83 / 100
♡ガチャ召喚とハードクエスト♡
どうして泣いてるの?
しおりを挟む
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
急襲クエスト【アンラマンユ襲来】を達成しました!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
私の目の前――というか多分NPCを除いたここにいる全員の目の前にこんなメッセージが表示されただろう。
「いやはや素晴らしい! やはり見込んだだけのことはあったな!」
「いやいや、見込んだのは俺だから!」
手を叩きながら賞賛する『ハーフリング』の長老さんにフェリクスさんがツッコんだ。以前と打って変わって長老さんの機嫌がいいような気がする。これが『クエスト進捗ボーナス』ってやつなのだろう。急襲クエストを達成したので長老さんの私たちに対するイメージが変わったのかもしれない。
「さあさあ皆さん、是非とも我々の村の中へ!」
さっきまでは散々嫌がっていたのにこれだ。長老さんは上機嫌で私たちを村へ招き入れたのだった。
◇ ◆ ◇
長老さんは私たちを自分の家に招いた。『ハーフリング』の村は、身長が低い彼らのために設計されているようで、なにもかもが私たちには少し小さかったが、長老の家だけは少し造りが違うようで、私は特に背を屈めなくても入る事ができた。まあ他の人はほとんど背を屈めて入っていたけどね。私がちんちくりんだっただけ。
『ハーフリング』の家の見た目は、日本史の授業で習った『竪穴式住居』に良く似たものだった。土を固めて作られたようなお家で、入口は狭いけど中は意外と広い。それでも私たちパーティと長老さん、フェリクスさんが入ると結構キツキツだった。
「先程は不意をつかれたが、しっかりと備えをすれば魔王『イブリース』を撃退することも可能だと俺は考えます」
「なるほど……具体的な作戦は――」
「まず村の四方に――」
「そうすると――」
「次にここに――」
魔王の軍を迎え撃つ相談だろうか……皆の話し声がする。でも私はあまり興味無いというか、何か別のことが無性に気になって、全然耳に入ってこなかった。
そう。
――初めてホムラちゃんに抱っこされた時のあの感覚
――ユキノちゃんの照れ顔
――クラウスさんの背中
――リーナちゃんのニヤニヤ笑い
――キラくんの心配そうな顔
――アオイちゃんの尻尾
――セレナちゃんのミステリアスな微笑み
私……なにか忘れてない? なにか……すごく大事なものを失っているような。あと少しで思い出せるような気がするんだけどな……。いかんせん頭に靄(もや)がかかったようにぼーっとして、上手く思考がまとまらない。
「――ご主人様、大丈夫と?」
気づいたらミルクちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「う、うん、大丈夫」
ミルクちゃんは何か思い詰めるような、言わなければいけないことを言おうか言うまいか逡巡しているような、そんな表情を浮かべた。変なの、この子はゲーム内のデータのはずなのに、なんでこんなに感情豊かなのだろう?
そして、やがて意を決したようにこう口にした。
「ご主人様、早うしぇな間に合わんくなるばい!」
「えっ?」
何? なんのこと? よく分からないんだけど。ミルクちゃんが訛っているからかな? いや、そんなはずはないと思う。
「ご主人様、こっち!」
「ちょっと!!」
私はミルクちゃんに手を引っ張られて私は長老さんの家の外に出た。外はもうすっかり真っ暗になっていた。――ということは現実世界(リアル)だと朝になってるってことで……もう起きなきゃ!
「なるほどそういうことね! 早くしないと学校に間に合わないって意味だったんだね、ありがとうミルクちゃん!」
「違うばい!」
「え?」
「ご主人様! 早く――早く思い出しんしゃい! 友達のこと、家族のこと、――自分のこと」
ミルクちゃんは両目に涙を浮かべて必死に訴える。でも、そんな事言われても私にも分からないし……。私は私で友達は友達で家族は家族。それ以上でも以下でもないじゃない。
「ごめん、ミルクちゃんの言ってること分からないや。とりあえず今は行かなきゃ。――また今夜」
「だめ!!」
「――っ!?」
だめ? なにがだめなの?
「行く前に思い出しんしゃい! ――やないと、手遅れになると!」
「なんで? 起きてから学校とかでゆっくり考えてみるよ」
しかし、それに対するミルクちゃんの答えは耳を疑うようなものだった。
「行ったらもう――戻れんくなると!」
「なーに言ってるの、大丈夫だよ心配性だなぁミルクちゃんは。心配しなくても私はちゃんと今夜ログインしにきます! 嫁を見捨てるわけないじゃない。ね?」
「そうじゃなくて……」
もーう、可愛いんだからミルクちゃんは……。
ぎゅっと、寂しがるミルクちゃんを抱きしめてあげる。ミルクちゃんはなにか言おうとしていたようだけど、私にハグされて言うのを諦めたようだ。
私はパーティメンバーに、ログアウトする旨をメッセージで送ると、ミルクちゃんから離れて彼女に手を振った。
「――それじゃあまたね!」
「――くれぐれも気をつけて」
ミルクちゃんはそれしか言わなかった。
強制ログアウトのボタンを押すと、たちまち私の意識は暗闇に飲み込まれていく、ミルクちゃんの姿が霞んで見えなくなる寸前、彼女のぱっちりとした目から一粒の涙が溢れるのがわかった。
――どうして泣いているんだろう?
