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第5章 魔法天使プルシアン・ブロッサム

こんびねーしょん☆あたっく

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「なんだって!?」

「やはりですか。詳しく聞かせてもらえませんか?」

 驚くマネージャーさんに対して、プロデューサーさんは冷静でした。もちろんと頷いたギャルたちは、携帯端末をプロデューサーさんに差し出します。端末を受け取ったプロデューサーさんは、画面をタップして動画を再生しました。あたしとマネージャーさんはその背後から画面を覗き込みます。


 動画は、向かい合って立つ三人の少女を近くの家の二階のベランダから隠し撮りしたようなものでした。

「あれ、ここあたしの家の近くですよ!」

 あたしは思わず声を上げました。背後でお父さんが息を飲みました。
 三人の少女はそれぞれ、『アイル・エンタープライズ』の華帆さんと、『スターダスト☆シューター』の二人だということがわかりました。

 抱き合う三人。しかし、すぐに『スターダスト☆シューター』の二人がぐったりとしてしまい、華帆さんはそんな二人をそこら辺に投げ捨てて立ち去ってしまいました。

「これは……」

 マネージャーさんが呟きます。
 明らかにいつもの華帆さんとは様子が違う。事務所内の対立があったにせよ、華帆さんは後輩を手にかけるような性格ではないはずです。あたしの脳内に一つの単語が浮かびました。

「『天使狩り』!」

「そう、情報を提供してくれた人とかおねーちゃんが言うには、『天使狩り』の正体は『光導機神教団』ではなく、アイルの華帆ちゃんじゃないかって!」

 ギャルのうちの一人が言うと、プロデューサーさんが動画をあるワンシーンで停止しました。


「もう一つ気になることがあります。――ここです」

 プロデューサーさんが指さす先、華帆さんの左腕に装着されている紫色のブレスレット。プロデューサーさんは画面を拡大してそのブレスレットを眺めました。

「なんですかこれは?」

「私の記憶が確かなら、こんな機装は存在しなかったはずですが。――もちろん彼女の機装である『ラスティー・ネール』とも違います」

 マネージャーさんとプロデューサーさんは顔を見合せました。

「――これは機装ではありません。間違いないです!」

 あたしは脳内に収められている全ての機装の外見と照らし合わせましたが、そのどれともこの機装は一致しませんでした。

「愛留(める)の言葉は信じていいですよ。なにせ公開されている機装のデータは全て頭の中に入ってますから。――考えられるとすれば、極秘に開発された機装か、機装とは別の何かか、ただのファッションか。ですね」

「どちらにせよ調査する必要がありそうですね。それも急を要します。これ以上犠牲者を増やすわけにはいかないですから。――倉橋博士、青葉結衣香と接触ははかれますか?」

「は? 青葉ですか? 秋茜(あきせ)ではなく?」

 プロデューサーさんの言葉にお父さんは少し驚いたようでした。

「秋茜さんの正体が『天使狩り』だとすれば、対策もせずに直ぐに接触するのは危険です。なので、まずは彼女が本当に『天使狩り』なのかを確かめます。――どうやら彼女は青葉さんを追っていたようですから、まだ青葉さんが生きているなら彼女がなにか知っている可能性は高いです」

「と言われても……そこら辺を歩いてたら捕まえに来るかもしれないですが……」


「お父さん! プロデューサーさん! あたしに行かせてください!」

「愛留!」

「ポポなら! ――ポポなら結衣香さんの匂い覚えてると思うの! だから!」

「ダメだ! 機装も持っていないお前がもし秋茜に襲われたらひとたまりもないぞ!」

 あたしとお父さんは激しく言い争いましたが、ここは引くわけにはいきません。あたしの大好きな天使(アイドル)を狩る……そんな奴を許すわけにはいきません! せっかく『天使狩り』の尻尾を掴めそうなのに、ここで諦める訳には……!

 そこで再び八雲プロデューサーさんが口を開きました。

「友坂くん。愛留さんについて行ってあげてください」

「……! は、はいっ!」

「八雲さん! 彼はまだ天使並に戦えるわけじゃないんですよ!」

 思わぬ言葉にお父さんは動揺しているようでしたが、マネージャーさんは待ちに待った実戦ということで、目を輝かせていました。

「博士! 博士のアイデアを使って僕が調整した機装です。信じてください。必ず娘さんは守ります!」

「しかし……」

 お父さんはマネージャーさん、プロデューサーさん、そしてあたしを順番見つめ――


「――それならこいつを持っていけ。天使に追われるようになってから開発したものだ。これを使えば周囲の機装をまとめて緊急停止させることができる。使用方法は舞台(ステージ)と同じだ。――危なくなったら使え」

 そう言いながらお父さんはマネージャーさんに青い丸いものを握らせました。

「はい! ありがとうございます!」

「では私からも餞別です」

 八雲プロデューサーが差し出したのは、液体の入った小瓶でした。――あれは!

