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第1章 仮面天使エル・ディアブロ
ロスト・ディケイド
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翌日、わたしはレンガ造りのオシャレな校門から少し離れた電信柱の陰で待機していた。さながら不審者だが、とても校門に近づく気にはならない。なぜなら
――立華(りっか)女学院
梅谷彩葉の通う高校だ。偏差値60オーバーの進学校で、お嬢様学校。しかし割と自由な校風らしく、校門から吐き出されてくる女子生徒達の中には、メイクやネイルをバッチリキメてカバンにジャラジャラとストラップをつけたり、髪の毛にパーマを当てたり、染めたりしてる奴も多い。
そんな立華女学院は偶然にもわたしの通う区立第九中学校から徒歩で五分そこそこの距離にあった。
ちなみにわたしは今日学校で案の定、クラスの数人から「昨日の作戦(ライブ)見てたよ」的なことを話しかけられたが、元々友達なんていないわたしは、そいつらを睨みつけて追い返した。
どうせ興味本位の野次馬に違いない。これだから顔を晒すのは嫌だったんだ。ゲームでも顔を見せずに声だけで配信してるし。ますます強制解除(クラッシュ)したのが悔やまれる。
あれが無ければ今頃まだ学校の奴らにバレずに天使(アイドル)できていたのに。
さて、なぜわたしが彩葉(センパイ)の学校の前で待機しているかというと、昨日こう言われたからだ。
「行きたい場所があるから、柊里ちゃんも一緒に来て」
と。で、待ち合わせ場所に指定されたのがここだ。
別に構わない。彩葉もわたしを励ますつもりで誘ってくれているのだろうから断る理由はなかった。
しかしどうにも嫌な予感がする。果たして彩葉(ギャル)の行きたい場所って……。
「あっ、柊里ちゃん! お待たせ!」
ぼーっとしていたら聞き慣れた声が聞こえてきた。目ざといやつだ。
声のする方に視線を向けると、彩葉が数人のギャル仲間と校門から出てくるところだった。うわ、リア充のオーラが半端ない。わたしはいっそこのまま知らんぷりして逃げようかとすら思った。
しかし、その思考を読んだのか否か、彩葉は仲間の元を離れて一直線にこちらへスタスタと歩み寄ってきて(怪我はどうした)、わたしの腕を掴んで電信柱の陰から引っ張り出した。
「うわぁ、何この子カワイイ! 彩葉の弟くん?」
「いや、違うね。カレシかなぁ」
いつの間にか近づいてきた彩葉の仲間のギャル二人が口々に騒ぎ立てる。なぜ男だと思われる? 確かに髪は短めだし、女の子っぽいところなんてあまりないけれど。
「もう、違うって! この子は私の事務所の後輩! そして女の子です!」
彩葉は大袈裟な身振り手振りで説明する。よくある、友達の前だとテンション上がっちゃう系女子のようだ。
「ってことは、天使?」
「そういや、どっかで見たことあるような……」
「それ以上言うな」
わたしは慌ててギャルどもの詮索を遮った。昨日の作戦の視聴数は、ST、89、アイル、そして青海を合わせると膨大な数字を叩き出している。よってこいつらがわたしの失態を知っている可能性は高い。ここで改めて傷口を抉られたらたまったものではない。
「……っていうことだから、触れないであげて?」
彩葉の謎のフォローが入り、やっと詮索は打ち切りになったようだ。しかし帰ってググられたら一発だ。わたしは無言で彩葉を睨みつけ、非難の意思を表明した。
「で、どこに連れていくつもりだ?」
「そうそう! 駅前で美味しそうなスイーツを見つけたからみんなで行こうかなって!」
……マジか。
ギャルどもは歓声を上げ、わたしは不満だらけの感情を悟られないように顔を伏せた。
彩葉のいう〝美味しそうなスイーツ〟というのは、立華女学院の最寄り駅の近くにあるらしい。そして、その場所は奇しくも完成したての『スカイツリー』の近くでもあった。
近くで見るとスカイツリーの鉄の棒が組み合わさって巨大な塔を作り上げているかのような異様な外見と、600メートルの高さがあるらしいその先端部分に取り付けられた巨大なパラボラアンテナのような装置が一層目を引く。あそこから電磁パルス攻撃を行って機獣を殲滅していくらしい。といってもわたしも詳しい原理は分からない。
とにかくその店はモダンな店構えのシャレオツな店だった。豪勢なことにテラス席なんかもある。
機獣襲来以降、失われた十年――ロスト・ディケイドと言われた期間も比較的安全だった本州。しかも首都の東京だからこそ出せる店だろう。だがそれもスカイツリーが完成してしまった今、真っ先に標的にされるのはその東京だ。
