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プロローグ
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「貴女に一目惚れしました。愛しています」
サラサラな黒髪を靡かせて青い瞳で見つめてくる美青年の一言に眩暈がした。
こんな素敵な人に一目惚れしましたと言われたら舞い上がって喜ぶのが普通の乙女なんだろうけど、あいにく私は全く浮かれた気分にはなれない。
なぜなら薄っすら頬を染めて私に手を差し出してくる美青年は、敵国の王子様なのだから―――。
いやいやいやいや、ないわあ。
眩暈を起こしてフラついた脚に力を込めてその場に踏み止まる。
何故私は敵であるはずの王子から敵国の王座の間で多くの人々の視線に晒されながら求愛を受けているんだろう。そもそもドローシアに来たのは我がグレスデン王国がドローシア王国に信仰を捨てることを宣告するためだ。世界中で信仰される宗教の総本山がここドローシア王国だから、信仰を捨てるということは実質ドローシアと対立するということになる。
元々以前からグレスデンはあまり信仰深い性質ではなかった。そのためドローシアとはあまり折り合いがよろしくなく、お互いの心象は悪くても深く関わらないことで今までは事なきを得てきたのだ。
しかし信仰を捨てることになれば両国の対立は決定的となり、ドローシアはグレスデンにとって名実共に敵国ということになる。そしてそれが本日ここドローシアの城の王座の間で、"グレスデンの棄教宣言"を行い歴史的な一日になる―――はずだった。王子に一目惚れされました、なんて言われるまでは。
目の前にいる敵国、もといドローシアの第二王子ルイスは床に片膝を着いて私を見上げた。
「出会ったばかりで信じてもらえないかもしれないけど、君に出会って僕の世界は変わったんだ。僕の可憐な赤い花、今は君の存在が僕の世界の全てだよ」
また目の前がクラッとした。もしかして笑わせに来てるのかしら。笑って突っ込むのが正解?
世界ねえ。ハア、大国の王子が言うことはスケールがでっかいわ。全くもってついていけない。
「どうか僕の手を取ってくれないか、グレスデンの姫君。僕たちの絆は例え神でも引き裂けないのだと証明したいんだ」
今度は神か。更にスケールが大きくなったところで、私は周りの反応が気になって辺りを見回した。私の隣に居たグレスデン国王であるお父様は目玉が飛び出るくらい大きく見開いてルイス王子を見ながら硬直している。まあ無理もない、私だって他人事だったら普通に驚いていただろうし。
一方、ドローシアサイドの面々も皆同じような顔をしながらルイス王子に注目していた。唯一この場で落ち着いていたのは王座に座っている美麗な顔をしたドローシアの国王陛下。つまりルイス王子のお父様。彼は真顔で完璧な顔を完璧なまま保っていた。さすがだ。
「シンシア?」
ルイス王子に名を呼ばれてハッとした。そうだ、返事をしなければ。
「はい、ルイス王子」
敵とは言え相手は大国ドローシア、唾を吐きかけていい相手ではない。言葉は慎重に慎重に選ぶべきだ。
この場を丸く納めるためには何を言えばいいんだろう。
「ああ、シンシア。君に会えたことに感謝をしたい。これが運命というものなのだろうね」
どう返事するべきか考えている相手にルイス王子は返事を急かしてくる。
「あの、私は、あの、えっとぉ・・・・そうねえ」
「ね、僕たちが手を取り合えばきっと全て上手くいくはずだよ」
「―――その通りだわ!」
そうだ、その手があったわ!
私は身を乗り出すとルイス王子の差し出された手に両手で飛び付いた。
「はい、愛してます、私も」
―――ということにしよう。
そうだ、一目惚れされたのならそれを利用させてもらおう。ドローシアの王子とグレスデンの王女が恋人ともなれば両国の溝も多少は浅くなるだろう。上手く行けば武力衝突の期限を引き延ばせるかもしれない。
“戦争”という二文字が脳裏にチラチラとチラついている今、私には選択肢がなかった。溺れる者は藁をも掴む。悩める私は敵国王子の手だって飛び付く。
たとえ苦しい嘘だとしても!
