終わり、いよいよ今回俺たちがやってきた目的の根幹に関わる話が始まった。
「レオンにも、あまり詳しくは話していないの。私は呪師と呼ばれているけど、大層なことは出来ないの。昔趣味で齧ったタロット占いを少しばかりしててね。カードも手作りで。一応初対面の時にレオンには呪師だと話したけど…。特別な能力はないのだけど、ただ……あなたのことは知っている」
突然のことに、どういう反応をしたら良いのか分からず、口を開いたまま何も言葉が出ず、また閉じた。レオンはじっと成り行きを見守っている。
「怖がらせるつもりはないの。信じられないかもしれないけど、まずは私のことを話すわ」
サーリャさんから聞いた話は、まさに信じられない内容だった。彼女は生まれた時に前世の記憶があった。だが、年齢と共にその前世の記憶は薄れていったという。小さい頃は文字も書けないし、残っている記憶を書き留めることは出来なかったと。だがある日、急に強烈な既視感を覚えた。旅先でナルカデア王国に寄った際に幼いレオンを見た時だった。その時初めて、前世で自分が読んだ物語の世界にいるのでは、という可能性に気付いたという。その時、彼女は50歳を超えていた。
「驚いたわ。知っている物語が始まる大分前に生まれたものだから、登場人物もストーリーも全然関係ないし。ただ、この先何が起こるのかは少し分かっていた。ただ、私はもう50歳を過ぎていて、事前に誰かを救ったり、国を守ったり、そういうことが出来るほどの体力もなかった。元々私が介入せずとも、そのままにしておけば主人公は問題を解決してエンディングを迎えるの。それまで元気で過ごすことが私の目標の一つだった。ただ、自分自身が何十年も生きてきて、両親に育てられ、結婚し、子供を産み、孫が出来たからこそ分かるの。ここはただの物語の中じゃないって。だから、可能なら、一人でも少ない犠牲で、少しでも早く救える人がいたらと思って……レオンに声を掛けた」
俺はレオンを見ると微笑まれ、頷かれる。
「急に近付いてきて、オレの秘密や過去の出来事を話し始めた。驚きで固まってる間に、畳み掛けるように今後起こりうる未来のことを言われた。そして、もし自分を信じるのなら、この雑貨屋に来いと言ってきたんだ。十歳の子どもにそんなこと言うか?」
「ふふ……賭けだったの。レオンが頭の良い子だと知っていた。もしレオンが来なければ諦めようと思っていた。何もせず、この世界のサーリャとして人生を全うしようと。でもレオンは来た。だから、少しだけ、物語を変えることにしたの」
「その……実際に物語は、未来は変えることが出来たんですか?」
「ええ。その証拠が今ここにあるの」
「え?」
「本来、ここにはあなた一人が来るはずだった。本来のあなたが」
エレンではなく、エルティアのことを言っているのだろうか……。
「エレンのことは、実は物語で詳しく描かれていないの。ただ、私が気になっていた子だった。私が唯一直接関わるはずの子だったから」
「……レオンはこの事、知っていたの……?」
物語も気になったが、聞きたかったことは別にあった。マルタ食堂からずっと優しくしてくれたレオン。それはサーリャさんに言われて行動し、ここに連れてきたのだろうか……。もし、そうだとしたら……少し悲しかった。優しくされて、嬉しかったのに、それが義務感や演技だったとしたら、それはとても辛かった。
「ふふ。安心して。レオンにエレンに関することは何も話してないし、連れてこいなんて言ってない。何もしなければあなたは私の所にくる予定なんだから、そんなこと言わないわ。レオンの意思であなたと仲良くなってここに一緒に来たの。だからそんな顔をしないで」
俺がどんな顔をしているというのか。これまでのことは、レオンの意思であることが分かって安心していたところをグイッと横から引っ張られる。
「エレンは可愛いなぁ。オレがエレンを可愛がるのはオレがただ好きでやっていることだよ。拗ねるだなんて、随分懐いてくれて嬉しいよ」
横からぎゅーっと抱き締められ、レオンの頬が俺の頭にグリグリと押し付けられた。急に恥ずかしくなり、離れようとするが力が強くてレオンの腕が離れない。さ、流石A級冒険者……!
「拗ねるとか可愛いとか言うな!」
「なんで? すごい可愛いよ。そっかー、悲しませてごめんね。オレのエレンを想う気持ちはホンモノだよ」
「誤解を招く言い方をするな!! それに子ども扱いするな!」
「大人の扱いするとレオンは持たないと思うけど大丈夫?」
「……え、な、なにが……?」
カチャリ。
お茶の入ったカップがソーサーに置かれた音がした。
「その話、後でお願いしてもよろしいかしら?」
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