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♡ゴスロリ魔王と最終決戦♡
思い……出した!
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◇ ◆ ◇
私の目の前から歩き去っていく人影。その人はセーラー服を身につけていて、女子高生だということが分かるが、夕陽の逆光が酷くて詳細には判別できない。
でも、私は無性にその人に行ってほしくないという感情が湧き上がってきた。
「待って! 行かないで!」
思わずその背中に声をかける。彼女は振り返ったようだ。相変わらず逆光のせいで表情は見えないけれど。
「またいつか……会えるよ」
「――絶対私、サラお姉ちゃんのお嫁さんになるから!」
ん? なんてこと言ってるんだ私!?
「じゃあ私も心凪が大きくなるまで待ってなきゃね」
彼女はそう答えると、私の元に歩み寄ってきて頭を撫でた。くすぐったい。
「約束だからね!」
「うん、約束!」
――う
――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!
な、なんてもの見せるんだぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!! これは……これはずっと昔の記憶じゃんっっっ!!!!
私は衝撃で気を失ってしまったらしい。でも――
そのお陰で全部思い出した……!
◇ ◆ ◇
私の名前は小見(おみ)心凪(ここな)。どこにでもいる高校一年生。
家には、二つ上の受験生のお兄ちゃんと、専業主婦のお母さん、ゲーム開発会社で働いているお父さんとチワワのペコがいる。
学校には親友の希歩(のあ)ちゃん、ヒナちゃん、一応彼氏ということになっている蒼人(あおと)くんがいて……それで……それで……
次の瞬間、私の体を強い衝撃が襲った。
精神的にじゃなくて物理的な。
身体が何かに押し付けられて、身体の中で何かがぐしゃっと潰れるような感覚があった。痛い。すごく痛い。でも目も見えないしよく分からない。何が起こったのか……それすら。
なんかブレーキだかクラクションだかわからない音がする。
その音はだんだんフェードアウトしていき、私の視界は黒い闇に包まれてしまった。
――そうだ、私は事故にあってそれで……
家族が死んだって言われた。
何故私だけ生き残ってしまったのかはよく分からないけれど、お父さんは生き残った私に何かを託したらしい。いや、もしかしたら自分にもしものことが起こった時のために予め準備してたのかも……
「察しがいいな。さすがはお嬢ちゃんだ」
気づくと、私の隣には鎧を身にまとったクラウスさんが立っていた。辺りは相変わらず真っ暗だけれど、その鎧は温かな光を放っている。
「あれ、クラウスさん。どうしてここにいるんですか?」
すると、クラウスさんはバツが悪そうな顔をした。
「謝ろうと思っててな。騙しててすまなかった。そして……先に逝ってしまってすまない。大役を押しつけてすまない。――何度も痛い思いをさせてすまない」
「クラウスさん?」
「――もう隠してる意味もないか。俺は心凪の記憶の中にあった父親――小見哲人の人格データに、『トロイメギア』の奥底に眠っていた小見哲人自身の人格データが組み合わさった疑似人格だ。だが、限りなく小見哲人に近い存在だろうな」
「ちょっと何言ってるか分からないんですけど」
「要するに俺はほぼお前の父親だ。我が娘よ」
「……」
黙り込んでしまった私の肩に、クラウスさん――いや、お父さんがポンと優しく手を乗せた。大きくて温かい手だった。
「つまり俺は死んだわけじゃない。こうやってゲームの中だと動けるし、本人の人格に基づいた思考もできる。実際、お嬢ちゃんに出会った時からお嬢ちゃんのことが愛しくてたまらなかった。無理もないな、実の娘なのだから」
「お父さんは……生きてるの?」
「あぁ、そう言うことができるだろう。身体は滅んでしまったが、『トロイメギア』がある限りその中で俺はずっと生き続けられる。お嬢ちゃんのおかげだ。人格っていうのは主観だけじゃなくて、客観的な視点がないと再現できないからな。お嬢ちゃんの記憶のおかげで俺は復活できたってわけだ」
「あれ、でも私記憶をなくしてたんだよね?」
「そりゃあ家族が死んだんだから、ショックから身を守るために忘れたフリをするだろう。でも記憶が消えたわけじゃない。何かしらのトリガーで蘇ってくるのさ」
うーん、お父さんの話は複雑で、私には完全には理解できなかったけれど、これだけはわかった。私はなにかしらの要因で記憶を取り戻したんだ。
「そのトリガーっていうのは?」
するとお父さんは得意げな表情になった。いや、意味深なとでもいう感じかな。
「――杉山(すぎやま) 紗良(さら)」
「!?」
懐かしい名前だった。サラお姉ちゃんは私の8歳上の従姉妹(いとこ)で、私が小さい頃によく遊んでくれていた。そして――私が密かに想いを寄せていた相手。
だってその時は年上のお姉さんってすごく憧れる存在だったから!
