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ラング・ド・シャ

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 木乃葉が私に抱きついてくる。
 私はそれを受け止めた。

「私、木乃葉のことが好きだからさ」

「ふひひっ♪ お姉ぇ~♡」

 私たちは見つめ合うと、そのまま唇を重ねた。

「お姉……好きぃ……ちゅっ……んっ……」

「私も……んっ……ちゅっ……」

 舌を絡ませながら、お互いを求めあうようなキスをする。えっ、ちょっと待って、私たち今何してるんだろう……?
 本当にその場の雰囲気に乗せられたところはあるけれど、姉妹でこんな濃厚なキスをしてしまうなんてなんだか複雑な気分だった。普通こういうのって、恋人同士でやるよね? 私でいうと緋奈子みたいな人と……。
 でも、木乃葉とキスをした瞬間、なんだか少し力が湧いてくるような──木乃葉から不思議な力が流れ込んでくるような。そんな感覚がしたのだった。そして、木乃葉の身体が淡く光り出す。

「これって……」

「お姉、愛してるよ」

 木乃葉はそう言うと、私から離れた。その表情は何か強い覚悟のようなものに満ちあふれていた。私はなんとなく嫌な予感がした。

「……木乃葉?」

「大丈夫だよお姉。なんの心配もいらないから。──ほら、今日は疲れたでしょ? 部屋に戻って休みなよ。睡眠不足は美容の敵だよー?」

「う、うん……じゃあおやすみ……」

「ばいばい、お姉」

 木乃葉の言うとおり疲れきっていた私は、最後の挨拶に違和感を覚えたまま、部屋に戻ってそのままベッドに飛び込んだのだった。


 ☆☆☆


 次の日、学校に行く準備をして玄関の郵便受けを覗くと手紙が来ていた。
 宛先は私と木乃葉の連名で、差出人は『魔法少女協会会長 延原 聖悟』となっている。マスターさんだ。早速住所も把握されているし、木乃葉が楓花ちゃんの前で「お姉」と何度か口走ってしまっているため、マンゴープリンちゃんの正体もバレている。──まあ緋奈子にもバレたし仕方ないか。

 手紙を開いてみると、こんなことが書いてあった。


『先日はすまなかった。【マンゴープリン】をおびき出すために遥香くんを餌にするような真似をしてしまったことは申し訳なかったと思っている。
 我々にとって君たちが危険な存在ではなさそうだということがわかった今、これ以上君たちに関わることは避けようと思う。魔法少女【マンゴープリン】の戦闘については私の会長権限で許可してあるから安心してくれたまえ。
 だが、敵は着々と人類の支配──または殲滅の準備を進めている。【マンゴープリン】を狙う幹部ヴィランもいると聞いた。
 必要であればこちらも手を貸そう。こちらが危ない時は手を貸してくれるとありがたい。
 何かあった時の連絡には、先日【コットンキャンディー】が手渡したアイテムを使用してくれ。以上だ』


 なるほど、アスモデウスについても緋奈子からの報告書で把握済みというわけか。
 でも、魔法少女協会がいざという時に力になってくれるのは心強いかもしれない。……マスターや楓花ちゃんは私を騙していたから、まだ疑っているところはあるけれど、ヴィランの幹部連中相手に木乃葉と緋奈子だけでどこまで戦えるか怪しい。
 昨日のワンちゃんも木乃葉は余裕ぶっていたけれど、奥義を使ってやっと倒せたみたいな感じだったし、緋奈子に至っては手も足も出なかった。今は少しでも仲間が欲しいところだ。

(放課後、木乃葉に教えてあげよう)

 そう考えて、私は学校に急いだ。


 教室に着くと、緋奈子は休みだった。心配になった私は、休み時間に緋奈子の携帯に電話をかけてみるが、彼女は電話に出ることはなかった。メッセージアプリにも、メールにも返信はなし。完全に音信不通だ。