「シンシア!」
私の愛の告白に感激したらしいルイス王子はガバア!と両手を広げて私に抱き着いた。
「シンシア、君を心から愛している」
「はい、私も。貴方を初めて見た瞬間から心惹かれておりました」
―――ということにさせてもらおう。大事なのは演出だ。私たちに恋が芽生えるなんて両国にとっては完全に想定外。少しでも猶予ができれば・・・・。
私はめいっぱい恥を掻き捨ててルイス王子を抱き返した。ぎゅううっと力を込めて腕を彼の腰に回せばすごくいい匂いがする。切羽詰まった状況ながらイケメンは香りまでイケメンなのか、と感心した。
「ルイス」
そこで初めて私とルイス王子以外の第三者が口を挟んだ。ドローシア国王陛下は王座から私たちを見下ろしつつゆっくりと話し始める。
「その言葉はまことか」
「もちろんです。シンシアを愛しているのは嘘偽りのない事実です」
「此度、グレスデンが友好的な理由で来たわけではないことはわかっているのだろうな」
「わかっています。それでも彼女とならばどんな荒波だって超えることができる」
ちょっとこっ恥ずかしくなってきた。こんなに情熱的に口説かれるなんて色事に免疫のない人間にはむず痒く感じる。そして純粋すぎる彼の言葉に彼を利用している罪悪感で心が痛む。
ごめんね、ルイス王子。でもグレスデンは勝ち目のないドローシアとの争いを避けて穏便に済ませたいのよ。
ドローシア国王陛下はルイスの答えに納得したのかひとつ頷いた。
「よかろう。ならば此度のグレスデンの離反に対する処置は一旦保留とする」
「え!?」
え?本当に?保留にしてもらえるの?
よしっ、と心の中でガッツポーズを作った。私たちにとって一番避けたかった戦争はとりあえず避けられそうだ。こんなにあっさり上手くいくとは思わなかったけど思惑通り。
ただしこの場の全員が諸手を挙げてドローシア国王陛下の案に大賛成・・・とはならない。王座に座っている彼の真隣から非難の声が上がる。
「陛下、どうかそれだけは!もしグレスデンの離反を認めればそれに追随する国が出てきます!そうなれば我が国の権威が・・・世界の理が蔑ろにされることになるのですよ!?
信仰を捨てることなどあってはなりません!」
白い布地に金の刺繍、背中で長髪を束ねているその男はおそらく神官だ。今回の件で一番割を食うのはお布施が減って権威にヒビが入るドローシアの神官庁だから、彼らは何があろうと棄教は認めたくないだろう。本音は今すぐ武力に頼ってでもグレスデンを降伏させたいはず。
「だが王子の恋人の祖国を攻撃するわけにもいかないだろう」
「そんなっ」
無言でアピールすべく私はルイス王子に抱き着いたまま神官の男をじっと見つめた。しかし彼はドローシア国王の方を見ながら口をパクパクさせるのみ。文句を言いたいけど言葉が出てこない、そんな感じだった。
「グレスデンの国王陛下、それでよろしいか」
威圧的に見えるけれど決して無礼ではないドローシア国王陛下の態度に、お父様もしっかりと首を縦に振って同意した。
「これも何かの縁、保留が適切でしょう」
「決まりだな」
ドローシアの陛下の決定的な一言に、へなへな、と力なく地面に膝を着く神官の男。
私も同じく地面に膝をついてしまいそうなほど脱力した。つい先ほどまで戦火が上がる覚悟をしていたからか、どっと安心感が押し寄せてきて大きくため息を吐く。
「シンシア」
ルイス王子に名を呼ばれてハッとした。そうだわ、こっちの問題を忘れてた!
