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♡ゴスロリ魔王と最終決戦♡
決戦! 〜詠唱開始!〜
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「それは……」
ホムラちゃんはゆっくり口を開いた。――しかし、その視線は私の背後の一点に向けられている。私が相変わらずすっぽんぽんだから目が合わせられないとかそういう訳では無い様だ。
「――そいつに聞いた方がいいんじゃないか?」
私は恐る恐る後ろを振り返ってみた。すると――
――美少女がいた
いや、真っ先に抱いた感想がそれ。うわ可愛い! っていう。でも、その可愛さはなんというか作り物のような、完成されつくした可愛さだ。私はミルクちゃんの方が好き……かな?
その子は私と同じくらい小柄で、私よりも深みのある茶色がかった金髪をツインテールに結び、黒いゴスロリを身につけている。
俗に言うゴスロリ幼女ってやつだ。こういう子はだいたいかなりの大物だって相場が決まっている。――っていうか……。
――いつの間にそこにいたの?
さっきアンラマンユを倒した時にはこんな可愛い幼女はどこにもいなかったはずだ。――いたら絶対気づくはずだから……。
背中を悪寒が駆け抜けた。
「――まったく、人を幽霊か何かみたいに凝視して……失礼な子ね」
幼女が口を開いた。大人の女の人のような……そのちっちゃい見た目には不釣り合いな落ち着いたトーンの声だった。
「え、えっと……あなたは?」
「――ていうかあなた服着なさいよ……」
……。
…………。
そうでした。私、まだすっぽんぽんでした。慌ててウィンドウを操作して装備を身につける。
「ごめんね?」
「まあいいんだけどね」
幼女はとてとてと私に歩み寄ってきた。そして、ゴスロリの裾を摘んで優雅にお辞儀をする。
「初めまして。私の名前はイブリース。――魔王なんて呼ばれてるわね」
「っ!?」
「待って、そんなに身構えなくてもいいのよ。今すぐあなたをどうこうするつもりはないから」
って言われてもね……。目の前にこの世界最強の敵、魔王『イブリース』がいるというのにそんな肩の力抜けるわけないじゃない! 魔王のことだから、言葉巧みに私を籠絡(ろうらく)しようとしてるのかもしれないし!
私は改めてイブリースの黄金色の瞳を覗き込む。でもその瞳にはなんの感情も宿っていなかった。強いて言うなら――哀れみ、だろうか。どうしてそんな感情が宿っているのか、私には分からない。
「な、なんで魔王がこんなところに……」
「なんでって……それは、部下がやられたから出てきたに決まってるじゃない? それにこれ以上雑魚同士でやり合っても仕方ないしね?」
そう言いながらイブリースは『ハーフリング』の村の方を指さす。
村の東西ではいつの間にか激しい戦闘が行われていた。
東側では何体もの巨大なモンスターたちが入り乱れて戦っている。――ユキノちゃん、キラくん、ミルクちゃんの巨大モンスター担当のトリオは、しっかりと敵を迎撃しているらしい。
そして西側ではリーナちゃんの罠の支援を受けてセレナちゃんが暴れ回っているのだろう、何本ものビームが宙に煌めいている。
「私とあなたが決闘して、私が勝ったら村を貰う。あなたが勝ったら私たちは村を諦める。――ってことでどうかしら?」
イブリースは可愛らしく首を傾げながら尋ねてくる。確かに、私も無用な犠牲は出したくない。それに、どうせ魔王に勝てる可能性があるのは今のところ私くらいしかいない。……と思う。
私はホムラちゃんの方を振り向いた。すると彼女はじっと私を見つめ返して「お前が自分で決めろ」とでも言わんばかりの様子だった。
って言われてもね。もう選択肢はないじゃん。
それに私にはアレがある。魔王を倒すための秘密兵器【破滅の光】が!
でもその前に聞かなきゃいけないことがあったんだった。
「その前に教えてください。私について……」
イブリースは、ふふっと微笑んだ。
「そうね。あなたが勝ったらいくらでも教えてあげるわ。――勝てたらの話だけどね?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
グランドクエスト【魔王との決戦】が発生しました!
※このクエストは受注拒否できません
【魔王との決戦】
魔王 『イブリース』を撃破し、この世界に平和を取り戻せ
達成条件︰『イブリース』の撃破
失敗条件︰自身の死亡
達成報酬︰〓〓の〓〓
編成条件︰選ばれた一人
禁止制限種族︰なし
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
目の前にこんなクエストの発生を示すメッセージが出現した。しかも拒否権がない。まあ当たり前か、目の前に魔王ご本人がおられるだから。
「見てのとおり、そのクエストは本来このゲームのもっと終盤で出現するはずだったクエスト。でも、今のあなたは自分のレベルを遥かに超えるステータスを手に入れている。――このクエストに挑むに相応しい力を持っていると思ったから特別に挑戦させてあげるわ」
イブリースは静かに続けた。
私の力――突然手に入ってしまって身に余る力に、偶然持っていた魔王を倒すための切り札。――出来すぎている。でも、やらないと! 村を守らないと!