でもサラお姉ちゃんは国立大学に進学するために遠くへ行ってしまったはずだ。実際私も長い間会っていない。会いに行こうと思えば行けなくもないけれど、お姉ちゃんは大学で普通に男の人と恋愛とかしてるのに私が行ったら邪魔になっちゃうとかよく分からない意地を張って、頑なに会いに行こうとしてなかった。
どうしてお父さんの口から今更サラお姉ちゃんの名前が出てくるのか謎だった。
「お嬢ちゃんに近しい存在ではなくて、なおかつお嬢ちゃんの心に深く刻まれている存在といったら彼女くらいしか思い浮かばなくてな。――好きなんだろ?」
お父さんの言葉に私の顔にカーッと血が上るのが分かった。もう、こんな時にその話題を出すのは反則! いくらお父さんでも言っていいことと悪いことがある。
「な、なんでそんな回りくどいことしたの!?」
すると、お父さんは徐(おもむ)ろにその大きな身体を屈めて私の目の前にしゃがみこんだ。そして私と目線を合わせ、肩に手を添えながらゆっくりと告げる。
「いいか、よく聞け。これは大事なことだ。俺が今まで作り上げてきたものに関わることだ。――聞く覚悟はあるか?」
私は頷いた。お父さんは家では仕事のことはほとんど話さなかったので純粋に興味があった。
「俺が設立した会社は『株式会社TEIRAS(テイラス)』っていうんだが、俺はそこで医療用VR機器の『トロイメギア』を開発した」
「うん、それは知ってる」
「そうか。――だが、社内は一枚岩じゃなくてな。ウチのVR技術を医療用じゃなくて軍用に転用しようとしている連中がいるのさ」
「へぇ……? それって何か問題あるの?」
「大アリだろうが。例えば、遠くからVR技術で戦闘機やロボットを操作してゲーム感覚で戦争ができたりしたら大変だろ」
「うーん、でもそれってもう既にやってる国ありそうだよね」
「そもそもとして、日本では兵器開発はできないようになってるんだ……」
「そう……」
人間同士の戦いじゃなくて、ロボット同士で戦って戦争に決着がつくならそれに越したことはないんじゃないかな? とは思ったけれど、いろいろ大人の事情っていうのがあるのだろう。確かに、私もゲーム感覚で戦争ができちゃうっていうのはちょっと問題かなって思うし。
理由は簡単。ゲームは遊びであっても、戦争は遊びじゃないからだ。
「そんで、俺を追い落として会社を乗っ取ろうとする連中もいるわけさ。今回の事故だってそいつらが仕組んだに違いない。生前の俺はそれを炙り出したかった。――だから」
「『トロイメア・オンライン』を作った?」
「そう。デバッグデータをゲームに隠したなんてガセネタ流してな。そしたら案の定釣れたってわけだ。今管理者権限使って好き勝手ゲームを改悪してるやつらがそれさ」
「それはつまり……ユメちゃんとかがお父さんたちを事故で殺したの……?」
だとしたら許せない。
「そこは推測でしかないがな。会社を乗っ取ろうとしてるのは確かだ。――お嬢ちゃんも用が済んだらそれとなく始末されるだろうな。俺と血の繋がった娘は邪魔な存在だから」
「……そんな、酷い!」
「あぁ酷い。全く酷い話だ。けど、奴らの思いどおりにはさせない。お嬢ちゃんはそのガラス玉を持っている限りは殺されることはないだろう。――あとは、味方もちゃんといる。サラお姉ちゃんがな」
「あ、そうそう、サラお姉ちゃんのことをまだ聞いてなかった。――お姉ちゃんもこのゲームの中にいるの?」
私が尋ねると、お父さんはまた意味ありげな笑みを浮かべた。
「いるもなにも、俺が密かに雇って今年から会社で働いてる。あと、ゲームの中でお嬢ちゃんとずっと一緒にいた」
「!?」
「ようやくわかったか。――さてと、そろそろ時間だな。健闘を祈るぞ我が娘よ」
「え、ちょっと待って私戦うの!?」
「当たり前だ。このゲームが奴らの手に落ちたらデータである俺たちも、お嬢ちゃん自身も、俺が作り上げた世界も全部消えるんだぞ? そんなことされてたまるか。だがデータにすぎない俺らは奴らと戦うことができない。管理者権限がないからな」
気づいたら、お父さんの横にホムラちゃんとセレナちゃんとアオイちゃん――お兄ちゃんとお母さんとペコ――の疑似人格? が立っていた。『俺たち』ってそういうことか。
「申し訳ないですけど、アオイたちを助けると思って、手を貸してくださいココアさん」
「これからココアさんのアカウントに管理者権限を付与します。――相手の力は未知数ですが、やってやれないことはないでしょう」
「いや、ココアならできる。なんてたってオレの妹だからな! なんでオレの身体をこんなにしたのかは文句言いたいところだけど!」
ごめんなさい。なんでお兄ちゃんが美少女の身体になってるのかは私にもわからないの!
「お嬢ちゃん、俺らのギルド名覚えてるか?」
「えっと、確かエスポワールとか?」
「よく覚えてたな。『エスポワール』はフランス語で希望を意味する。お嬢ちゃんは俺たちの希望で――最強のデバッグプログラムだ」
「――は?」
「『トロイメギア』にバグはないと言っただろ? バグがあるとすれば社内の反乱分子――俺たちを嵌(は)めた奴らだ。――くれぐれも頼んだぞ」
私の家族は口々に「頑張れ」的なことを言って、私の肩を叩くと、私の持っていたガラス玉に吸い込まれるようにして消えていった。
なんかよく分からないうちに大役を任されていたけれど、もうこうなったら最後までやり遂げるしかない。そして、このガラス玉は――家族は絶対に守らないと!
まずは味方、サラお姉ちゃんとの接触だ。
私が決意を新たにしていると、目の前にこんなメッセージが浮かび上がった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
プレイヤーネーム『ココア』さんに『管理者権限』の付与が完了しました!
『ルーム』の移動が可能になりました!
プレイヤーの追跡転移が可能になりました!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「よーし、ユメちゃんのところに転移!」
『コマンド音声認識中……認識しました! プレイヤーID『HVG14534』プレイヤーネーム『ユメ』座標検知中……検知しました! 『ルーム1』へ転移を開始します!』
私の視界は再び闇に包まれた。
私の目の前から歩き去っていく人影。その人はセーラー服を身につけていて、女子高生だということが分かるが、夕陽の逆光が酷くて詳細には判別できない。
でも、私は無性にその人に行ってほしくないという感情が湧き上がってきた。
「待って! 行かないで!」
思わずその背中に声をかける。彼女は振り返ったようだ。相変わらず逆光のせいで表情は見えないけれど。
「またいつか……会えるよ」
「――絶対私、サラお姉ちゃんのお嫁さんになるから!」
ん? なんてこと言ってるんだ私!?
「じゃあ私も心凪が大きくなるまで待ってなきゃね」
彼女はそう答えると、私の元に歩み寄ってきて頭を撫でた。くすぐったい。
「約束だからね!」
「うん、約束!」
――う
――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!
な、なんてもの見せるんだぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!! これは……これはずっと昔の記憶じゃんっっっ!!!!
私は衝撃で気を失ってしまったらしい。でも――
そのお陰で全部思い出した……!