私は慌ててオホホホと愛想よく笑う。
「まあ、ルイス王子、どうしたのかしら?」
「僕の部屋で話そう。長旅で疲れただろう?」
ゆっくりと両肩を掴まれて少し距離を取ると、彼はにっこり笑いながら私の顔を覗き込んだ。部屋で二人きりなんて本当は拒否したいところだけどキラキラの青い瞳で見つめられると断り辛い。
恋愛経験皆無の私に彼の恋人役がこなせるだろうか。不安しかないけれどやり通すしかない。万が一演技だとバレたら、ルイス王子に嫌われたら、保留の件が水の泡になってしまう。それだけは絶対に阻止しなければならない。
「ええ、ぜひ」
ここまで来たら後には退けないわ。女優に成りきって立派に恋人役を果たしてみせる。
私はルイス王子の手に導かれながら鼻息荒く城の奥へと進んで行った。
ルイス王子に連れられて部屋に入った私は息を飲んだ。王座の間も凄かったけどこの部屋もなんて煌びやかなの。いくらお金をつぎ込んだんだろうなんて頭の中でそろばんを弾いてしまう。
知ってはいたけれどドローシアって本当に裕福なのね。建物も身に着ける物も何もかも私が知っているものとは違う。最初は汚すのが嫌でカーペットの上に足を乗せるのも戸惑った。だって素敵な金の刺繍のカーペット、城中の財産かき集めても弁償できないもの。
「あの、ルイス王子?」
二人っきりになってしまった部屋で、精一杯の笑顔を作りながらルイス王子に話しかける。しかし彼は部屋に入った途端私から距離を取って何も話さなくなってしまった。二人きりだから恥ずかしがっているんだろうか。
「お前さあ」
先ほど聞いていた彼の声よりも2トーンほど低い声。
「演技下手過ぎにも程があるだろ、馬鹿じゃないの」
え、誰。
信じられないかもしれないけど、その言葉は確かに先程まで私に求愛していた青い瞳の王子様から発せられたものだった。顔つきが同一人物とは思えないほどの変わり様だけれど。
「この僕に言い寄られてるんだからもうちょっと嬉しそうな顔しろよ、ブス」
「へ・・・?」
ブスですって!?
私は彼のあまりの変貌ぶりと口の悪さに固まって声が出なくなった。
あんたは誰だ!一生懸命愛を囁いていたあのお目めキラキラな王子様はどこ行ったー!?
サラサラな黒髪を靡かせて青い瞳で見つめてくる美青年の一言に眩暈がした。
こんな素敵な人に一目惚れしましたと言われたら舞い上がって喜ぶのが普通の乙女なんだろうけど、あいにく私は全く浮かれた気分にはなれない。
なぜなら薄っすら頬を染めて私に手を差し出してくる美青年は、敵国の王子様なのだから―――。
いやいやいやいや、ないわあ。
眩暈を起こしてフラついた脚に力を込めてその場に踏み止まる。
何故私は敵であるはずの王子から敵国の王座の間で多くの人々の視線に晒されながら求愛を受けているんだろう。そもそもドローシアに来たのは我がグレスデン王国がドローシア王国に信仰を捨てることを宣告するためだ。世界中で信仰される宗教の総本山がここドローシア王国だから、信仰を捨てるということは実質ドローシアと対立するということになる。
元々以前からグレスデンはあまり信仰深い性質ではなかった。そのためドローシアとはあまり折り合いがよろしくなく、お互いの心象は悪くても深く関わらないことで今までは事なきを得てきたのだ。
しかし信仰を捨てることになれば両国の対立は決定的となり、ドローシアはグレスデンにとって名実共に敵国ということになる。そしてそれが本日ここドローシアの城の王座の間で、"グレスデンの棄教宣言"を行い歴史的な一日になる―――はずだった。王子に一目惚れされました、なんて言われるまでは。
目の前にいる敵国、もといドローシアの第二王子ルイスは床に片膝を着いて私を見上げた。
「出会ったばかりで信じてもらえないかもしれないけど、君に出会って僕の世界は変わったんだ。僕の可憐な赤い花、今は君の存在が僕の世界の全てだよ」
また目の前がクラッとした。もしかして笑わせに来てるのかしら。笑って突っ込むのが正解?
