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第5章 魔法天使プルシアン・ブロッサム

はうとぅー☆ふぁんさーびす

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 ――ブゥン!


 結衣香さんのライトブレードが唸り、青い光がキャンサーと名乗った少女を襲います。キャンサーは後方にステップを踏みながら大鎌を横一線に振るいます。


 ――ビュンッ!


 と風を切る音がしました。結衣香さんはそれを体をそらすことでかわします。

「甘いわ!」

 大きな武器を振るったせいでできた敵の隙、結衣香さんはそれを逃しません。前に跳んで一気に距離を詰めると、ライトブレードで容赦なく突きを放ちました。

「甘いのはどっち? ――考えもなしに突っ込んで――通用するのは格下だけ」

「……ぐっ!?」

 苦悶の声を上げてその場に崩れ落ちる結衣香さん。見ると、キャンサーが大鎌の柄の部分で結衣香さんの腹部に一撃加えていたようでした。――わざと隙を見せて結衣香さんを間合いに誘い込んだ。その上で命を奪わずに確実に戦闘不能にするとは……彼我の実力を正確に把握していないとできないことです。

 彼女が言うとおりあたしたちと戦う気がないという言葉を信じるしかないでしょう。あたしたちより強い彼女が、仕掛けるならいくらでも隙はあったはずです。


「――キャンサー……といいましたね」

「――うん」

 あたしが話しかけると、キャンサーは途端に顔を赤くしてもじもじし始めてしまいました。緊張しているのでしょうか? 可愛らしいですね。

「あたしの……これを治してくれるのですか……?」

「――うん」

 キャンサーはもう一度頷くと、近くまで歩いてきました。そしてどこへともなく大鎌を仕舞うと、相変わらずもじもじしながら口を開きます。

「ボク、愛留ちゃんのファンで――」

「いたたたっ……」

 ファンがいたことは嬉しいのですが、そこであたしの身体を再び激痛が襲い、あたしはお腹を押さえて悶絶しました。

「――すぐ良くなるから――ちょっと我慢して」

 キャンサーはあたしの身体を正面から抱きしめるようにすると、素早くあたしのスカートを捲ってお尻の辺りを触りました。

「ちょっ!?」

 動揺したのも束の間、なにかチクッとするような感覚があって、キャンサーは手を離してくれました。

「ごめん――注射するのにお尻が一番痛くなくて――患部にも近いいからよく効くの――」

「な、なにしたんですか!?」

「免疫機能を麻痺させる薬を注射したの――エリクサーの拒絶反応って、機獣の組織を身体が受け入れられずに身体の免疫機能が機獣化した体組織を攻撃し始めることで発生するから――でも大丈夫。しばらくしたら免疫機能も機獣の体組織を受け入れてくれるから、それまでは少し働きを弱めるの」

 そういえばお尻を触られたことにびっくりして忘れていましたが、あたしのお腹の痛みは嘘のように消えていました。とにかくキャンサーがあたしを助けてくれたことは確かなようです。

「確かに、痛みはおさまってます……ありがとうございます」

 あたしがお礼を言うと、キャンサーは照れくさそうな表情を浮かべました。

「よかった。――間に合ったみたいね」

「……ちなみに間に合わないとどうなるんですか……?」

「免疫機能が勝っちゃうと、身体が壊れる。――筋肉とか骨とか、ボロボロになって死ぬ。機獣の体組織が勝つと、機獣になる。――バランスが難しい」

「……なるほど、それは確かに笑えないですね。でもどうしてあたしだけそんなことになったんでしょう?」

「愛留ちゃん、自分がどれだけ優れたスペックを持っているのか。わかってないの?」

 その言葉にあたしは首を傾げました。お父さんからあたしが生まれつき規格外の適合率を誇っていることは聞かされていましたが、それ以上のことは正直よく分かりませんでしたし、お父さんもあまり多くを語ってくれませんでした。

「キャンサーさんはなにかご存知なんですか?」

 あたしが尋ねると、こくりと頷くキャンサー。

「――人間よりはよく知ってる」

 ……この子、先程の「人間としての名前はない」という言い草とか、その他の言動から判断して……

「キャンサーさん――あなたは……?」

「――ボクはアトランティスの――黄道十二宮《ゾディアック・イクリプス》の一員。――愛留ちゃんたち人間が『未確認』と呼ぶ『古代アトランティス人』の生き残り」

「……」


 にわかには信じ難い話でした。あたしも超文明を築き海に沈んでいった大陸、アトランティスの話は聞いたことがありますが、それは噂話というか都市伝説とかそのような話だと思っていました。しかも、そのアトランティスに住む人々が『未確認』の正体だったとは……。しかし、それならば『未確認』の姿が人間に酷似しているのは頷けます。

「……つまりあたしたちの敵ということですよね? なぜあたしを助けるんですか? 放っておけば人間の戦力を削げるのに」

 不思議に思ったあたしの問いかけに、キャンサーはニコッと微笑みました。

「――だったんだけど、。――愛留ちゃんに会うために」

 キャンサーはそう言うと、着ていたローブの中からなにか仮面のようなものを取り出しました。そういえばそれと似たようなものを柊里さんが戦った『未確認』が身につけていたような気がします。

 仮面を掲げたキャンサーは、それを思いっきり地面に叩きつけました。そして右足でゲシゲシと踏みつけ始めます。あっけに取られているあたしの前で、仮面は粉々になってしまいました。

「どうして……」

 キャンサーの行動はよく理解できませんでした。なぜあたしに会うためだけに所属していたところを離れるのか……。

「――それが、ファンっていうものでしょ?」

「よく分かりませんけど……」

 あたしが呆れていると、キャンサーはまた身体を近づけてきました。

「助けてあげた代わりにというか――一つだけお願いがあるだけど」

「――なんですか?」

 なんにせよ、この子があたしの命の恩人であるということに変わりはないのですから、できる限りのことはするつもりでした。もちろん、人間を裏切ることはするつもりありませんけど。


「――ボクを愛留ちゃんの――専属マネージャーにして欲しい。――愛留ちゃんのそばにいたいの」

 こいつ典型的なストーカータイプでは……? しかし、拒絶すると拗れるのがストーカーというものです。しかもやたらと強いですし。
 見たところあたしに好意的のようなので、そばに置いておいても問題はないでしょう。『青海プロダクション』の社長さんも話せばわかってくれそうです。問題はお父さんが許してくれるかですが。

「大丈夫だと思いますけど……そうですね。名前が必要ですね。いきなりアトランティス人を連れてきたなんて言ってもみんなびっくりしちゃいますし……」

「――人間としての名前はない」

「ではあたしがつけます。――美留《みる》。坂本《さかもと》 美留《みる》とかどうですか?」

 適当につけた名前です。あたしと似た髪色だったので、あたしと似た名前にしました。気に入ってもらえるか分かりませんが……。

「さかもと……みる……」

「気に入りませんか?」

「ううん――愛留ちゃんがつけてくれた名前ならなんでも。お礼にボクも一つ教えてあげる」

「なんですか?」

 その後、キャンサー――いや、美留さんの口から発せられた内容はあたしにとってとても衝撃的なものでした。


「愛留ちゃんは――自分のお母さんのこと、覚えてる?」

「お母さんですか……いいえ。小さい頃に機獣にやられたとお父さんからは聞かされていましたけど……」


「お母さんは生きてるよ。――

「!?」
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