彩葉は、右手にスクールバッグを持ちながら左手でわたしの右手を握って逃げられないようにして、その店に入っていった。仲間のギャル二人もその後に続く。
店に入った瞬間、なんとも言えない甘い匂いが襲ってきた。昨日の彩葉の匂いに似ている。やはりスイーツの匂いだったか……。
明るい雰囲気の店内はだいぶ賑わっていた。大半が彩葉のような女子高生だが、カップルや親子連れなんかもいる。
ちょうど席を立った女子高生四人組と入れ替わるように、わたしたちは席に着くことができた。ラッキーだ。
「柊里ちゃん、何か食べたいのある? 奢ってあげるよ」
彩葉はわたしを自分の横に座らせると、目の前にドンとメニューを置いてきた。……といっても何がなんだかわからない。オタクには厳しい世界だ。しかし、わたしには奥の手があった。
「おすすめはなんだ?」
「うーん、私も初めてなんだけど、このデラックスとか美味しそうじゃない?」
「じゃあそのデラックスで」
わたしはろくにメニューも見ずに答えた。
「私はいちごー!」
「あたしチョコー!」
他の二人のギャルも次々に宣言する。……チョコも美味しそうだな。なんなのか分からないけど。
「すみませーん! デラックス二つといちご一つチョコ一つで!」
彩葉は店員を呼び止めて注文した。
スイーツ? が出てくるのを待っている間、彩葉はわたしをギャルたちに紹介し、さらに二人のことをわたしに紹介してくれた。
それによると、二人のギャルの名前は「ナギサ」と「カエデ」といって、彩葉とは高校に入ってからの付き合いだという。二人とも彩葉が天使だということを知っていて、大ファンだそうだ。
「ひまりちゃんかぁ……撫でてもいい?」
彩葉と同じような色の金髪をツインテールに結んだナギサが、わたしの頭に手を伸ばしてくる。おい、許可出した覚えはないぞ!
「あたしもあたしも!」
同じく金髪のショートヘアのカエデも頭を撫でてくる。動物とのふれあい広場じゃないんだぞ。
「や、やめてくれ」
スイーツ食べる前にわたしのMP(メンタルポイント)は底をつきそうだ。
「その辺にしといて、柊里ちゃんは私のものだから」
彩葉が二人のギャルを引き離す。ちなみに言うとわたしは誰のものでもない。
そうこうしているうちに、店員に運ばれてスイーツがやってきた。
わたしは目の前に置かれたソレを見て目を丸くした。
高々とそびえる巨大なパフェ……色とりどりのデザートや、カロリーの高そうなクリーム、アイス、ケーキがこれでもかと盛られている。もちろんいちごやチョコも載っている。
……これがデラックスというやつか。
「おぉ、映(ば)えるね! それじゃあ始めよっか」
彩葉はカエデに自分の携帯端末を手渡すと、友人の手を借りて動画撮影を開始した。なるほど、彩葉はこれで再生数とチャンネル登録者数を稼いでいるのか。
「『いろはチャンネル』をご覧のみなさま! ごきげんよう。梅谷彩葉(うめたにいろは)です! 私は今、駅前でウワサのスイーツ、『デラックスパフェ』を食べに来ています! 見てくださいこのボリューム! これでお値段がたったの1000円! そしてこのいちごがまた――」
はぁ……これが現役天使の実力か……。一つのパフェで延々と喋り倒している。
お嬢様ギャルの巧みな話術……巷ギャル特有の日本語なのかよく分からない言語ではなく、丁寧なわかりやすい言葉で、的確に伝えたいことを伝えている。
わたしみたいにゲームしながらボソボソ呟いているだけの動画とは大違いだ。まさに〝映える〟ってやつだろう。
「それじゃあ食べていきたいと思いまーす! まずはてっぺんの生クリームから……いただきまーす!」
やっと彩葉はスプーンで生クリームをすくって口に運んだ。途端に頬に手を当てて満面の笑みを浮かべる。
「うーん、美味しいー!」
……よかったな。わたしにはとてもじゃないが真似できない。しかもスイーツはオタクの敵だ。なにせオタクはあまり運動しないからな。
「いろはちゃん! 視聴数ぐんぐん伸びてるよっ!」
自分の携帯端末を弄っていたナギサの声に彩葉は左手で丸サインを作って応えた。
「あっ、そうだ。今日はもう一つやりたいことがあります。……私の後輩の柊里ちゃんでーす!」
「ぶわっ!?」
彩葉の合図でカエデの構えていた携帯端末が突然こちらに向いたのでわたしは慌てた。
そんなわたしの肩を抱いて彩葉はツーショットで画面に映ると、右手に持ったスプーンでわたしのパフェをすくって
「はい、柊里ちゃん。あーん」
おい、あーんじゃないだろ! なんだこの羞恥プレイは!?