世界ねえ。ハア、大国の王子が言うことはスケールがでっかいわ。全くもってついていけない。
「どうか僕の手を取ってくれないか、グレスデンの姫君。僕たちの絆は例え神でも引き裂けないのだと証明したいんだ」
今度は神か。更にスケールが大きくなったところで、私は周りの反応が気になって辺りを見回した。私の隣に居たグレスデン国王であるお父様は目玉が飛び出るくらい大きく見開いてルイス王子を見ながら硬直している。まあ無理もない、私だって他人事だったら普通に驚いていただろうし。
一方、ドローシアサイドの面々も皆同じような顔をしながらルイス王子に注目していた。唯一この場で落ち着いていたのは王座に座っている美麗な顔をしたドローシアの国王陛下。つまりルイス王子のお父様。彼は真顔で完璧な顔を完璧なまま保っていた。さすがだ。
「シンシア?」
ルイス王子に名を呼ばれてハッとした。そうだ、返事をしなければ。
「はい、ルイス王子」
敵とは言え相手は大国ドローシア、唾を吐きかけていい相手ではない。言葉は慎重に慎重に選ぶべきだ。
この場を丸く納めるためには何を言えばいいんだろう。
「ああ、シンシア。君に会えたことに感謝をしたい。これが運命というものなのだろうね」
どう返事するべきか考えている相手にルイス王子は返事を急かしてくる。
「あの、私は、あの、えっとぉ・・・・そうねえ」
「ね、僕たちが手を取り合えばきっと全て上手くいくはずだよ」
「―――その通りだわ!」
そうだ、その手があったわ!
私は身を乗り出すとルイス王子の差し出された手に両手で飛び付いた。
「はい、愛してます、私も」
―――ということにしよう。
そうだ、一目惚れされたのならそれを利用させてもらおう。ドローシアの王子とグレスデンの王女が恋人ともなれば両国の溝も多少は浅くなるだろう。上手く行けば武力衝突の期限を引き延ばせるかもしれない。
“戦争”という二文字が脳裏にチラチラとチラついている今、私には選択肢がなかった。溺れる者は藁をも掴む。悩める私は敵国王子の手だって飛び付く。
たとえ苦しい嘘だとしても!
「シンシア!」
私の愛の告白に感激したらしいルイス王子はガバア!と両手を広げて私に抱き着いた。
「シンシア、君を心から愛している」
「はい、私も。貴方を初めて見た瞬間から心惹かれておりました」
―――ということにさせてもらおう。大事なのは演出だ。私たちに恋が芽生えるなんて両国にとっては完全に想定外。少しでも猶予ができれば・・・・。
私はめいっぱい恥を掻き捨ててルイス王子を抱き返した。ぎゅううっと力を込めて腕を彼の腰に回せばすごくいい匂いがする。切羽詰まった状況ながらイケメンは香りまでイケメンなのか、と感心した。
「ルイス」
そこで初めて私とルイス王子以外の第三者が口を挟んだ。ドローシア国王陛下は王座から私たちを見下ろしつつゆっくりと話し始める。
「その言葉はまことか」
「もちろんです。シンシアを愛しているのは嘘偽りのない事実です」
「此度、グレスデンが友好的な理由で来たわけではないことはわかっているのだろうな」
「わかっています。それでも彼女とならばどんな荒波だって超えることができる」
ちょっとこっ恥ずかしくなってきた。こんなに情熱的に口説かれるなんて色事に免疫のない人間にはむず痒く感じる。そして純粋すぎる彼の言葉に彼を利用している罪悪感で心が痛む。
ごめんね、ルイス王子。でもグレスデンは勝ち目のないドローシアとの争いを避けて穏便に済ませたいのよ。
ドローシア国王陛下はルイスの答えに納得したのかひとつ頷いた。
「よかろう。ならば此度のグレスデンの離反に対する処置は一旦保留とする」
「え!?」
え?本当に?保留にしてもらえるの?
