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迷宮からの脱出

態度のウラガワ(??視点)

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44階層の階段近く。入り口からでも、この階層が蔦の森という事がうかがえる。その階段の踊り場を背にし私達は、イレギュラーと思わしき人型生命体と対峙していた。ユウヤとエドの後ろから、そっと相手を観察する。

蔦の森を背景に、立っている人型生命体それは女性型、なのだろうか? 吸い込まれるような深い藍色の髪は、胸の辺りまで伸びている。そして驚くことに服を─私達が着るような洋服を着ていた。そして腰には短剣らしき物も。いや、それよりも特筆すべきは彼女(もしくは彼)の顔だ。いや、顔の部分と言った方が正しいだろう。

─顔が、見えない。

いや、前髪に隠れているとか、そもそも無いとかそういう訳ではない。ただ、仮面を付けているのだ。模様も何もない、ただ目の部分だけが空いている無地の仮面。ある人は、仮面なんてどうということないと思うかもしれない。だが、探り合いをする時に顔色を伺えないというのは非常にこちらに不利となるのである。私も詳しくはないが、相手の目線、呼吸、仕草、汗、etc。顔から得られる情報はとても多いそうだ。だが、その判断要素全てが仮面1つにシャットアウトされているというこの不利な状況は、心理学に素人の私でも理解できた。まあ、相手は顔が存在するかも不明だが。もしかしたらのっぺらぼうなのかもしれないし。

リンが相手と話してる間に、私はもう一度こっそりと鑑定してみた。しかし結果は変わらない、「レベル1」の「人間」だ。だけど、私達は騙されない。彼女もしくは彼(もしくは無性別?)は、

イレギュラーだ。

突然変異の個体。存在してはならないモノ。でも鑑定が遅れていたら、私達はホンモノのステータスを見逃すところだった。そう思うとゾッとする。人間だと思い、哀れみ、保護し─後ろから奇襲され全滅。そんな未来が起こっていたかもしれない。幸い、リンとの対話が成立するぐらいに知能は高いようだが。そして、両手を挙げていることもあるし、もしかしたら敵対意識はないのかもしれない。まあそれは、手があろうが無かろうが呪文を唱えれば、魔法が飛び出すようなファンタジーな世界では通じない、意思表示の仕方ではあるが─

─ん? 待って?

? 私今現代の─日本の基準で言った、はず。つまり両手を挙げることはなんの意味もない、では思いつきもしないような意思表示の仕方。

じゃあなんで両手を挙げた?

まるで、丸腰ということを相手に伝えるポーズ。警察に追い詰められた犯人が、何も持っていないことを示すときのポーズ。の、敵対意識は無いことを伝えるポーズ。

思えばこの他にも、の住人ならありえない事がある。例えば衣服。アレはどう見ても、召喚前に馴染みのあった洋服だ。もしかしたら若干素材などが違うかもしれないが、見た目だけならまんま地球のTシャツとジーンズである。この世界の科学レベルは、魔法という特殊なものがあるせいかあまり進んでいない。化学繊維が無いと言えば程度が知れるだろうか。

上下セパレート型の衣服は、冒険者ならそこまで珍しくはないが。鎧などを一切つけずにまるで普段着のような格好でいるのはやはり不審であるとしか言えない。と、リンもこのことに気付いたようで─いや、最初から念頭に置いて問答をしていたのだろうな。私と違って頭が良いから。─それはともかく。これらの事柄は、相手のなんとなくの境遇を察するには十分だった。あの人はきっと、

地球人だ。

詳しい経緯は分からないが、何らかのカタチでこちらに飛ばされたんだろう。更に、こんな危ない場所にいて、まだ4んでないということは、こちらに来てまだ日が浅いということ。もしくは、見えなかったステータスが実はとても凄かったかの、どちらかだ。そして何より、異世界転生・召喚モノの小説が大好きな私の勘が、直感がそう告げている─気がする。まあ、日本人とは断言出来ないのが悲しいところだが、同郷と知れただけで充分だろう。だが、何故仮面をしているのだろうか。

顔を見られたくないから? 
理由は、3つ考えられるな。
その1、恥ずかしい説。確かに、顔を見られたら恥ずかしいと思う人も増えてきているようだが…なんとも言えないな。
その2、メデューサ説。メデューサみたいに、相手を直接見たら、石にかどうかはともかく、何かしら影響を与えてしまうのかもしれない。つまりは自分の都合ではなく、相手を想っての仮面ということ。
その3、好奇心説。すべての人が明確な理由を持って行動をしているわけではない。したがって、好奇心によって仮面を被ったという説だ。とある登山家が、そこに山があるから登るというような名言を言っていたがまさしく、そこに仮面があったから被った、というような1番なさそうでいて1番ありそうな説である。

まあ、これは保留にしておこう。考えても仕方がないことだ。というか当て推量で勝手に判断してしまったから、なんだか顔を合わせるのが気まずい。相手の顔は仮面で見えないけど。しかも、いつの間にかダンジョン攻略に同行することになっている。あぁ、顔があげられない。ひとまずは、エドの後ろに隠れさせてもらおう。というかなんか魔物一瞬で倒してたのだが。やっぱり生き残っていたのは、強いからかもしれない。ステータスは???ばかりだったが、それは単に私達の力の差がありすぎて見えなかっただけでは? という推測もできる。私、こういうの知ってるぞ。何回もこんなふうな小説なり漫画なりを読んできた。

チートというヤツだ。

~~~~

最下層へ来た。それにしても、ダンジョンに非常階段というものが存在していたとは。あとで報告せねばならないだろう。それにしても、相手から─ユウから日本人だと名乗ってもらえて助かった。これからは負い目を感じることなく接せる。というか、日本人だったのか。やはり同国出身というだけでも嬉しいものだ。1度は、平行世界パラレルワールドの日本かもしれないという憶測も浮かんだが、会話していくうちに色々一致する事があると分かったのでその可能性はすぐに除外した。だが、話していくうちに分かったことがある。最初は話の内容に違和感がある気がするという程度だったが、ユウがこっちへ来た理由を聞いて、確信に変わった。

ユウは、生前の─前世の自分の事を一切話さないのだ。東京やスタバ、転○ラといった場所や有名人の人名、アニメの名前などのワードは出てくるものの、ユウの友達や家族については触れない。それが意識的なのか無意識なのかは定かではないが、此方こちらからほぼプライベート─個人情報とも言えるそれを聞くというのは無粋だろう。それなら私は、ユウが話してくれるまで待っているほうが良い。

いつか、もっとフランクな関係になったら、ユウから聞けることを願って。
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