極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

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11 新たな出会い

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「まるでお姫様みたいな登場だな」
 
 その声に顔を上げる。俺とさほど歳が変わらなそうな男がこちらを見ていた。オレンジ色の髪に赤い瞳は俺の周りにはいない色合いだなと思ってじっと眺める。腰に短剣を二本差し、軽装だが胸当てを付けていることから、レオンと同じ冒険者であることが分かる。
 
「おい、何とか言えよ」
「え? あぁ。あなたは冒険者なんですか?どこまで行くんですか?」
「……冒険者だ。アルテナに用がある。というか、この馬車はアルテナ行きだ」
「え? そうなんですか?」
 
 俺がレオンさんを見るとにっこり笑って頷いた。
 
「お前、馬車乗るの初めてなの…? そんな顔して、本当にお姫様か?」
「馬車には乗ったことあるけど、こういう乗合馬車には初めて乗るんだ。お姫様ってさっきのやつ見られてた?忘れろ」
 
 そう言うとオレンジ髪の冒険者は複雑そうな顔をした後、レオンさんの方を見る。
 
「オレが悪かった。お忍びかしらんが気をつけろ。安全な道のりとは言えたまに盗賊や魔物が出たりするから。オレの名前はシド。隣のコイツはラキ、弟だ」
 
 シドの隣にいた男の子を見る。おずおずとこちらを見て軽く頭を下げた。
 
「こんにちは。俺はエレンです。シド、ラキくん、アルテナまでの数日間よろしく。言っとくけどお忍びじゃないぞ」
「レオンだ。エレンと同行している」
「あ…こ、こんにちは」
 
 ラキくんが顔を上げて挨拶する。シドと同じオレンジ髪に赤い瞳だ。とても可愛い。今まで年下の子と関わることが無かったが、弟か妹がいたら可愛がったのになぁ…とラキくんを見ながら微笑んだ。ラキくんは恥ずかしがって顔が赤くなっている。可愛い。
 
「ラキくんはいくつなの?」
「10歳です」
「そっか、俺と6つ違いだね」
「シドと一緒だ!」
「本当? 良かったら、アルテナに着くまで一緒におしゃべりしない?」
「うん!」
 
「ラキが家族以外の奴と積極的に話すのは珍しいな」
「エレンは意外と人懐っこいからな。大人っぽくて礼儀正しいのにどこか抜けていて、働いている職場では、たくさんのお兄さん方やおじ様方から大人気だ」
「その中に、アンタも入ってるの?」
「もちろん」
「はぁ…。嫌味も通じないってどんな箱入りだよ」
「うーん世間知らずでは無いんだけど、知識が偏ってそうなんだ」
「それを箱入りと言うんじゃないのか」
「まぁオレがちゃんと見てるから、君の手は煩わせないよ」
「ふん」
 
 レオンとシドが小声で何かを話している間、俺はずっとラキくんとおしゃべりしていた。途中途中で休憩を挟みつつ、夜になり一時停車する。今日は馬車の中で眠ることになる。明日はアルテナとの間にある街に寄る。希望すれば宿泊も可能とのことだ。その後は数時間でアルテナに到着する。夏とはいえ夜は少し冷える。防寒具でも持ってくれば良かったかと思ったが、寝る時以外は不要だし荷物になるからなどの道置いてきただろう。周りも寝る準備をし始めたので、目薬を忘れずにさし、持ってきたリュックを枕にして寝ようとした。 
 
 ぐいっ!
 
 え…?
 
 横になった瞬間レオンさんに抱き締められた。皮の防具は外したらしく、ゴワゴワしてなくて、肌触りの良いレオンさんのシャツが頬に当たる。
 
「え!? あの…」
「夜は肌寒いからね。それに何かあった時に近ければ守りやすいから」
「あ…そうなんですね。その、腕疲れませんか?」
「大丈夫だよ。さ、今日は初めての長旅で疲れただろうから寝てしまおう」
 
 こんな風に抱き締められたことも、隣合って寝たことも無かったので、緊張して眠れないかと思ったが、人肌が存外気持ち良く、いつの間にか意識が無くなっていた。
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