よしっ、と心の中でガッツポーズを作った。私たちにとって一番避けたかった戦争はとりあえず避けられそうだ。こんなにあっさり上手くいくとは思わなかったけど思惑通り。
ただしこの場の全員が諸手を挙げてドローシア国王陛下の案に大賛成・・・とはならない。王座に座っている彼の真隣から非難の声が上がる。
「陛下、どうかそれだけは!もしグレスデンの離反を認めればそれに追随する国が出てきます!そうなれば我が国の権威が・・・世界の理が蔑ろにされることになるのですよ!?
信仰を捨てることなどあってはなりません!」
白い布地に金の刺繍、背中で長髪を束ねているその男はおそらく神官だ。今回の件で一番割を食うのはお布施が減って権威にヒビが入るドローシアの神官庁だから、彼らは何があろうと棄教は認めたくないだろう。本音は今すぐ武力に頼ってでもグレスデンを降伏させたいはず。
「だが王子の恋人の祖国を攻撃するわけにもいかないだろう」
「そんなっ」
無言でアピールすべく私はルイス王子に抱き着いたまま神官の男をじっと見つめた。しかし彼はドローシア国王の方を見ながら口をパクパクさせるのみ。文句を言いたいけど言葉が出てこない、そんな感じだった。
「グレスデンの国王陛下、それでよろしいか」
威圧的に見えるけれど決して無礼ではないドローシア国王陛下の態度に、お父様もしっかりと首を縦に振って同意した。
「これも何かの縁、保留が適切でしょう」
「決まりだな」
ドローシアの陛下の決定的な一言に、へなへな、と力なく地面に膝を着く神官の男。
私も同じく地面に膝をついてしまいそうなほど脱力した。つい先ほどまで戦火が上がる覚悟をしていたからか、どっと安心感が押し寄せてきて大きくため息を吐く。
「シンシア」
ルイス王子に名を呼ばれてハッとした。そうだわ、こっちの問題を忘れてた!
私は慌ててオホホホと愛想よく笑う。
「まあ、ルイス王子、どうしたのかしら?」
「僕の部屋で話そう。長旅で疲れただろう?」
ゆっくりと両肩を掴まれて少し距離を取ると、彼はにっこり笑いながら私の顔を覗き込んだ。部屋で二人きりなんて本当は拒否したいところだけどキラキラの青い瞳で見つめられると断り辛い。
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「ええ、ぜひ」
ここまで来たら後には退けないわ。女優に成りきって立派に恋人役を果たしてみせる。
私はルイス王子の手に導かれながら鼻息荒く城の奥へと進んで行った。
ルイス王子に連れられて部屋に入った私は息を飲んだ。王座の間も凄かったけどこの部屋もなんて煌びやかなの。いくらお金をつぎ込んだんだろうなんて頭の中でそろばんを弾いてしまう。
知ってはいたけれどドローシアって本当に裕福なのね。建物も身に着ける物も何もかも私が知っているものとは違う。最初は汚すのが嫌でカーペットの上に足を乗せるのも戸惑った。だって素敵な金の刺繍のカーペット、城中の財産かき集めても弁償できないもの。
「あの、ルイス王子?」
二人っきりになってしまった部屋で、精一杯の笑顔を作りながらルイス王子に話しかける。しかし彼は部屋に入った途端私から距離を取って何も話さなくなってしまった。二人きりだから恥ずかしがっているんだろうか。
「お前さあ」
先ほど聞いていた彼の声よりも2トーンほど低い声。
「演技下手過ぎにも程があるだろ、馬鹿じゃないの」
え、誰。
信じられないかもしれないけど、その言葉は確かに先程まで私に求愛していた青い瞳の王子様から発せられたものだった。顔つきが同一人物とは思えないほどの変わり様だけれど。
「この僕に言い寄られてるんだからもうちょっと嬉しそうな顔しろよ、ブス」
「へ・・・?」
ブスですって!?
私は彼のあまりの変貌ぶりと口の悪さに固まって声が出なくなった。
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