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第2章 美少女天使スクリュー・ドライバー

彩葉の災難! フェニックス級にご用心

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 しばらくして、STの所有するチヌークが、開けたコンテナターミナルに着陸した。天使を乗せるヘリコプターは基本的に無人の自動操縦。なぜかというと、空を飛ぶものはフェニックス級に撃ち落とされてしまうこともあるためだ。天使は機獣の攻撃に耐えられても、生身の人間は耐えられない。

「では、出撃する。攻撃隊、ついてこい」

 シルバーくんの合図で私たちは続々とチヌークに乗り込んだ。私はヘリコプターに乗るのなんてSTにいた時以来だったから、なんか懐かしい気分になった。STの天使たちは毎回これで戦場まで送迎されているんだよなぁ……羨ましい。

 最後まで心配そうな様子の柊里ちゃんや、他の防衛隊の天使たちに見送られてチヌークは飛び立った。柊里ちゃんについていた青海プロダクションの配信用ドローンは、操縦するマネージャーさんがこちらの方が見せ場が多いと判断したのか、私の後をついてきた。

 私は手すりにつかまって揺れに耐えながら攻撃隊のメンバーを見回した。

 まずはリーダーのシルバーくんこと『シルバー・ストリーク』。彼は相変わらず落ち着いた様子で、自分の装備の点検などをしている。

 次に、第三世代機装『アラウンド・ザ・ワールド』の伺見(うかがみ)笑鈴(えりん)。大きな飛行機のような翼と大量の武装を装備した彼女はこれから起きる戦闘が楽しみで仕方ないといった感じの表情で、目を輝かせている。

 笑鈴と同じく『トライブライト』の関枚(せきひら)姉妹は、ヘリコプター内に所狭しと置かれている武装や装備を物色しながらも無表情だ。オレンジのショートカットの彼女たちがうろちょろしていると、かなり目立つ。しかし彼女たちにとって作戦(ライブ)はST社長の衛洲の指示に従っている結果参加しているだけで、自分の意志というものが希薄なように思える。少し不気味な存在だ。注意しないと。

 最後に、アイル・エンタープライズ所属の第二世代『ラスティー・ネール』の天使、秋茜(あきせ)華帆(かほ)さん。露出度の高いチア衣装を身につけた金髪巨乳の彼女は、なんで自分がここにいるのかよく分からないといった様子だ。私も同じ、どうして私が攻撃隊に選ばれたのかよく分からない。

 チヌークの内部には関枚姉妹が物色してるような装備や何に使うのかよく分からない機材が大量に積載されていた。さらに関枚姉妹、笑鈴、シルバーくんなど、機装がやたらと大きい天使が多いので、広いはずの内部は、6人乗ってちょうどいい感じの広さに感じられた。

「お前たちはシールドの外に出たことはあるか?」

 シルバーくんが口を開いた。ヘリコプターのプロペラのローター音がうるさいので、結構な音量で怒鳴っているのが面白い。臨時隊列(ユニット)を組んで念話(テレパシー)を使えばいいのに、彼は私たちとユニットを組むことを拒否しているようだ。

「ないよ!」

 秋茜さんが怒鳴り返した。

「シールドの外はいつフェニックス級機獣が襲ってくるか分からない。周りにはくれぐれも注意しろ。……まあ墜落しても下は水だから機装(ギア)を装備していれば命は助かるだろう。機獣がうようよいるからその先は保証できないがな」

 シルバーくんはそう言うと、ふっと笑った。本人は軽口を叩いて雰囲気を和ませようとしているようだ。しかしそれを聞いた秋茜さんの顔は明らかに強ばっていて、逆効果だったみたいだ。

 そうこうしているうちに、前方の海上に薄水色の巨大な膜のようなものが広がっているのが見えた。あれが、防衛省が管理している日本列島をすっぽりと覆っているシールド。海中から空中まで隙間なく覆っており、機獣の侵入を防いでいるが、表面には分子レベルの穴が空いているらしく、水や風は通すので、シールドの中の日本にも普通に風が吹くし雨も降る。

 今、シールドの外側には海を埋め尽くさんばかりの大量の機獣がうようよと蠢いていた。正直気持ち悪い。
 普通なら奴らは小型のフェアリー級を先頭に、シールドの一点に突撃して何体もの仲間を犠牲にしながらシールドを突き破る。そして穴の空いたシールドが自動で修復されるまでの間に群単位で侵入する。一回の突破で侵入された機獣どもをまとめて『第一波』『第二波』みたいな感じで呼ぶ。