「――受けて立ちます」
私の答えに、イブリースは満足げに頷いた。そして数歩後ろに下がる。私もホムラちゃんに目配せをして数歩後ずさり、お互い適度な距離をとった。
「約束、守ってくださいね?」
「もちろんよ? 魔王は約束を破ったりはしないわ。教えるべきことは教えてあげる。そして――ほら、一時休戦よ」
パンパンとイブリースは手を叩く。特にあまり大きな音はしなかったのだが、騒がしかった背後の音が徐々におさまってきた。戦闘が収束しつつある。村を襲っていた敵が撤退を始めたのかもしれない。魔王にしては聞きわけがいいじゃない?
訝(いぶか)る私の正面で、イブリースは空中から大きな黒い鎌のようなものを召喚した。あれが武器なのだろう。鎌の刃の部分は緑色の炎に包まれ、明らかに強そうなオーラをまとっている。
――あれが魔王
――イブリース
私が手に持っていた杖は、アンラマンユとホムラちゃんの間に割って入る時にどこかにいってしまったらしいので私は素手。でもこのステータスなら大体の敵は軽く殴るだけで消し飛ばすことができそうだ。とりあえず、見よう見まねで足を前後に開き、顔の前で左拳を構えてファイティングポーズをとってみた。
そうしながら、右手でウィンドウを操作して【破滅の光】を発動する準備を進める。敵は魔王だし、どういう奥の手を隠し持ってるか分からない。恐らく長期戦になるほど不利だ。――ならば最初から全力でいく!
「ココア、お前ならやれる!」
「分かってる」
ホムラちゃんの言葉に、私は唇を噛み締め拳をしっかりと握った。対するイブリースは大鎌を片手でブンブンと振り回して余裕の表情。どこか遊んでいるようにも見えた。
「さあ――やろっか!」
「はいっ!」
その言葉を合図に、私とイブリースはその場から前へ飛び出した。
私の狙いはイブリースの肩。どこでもいい! 当たれば!
私は【破滅の光】の詠唱時間を確認し――目を疑った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【破滅の光】を詠唱中です……
発動可能まで989秒
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ホムラちゃんはゆっくり口を開いた。――しかし、その視線は私の背後の一点に向けられている。私が相変わらずすっぽんぽんだから目が合わせられないとかそういう訳では無い様だ。
「――そいつに聞いた方がいいんじゃないか?」
私は恐る恐る後ろを振り返ってみた。すると――
――美少女がいた
いや、真っ先に抱いた感想がそれ。うわ可愛い! っていう。でも、その可愛さはなんというか作り物のような、完成されつくした可愛さだ。私はミルクちゃんの方が好き……かな?
その子は私と同じくらい小柄で、私よりも深みのある茶色がかった金髪をツインテールに結び、黒いゴスロリを身につけている。
俗に言うゴスロリ幼女ってやつだ。こういう子はだいたいかなりの大物だって相場が決まっている。――っていうか……。
――いつの間にそこにいたの?
さっきアンラマンユを倒した時にはこんな可愛い幼女はどこにもいなかったはずだ。――いたら絶対気づくはずだから……。
背中を悪寒が駆け抜けた。
「――まったく、人を幽霊か何かみたいに凝視して……失礼な子ね」
幼女が口を開いた。大人の女の人のような……そのちっちゃい見た目には不釣り合いな落ち着いたトーンの声だった。
「え、えっと……あなたは?」
「――ていうかあなた服着なさいよ……」
……。
…………。
そうでした。私、まだすっぽんぽんでした。慌ててウィンドウを操作して装備を身につける。
「ごめんね?」
「まあいいんだけどね」
幼女はとてとてと私に歩み寄ってきた。そして、ゴスロリの裾を摘んで優雅にお辞儀をする。
「初めまして。私の名前はイブリース。――魔王なんて呼ばれてるわね」
「っ!?」
「待って、そんなに身構えなくてもいいのよ。今すぐあなたをどうこうするつもりはないから」
って言われてもね……。目の前にこの世界最強の敵、魔王『イブリース』がいるというのにそんな肩の力抜けるわけないじゃない! 魔王のことだから、言葉巧みに私を籠絡(ろうらく)しようとしてるのかもしれないし!