◇ ◆ ◇
ココア――小見 心凪がログアウトしていった村の中で、彼女に『ミルク』と呼ばれていたメイド服の少女は、右腕でゴシゴシと目元の涙を拭うと、一言呟いた。
「バカみたい……運命は変えられんって分かっとんに……」
急襲クエスト【アンラマンユ襲来】を達成しました!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
私の目の前――というか多分NPCを除いたここにいる全員の目の前にこんなメッセージが表示されただろう。
「いやはや素晴らしい! やはり見込んだだけのことはあったな!」
「いやいや、見込んだのは俺だから!」
手を叩きながら賞賛する『ハーフリング』の長老さんにフェリクスさんがツッコんだ。以前と打って変わって長老さんの機嫌がいいような気がする。これが『クエスト進捗ボーナス』ってやつなのだろう。急襲クエストを達成したので長老さんの私たちに対するイメージが変わったのかもしれない。
「さあさあ皆さん、是非とも我々の村の中へ!」
さっきまでは散々嫌がっていたのにこれだ。長老さんは上機嫌で私たちを村へ招き入れたのだった。
◇ ◆ ◇
長老さんは私たちを自分の家に招いた。『ハーフリング』の村は、身長が低い彼らのために設計されているようで、なにもかもが私たちには少し小さかったが、長老の家だけは少し造りが違うようで、私は特に背を屈めなくても入る事ができた。まあ他の人はほとんど背を屈めて入っていたけどね。私がちんちくりんだっただけ。
『ハーフリング』の家の見た目は、日本史の授業で習った『竪穴式住居』に良く似たものだった。土を固めて作られたようなお家で、入口は狭いけど中は意外と広い。それでも私たちパーティと長老さん、フェリクスさんが入ると結構キツキツだった。
「先程は不意をつかれたが、しっかりと備えをすれば魔王『イブリース』を撃退することも可能だと俺は考えます」
「なるほど……具体的な作戦は――」
「まず村の四方に――」
「そうすると――」
「次にここに――」
魔王の軍を迎え撃つ相談だろうか……皆の話し声がする。でも私はあまり興味無いというか、何か別のことが無性に気になって、全然耳に入ってこなかった。
そう。
――初めてホムラちゃんに抱っこされた時のあの感覚
――ユキノちゃんの照れ顔
――クラウスさんの背中
――リーナちゃんのニヤニヤ笑い
――キラくんの心配そうな顔
――アオイちゃんの尻尾
――セレナちゃんのミステリアスな微笑み
私……なにか忘れてない? なにか……すごく大事なものを失っているような。あと少しで思い出せるような気がするんだけどな……。いかんせん頭に靄(もや)がかかったようにぼーっとして、上手く思考がまとまらない。
「――ご主人様、大丈夫と?」
気づいたらミルクちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「う、うん、大丈夫」
ミルクちゃんは何か思い詰めるような、言わなければいけないことを言おうか言うまいか逡巡しているような、そんな表情を浮かべた。変なの、この子はゲーム内のデータのはずなのに、なんでこんなに感情豊かなのだろう?
そして、やがて意を決したようにこう口にした。
「ご主人様、早うしぇな間に合わんくなるばい!」
「えっ?」
何? なんのこと? よく分からないんだけど。ミルクちゃんが訛っているからかな? いや、そんなはずはないと思う。
「ご主人様、こっち!」
「ちょっと!!」
私はミルクちゃんに手を引っ張られて私は長老さんの家の外に出た。外はもうすっかり真っ暗になっていた。――ということは現実世界(リアル)だと朝になってるってことで……もう起きなきゃ!
「なるほどそういうことね! 早くしないと学校に間に合わないって意味だったんだね、ありがとうミルクちゃん!」
「違うばい!」
「え?」
「ご主人様! 早く――早く思い出しんしゃい! 友達のこと、家族のこと、――自分のこと」
ミルクちゃんは両目に涙を浮かべて必死に訴える。でも、そんな事言われても私にも分からないし……。私は私で友達は友達で家族は家族。それ以上でも以下でもないじゃない。
「ごめん、ミルクちゃんの言ってること分からないや。とりあえず今は行かなきゃ。――また今夜」
「だめ!!」
「――っ!?」
だめ? なにがだめなの?
「行く前に思い出しんしゃい! ――やないと、手遅れになると!」
「なんで? 起きてから学校とかでゆっくり考えてみるよ」
しかし、それに対するミルクちゃんの答えは耳を疑うようなものだった。
「行ったらもう――戻れんくなると!」
「なーに言ってるの、大丈夫だよ心配性だなぁミルクちゃんは。心配しなくても私はちゃんと今夜ログインしにきます! 嫁を見捨てるわけないじゃない。ね?」
「そうじゃなくて……」
もーう、可愛いんだからミルクちゃんは……。
ぎゅっと、寂しがるミルクちゃんを抱きしめてあげる。ミルクちゃんはなにか言おうとしていたようだけど、私にハグされて言うのを諦めたようだ。
私はパーティメンバーに、ログアウトする旨をメッセージで送ると、ミルクちゃんから離れて彼女に手を振った。
「――それじゃあまたね!」
「――くれぐれも気をつけて」
ミルクちゃんはそれしか言わなかった。
強制ログアウトのボタンを押すと、たちまち私の意識は暗闇に飲み込まれていく、ミルクちゃんの姿が霞んで見えなくなる寸前、彼女のぱっちりとした目から一粒の涙が溢れるのがわかった。
――どうして泣いているんだろう?
◇ ◆ ◇
ココア――小見 心凪がログアウトしていった村の中で、彼女に『ミルク』と呼ばれていたメイド服の少女は、右腕でゴシゴシと目元の涙を拭うと、一言呟いた。
「バカみたい……運命は変えられんって分かっとんに……」
0
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる