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2 ミュートにしてない俺が悪い。

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 ソファーなんてものは無いので、部屋のベッドに2人で座る。今朝までは普段通りだったのに、その後何かあったんだろうか。手を繋いだまま、体をはやての方に向けて表情を伺う。いつも優しい颯がこんな風に落ち込む? というか泣きそう? な感じなのは初めてで、出来るなら元気にさせたいし、俺が聞いて悩みが解決出来るなら何時間でも話を聞く。
 
 
 急かさないように、颯が話したくなったら話して良いよ、という思いが伝わるように、手をぎゅっと握りしめる。本当に話したくないなら、話題にするのも嫌なら、リビングか颯用の部屋に行こうとするだろう。でも動かないってことは俺に聞いて欲しいってことだ。
 そのように解釈し、暫く俯いた颯の顔を見ていた。
 
 
「聞いて欲しい。千紘ちひろに聞いて欲しいんだ。」
 
 心が定まったのか、真っ直ぐに俺を見た。お互いの呼吸音が聴こえるくらい部屋は静かだ。
 
「ずっと、言いたかったんだ。色々とカッコつけたり、予防線張ったりしない。千紘ちひろ、好きだ。オレと付き合ってください。」
 
 颯が、俺のこと好き? 好きって言った!?
 予想だにしない言葉に、俺は間抜けにも口を開けて颯を見る。真剣で、でも緊張と不安を感じさせる顔……。俺がどういう反応をするか、何を言うのか、固唾を飲んで俺を見ている。颯のそんな顔初めて見たな……。
 
 
「俺、颯と一緒にいるの、凄く楽しくて。今が一番楽しいなってよく思うようになって。その、こんなに仲良くなった友達もいなくて、家族よりも気を抜いていられる存在で……。」
 
 
 
 一言一句聞き漏らさないかのように、息をらして俺を待つ颯に、ちゃんと答えようと一生懸命、ゆっくりと言葉をつむぐ。
 
 
「正直、今まで恋愛対象として考えたことなかった。でも、颯に好きって言われて、嬉しいよ。本当に、こう……じわじわと……。」
 
 俺のどこか好きなんだと思うし、でも、嘘やイタズラで告白する人でもないし、心からの告白であったことは、声や表情から伝わってきた。
 
 
 
「ちゃんと答えてくれてありがとう。千紘、今すぐに好きになってとは言わない。これからも今までと変わらず一緒に過ごしたい。その中で、オレと恋愛出来るか、考えて欲しい。」
 
 
「ん……分かった……。ちゃんと考える。少しだけ待ってもらっても良い? あんまり長くは待たせないようにするから……。」
「うん、待ってる。大好きだよ、千紘。」
 
 
 緊張から解き放たれたのか、やっと笑顔になった颯が俺をそっと抱き締める。
 
 トクン、トクン。
 
 颯の心臓と自分の心臓が重なって、同じように鼓動しているみたいに錯覚する。どっちがどっちの心音か、もはや分からないけど、明らかに2人とも早い、よな。
 
 抱き締められ、俺の後頭部に手を添えられたかと思うと、颯の肩に頭をもたれさせた。颯の肩越しに、パソコンが見えた。
 
 
 
 ん? パソコン?
 あれ?
 んん!?
 
 
「だぁー!!!!?」
 
 
 
 俺が唐突に大声を出した為、驚いた颯の抱き締める腕が緩む。
 
 
 あああぁぁぁぁぁ……!
 何故……何故今まで忘れていたんだ……。生配信予定から10分は過ぎてる……! 生配信の予約してマイクのテストしたまま放置してた……!
 まさか、も、もしかして……!? 最悪の事態を想定し震える。
 
 
 
「颯、ごめん。」
 
 何も知らない颯に、耳元で小さく謝罪する。俺が立ち上がろうとしているのが分かったのか、抵抗なく颯から離れられた。
 あわよくば、運良くば、もしかしたらセーフ!? と思ってデスクに駆け寄ると、動画投稿サイトには、俺のパソコンのデスクトップ画面が映っており、横のチャット欄が凄いスピードで回っていた……。…アウト……終わった……。
 
 
 
 ひとまずマイクをミュートにし、チャット欄を確認する。現在より前の分は遡れず読めないが、現時点で、チャット欄は大きな盛り上がりを見せていた。マイクから離れてたけど、これは結構声を拾われてるな……。
 
 
 最後の俺の叫びを聞いた視聴者が
『どうしたー!!?』
『え、そんな、告白してすぐに無体を……?』
『Gがいたんじゃね』
 と審議している。
 
 
 
 まず俺がすべきことは……。
 
「ごめん、颯。今日生配信予定で、自動で配信始まっちゃったみたいで、しかも……マイクが入ってて……。俺たちの今のやりとり全部みんな聞いちゃったみたいなんだ……。本当にごめん……。」
 
 
 