◇ ◆ ◇
私の名前は小見(おみ)心凪(ここな)。どこにでもいる高校一年生。
家には、二つ上の受験生のお兄ちゃんと、専業主婦のお母さん、ゲーム開発会社で働いているお父さんとチワワのペコがいる。
学校には親友の希歩(のあ)ちゃん、ヒナちゃん、一応彼氏ということになっている蒼人(あおと)くんがいて……それで……それで……
次の瞬間、私の体を強い衝撃が襲った。
精神的にじゃなくて物理的な。
身体が何かに押し付けられて、身体の中で何かがぐしゃっと潰れるような感覚があった。痛い。すごく痛い。でも目も見えないしよく分からない。何が起こったのか……それすら。
なんかブレーキだかクラクションだかわからない音がする。
その音はだんだんフェードアウトしていき、私の視界は黒い闇に包まれてしまった。
――そうだ、私は事故にあってそれで……
家族が死んだって言われた。
何故私だけ生き残ってしまったのかはよく分からないけれど、お父さんは生き残った私に何かを託したらしい。いや、もしかしたら自分にもしものことが起こった時のために予め準備してたのかも……
「察しがいいな。さすがはお嬢ちゃんだ」
気づくと、私の隣には鎧を身にまとったクラウスさんが立っていた。辺りは相変わらず真っ暗だけれど、その鎧は温かな光を放っている。
「あれ、クラウスさん。どうしてここにいるんですか?」
すると、クラウスさんはバツが悪そうな顔をした。
「謝ろうと思っててな。騙しててすまなかった。そして……先に逝ってしまってすまない。大役を押しつけてすまない。――何度も痛い思いをさせてすまない」
「クラウスさん?」
「――もう隠してる意味もないか。俺は心凪の記憶の中にあった父親――小見哲人の人格データに、『トロイメギア』の奥底に眠っていた小見哲人自身の人格データが組み合わさった疑似人格だ。だが、限りなく小見哲人に近い存在だろうな」
「ちょっと何言ってるか分からないんですけど」
「要するに俺はほぼお前の父親だ。我が娘よ」
「……」
黙り込んでしまった私の肩に、クラウスさん――いや、お父さんがポンと優しく手を乗せた。大きくて温かい手だった。
「つまり俺は死んだわけじゃない。こうやってゲームの中だと動けるし、本人の人格に基づいた思考もできる。実際、お嬢ちゃんに出会った時からお嬢ちゃんのことが愛しくてたまらなかった。無理もないな、実の娘なのだから」
「お父さんは……生きてるの?」
「あぁ、そう言うことができるだろう。身体は滅んでしまったが、『トロイメギア』がある限りその中で俺はずっと生き続けられる。お嬢ちゃんのおかげだ。人格っていうのは主観だけじゃなくて、客観的な視点がないと再現できないからな。お嬢ちゃんの記憶のおかげで俺は復活できたってわけだ」
「あれ、でも私記憶をなくしてたんだよね?」
「そりゃあ家族が死んだんだから、ショックから身を守るために忘れたフリをするだろう。でも記憶が消えたわけじゃない。何かしらのトリガーで蘇ってくるのさ」
うーん、お父さんの話は複雑で、私には完全には理解できなかったけれど、これだけはわかった。私はなにかしらの要因で記憶を取り戻したんだ。
「そのトリガーっていうのは?」
するとお父さんは得意げな表情になった。いや、意味深なとでもいう感じかな。
「――杉山(すぎやま) 紗良(さら)」
「!?」
懐かしい名前だった。サラお姉ちゃんは私の8歳上の従姉妹(いとこ)で、私が小さい頃によく遊んでくれていた。そして――私が密かに想いを寄せていた相手。
だってその時は年上のお姉さんってすごく憧れる存在だったから!
でもサラお姉ちゃんは国立大学に進学するために遠くへ行ってしまったはずだ。実際私も長い間会っていない。会いに行こうと思えば行けなくもないけれど、お姉ちゃんは大学で普通に男の人と恋愛とかしてるのに私が行ったら邪魔になっちゃうとかよく分からない意地を張って、頑なに会いに行こうとしてなかった。
どうしてお父さんの口から今更サラお姉ちゃんの名前が出てくるのか謎だった。
「お嬢ちゃんに近しい存在ではなくて、なおかつお嬢ちゃんの心に深く刻まれている存在といったら彼女くらいしか思い浮かばなくてな。――好きなんだろ?」
お父さんの言葉に私の顔にカーッと血が上るのが分かった。もう、こんな時にその話題を出すのは反則! いくらお父さんでも言っていいことと悪いことがある。
「な、なんでそんな回りくどいことしたの!?」
すると、お父さんは徐(おもむ)ろにその大きな身体を屈めて私の目の前にしゃがみこんだ。そして私と目線を合わせ、肩に手を添えながらゆっくりと告げる。
「いいか、よく聞け。これは大事なことだ。俺が今まで作り上げてきたものに関わることだ。――聞く覚悟はあるか?」
私は頷いた。お父さんは家では仕事のことはほとんど話さなかったので純粋に興味があった。
「俺が設立した会社は『株式会社TEIRAS(テイラス)』っていうんだが、俺はそこで医療用VR機器の『トロイメギア』を開発した」