私は改めてイブリースの黄金色の瞳を覗き込む。でもその瞳にはなんの感情も宿っていなかった。強いて言うなら――哀れみ、だろうか。どうしてそんな感情が宿っているのか、私には分からない。
「な、なんで魔王がこんなところに……」
「なんでって……それは、部下がやられたから出てきたに決まってるじゃない? それにこれ以上雑魚同士でやり合っても仕方ないしね?」
そう言いながらイブリースは『ハーフリング』の村の方を指さす。
村の東西ではいつの間にか激しい戦闘が行われていた。
東側では何体もの巨大なモンスターたちが入り乱れて戦っている。――ユキノちゃん、キラくん、ミルクちゃんの巨大モンスター担当のトリオは、しっかりと敵を迎撃しているらしい。
そして西側ではリーナちゃんの罠の支援を受けてセレナちゃんが暴れ回っているのだろう、何本ものビームが宙に煌めいている。
「私とあなたが決闘して、私が勝ったら村を貰う。あなたが勝ったら私たちは村を諦める。――ってことでどうかしら?」
イブリースは可愛らしく首を傾げながら尋ねてくる。確かに、私も無用な犠牲は出したくない。それに、どうせ魔王に勝てる可能性があるのは今のところ私くらいしかいない。……と思う。
私はホムラちゃんの方を振り向いた。すると彼女はじっと私を見つめ返して「お前が自分で決めろ」とでも言わんばかりの様子だった。
って言われてもね。もう選択肢はないじゃん。
それに私にはアレがある。魔王を倒すための秘密兵器【破滅の光】が!
でもその前に聞かなきゃいけないことがあったんだった。
「その前に教えてください。私について……」
イブリースは、ふふっと微笑んだ。
「そうね。あなたが勝ったらいくらでも教えてあげるわ。――勝てたらの話だけどね?」
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グランドクエスト【魔王との決戦】が発生しました!
※このクエストは受注拒否できません
【魔王との決戦】
魔王 『イブリース』を撃破し、この世界に平和を取り戻せ
達成条件︰『イブリース』の撃破
失敗条件︰自身の死亡
達成報酬︰〓〓の〓〓
編成条件︰選ばれた一人
禁止制限種族︰なし
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目の前にこんなクエストの発生を示すメッセージが出現した。しかも拒否権がない。まあ当たり前か、目の前に魔王ご本人がおられるだから。
「見てのとおり、そのクエストは本来このゲームのもっと終盤で出現するはずだったクエスト。でも、今のあなたは自分のレベルを遥かに超えるステータスを手に入れている。――このクエストに挑むに相応しい力を持っていると思ったから特別に挑戦させてあげるわ」
イブリースは静かに続けた。
私の力――突然手に入ってしまって身に余る力に、偶然持っていた魔王を倒すための切り札。――出来すぎている。でも、やらないと! 村を守らないと!
「――受けて立ちます」
私の答えに、イブリースは満足げに頷いた。そして数歩後ろに下がる。私もホムラちゃんに目配せをして数歩後ずさり、お互い適度な距離をとった。
「約束、守ってくださいね?」
「もちろんよ? 魔王は約束を破ったりはしないわ。教えるべきことは教えてあげる。そして――ほら、一時休戦よ」
パンパンとイブリースは手を叩く。特にあまり大きな音はしなかったのだが、騒がしかった背後の音が徐々におさまってきた。戦闘が収束しつつある。村を襲っていた敵が撤退を始めたのかもしれない。魔王にしては聞きわけがいいじゃない?
訝(いぶか)る私の正面で、イブリースは空中から大きな黒い鎌のようなものを召喚した。あれが武器なのだろう。鎌の刃の部分は緑色の炎に包まれ、明らかに強そうなオーラをまとっている。
――あれが魔王
――イブリース
私が手に持っていた杖は、アンラマンユとホムラちゃんの間に割って入る時にどこかにいってしまったらしいので私は素手。でもこのステータスなら大体の敵は軽く殴るだけで消し飛ばすことができそうだ。とりあえず、見よう見まねで足を前後に開き、顔の前で左拳を構えてファイティングポーズをとってみた。
そうしながら、右手でウィンドウを操作して【破滅の光】を発動する準備を進める。敵は魔王だし、どういう奥の手を隠し持ってるか分からない。恐らく長期戦になるほど不利だ。――ならば最初から全力でいく!
「ココア、お前ならやれる!」
「分かってる」
ホムラちゃんの言葉に、私は唇を噛み締め拳をしっかりと握った。対するイブリースは大鎌を片手でブンブンと振り回して余裕の表情。どこか遊んでいるようにも見えた。
「さあ――やろっか!」
「はいっ!」
その言葉を合図に、私とイブリースはその場から前へ飛び出した。
私の狙いはイブリースの肩。どこでもいい! 当たれば!
私は【破滅の光】の詠唱時間を確認し――目を疑った。
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【破滅の光】を詠唱中です……
発動可能まで989秒
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