 シルバーくんは、右手を額に近づけて念話で何かを話しているようだ。恐らく自分たちが外へ出るためにシールドを開けるよう防衛省に要請しているのだろう。

 念話を終えると、彼は関枚姉妹に目で合図を送った。関枚姉妹は積み上げられた装備の中から、小さな瓶のようなものを数本取り出すと、それぞれメンバーに投げて寄こした。私も、関枚姉妹の妹の甜花(てんか)ちゃんに投げられた小瓶をキャッチする。

「何があるか分からんので、『エリクサー』を支給しておく。ここぞという時に使え。天使(アイドル)なら分かると思うが、エリクサーは諸刃の剣だ。くれぐれも気をつけて使用するように」

 シルバーくんも、自分の分の小瓶を手に取ると、メンバーを見渡しながら告げた。
 エリクサー、機装と天使の適合率を上げ、更なる力を引き出す秘薬。機獣の体液から作られているとかなんとか。天使なら誰しもデビュー前の養成所時代に定期的な投与を受けて適合率を高めていくが、デビュー後の戦闘中に投与して一時的なドーピング効果も期待できる。
 しかし身体への負担が大きく、副作用は未だに解明されきれていないが、主に内臓に負荷がかかるとか……。
 が、そもそも高価な薬なので入手はなかなか難しい。もちろん青海プロダクションでは支給されたりはしない、STだからこそできる大盤振る舞いだ。

 ……使いすぎは悪いのは間違いなさそうだし、できるだけ使わないようにしよう。
 と、私はエリクサーの小瓶を衣装のスカートのポケットに忍ばせた。隣では秋茜さんが小瓶を胸元にしまい込んでいる。……どこにしまってんの……まあその衣装だと他に隠しておく場所なさそうだけど。

 その時、前方の上空のシールドに10メートル四方くらいの穴がぽっかりと開いた。上空なので、今のところ機獣は侵入してこない。

「飛行できるフェニックス級が侵入しないうちにシールドを抜ける」

 シルバーくんがそう言うと、チヌークは再び前進を開始し、穴をくぐりぬけた。と同時に、再びシールドは閉じられる。これで機獣の侵入は防がれるが、私たちも退路が閉ざされたということ、再び開くまでは陸地へ戻ることはできない。

 敵の反応は迅速だった。すぐに私たちのチヌークに向けて全長2メートルほどの鷲を模したようなフェニックス級の機獣が上空から迫ってきた。

「おいでなさったぞ! 総員戦闘態勢! ST所属の第二世代『シルバー・ストリーク』!」

「同じくST所属の第三世代天使『アラウンド・ザ・ワールド』!」

「第二世代『カシス・オレンジ』」

「『ファジー・ネーブル』」

「アイル・エンタープライズ所属の第二世代『ラスティー・ネール』!」

「青海プロダクション所属の第二世代『スクリュー・ドライバー』!」

「「「交戦開始(エンゲージ)!!」」」

 私たちはそれぞれ叫んで戦闘開始を告げた。関枚姉妹が機材の中から配信用のドローンを取り出して飛ばす。私も相変わらず自分の周りに青海プロダクションのドローンが飛んでいることを確認してから、チヌークの出入口の扉の近くに歩み寄った。

「まあ待て、フェニックス級の掃討はトライブライトに任せる。私とラスティー・ネール、スクリュー・ドライバーは下に群れている敵をAA(アドバンスアクト)で一網打尽にする」

 私を手で制しながらシルバーくんが指示を出した。なるほど、そのために私が呼ばれたわけね。私や秋茜さんのAAの範囲と威力は第二世代天使の中でも屈指のものだ。これだけ機獣が集まっているのであれば、適当に撃ち込んでもかなりの数の機獣を仕留められる。

 指揮官の意図を理解した私は、二、三歩後退した。すると代わりに出入口から身を乗り出した関枚姉妹が、全身に取り付けられたミサイルパックからおびただしい量のミサイルを連射する。

 ――ズドドドドッ!

 それらのミサイルはほぼ全てフェニックス級に命中し、敵はただの金属の塊となって海へ落ちていった。
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