「エリクサー? どこで手に入れたんですか?」

「梅谷さんがSTと合同作戦ライブを行った時に支給されたらしく、持ち帰ってくれました。彼女は機転が利くいい子ですね」

「彩葉ちゃん……大切に使わせていただきます!」

 あたしの勘ですが、マネージャーさんは彩葉さんに気があるようですね。向こうにその気があるのかは果てしなく謎ですが。まあそれは置いておいて……

「娘を頼んだぞ友坂!」

「はい! 行こう愛留ちゃん!」

「はいっ!」

 こうしてあたしとマネージャーさんは、青葉結衣香さんを探しに出かけたのでした。


 *


 マネージャーさんに連れられて一旦家に戻り、ポポを連れてとりあえず『光導機神教団』の本拠地へ向かうことにしました。

 アイルと89の合同作戦の時間から考えて、結衣香さんは本拠地の近くにまだいる可能性が高いと踏んだからです。とはいえ、もう既に華帆さんに討たれてる可能性も高いのですが。

 ですが幸運なことにというか不幸なことにというか、川沿いを歩いていると、突然ポポがワンワンッと吠えながらリードをグイグイと引っ張り始めました。

「ポポ?」

「おい、でかしたぞ! 結衣香ちゃんと華帆ちゃんだ!」

 マネージャーさんの指さした方を見ると、数十メートル先で今にも地面に倒れた結衣香さんにトドメをさそうとしている華帆さんの姿がありました。

 しかし様子が変――というか、華帆さんの機装が変です。オレンジ色だった機装は紫色に染まり、手には赤く光る剣を二本握っていました。おまけに尻からは黒く長い尻尾が生えています。

「助けないと!」

 あたしとマネージャーさんは同時に駆け出しました。

「機装『プルシアン・ブロッサム』部分展開!」

 マネージャーさんはピンク色の盾を展開して走ります。あたしはその背後からポポに連れられて走りました。


「青葉さんっ!」

 走りながら思わず声を上げると、チラッと華帆さんがこちらを伺い……そのまま剣を振り下ろしました。


 ――ブシュンッ!


 華帆さんの剣をマネージャーさんが盾で受け止めます。

「――あなたは確か」  

 息を飲む華帆さん。

「どうやら間に合ったようだな。――『青海プロダクション』の第二世代機装『プルシアン・ブロッサム』の天使、友坂夕真。交戦開始(エンゲージ)!」

「青葉さんっ! 大丈夫ですか?」

 あたしが倒れている結衣香さんに駆け寄ると、結衣香さんは口から血を吐き出しながらあたしに何かを伝えようとしてました。

「きを……つけ……て、あいつ……は」

「喋らなくていいですから!」

「ど、どく……を……」


「マネージャーさんっ! 毒に気をつけてください!」

「おう!」

 華帆さんの剣を盾で押し返すマネージャーさん。それでも華帆さんは余裕の表情で肩を竦めました。

「そんな機装で何ができるっていうのー? 出来損ないの天使がたったの一人で」

「そうか、お前みたいなエリートには分からないだろうな。出来損ないには出来損ないなりの意地ってもんがあるんだよ。それに――」

「んー?」





 マネージャーさんが不敵に笑った時――


「ロックンロォォォォルッッッ!!!!」


 ――ダダダダダダダダダッ!


 叫び声と共に、弾丸の雨が華帆さんを襲いました。見ると、あたしたちと華帆さんを挟み撃ちするように、緑色の機装を身につけた伺見笑鈴(うかがみえりん)――お姉ちゃんがいて、ガトリング砲を乱射していました。お姉ちゃんはあたしを見つけるとにっこりと微笑みます。

「お姉ちゃん!」


「一人が二人になったところで!」

 身軽に弾丸をかわす華帆さん。――そこへ黒い影が襲いかかり、凄まじいスピードで華帆さんの身体に蹴りを入れます。ゴッ! ゴッ! ――衝撃で華帆さんの身体が揺れます。

「わたしもいるぞ巨乳! どうだ風形態(ウィンドフォーム)の蹴りは? ずっとそのふざけたボディーに一発お見舞いしたいと思ってたんだ」

 凄まじいスピードで華帆を翻弄しながら挑発しているのは恐らくあたしの先輩天使の霜月柊里(しもつきひまり)さんです。


「ちょこまかと鬱陶しい!」

「ぐぁっ!」

 華帆さんが尻尾を振って柊里さんを吹き飛ばすと、華帆さんの頭上の橋の上ならなにか黄色いものが降ってきました。

「チェストォォォォッ!」

 黄色い塊――青海プロダクションのエースの梅谷彩葉(うめたにいろは)さんは、華麗に華帆さんの背中に飛びつき、コブラツイストで締め上げはじめました。さらにその手足に白いロープのようなものが巻き付き、剣を封じます。お姉ちゃんが放った錨(アンカー)のようです。

「彩葉! 絶対離さないでね!」

「笑鈴こそ、絶対離しちゃダメだよ!」

 デビュー当時ユニットを組んでいた二人の息はピッタリ。このまま華帆さんを無力化するのも時間の問題のように思われました。

「ふぅ……やったか……八雲さんが警戒に出ている天使に招集をかけてくれて助かったな」

 マネージャーさんは額の汗を拭いながら呟くと、地面に倒れている結衣香さんがゆっくりと立ち上がりながらこんなことを口にしました。


「ダメ……あれじゃ……秋茜華帆は倒せない」
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