しかし、動画撮られている手前、あまり嫌そうな顔するのもあれだしな……。
「あーん……」
もぐもぐ……甘い。後で運動しないと。
「カワイイ! 次私やらせて!」
「ひまりちゃん! あたしのチョコも食べて!」
「えぇ……」
案の定、わたしはしばらくパフェを食べるおもちゃにされてしまった。しかし、お陰で(?)視聴数は上々らしく、みんなで騒ぎながら自分のパフェを食べきってしまった彩葉は
「完食ですー! 美味しかった! ご馳走様でしたー!」
と笑顔で言って、あとは「良かったら高評価、チャンネル登録お願いします」みたいなお決まりのセリフで動画配信を終えた。
「はぁ……はぁ……しんどい」
精神的疲労で死にかけのわたし。しかし、これだけ付き合ってやったのに、彩葉は何か難しそうな表情で俯いている。
「おいセンパイ、どうしたんだ――」
「……はい、はい。……了解です。私が行きます」
――念話(テレパシー)だ
わたしは機装(ギア)整備のために昨日から赤いブレスレットをジャーマネに預けている(やはり強制解除のダメージは大きかったらしい)ので聞こえないが、彩葉にはPやジャーマネからの念話が入ってくる。
腕の黄色いブレスレットから頭を離し、顔を上げた彩葉からは先程の笑顔でスイーツを食べる女子高生の雰囲気は綺麗さっぱり消えており、そこには人類を守るヒーローの姿があった。
「――〝食後の運動〟してくるね」
――立華(りっか)女学院
梅谷彩葉の通う高校だ。偏差値60オーバーの進学校で、お嬢様学校。しかし割と自由な校風らしく、校門から吐き出されてくる女子生徒達の中には、メイクやネイルをバッチリキメてカバンにジャラジャラとストラップをつけたり、髪の毛にパーマを当てたり、染めたりしてる奴も多い。
そんな立華女学院は偶然にもわたしの通う区立第九中学校から徒歩で五分そこそこの距離にあった。
ちなみにわたしは今日学校で案の定、クラスの数人から「昨日の作戦(ライブ)見てたよ」的なことを話しかけられたが、元々友達なんていないわたしは、そいつらを睨みつけて追い返した。
どうせ興味本位の野次馬に違いない。これだから顔を晒すのは嫌だったんだ。ゲームでも顔を見せずに声だけで配信してるし。ますます強制解除(クラッシュ)したのが悔やまれる。
あれが無ければ今頃まだ学校の奴らにバレずに天使(アイドル)できていたのに。
さて、なぜわたしが彩葉(センパイ)の学校の前で待機しているかというと、昨日こう言われたからだ。
「行きたい場所があるから、柊里ちゃんも一緒に来て」
と。で、待ち合わせ場所に指定されたのがここだ。
別に構わない。彩葉もわたしを励ますつもりで誘ってくれているのだろうから断る理由はなかった。
しかしどうにも嫌な予感がする。果たして彩葉(ギャル)の行きたい場所って……。
「あっ、柊里ちゃん! お待たせ!」
ぼーっとしていたら聞き慣れた声が聞こえてきた。目ざといやつだ。
声のする方に視線を向けると、彩葉が数人のギャル仲間と校門から出てくるところだった。うわ、リア充のオーラが半端ない。わたしはいっそこのまま知らんぷりして逃げようかとすら思った。
しかし、その思考を読んだのか否か、彩葉は仲間の元を離れて一直線にこちらへスタスタと歩み寄ってきて(怪我はどうした)、わたしの腕を掴んで電信柱の陰から引っ張り出した。
「うわぁ、何この子カワイイ! 彩葉の弟くん?」
「いや、違うね。カレシかなぁ」
いつの間にか近づいてきた彩葉の仲間のギャル二人が口々に騒ぎ立てる。なぜ男だと思われる? 確かに髪は短めだし、女の子っぽいところなんてあまりないけれど。
「もう、違うって! この子は私の事務所の後輩! そして女の子です!」
