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第1章 守護龍の謎

第12話 夜盗を退治します

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 ***


 国王ヨアヒム1世は、苛立ちをあらわにしていた。数日前、突如として邪龍と思われる魔物が王都の修道院に現れ、修道院を破壊した後飛び去って行方が分からなくなったのである。

「彼奴等、儂の顔に泥を塗るような真似をしおって……シドニウスやフリーダは何をしている……」

 ヨアヒムが椅子の肘掛を苛立たしげに殴りつけた時、唐突に国王の目の前に黒いローブを身にまとった女性が現れた。

「……フリーダか、驚かせるな」
「ふふっ、申し訳ありません」
「なんの用だ? 儂が今すこぶる機嫌が悪いのは知っておるな?」
「ええ、しかし国王陛下もきっと喜んでいただけるご報告を」
「……申してみよ」

 フリーダは恭しく一礼すると、ヨアヒムの顔を見上げながら報告した。

「ドラゴンライダーどもの居場所が分かりました。彼らは辺境の村に潜伏しているようです」
「場所が分かったのなら、何故始末しに行かない? 早めに始末した方が良いと貴様も言っていたであろう?」
「いえ、状況が変わりました。彼らを利用してはどうかと」
「なんだと?」

 ヨアヒムは眉をひそめて続きを促した。

「この国には密かに国王陛下に反旗を翻す機会をうかがっている貴族がそれなりにおります。国王陛下が直々に動けば角が立ちますが、代わりにそれらを邪龍に始末させれば良いかと」
「……なるほど、上手くいくのか?」
「幸い、女神ソフィアの力も戻りつつあります。あの災厄をもう一度……そして、国王陛下は再び英雄としてその地位を磐石なものにできるでしょう」

 フリーダの言葉を聞いたヨアヒムはしばらく思案していたが、やがて口を開いた。

「……では早速取り掛かれ」
「仰せのままに」

 頭を下げたフリーダがローブのフードの下でニヤリと笑ったのを、ヨアヒムは知る由もなかった。


 ***


 俺は村の長老に、ドラゴンライダーであることを打ち明けることにした。宴が終わったあとに話があると言って長老の家を訪れると、白ひげを蓄えた長老は俺たちを温かく迎えてくれた。

「君たちは村の英雄じゃ。何でも言ってみるがよい。力になろう」
「頼みってわけじゃないんですが……お話がありまして」
「話してみなされ」

 長老はクセなのか、白ひげを触りながら続きを促してくる。俺はチラッと隣のフラウの方を伺うと、意を決して打ち明けた。

「実は俺は、ドラゴンと共に戦う戦士──ドラゴンライダーなんだ」
「なんと……!」
「驚かれるのも無理はないと思う。俺もつい最近までドラゴンは恐ろしい存在だと思っていた。でも違ったんだ。フラウと一緒に旅をしているうちに、ドラゴンの本当の姿を知った。ドラゴンは人間の味方だったんだよ」
「ふむ……ではそこのお嬢さんの正体は、かの有名な邪龍というわけなんじゃな?」
「……端的に言うとそのとおりだ。でも彼女は人間を襲わないだろ?」

 長老は顎に手を当てて
 考え込むような仕草を見せたが、しばらくしてから顔を上げた。

「ドラゴンの本性については、わしもよく知っておるつもりじゃ。確かにドラゴンは、普段は温厚で争いを嫌う種族じゃ。しかし一度牙を剥けば、たちまちのうちに全てを焼き尽くす。それは歴史が証明しておる」
「……」

 隣でフラウが首を振った。やはり受け入れてもらえないのか。が、長老はふと顔を上げると、笑みのようなものを浮かべて俺を見た。

「しかし、君と彼女が村を救ってくれたのもまた事実。それには感謝をせねばなるまい」
「わかってもらえるか!?」
「もちろんじゃとも。恩を仇で返すような薄情な真似はせんよ。願わくば、これからもこの村を守ってくれるとありがたい」
「ありがとう!」

 俺は深々と頭を下げた。これで第一関門突破だ。恐らくドラゴンが悪者であるという固定思想を植え付けられていた長老に対して、ドラゴンが人間の味方であることを理解してもらうことができたのは大きな前進だろう。
 あとは女神や王族がフラウやマリオンにした仕打ちを話さなければならないが、これはすぐには受け入れてもらえなそうなので、次の機会にでもしようか。

「さあ、そしたら今度は村を襲う夜盗を退治しに行くとするか」
「なんと、フェンリルだけでなく、夜盗も退治してくれるというのか!」
「さっき村を守ってくれって頼まれたからな」
「そうじゃな……。ならばぜひ頼むとしようかのう」
「ああ、任せておいてくれ」

 こうして俺達は、再び村を守ることになった。とはいえ、今度は強力な魔物ではなく人間が相手だ。ドラゴンライダーの力をもってすれば、そこまで手こずる相手ではないだろう。

「よし、じゃあさっそく行こうか」
「はい! 行きましょう!」

 フラウは張り切った様子で返事をした。そんな彼女の様子を見ていた長老が、感心したように言った。

「いやはや、まさかドラゴンと人間の絆がこれほどとは思わなんだ。まるで長年連れ添ってきた夫婦のようではないか」
「ま、まだ違いますよ……」

 フラウは恥ずかしそうに頬を赤らめた。俺もちょっと照れ臭くなって頭を掻いた。確かに、俺とフラウはもはや一心同体のような関係になっていたが、実は彼女と出会ってからそれほど日にちは経っていないのだ。

「それじゃ、行ってくるよ」
「うむ、頼んだぞ」

 その日は長老の家に泊めてもらい、翌日長老に見送られて家を後にすると、俺とフラウはフェンリルと戦った森とは反対側の荒地に向かった。
 そこには、かつて他の村があったという廃屋が立ち並ぶ場所があり、夜盗どもはそこを根城にしているらしい。

「さて、どこにいるかな?」
「私が見つけてきましょうか? 人間なら匂いで分かるので」
「じゃあ、お願いするよ」
「わかりました」

 フラウは目を閉じて意識を集中させると、鼻をくんくんさせた。しばらくそうしたあと、「あっちかと思います」と言って走り出したので、俺はその後を追いかけた。
 フラウは荒地の中を駆け抜けると、やがてある地点で立ち止まった。そこは特に廃屋が密集している箇所であり、夜盗が隠れるにはうってつけに思われる。

「ロイ」
「ここら辺か?」
「はい、ここにいますね」
「なるほど、確かにそれっぽい雰囲気はあるな」
「どうしますか? 早速乗り込みます?」
「いや、人違いの可能性もあるし、とりあえず探ってみるかな」
「分かりました」

 フラウはこくりと首肯した。俺は腰に差した剣の柄を握ると、ゆっくりと歩き始めた。そして周囲に気を配りながら進んでいく。
 するとその時だった。

「きゃぁぁぁっ!?」

 という悲鳴を残してフラウの姿が消えた。

「フラウ……!」
「グハハッ、こんなところにノコノコ現れてくれるなんてな。バカな奴だよお前は」

 見ると、いつの間に現れたのか、一人の男が立っていた。身長は俺より二回り以上高く、かなり体格の良い男だが、それ以上に目を引く特徴があった。それは頭から生えている角である。男は鬼族──オーガであった。
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