極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

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「これはもう食べない? まだ食べるのか?」
 
 ダンに1/4程自分が食べた料理を指しながら聞かれた。口の中にまだご飯が残っているので、咀嚼しながら首を横に振った。ダンは「じゃあこっち食べるな。」と言いながら残りを食べてくれた。
 
 料理はどれも美味しかった。俺もこんな料理作りたいな……。自分が料理下手なの、どこが悪いのか分からないし、見てもらいたいな……。
 
「ご馳走様でした。ガルロさん、ご飯本当に美味しかったです。ありがとうございました。ダンさんも一緒に食べてくれてありがとう。……あの……無理を承知でお願いがあるんですが……」
「口にあったなら良かった。なんだ? 言うだけ言ってみろ」
「あの、俺に出来ることなら何でもするので、料理を教えてもらうことは出来ませんか?」
「ん? 料理を?」
「はい。俺は小さい頃から料理が好きで……。でも何度作っても美味しくならないみたいで……。自分が食べたら美味しいと感じるので、自己流ではどうにもならなくて。一度俺が作るのを見て欲しいなぁと……」
「ふぅむ……」
「その! ご迷惑にならないように、ご都合の良い時だけで大丈夫なんです! 雑用でも何でもするので……」
「掃除とか、やったことあるのか?」
「料理が好きなので、厨房とかは自分でも清掃してました」
「接客とか、例えば作った料理をテーブルまで持って行ったり、代金受け取ったり、出来るか?」
「出来ます!」
「ふん……」
 
 ガルロさんは考え込んでいる。反応を待っていると、ダンが質問してきた。
 
「お前なんでそこまでして料理上手くなりたいんだ?」
 
 小さい頃の記憶が甦る。
 
「初めて、自分からやりたいと思ったことなんだ」
 
 
 物心付いた時から貴族として必要な素養を積んできた。貴族としての振る舞いから他国の言葉まで多岐にわたる内容を学んでいた。強制されていた訳ではなく、他の人もやっているからという理由だけでなんとなく目の前のことをこなしていた。
 ある日、夜中に喉が渇いて、遅い時間に使用人を呼ぶのも躊躇ためらわれ、一人厨房に向かった。すると、一人の若いコックが一人で何かしていたのだ。何をしているのか聞くと、俺の存在にビックリしたようだったが、にっこりと笑い、「明日の仕込みをしてるんですよ」と答えた。そのコック見習いは、最初は洗い物と掃除ばかりしていたが、ようやっと仕込みをさせてくれるようになった、と話した。

「やっと料理をさせて貰えるようになったんです」
「似たり焼いたり出来なくても嬉しいもの?」
「もちろんそうです。それに、料理は仕込みがとても重要なんです」
「ふぅーん。」
「私は元々料理人になるのが夢でしたが、ここで働くようになって、もう一つ夢が出来たんです」
「なに?」
「いつか、私の作った料理をエルティア様が食べて、美味しいと思ってくれますように、って」
「僕?」
「はい、小さいころ、体調を崩した母に簡単なスープを作りました。料理なんてしたことない子どもが作ったスープなんて、しょっぱかったり味がしなかったり、具の大きさもバラバラだったりしたと思います。でも母はすごく喜んでくれた。私は料理で人を喜ばせて、幸せにしたいんです。そしてエルティア様に喜んでもらいたいから、修行頑張ります」
 
 やりたいこと。自分がやりたくて、人にしたいこと。今までそんなことを考えたことが無くて、世界が拓けたように思えた。それから、両親の承諾の元、たまにそのコック見習いのデュークさんに料理を教えてもらった。ただ、デュークさんは伯爵家の専属で、俺に時間を割いてばかりはいられない。もうメインの料理も仕入れも任されてるようで、忙しそうで俺のワガママも言いづらい。
 新しい場所で学ぶことが出来れば、自分の問題が何か分かるかもしれない。それに何よりガルロさんの料理はどれも美味しかった。
 
「分かった。教えてやる」
「本当ですか!?」
「あぁ、だが教える対価にお前の労働力をもらうんじゃなく、うちで働いて、隙間時間や店を閉めてる間に教える、という形ならだ。ちゃんと給料も出す」
「え……それは俺もありがたいですが、押しかけバイトになるんじゃ……」
「オレの嫁さん、今妊娠中で他国の実家に帰ってるんだ。3歳の子どももいるからここじゃ大変だっつってな。数ヶ月して安定期入ったら戻るんだが、どちらにしろ手が足りない。いてくれたら助かる」
「ありがとうございます! 頑張ります!!」
「で、もう一つ条件だ。ここに来るまで、帽子くらい被れ。顔が良いから地味な服を着ても無駄だ、目立つ」
 
 ガルロさんのマルタ食堂で働くことが決まった。
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