彩葉は大袈裟な身振り手振りで説明する。よくある、友達の前だとテンション上がっちゃう系女子のようだ。
「ってことは、天使?」
「そういや、どっかで見たことあるような……」
「それ以上言うな」
わたしは慌ててギャルどもの詮索を遮った。昨日の作戦の視聴数は、ST、89、アイル、そして青海を合わせると膨大な数字を叩き出している。よってこいつらがわたしの失態を知っている可能性は高い。ここで改めて傷口を抉られたらたまったものではない。
「……っていうことだから、触れないであげて?」
彩葉の謎のフォローが入り、やっと詮索は打ち切りになったようだ。しかし帰ってググられたら一発だ。わたしは無言で彩葉を睨みつけ、非難の意思を表明した。
「で、どこに連れていくつもりだ?」
「そうそう! 駅前で美味しそうなスイーツを見つけたからみんなで行こうかなって!」
……マジか。
ギャルどもは歓声を上げ、わたしは不満だらけの感情を悟られないように顔を伏せた。
彩葉のいう〝美味しそうなスイーツ〟というのは、立華女学院の最寄り駅の近くにあるらしい。そして、その場所は奇しくも完成したての『スカイツリー』の近くでもあった。
近くで見るとスカイツリーの鉄の棒が組み合わさって巨大な塔を作り上げているかのような異様な外見と、600メートルの高さがあるらしいその先端部分に取り付けられた巨大なパラボラアンテナのような装置が一層目を引く。あそこから電磁パルス攻撃を行って機獣を殲滅していくらしい。といってもわたしも詳しい原理は分からない。
とにかくその店はモダンな店構えのシャレオツな店だった。豪勢なことにテラス席なんかもある。
機獣襲来以降、失われた十年――ロスト・ディケイドと言われた期間も比較的安全だった本州。しかも首都の東京だからこそ出せる店だろう。だがそれもスカイツリーが完成してしまった今、真っ先に標的にされるのはその東京だ。
彩葉は、右手にスクールバッグを持ちながら左手でわたしの右手を握って逃げられないようにして、その店に入っていった。仲間のギャル二人もその後に続く。
店に入った瞬間、なんとも言えない甘い匂いが襲ってきた。昨日の彩葉の匂いに似ている。やはりスイーツの匂いだったか……。
明るい雰囲気の店内はだいぶ賑わっていた。大半が彩葉のような女子高生だが、カップルや親子連れなんかもいる。
ちょうど席を立った女子高生四人組と入れ替わるように、わたしたちは席に着くことができた。ラッキーだ。
「柊里ちゃん、何か食べたいのある? 奢ってあげるよ」
彩葉はわたしを自分の横に座らせると、目の前にドンとメニューを置いてきた。……といっても何がなんだかわからない。オタクには厳しい世界だ。しかし、わたしには奥の手があった。
「おすすめはなんだ?」
「うーん、私も初めてなんだけど、このデラックスとか美味しそうじゃない?」
「じゃあそのデラックスで」
わたしはろくにメニューも見ずに答えた。
「私はいちごー!」
「あたしチョコー!」
他の二人のギャルも次々に宣言する。……チョコも美味しそうだな。なんなのか分からないけど。
「すみませーん! デラックス二つといちご一つチョコ一つで!」
彩葉は店員を呼び止めて注文した。
スイーツ? が出てくるのを待っている間、彩葉はわたしをギャルたちに紹介し、さらに二人のことをわたしに紹介してくれた。
それによると、二人のギャルの名前は「ナギサ」と「カエデ」といって、彩葉とは高校に入ってからの付き合いだという。二人とも彩葉が天使だということを知っていて、大ファンだそうだ。
「ひまりちゃんかぁ……撫でてもいい?」
彩葉と同じような色の金髪をツインテールに結んだナギサが、わたしの頭に手を伸ばしてくる。おい、許可出した覚えはないぞ!
