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第5章 魔法天使プルシアン・ブロッサム

ねばねば☆ぎぶあっぷ

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「えっ?」

 マネージャーさんが首を傾げると同時に、華帆さんが大声を上げました。

「弱小事務所がぁぁぁっ!! 舐めんなよ!! あたしはアイルのエースなのよ!!」

「落ち着いて秋茜さん! こんなことする理由を聞かせてください!」

 彩葉さんの声掛けにも聞く耳を持たないようです。

「うるさぁぁぁいっ!!」


 ――ゴッ!!


 轟音が響きました。華帆さんの近くから何かが猛スピードで飛んでいって、橋脚にめり込みました。

「笑鈴っ!!」

 彩葉さんの言葉で、華帆さんが錨(アンカー)を手繰り寄せて笑鈴お姉ちゃんを無理やり引き寄せ、その身体に蹴りを入れて吹き飛ばしたのだと分かりました。

「お姉ちゃんっ!!」

 あたしも思わず叫びました。
 華帆さんは続けて背中に取り付いていた彩葉さんをいとも簡単に引き剥がすと片手で地面に叩きつけます。――このままだとまずいです!

「マネージャーさん、撤退しましょう!」

「しかし……」

 マネージャーさんは、こんな小学生の指示に従ってもいいものか悩んでいるようですが、敵は待ってはくれません。彩葉さんは地面に叩きつけられながらも、すぐさま横に転がって追撃のかかと落としを回避します。


 ――ガガッ!


 華帆さんのかかと落としで地面が抉れ、土や石が飛び散りました。華帆さんは、彩葉さんが放った足払いをひょいと身軽にかわすと、黒い金属製の尻尾で彩葉さんを突き刺しにいきました。攻撃がかわされると思っていなかった彩葉さんは反応が遅れたようでした。

「くっ……」

 なんとか両手で受け止めたものの、その口から苦悶の声が漏れます。

「てめぇ! センパイに何すんだボケ!」

 先程飛ばされていったはずの柊里さんが横から華帆さんに奇襲を仕掛けますが、華帆さんは落ち着いて柊里さんの身体を片手で受け止めます。

「えりりんも、いろはすも、ひまりんも、なんであたしの邪魔をするの!? あたしはただ『天使狩り』を始末しようとして――」

「お前が『天使狩り』なんだろ!?」

「うるさい裏切り者!」

 柊里さんの言葉に逆上した華帆さんは、柊里さんの衣装(コスチューム)のベルトに手をかけて力ずくで引きちぎりました。

「……くぁぁぁぁっ!?」

 途端に柊里さんの衣装はビシビシと火花を散らしながら消滅してしまい、パーカー姿の柊里さん本体が露わになってしまいました。

「柊里ちゃん!」

「ちっ、さすがにこれはまずいか!」

 彩葉さんとマネージャーさんが叫びますが、華帆さんは構わず生身の柊里さんの身体を締め上げました。
 グシャッとおぞましい音がして、華帆さんは興味を失って柊里さんをそこら辺に投げ捨てます。そして、彩葉さんが受け止めていた尻尾を引きました。
 ブシャッと血しぶきが飛び、彩葉さんがゆっくりと膝をつきました。どうやら尻尾は彩葉さんの身体に突き刺さっていたようです。


「だからはやく撤退をといったんです!」

「クソッ! 愛留(める)ちゃん、青葉さんを連れて逃げろ。俺が時間を稼ぐ!」

「はっ、笑わせないで! クズみたいなあたしが助けてもらって小学生と一緒に逃げる? ふざけるじゃないわよ。あたしも戦うわ。あいつは大事な人の仇だからね」

 毒の麻痺から回復したのか、結衣香さんも光る剣を構えながらマネージャーさんの前に進み出ます。あたしは、はぁぁっと大きくため息をつきました。

「あなたたちはバカですか! なんでカッコつけようとするんですかねぇ……一番の戦力に逃げろなんて言って」

「愛留ちゃん?」

「あたしが戦います!」

「無茶だ! 君はまだ小学生だし、だいたい機装だって……君にもしものことがあったら倉橋博士に殺される!」

「はぁぁ、これだから男は……自分の感情に左右されて適切な判断が出来ないんですよ!」

「はぁ?」

 面食らった様子のマネージャーさん。そうこうしているうちに、彩葉さんを始末した華帆さんはまっすぐにこちらに歩いてきました。もうどちらにせよ逃げるのは手遅れです。

「倉橋愛留、あなたはあたしの保護対象よ。先に死ぬことは許されないわ」

「わかってます」

「――で、どうするの?」

「……?」

「あれだけ大口叩いたんだから、なにか考えがあるんでしょ?」

 結衣香さんの問いかけにあたしは頷きました。

「もちろんです」


「ごちゃごちゃうるさいよ雑魚がよぉぉぉっ!!」


 ――ブゥンッ!!


 華帆さんの赤い二本の剣が唸りを上げて襲いかかってきます。


 ――ブシュンッ


 それらはそれぞれ、マネージャーさんの盾と結衣香さんの剣に防がれました。

「食らえっ!」

 マネージャーさんは青いものを華帆さんに投げつけます。


 ――ブワッ!!