 謝って済むことでもないし、このせいで颯と仲悪くなるの嫌だ。というか、告白されてすぐに嫌われる可能性ある……。自分が悪いのに耐えられなくなって、ツー……の涙がこぼれた。泣いたら颯が気にするし、優しいから、もし嫌でも大丈夫だよって言っちゃうのに……! そう考え、涙が見られないように深くお辞儀をして再度謝った。
 
 
「千紘、気にしなくても大丈夫だよ。もしかしたら収録してるのかな? とは思ってたから。」
「ん? どういうこと?」
「部屋に入った時は分からなかったけど、21時過ぎてからモニターの映像動いてたし、録画ランプ付いてたから、もしかしたらと思って。自分のことでいっぱいいっぱいだったから、話すの後回しにしちゃったんだ、ごめんね。」
「いや、そうだったとしても俺が悪いから……。視聴者も一緒に配信してる颯のこと知ってるし、リトルアースのギルメンとかにも知られるかも。」
「顔も知らない人に告白場面を聞かれたからって気にしないよ。それに……オレが千紘を好きなこと、ギルメンにも学校の友達にも隠してないから。」
「ええー!!?」
 
 
 大学に入って、数多の女の子から告白されまくっていたイケメンが、周りにそんなこと話して大丈夫なのか? いや、イケメンだから大丈夫なのか? 俺と颯の共通の友人も知ってたんだろうか。そんな雰囲気無かったけど……。
 
 
「オレはずっと千紘が好きだったから。だから同棲もしたかったし、一番傍にいたかった。千紘、オレが女の子に呼ばれると遠慮して他の奴とご飯食べたり遊んだりしてただろ。それが嫌で、オレには千紘がいるから『お前たちには興味無い』ということを分かりやすく話したんだ。」
「え、じゃあ告白される度に好きな人がいるって言ったの?」
「千紘が好きだから無理って言った。」
「それは……ストロングスタイルだね。」
「次第に皆から応援されるようになって、今日も『どうしたらカップル成立なるか』という議題で集まってたんだ。オレの押し方が甘い、言葉が足りない、意識させる魅力が千紘に届くのには全然足りない、と散々言われた。とりあえず意識してもらえるように告白した。」
 
 
 少し嬉しそうな颯は、本当に告白が配信されたことは気にしてないみたいだった。オレの流した涙の跡を指で拭ってくれる。颯が今も俺を好きでいてくれることに安心する。
 
 
 
「おれ、颯のこと好きだよ。一緒にいて、幸せだと思う。それが颯と同じ好きなのか、まだ分かんないんだ。ゲームばっかやってて、初恋らしき初恋もしたこと無かったから……。」
「今はそれで良いよ。これからはオレも躊躇なく千紘にアプローチするから、早くオレを好きになって欲しい。」
「う……色々初心者なので程々にお願いします……。」
 
 
 
 
 
 さて、もう大分時間が経ってしまったが、このまま何も言わずに配信を落としたら流石に視聴者ブチ切れ炎上案件になりそうなので、
 
「皆様、たくさんのお祝いの言葉ありがとうございます。配信放置しててすみません。その……ちょっと予定通りゲーム配信出来るような心境と環境じゃないので、後日改めて枠をとります。またお願いします。わざわざ見に来てもらったのにすみません。」
 
 チャット欄では
『良いってことよ』
『予期せず良いものが聞けた』
『2人はいつかそうなるだろうと思ってた先見の明を持つ私を讃えよ』
『大好きな2人が幸せならOKです👌』
『名前バレしたから気を付けな(冷静)』
『今回だけだぞ! だが次も期待(´・∀・`)』
『尊い😭🙏』
『今度の配信でその後どうなったかkwsk』
『どっちがどっち? 凸凹』
 
 といった内容のコメントがまたまた凄まじいスピードで流れていた。最後のは意味が分からん。
 
 
「じゃあ切りまーす。ありがとうございましたー。お疲れ様でしたー! おやすみなさーい!」
 
 そう言って配信停止ボタンを押そうとしたところ、いつの間にか後ろにいた颯がマイクに顔を近付けた。
 
「皆様こんばんは。颯です。せんはオレが死ぬまで面倒見て、必ず幸せにするので、視聴者の方々はご心配なく。オレたちを祝ってくれてありがとう。」
 
 そう言って配信停止ボタンを押した。言い逃げ……! てか死ぬまでって……。
 一緒に暮らしていて、ずっと颯と居れたら良いなって思ってた。正直、すごく好きだ。それが恋愛としてなのか、友達としての情なのかまだ分からないけど、少しずつ自分の気持ちが分かると良いな……。
 
 そう思いながら颯から抱き締められる手を拒むことなく、颯の背中に自分の腕を回した。
 
 
 
 
 
 
 配信後、アーカイブとして残った動画のコメント欄には、
『最後マウントとんなww』
『千めっちゃ可愛かった。彼ピッピ鬼つよ』
『次の配信マダー??』
 
 
 と過去に無い数のコメントが書き込まれ、高評価ボタンも3万回押されていたし、急上昇にも乗った。
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