「あたしもあたしも!」
同じく金髪のショートヘアのカエデも頭を撫でてくる。動物とのふれあい広場じゃないんだぞ。
「や、やめてくれ」
スイーツ食べる前にわたしのMP(メンタルポイント)は底をつきそうだ。
「その辺にしといて、柊里ちゃんは私のものだから」
彩葉が二人のギャルを引き離す。ちなみに言うとわたしは誰のものでもない。
そうこうしているうちに、店員に運ばれてスイーツがやってきた。
わたしは目の前に置かれたソレを見て目を丸くした。
高々とそびえる巨大なパフェ……色とりどりのデザートや、カロリーの高そうなクリーム、アイス、ケーキがこれでもかと盛られている。もちろんいちごやチョコも載っている。
……これがデラックスというやつか。
「おぉ、映(ば)えるね! それじゃあ始めよっか」
彩葉はカエデに自分の携帯端末を手渡すと、友人の手を借りて動画撮影を開始した。なるほど、彩葉はこれで再生数とチャンネル登録者数を稼いでいるのか。
「『いろはチャンネル』をご覧のみなさま! ごきげんよう。梅谷彩葉(うめたにいろは)です! 私は今、駅前でウワサのスイーツ、『デラックスパフェ』を食べに来ています! 見てくださいこのボリューム! これでお値段がたったの1000円! そしてこのいちごがまた――」
はぁ……これが現役天使の実力か……。一つのパフェで延々と喋り倒している。
お嬢様ギャルの巧みな話術……巷ギャル特有の日本語なのかよく分からない言語ではなく、丁寧なわかりやすい言葉で、的確に伝えたいことを伝えている。
わたしみたいにゲームしながらボソボソ呟いているだけの動画とは大違いだ。まさに〝映える〟ってやつだろう。
「それじゃあ食べていきたいと思いまーす! まずはてっぺんの生クリームから……いただきまーす!」
やっと彩葉はスプーンで生クリームをすくって口に運んだ。途端に頬に手を当てて満面の笑みを浮かべる。
「うーん、美味しいー!」
……よかったな。わたしにはとてもじゃないが真似できない。しかもスイーツはオタクの敵だ。なにせオタクはあまり運動しないからな。
「いろはちゃん! 視聴数ぐんぐん伸びてるよっ!」
自分の携帯端末を弄っていたナギサの声に彩葉は左手で丸サインを作って応えた。
「あっ、そうだ。今日はもう一つやりたいことがあります。……私の後輩の柊里ちゃんでーす!」
「ぶわっ!?」
彩葉の合図でカエデの構えていた携帯端末が突然こちらに向いたのでわたしは慌てた。
そんなわたしの肩を抱いて彩葉はツーショットで画面に映ると、右手に持ったスプーンでわたしのパフェをすくって
「はい、柊里ちゃん。あーん」
おい、あーんじゃないだろ! なんだこの羞恥プレイは!?
しかし、動画撮られている手前、あまり嫌そうな顔するのもあれだしな……。
「あーん……」
もぐもぐ……甘い。後で運動しないと。
「カワイイ! 次私やらせて!」
「ひまりちゃん! あたしのチョコも食べて!」
「えぇ……」
案の定、わたしはしばらくパフェを食べるおもちゃにされてしまった。しかし、お陰で(?)視聴数は上々らしく、みんなで騒ぎながら自分のパフェを食べきってしまった彩葉は
「完食ですー! 美味しかった! ご馳走様でしたー!」
と笑顔で言って、あとは「良かったら高評価、チャンネル登録お願いします」みたいなお決まりのセリフで動画配信を終えた。
「はぁ……はぁ……しんどい」
精神的疲労で死にかけのわたし。しかし、これだけ付き合ってやったのに、彩葉は何か難しそうな表情で俯いている。
「おいセンパイ、どうしたんだ――」
「……はい、はい。……了解です。私が行きます」
――念話(テレパシー)だ
わたしは機装(ギア)整備のために昨日から赤いブレスレットをジャーマネに預けている(やはり強制解除のダメージは大きかったらしい)ので聞こえないが、彩葉にはPやジャーマネからの念話が入ってくる。
腕の黄色いブレスレットから頭を離し、顔を上げた彩葉からは先程の笑顔でスイーツを食べる女子高生の雰囲気は綺麗さっぱり消えており、そこには人類を守るヒーローの姿があった。
「――〝食後の運動〟してくるね」
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