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迷宮からの脱出
冗談が通じない・オマケ
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とある、レンガに囲まれた部屋の中。一人の男がキャスター付き椅子に座り、パソコンに向かって何やらカタカタと文字を打ち込んでいた、その時。
「マスター、マスター」
「ん? リリア、どうした?」
隣にいた、ゆるく三編みをした白髪の幼女が、男の服の袖をクイックイッと引っ張った。男は一旦作業をやめて幼女─リリアの前にかがみ込み、メガネ越しに目線を合わせる。男は10代だろうか。まだ若いが、目の下には睡眠不足による隈ができていた。
「ボス、倒されたよ」
「! そうか。…教えてくれてありがとうな。」
男がリリアの頭を撫でる。そして顎に手を当て、何やら考え込み始めた。
「強いのを配置した筈…じゃあ、やはり…? いや、だがまだ…''アイツ''には…」
そしてまた立ち上がり、パソコンに向かって何やら打ち込み始める。リリアはその様子をじっと見て、
「どう、するの?」
と不安そうに聞く。男はタァーン! と音を立ててエンターキーを押すと、おもむろに立ち上がり、奥へ続く鉄製の扉へと歩いていった。ドアノブに手をかけて回し、扉を開ける。そして一歩踏みかけ─思い出したようにリリアのほうを振り向き、指示を出した。
「とりあえず、リリアは荷物纏めといて。あっ、僕のパソコン一式には触らないでね。」
「?」
コテン、と愛らしく首をかしげたリリア。だがしばらくして首を縦に振り、指示通りに座布団やら飲み物やらを片付け始める。男はそんなリリアの様子をしばらく見てから、奥の部屋へと踏み入った。後ろ手で扉を閉める。部屋の中は、未使用の生活用品に混じって紙くずや空のカップ麺、空のペットボトル等沢山のゴミが転がっている。男は大袋を手に取った。そしてうーん、と大きく伸びをしてから腰に手を当て、ゴミで散乱した部屋を見回す。
「さてと。最後の大掃除、始めますか。」
~~~
「マスター。おわった?」
「うん、終わったよ。それにしても、大荷物だねぇ。」
「うん。マスターも、ね。」
「あはは、そうだね。」
二人の横にはパンパンに膨らんだ大きめのキャリーバッグとリュックがそれぞれ1つずつおいてある。リリアのリュックからは、棒状の何かが入りきらずに飛び出していた。
「でも、なんで荷物をまとめたの?」
当然の質問をするリリア。
「引っ越しを、するからだよ。」
男は、新たに出現したドアのドアノブに手をかけて回しながら、ニヤリと笑う。
「新しいダンジョンにね。」
「…」
(仮面も、非常階段も用意した。コアもさっき通常より脆くしておいた。もう、僕にできることは無い。せいぜい、脱出後でも頑張ってくれよ。)
男はドアから外へ出る。外は、真っ白で何もない空間だった。唯一、遠くに黒い点が見える。リリアは、それ以上質問をすることはなく、ドアから出ていく男にてくてくと付いていく。
しばらくすると、二人の居た部屋─ダンマスルームは、ダンジョンの崩壊により形を崩してゆき、ついに跡形もなくなったのだった。
「マスター、マスター」
「ん? リリア、どうした?」
隣にいた、ゆるく三編みをした白髪の幼女が、男の服の袖をクイックイッと引っ張った。男は一旦作業をやめて幼女─リリアの前にかがみ込み、メガネ越しに目線を合わせる。男は10代だろうか。まだ若いが、目の下には睡眠不足による隈ができていた。
「ボス、倒されたよ」
「! そうか。…教えてくれてありがとうな。」
男がリリアの頭を撫でる。そして顎に手を当て、何やら考え込み始めた。
「強いのを配置した筈…じゃあ、やはり…? いや、だがまだ…''アイツ''には…」
そしてまた立ち上がり、パソコンに向かって何やら打ち込み始める。リリアはその様子をじっと見て、
「どう、するの?」
と不安そうに聞く。男はタァーン! と音を立ててエンターキーを押すと、おもむろに立ち上がり、奥へ続く鉄製の扉へと歩いていった。ドアノブに手をかけて回し、扉を開ける。そして一歩踏みかけ─思い出したようにリリアのほうを振り向き、指示を出した。
「とりあえず、リリアは荷物纏めといて。あっ、僕のパソコン一式には触らないでね。」
「?」
コテン、と愛らしく首をかしげたリリア。だがしばらくして首を縦に振り、指示通りに座布団やら飲み物やらを片付け始める。男はそんなリリアの様子をしばらく見てから、奥の部屋へと踏み入った。後ろ手で扉を閉める。部屋の中は、未使用の生活用品に混じって紙くずや空のカップ麺、空のペットボトル等沢山のゴミが転がっている。男は大袋を手に取った。そしてうーん、と大きく伸びをしてから腰に手を当て、ゴミで散乱した部屋を見回す。
「さてと。最後の大掃除、始めますか。」
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「マスター。おわった?」
「うん、終わったよ。それにしても、大荷物だねぇ。」
「うん。マスターも、ね。」
「あはは、そうだね。」
二人の横にはパンパンに膨らんだ大きめのキャリーバッグとリュックがそれぞれ1つずつおいてある。リリアのリュックからは、棒状の何かが入りきらずに飛び出していた。
「でも、なんで荷物をまとめたの?」
当然の質問をするリリア。
「引っ越しを、するからだよ。」
男は、新たに出現したドアのドアノブに手をかけて回しながら、ニヤリと笑う。
「新しいダンジョンにね。」
「…」
(仮面も、非常階段も用意した。コアもさっき通常より脆くしておいた。もう、僕にできることは無い。せいぜい、脱出後でも頑張ってくれよ。)
男はドアから外へ出る。外は、真っ白で何もない空間だった。唯一、遠くに黒い点が見える。リリアは、それ以上質問をすることはなく、ドアから出ていく男にてくてくと付いていく。
しばらくすると、二人の居た部屋─ダンマスルームは、ダンジョンの崩壊により形を崩してゆき、ついに跡形もなくなったのだった。
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