「うん、それは知ってる」
「そうか。――だが、社内は一枚岩じゃなくてな。ウチのVR技術を医療用じゃなくて軍用に転用しようとしている連中がいるのさ」
「へぇ……? それって何か問題あるの?」
「大アリだろうが。例えば、遠くからVR技術で戦闘機やロボットを操作してゲーム感覚で戦争ができたりしたら大変だろ」
「うーん、でもそれってもう既にやってる国ありそうだよね」
「そもそもとして、日本では兵器開発はできないようになってるんだ……」
「そう……」
人間同士の戦いじゃなくて、ロボット同士で戦って戦争に決着がつくならそれに越したことはないんじゃないかな? とは思ったけれど、いろいろ大人の事情っていうのがあるのだろう。確かに、私もゲーム感覚で戦争ができちゃうっていうのはちょっと問題かなって思うし。
理由は簡単。ゲームは遊びであっても、戦争は遊びじゃないからだ。
「そんで、俺を追い落として会社を乗っ取ろうとする連中もいるわけさ。今回の事故だってそいつらが仕組んだに違いない。生前の俺はそれを炙り出したかった。――だから」
「『トロイメア・オンライン』を作った?」
「そう。デバッグデータをゲームに隠したなんてガセネタ流してな。そしたら案の定釣れたってわけだ。今管理者権限使って好き勝手ゲームを改悪してるやつらがそれさ」
「それはつまり……ユメちゃんとかがお父さんたちを事故で殺したの……?」
だとしたら許せない。
「そこは推測でしかないがな。会社を乗っ取ろうとしてるのは確かだ。――お嬢ちゃんも用が済んだらそれとなく始末されるだろうな。俺と血の繋がった娘は邪魔な存在だから」
「……そんな、酷い!」
「あぁ酷い。全く酷い話だ。けど、奴らの思いどおりにはさせない。お嬢ちゃんはそのガラス玉を持っている限りは殺されることはないだろう。――あとは、味方もちゃんといる。サラお姉ちゃんがな」
「あ、そうそう、サラお姉ちゃんのことをまだ聞いてなかった。――お姉ちゃんもこのゲームの中にいるの?」
私が尋ねると、お父さんはまた意味ありげな笑みを浮かべた。
「いるもなにも、俺が密かに雇って今年から会社で働いてる。あと、ゲームの中でお嬢ちゃんとずっと一緒にいた」
「!?」
「ようやくわかったか。――さてと、そろそろ時間だな。健闘を祈るぞ我が娘よ」
「え、ちょっと待って私戦うの!?」
「当たり前だ。このゲームが奴らの手に落ちたらデータである俺たちも、お嬢ちゃん自身も、俺が作り上げた世界も全部消えるんだぞ? そんなことされてたまるか。だがデータにすぎない俺らは奴らと戦うことができない。管理者権限がないからな」
気づいたら、お父さんの横にホムラちゃんとセレナちゃんとアオイちゃん――お兄ちゃんとお母さんとペコ――の疑似人格? が立っていた。『俺たち』ってそういうことか。
「申し訳ないですけど、アオイたちを助けると思って、手を貸してくださいココアさん」
「これからココアさんのアカウントに管理者権限を付与します。――相手の力は未知数ですが、やってやれないことはないでしょう」
「いや、ココアならできる。なんてたってオレの妹だからな! なんでオレの身体をこんなにしたのかは文句言いたいところだけど!」
ごめんなさい。なんでお兄ちゃんが美少女の身体になってるのかは私にもわからないの!
「お嬢ちゃん、俺らのギルド名覚えてるか?」
「えっと、確かエスポワールとか?」
「よく覚えてたな。『エスポワール』はフランス語で希望を意味する。お嬢ちゃんは俺たちの希望で――最強のデバッグプログラムだ」
「――は?」
「『トロイメギア』にバグはないと言っただろ? バグがあるとすれば社内の反乱分子――俺たちを嵌(は)めた奴らだ。――くれぐれも頼んだぞ」
私の家族は口々に「頑張れ」的なことを言って、私の肩を叩くと、私の持っていたガラス玉に吸い込まれるようにして消えていった。
なんかよく分からないうちに大役を任されていたけれど、もうこうなったら最後までやり遂げるしかない。そして、このガラス玉は――家族は絶対に守らないと!
まずは味方、サラお姉ちゃんとの接触だ。
私が決意を新たにしていると、目の前にこんなメッセージが浮かび上がった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
プレイヤーネーム『ココア』さんに『管理者権限』の付与が完了しました!
『ルーム』の移動が可能になりました!
プレイヤーの追跡転移が可能になりました!
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「よーし、ユメちゃんのところに転移!」
『コマンド音声認識中……認識しました! プレイヤーID『HVG14534』プレイヤーネーム『ユメ』座標検知中……検知しました! 『ルーム1』へ転移を開始します!』
私の視界は再び闇に包まれた。
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