「どうしたんだろ……」

 いつもは当たり前に近くにいた親友がいなくなるとなんだか寂しい。まさか、ヴィランにやられたり……してないよね? そんな不安が頭をよぎる。空に目をやるが、いつもの空だ。──ということは、多分幹部クラスのヴィランは現れていない。
 いくら緋奈子が新米魔法少女とはいえ、雑魚ヴィランにやられるなんてことはないと信じたい。
 なんとなくソワソワしながら授業を受け、家に帰ると真っ先に木乃葉の部屋に向かった。

「木乃葉ー、いるー?」

 返事はない。寝てるのかな、珍しい。いつもはスマホをいじったり漫画を読んだり、ゲームをしたり変な体操をしていたり、昼間は基本的に起きているのに。

「入るよ」

 一応声をかけてからドアを開けると──木乃葉はいなかった。

「あれ? トイレとかかな」

 その時ふと、最近新調されたであろう机の上に紙と少し膨らんだ封筒が置かれていることに気づいた。封筒は封がしてあり『親展! お姉以外開けないこと!』と書かれていた。紙にはこう書かれている。


『愛しのお姉へ──お出かけしてくるね。すぐに帰るから心配しないで! もし危ないことが起きたら、封筒の中身を使ってね。──かわいい木乃葉より』


「お出かけってどこに行ったの?」

 まあ木乃葉も女の子だから突然買い物に行きたくなる時もあるだろうけど……。それにしても朝に一言くらい言ってくれたらいいのに。やっぱりまだ怒ってんのかしら。

 とりあえず私は、封筒を手に取ってみた。触った感じ中身は布っぽい。ハンカチとかマスクとかそんな感じだろうか。これが危ない時になんの役に立つのか分からない。しばらく考えたが、特に思いつかなかったので諦めて部屋を出ることにした。


 それから何時間経ったのだろうか。
 私は夕飯も食べずに木乃葉の帰りを待っていた。だけど、一向に帰ってくる気配がない。さすがに心配だ。
 もしかしたら本当に危険な目にあってるんじゃ……そう思った瞬間、私はいてもたってもいられなくなった。

「木乃葉がいないの。ちょっと探しに行ってくる!」

 お母さんに声をかけてから家を飛び出した。


 ☆☆☆


 家の近くの公園、駅前商店街、コンビニ、スーパーなど、木乃葉が立ち寄りそうな場所を探して回ったけれど、どこにもいない。
 もう夜の8時過ぎだ。

「どこに行ったんだよぉ……」

 私はすっかり疲れ果てて、ベンチに座っていた。

「もしかして、木乃葉は自分が私の近くにいると私がヴィランに狙われて危険な目にあうとか思ってるのかなぁ……」

 そう思うと一気に涙が溢れてきた。

「うっ……ひぐぅ……」

 こんなことなら無理矢理にでも引き止めればよかった。木乃葉は優しいからきっと私のために出て行ったんだろう。でも、そのせいで木乃葉を失うことになるなんて絶対に嫌だった。
 その時、ポケットの中のスマホが震えた。
 画面を見ると【緋奈子】の文字。緋奈子からの着信だった。

「もしもし緋奈子!? 今どこにいるの?」

「ハルちゃん、落ち着いて聞いて。木乃葉──マンゴープリンちゃんがアストラルゲートを開いたの」

「え? アストラル……? どういう事?」

「アストラルゲート──ヴィランはそこを通って冥界から攻めてくるって言われているゲートのこと。今まで理論上存在することはわかってたけど、開くことはできなかった。……木乃葉ちゃんはどうやったかは分からないけど、その門を開いて冥界に行っちゃったの」

「それじゃあ……木乃葉はどうなっちゃうの!?」

「冥界のことは本当によく分かってないの……とりあえず私は木乃葉ちゃんを追って冥界に行ってみる。だから……それだけ伝えておきたくて」

 間違いない。木乃葉も緋奈子も死を覚悟している。それなのになんで……どうして私はこんなにも無力なのだろうか。妹と親友が強大な悪に立ち向かっているというのに、指をくわえて見ているしかないなんて……!

「……わかった。気をつけて……帰ってくるの待ってるね」

 私は電話を切ると立ち上がり、駆け出した。どこへ向かえばいいのかも分からない。だけど、こうして何もしないよりは何か行動を起こしたかったのだ。
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