トロイメア・オンライン! 〜ブラコンでロリ巨乳の私は、クソザコステータス『HP極振り』と残念魔法『自爆魔法』で、最強で快眠な女子になります〜

早見羽流

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♡ちゅ〜とりある♡

私、快眠になりたい!

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『128番の番号札をお持ちの方、3番窓口へどうぞ』

 病院の待合ロビーに響いた機械音声のアナウンスに従って、私は電動の車椅子を操作してゆっくりと窓口に近づいた。
 窓口のお姉さんに負けないくらいの笑顔で応じると、お姉さんはカウンター越しに大きな箱をビニールの手提げ袋に入れて私に手渡してきた。

「小見(おみ) 心凪(ここな)さんですね? 今回は、『トロイメギア』が処方されています。使用方法はご存じですか?」

 私は頷いた。使用したことはないけど、お医者さんから説明を一通り受けている。

「これを頭につけて寝るだけですよね?」

「まあそうです。ちなみに正式なサービス開始は今夜9時の予定なので、それまでは街から外には出れない仕様になってますけど」

 お姉さんが補足してくれた情報も、しっかりと頭の中に入っていた。
 まあ、ゲームの説明はチュートリアル見ればいいし大丈夫かな。

「あっ、持てます? 重いですよ? 後ろに提げましょうか?」

 恐らくお姉さんは、私が車椅子だから後ろの押し手の部分に手提げ袋を提げましょうか? ってことが言いたいんだろうけれど、電動なので操作は片手でもできるし、もう片方の手で膝の上に抱えるようにして持てば意外と荷物は持つことができる。むしろ、後ろに提げられると、バランスが崩れて倒れやすくなっちゃう。

「えっ、あ、大丈夫です」

 私はなおも心配そうな顔のお姉さんにお金を支払うと、手提げ袋を掴んで家路についた。


 ――トロイメギア


 もはや国民病とも言われている『不眠症』を解消するために開発された最新医療機器。その実態は、〝脳に特殊な電気信号を送ることにより自分の見たい夢が見れる〟というもの。そしてそれを応用すれば、もちろん寝ている間にオンラインゲームができたりもする。
 今夜サービス開始予定の『トロイメア・オンライン』はその先駆けで、ベータ版ではすでに不眠症患者に対する多大な効果が報告されているらしいの。

 ちなみに『トロイメア』というのはドイツ語で夢を意味する『トロイメ』と、英語で悪夢を意味する『ナイトメア』からきた造語だとかなんだとか。快眠のためのゲームなのに悪夢とはなんだかなぁという気はする。


 ――と、ここで自己紹介をします。


 私は、小見 心凪。高校一年生女子。ちなみに不眠症で悩んでました。夜なかなか寝れなかったり、朝早く起きちゃったり。かと思ったら授業中に突然眠くなったりして、これはまずいと思って薬飲んだりして何とかしのいでたんだけど、ようやく念願のトロイメギアのサービスが始まるってことで、今日こうやってギアを処方してもらったってわけです。

 家族は、お兄ちゃんが一人。それとお父さんとお母さん。趣味は読書。特に戦記物が好きかな。あ、戦国時代とか好き。

 あとは、生まれつきの病気のせいで、ろくに歩けなかったりするけれど、それは生まれてから今までずっと付き合ってきたものだから今更そこまで気になったりはしない。むしろ、電動車椅子を乗り回してめちゃくちゃアクティブに動き回れている。
 問題はあくまでも『不眠症』なのです。

 いやー、医療機器とはいえまさかゲーム機に保険が適用されるなんて思ってなかったよびっくり。最新の機械だから普通に買おうとすると10万以上してお小遣いじゃ手が届かないんだよね……。
 病院でも、サービス開始直前だからってみんなこぞって貰いに来てて、ネットを見ていると品薄のところも多いみたい。運良くゲットできてよかったぁ。


 ◇  ◆  ◇


 そうこうしているうちに、私は住宅街の中の自宅にたどり着きました。いやー、結構重かった! でも一安心、私は自宅のインターホンを押すと、大声で呼びかけた。


「おにいちゃーーーん! いるんでしょーーー! てつだってーーー!」


 しばらくして、家の中からバタバタという音がして、ガチャンと玄関の扉が開き、中から大柄な少年が現れた。少年は寝癖のついた頭をゴシゴシと掻くと、私を見つめてこう言った。

「近所迷惑だぞ。――で、どうだった病院は?」

「見ればわかるでしょ、これ。処方されたよ!」

「おぉ、やったな! これで心凪も『トロオン』にデビューか!」

 少年はくりくりと人懐っこい瞳を輝かせながら、興奮した様子で私とハイタッチする。


 ――紹介します。


 この人は私の兄、小見 惶世(こうせい)。高校三年生。成績優秀、スポーツ万能だが彼女はいない。何故かはしらないけど。で、お兄ちゃんもずっと不眠症に悩んでいて、ついこの間からベータ版の『トロイメア・オンライン』をプレイして、不眠症が改善された。……らしい。
 要するにベータテスターだ。

「早速夕飯まで〝寝て〟みるつもりだから、色々教えてよお兄ちゃん」

「あー、いや悪いけど、このゲームについてオレから説明できることは少ないかな。とにかくやってみろとしか……分からないことがあったら他のプレイヤーに聞くんだな。それもVRMMOの醍醐味だし」