 青いものから溢れ出した青色の光が辺りを包みます。

「ぐぁぁぁぁぁっ!?」

 華帆さんが苦悶の声を上げました。

「どうだ、これで機装は強制停止されて変身は解除され――」

 確かに華帆さんの身体は青色の光に包まれ、変身は解除されました。しかし、華帆さんはニヤッと不敵に笑います。


「機装の? ふーん、そう。じゃあ――『星装変身(アストロチェンジ)』! 『黄道十二宮(ゾディアック・イクリプス)』、の『ヴィルゴ』、推参(レコメンド)!」


「「――っ!?」」

 あたしたちは息を飲みました。華帆さんの身体は、黒い鎧のようなものに全身を覆われたからです。

「やっぱり、あれは機装ではなくもっと他の!」

「どーすんのよ! あたしたちの変身まで解除されたじゃない!」

「すまん! あんなのがあるなんて知らなかった!」

 マネージャーさんと結衣香さんが言い合いをしていると――


「雑魚が何匹集まっても雑魚なんだよぉぉぉぉっ!!」

「ぐはぁっ!?」

 思いっきり蹴りを叩き込まれ、変身ができないマネージャーさんは呆気なく吹き飛ばされました。

「結衣香さん! 少しだけ持ちこたえてください!」

「わかったわ。あたしは生身でもそれなりに戦えるし、やってみる」

 結衣香さんの応えを聞くと、あたしは倒れたマネージャーさんに駆け寄りました。


「時間がありません。早くその機装をよこしてください。ついでにエリクサーも」

「は?」

「あたしがその『プルシアン・ブロッサム』で変身するって言ってるんですよバカ。早くしてください」

「しかし……」

「あーもう、バカですか! このままだとみんな死にますよ? エリクサーはなくても変身できますが、あの秋茜華帆に単独で勝つにはどうしても必要です」

「しかし、青海の天使三人を相手にしてほぼ無傷の相手に、いくらエリクサーを使ったところで――」


 ――チッ


「つべこべ言うな! 死にたいんですか!」

 あたしが一喝すると、ビビってしまったマネージャーさんは、すんなりと手首からピンクのブレスレットを取り外し、懐から小瓶を取り出して、両方をあたしに手渡してくれました。


「ふふっ、ありがとうございます♪」

 あたしはブレスレットを右腕に装着すると、小瓶の蓋を開けて中身を一気に飲み干します。すると程なくして、身体中が温かくなって、お腹の底から力が湧いてくるような感覚がしました。――これならいける!
 あたしはブレスレットに左手を添えると、変身したい姿を思い浮かべながらこう叫びました。


「機装変身(マジカルリコール)!!」

 すると、あたしの身体をすっぽりと、ピンク色の球体状のものが覆い、瞬時に変身を完了させました。
 あたしが変身したのは、日曜日の朝にテレビでよく見ていた所謂『魔法少女もの』といわれる女の子の衣装(コスチューム)。ピンク色のフリフリしたかわいい服に、頭には魔女っ子の帽子、そして手には魔法のステッキ。

「青海プロダクション所属の第二世代機装ギア、『プルシアン・ブロッサム』の天使、倉橋(くらはし)愛留(める)。――交戦開始(エンゲージ)です」

 あたしは目元でピースサインをしながら告げました。それを遅れて到着したドローンが上空からしっかりと捉えていて、あたしの身体にまた一段と力がみなぎります。

「愛留ちゃん……」

「なんですか? マネージャーさん」

「……すごく、可愛いよ」

「――はっ」

 思わず呟いてしまったようなその声にあたしは思わず鼻で笑ってしまいました。なんでこの人は小学生を口説いてるんですか。


「秋茜華帆さん、あなたの相手はあたしです」

 まさに地面に倒れた結衣香さんにトドメをさそうとしていた華帆さんは、ゆっくりとこちらを振り返りました。

「まあ、ずいぶんと可愛いのがいるね」

「そりゃあ現役JSですからね。――オバサン」

 あたしの挑発に華帆さんはピクリと眉を動かしました。

「めるっち。あなたは弱っちいし、ションベンくさいガキだから生かしておいてやろうと思ってたんだけど気が変わったよ。悪く思わないでね?」

「その言葉、お返しします。死ぬのはあなたの方です。焦りが見えますよ? 

「――死ね☆」


 ――ダッ!


 地を蹴って凄まじい勢いで華帆さんが迫ってしました。前よりも明らかにスピードが上がっています。あれが本気なんですかね。それならなんとかなりそうです。

「はぁぁっ!!」

 あたしは魔法のステッキを構えながら念じました。なにか、盾になるようなもの! 小学生のあたしにとって咄嗟に思いついたものはこれでした。


 ――バッ!


 ステッキから姿を変えたのは、赤いランドセルでした。ランドセルは華帆さんの身体を弾き返します。上手くいったようです。

「もういっちょです!」


 ――バッ!


 今度はランドセルを体操着袋に変化させました。そして紐の部分を掴んでそのまま華帆さんに振り下ろします。

「ぶわっ!」

 かなりのスピードで振り下ろされた体操着袋は華帆さんを吹き飛ばしました。

 あたしは華帆さんに駆け寄ると、体操着袋を大きなリコーダーに変化させて、先を鎧に包まれた華帆さんの身体に突きつけました。


「JSの怖さ、わかっていただけましたか? あたしたちは毎日重いランドセルを背負って通学路を走り、教室の階段を駆け上り、休み時間になったら校庭で走り回り、掃除の時間はほうきでチャンバラしたり、雑巾がけで競走して遊ぶんです。舐めてもらっては困ります」
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