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第24話 いただきます

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「ねえ、アルくん。今から何が起きるのかな? 無事に帰れるかなぁ」
「僕にも分かりません。だけどきっと凄いことが起きますよ」

 二人の後ろでは不安そうな顔をしたクロエとワクワクしてしょうがなさそうなアルフォンスが歩いている。

 すると、突如として目の前に小柄のゴブリンの群れが現れた。その数十匹ほど。こちらにシーフがいないので、だいぶ接近を許してしまった。だが、それでも余裕で対処できる数だ。

 俺は魔剣『リンドヴルム』を抜くと、すぐに駆け出した。剣を振りかざし、勢いよく斬りつける。ゴブリンは反撃する動きを見せたが、それは訓練相手だったルナの動きに比べて圧倒的に遅くて、もはや止まって見えるほどだった。

「ハッ!!」

 俺は次々と襲い掛かってくるゴブリンたちを軽々と斬っていく。魔剣は想像以上に軽く、振りやすい。魔剣の力も相まって、一撃食らわせるごとにゴブリンは簡単に両断されていく。俺はあっという間にゴブリンの集団を壊滅させた。
 俺は魔剣を一振りし、刀身に付いた血を払うと、再び鞘に納めた。

「さすがです、リックさん!」
「魔剣『リンドヴルム』。噂通りの強さですね!」

 俺の戦いを見て、目を輝かせているノエルと興奮を抑えられない様子のアルフォンス。一方、後ろの方でクロエが「嘘でしょ……?」と呆然としていた。

「やっぱり、ゴブリン程度では相手にもならないな。これも『リンドヴルム』と、ルナの稽古のお陰か」

 俺は魔剣を見つめながら呟いた。ルナと別れた時は正直こんなに強くなったとは思わなかった。やはり努力すれば人は強くなれるものだ。そう思いながら、クロエたちのもとへ歩いて戻る。クロエと目が合うと、彼女は呆れた様子で口を開いた。

「……今のは一体なに?」
「え? ああ、ゴブリンのことか。ちょっと手こずったが、これくらいなら俺一人だけでもなんとかなるな」
「そうじゃなくて! ……まあいいや、次は私にやらせて」

 クロエがそう言うと、俺は素直に先導役を交代することにした。クロエはこのダンジョンは初めてとはいえ、上層部なら下層部に比べて現れるモンスターの強さも大したことない。この程度の雑魚で手間取るようなら、デスナイトを倒すなんて夢のまた夢だ。

「よし、行ってこい」
「言われなくても!」

 クロエは得物である短剣を手に、俺たちの前に出て歩き始めた。
 しばらくすると、またゴブリンの群れが現れてきた。今度は三匹だ。しかし、その程度なら慣れないクロエ一人でも充分倒せるはずだ。クロエは臆することなく前に出ていく。
 クロエが近づくと、ゴブリンたちは彼女を囲むように動いた。クロエはゴブリンの動きを見ると、素早く横へ動き、回り込むように迫る一匹の攻撃を難なくかわす。それから素早い動きで別の二匹の懐に入り込み、同時に切り裂いて撃破した。
 クロエは最後の三匹目に向かうべく走り出す。予想通り、俺と同じくルナに鍛えられたクロエの動きにはほとんど無駄がない。
 クロエはそのまま最後のゴブリンに詰め寄る。そして、飛び上がりつつゴブリンの首筋に刃を突き立てた。
 次の瞬間、首を刺されたゴブリンは崩れるように倒れた。他の二人も驚いた顔を浮かべる。

「クロエさんさすがです」
「実戦が初めてにしては素晴らしい動きだと思いますよ」

 ノエルとアルフォンスの言葉を聞いて、クロエはとても嬉しそうにしていた。ルナによると、クロエは俺よりもステータスが高いらしい。つまり、俺にできることは彼女にもできるということだ。

 そして、俺たちはダンジョンを進み始める。その後にも数回ほどゴブリンに遭遇したが、いずれも俺が一瞬で片付けた。その度にクロエは驚いている。

 そんな感じでダンジョンを進み、次第に下層へと下っていった。ここからは強力なモンスターも現れ始めるだろう。俺は気を引き締めて進んでいく。すると──

「きゃあ!」

 前方から突然悲鳴が聞こえた。どうやら何かとぶつかったようだ。俺はすぐさま声のした方へ向かう。そこには尻餅をついたクロエと、彼女の前で立ちはだかる一つ目の巨人の姿があった。サイクロプス。以前戦ったことがあるが、再生能力があり厄介な相手だ。

(やっぱり探索スキル持ちがいないと接敵は避けられないか……! しかし、まさかここで会うことになるとはな)

 心の中で思う。サイクロプスはクロエに標的を定めたようで、こちらに振り返った。

「リックさん、合わせてください。この程度なら私でも」
「……ああ! やってみる!」

 黒魔導師のノエルが、杖を構えて魔法を唱え始める。俺はそれを見てすぐに駆け出し、ノエルの前に出た。

「『ファイヤーボール』」

 ノエルの放った火の玉は見事に命中して爆発する。だが……
 煙が晴れると、そこには傷一つついていないサイクロプスがいた。ノエルの攻撃など物ともしないようだ。だが、これはただの牽制。サイクロプスの攻撃対象をクロエから逸らすためのものに違いない。だから、俺はその隙をついて一気に距離を詰めた。
 魔剣を抜き、上段からの斬りつけを放つ。

 ガキィッ!! 

 金属が擦れ合う音がして、俺の一撃はサイクロプスの棍棒に受け止められてしまう。俺は一旦、飛び退いて仕切り直した。

「くっ……」

 剣を振ってみると、少し手が痺れる感覚がする。だが、剣は無事だし大丈夫そうだ。やはり魔剣は強い。俺は魔剣に感謝しつつ構え直す。すると、サイクロプスが先に攻撃しかけてきた。俺は横に飛んでそれをかわす。すると、すかさずもう一撃繰り出された。今度はしゃがみこんで避け、そのまま低い体勢のまま突進して懐に入る。そして、脇腹を斬りつけた。確かな手応えを感じる。

 視界の端でノエルが再び魔法を放とうとしているのが見えたので、俺は斬りつけざまにその勢いを利用してクロエを助け起こし、そのままサイクロプスから距離をとる。

「『デス・グラビティ』」

 ノエルの黒魔術でサイクロプスは強力な重力に潰されそうになるが、なんとか耐えていた。身動きが取れなくなったサイクロプスにノエルが歩み寄る。

「いただきます」

 そう呟き、ノエルが杖の先端で一度地面を軽く突いた。──すると、地面に黒い影のようなモノが現れたかと思うと、そいつは大きな口を空けてサイクロプスを丸呑みにして瞬時に地面に消えていった。
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