「えー、けちー! 強いスキルとか美味しい狩場とか教えてよー!」

「知ってても教えねえよ! ググれカス」

 頬を膨らませた私に、お兄ちゃんは「なに言ってんだこいつは」みたいな口調で応じる。なるほど、そういう態度取るなら私にも考えがあります。
 私は、ゲーム機の入った手提げ袋を傍らに置くと、両腕をガバッと広げた。

「ん!」

「なんのつもりだ?」

「抱っこ! 代わりに部屋まで運んで、私歩けないから!」

「はぁ!? いつもは自力で移動してるだろうが!」

「荷物あるから!」

「荷物は運んでやるから自力でいけ!」

 なかなか折れないお兄ちゃん。でも引き下がるわけにはいかない。もちろん、歩けなくても床を這いずるようにして移動はできるし、なんなら壁につかまりながら少しずつ歩くことだってできるんだけど、あまり甘やかしてしまうと後々手伝ってくれなくなっちゃうから。お兄ちゃんの管理も妹の仕事なのです!

「けちー! 前はやってくれたじゃん!」

「おま、もう高校生だからその……あまり」

「ほーん! お兄ちゃんも私のこと〝オンナノコ〟として見てくれてるんだね!」

 にやにやしながらお兄ちゃんを煽ると、お兄ちゃんは顔を少し赤くしながら、ムキになった様子で私の真横にやってきて、そのまま私の脚と背中の下に手を入れ、一気に抱えあげた。

「うわぁっ!」

「ほら、仰せのとおりにやってやったぞ?」

 力強い腕、近くにあるお兄ちゃんの顔、そして少し荒い息遣いに、リクエストしたはずの私も恥ずかしくなって顔を逸らしてしまった。……だって、いきなりお姫様抱っこされるとは思ってなかったもん。
 お兄ちゃんはそのまますいすいと家に上がり、私の部屋へと向かう。

「――久しぶりだね」

「――あぁ」

「――重い?」

「重い」


 ――バシンッ!


「いってえな! 落とすぞ!」

 私はついついムッとしてお兄ちゃんの胴体を叩いてしまった。体重にはかなり気を遣っているはずなのに! そこはお世辞でも軽いって言っておく場面だよ! デリカシーのない。だから彼女ができないんだよ!

 お兄ちゃんは私を自室のベッドに降ろすと、一旦玄関に戻って、ゲーム機の手提げ袋を持ってきた。少し残念だな。もうちょっと抱っこしてくれてても……?

「ここ置いとくぞ。車椅子は片付けてやるから。あとは――」

「ありがと!」

「へ?」

「あ・り・が・と! 手伝ってくれて」

 私がすんなりお礼を言ったことに驚いた様子のお兄ちゃんに、繰り返し感謝を伝えた。お願いとお礼、これはセットで初めて成り立つんだよ。

「え、まあ別に構わないけど。あとは……そうだな。『トロオン』のことでいくつかアドバイスするとしたら――」

 ほら、気分が良くなったお兄ちゃんが何か教えてくれるみたい。


「――種族『魔導族』は選ぶな。トラウマ刻まれるから。あとは、操作キャラの性別、体型はできるだけ自分に寄せた方がいい。操作の時に手間取らずに済む」

「りょーかい! ありがとう」

 はダメね! あと、操作キャラは自分の体型に似せて……。――イケメンアバターで美少女を攻略しまくるのも面白そうかなって思ったんだけど、残念。

「じゃあオレもしばらく〝寝る〟かな」

 と、部屋を後にしたお兄ちゃん。彼も恐らくゲームをプレイするつもりだ。正式なサービス開始はまだみたいだけど、私もとりあえずキャラエディットと、あとできれば友達でも作ってみよう。よーし、やるぞー!


 私はゲーム機の箱を開封し、説明書とにらめっこしながら数十分かかって20センチ四方くらいの黒く四角いフォルムのゲーム機本体を部屋に据え付けた。そして、付属のフルフェイスヘルメットのようなヘッドギアのプラグをゲーム機に刺して、ゲーム機の電源を入れる。

「えっと……睡眠時間の設定は……」

 時計を見ると、午後4時20分。6時には夕食だから、それまで1時間半はゲームができるね。

 医学的には、睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠の周期から換算して、1時間半刻みでとると良いとされている。ということは、今から夕食まで〝寝て〟ちょうどいい感じかも。ということで、私はゲーム機の表面に浮かび上がったディスプレイを操作して、タイマーを90分にセットした。これで、ゲーム機が1時間半後に起こしてくれて、数分前にお知らせもしてくれる……らしい。


 それと、親が来た時のために『夕食まで寝てます。起こさないで』というメモを書いて枕元に置く。知らずに起こされたらゲームが中断されちゃうからね。


 ――よーし、準備完了! いざ、ゲームスタート!


 私はヘッドギアを頭に被ると、ベッドに横になって、ヘッドギアのスイッチを入れた。
 手探りで毛布を被り、目を閉じるとすぐに意識は吸い込まれるようにして、眠りの世界へと誘われたのだった。
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