セイントガールズ・オルタナティブ

早見羽流

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第3章 挫折そして決意

Act.26 決闘(アンナ)

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 それからしばらくの間沈黙が続いたが、ついに側で様子を見ていた班長の瑞希が声をかけた。

「悪いことは言わないから今からでも謝って決闘はナシにしてもらおう?」

 だが、その言葉を聞いた瞬間彼女はキッと鋭い視線を向ける。あまりの殺気に瑞希は怯むような態度を見せていた。

「……今更引くなどできないでしょう? それに、これはわたくし個人の問題で瑞希さんには何の関係もありませんのよ!」
「そうだけど、アンナがこれ以上傷つくところを、わたしは見たくないの……」
「どうして負けること前提で考えているのですか?」
「えっ」

 アンナの意外な答えに、彼女はキョトンとした表情を浮かべる。それを見たアンナは、呆れたようにため息をつくと続けた。

「……はぁ、わたくしが負けることなどあり得ませんわ」
「その根拠の無い自信はどこから来るの……」
「根拠ならありますわよ?」

 自信たっぷりに言うと、彼女は自分の胸に手を当てて答えた。

「なぜなら──正義はわたくしにありますので!」
「……はぁ?」

 アンナの言葉を聞いて、瑞希だけでなく遠巻きに見ていた玲果とみやこもかなでまでぽかんとしている。その様子を見たアンナは小さくため息をつくと言った。

「とにかくそういうことなので!」
「……いやどういうことよ」

 納得がいかないといった様子で食いついてくる瑞希。

「わたくしの知るアニメでは必ず最後に正義は勝つものですわ!」
「アンナ、女児アニメの見すぎぃ!もっと現実見て! 現実は非情なの、正義とかないから!」
「ありますー! 瑠璃先輩は確かに強いですが、わたくしは必ず勝ちますわ! なぜならわたくしは勇者の末裔で、武門の名家の令嬢で、ヒーローなのですから!」
「そんな都合のいい設定ないからぁ!」

 かなでにさえツッコまれてしまい、流石に凹むかと思いきや、アンナはふふんと鼻を鳴らしてドヤ顔をしていたので、瑞希は思わず吹き出してしまう。

(まったく。本当にアンナはしょうがないんだからなぁ──)

「とにかく、瑠璃先輩と決闘するのは分かったけど、勝算はあるの?」

 瑞希が問いかけると、彼女は自信有りげに答える。

「もちろんですわよ!」
「ふーん、どんな作戦か聞かせてもらえる?」
「開始直後に仕掛けてそのままぶっ潰すですわ!」
「……こいつ正真正銘のバカだわ」

 思わず瑞希も真顔になってしまった。

「とにかく! わたくしは決闘を受けて立ちますわ。たとえ相手がどんな方であっても! 必ず正義は勝つのですから!」
「あーもう知らない。勝手にすれば?」
「はい! では勝手にいたします!」

(まったく世話が焼けるんだから、この子には……)

 呆れるような表情を浮かべながら、瑞希は心の中で呟いた。


 ❀.*・゜


 ジャージに着替えたアンナが校庭にやってくると、既にそこには既に対戦相手である瑠璃の姿があり、地面には白い線で円が描かれている。そればかりでは無い。普段決闘をしないシングルナンバーの戦いを見ようと、大勢のギャラリーが彼女を囲むようにして集まっていた。一年生の佐紀の姿もある。
 アンナの姿を確認した瑠璃は不敵に微笑む。どうやらアンナを迎え撃つための用意も万全らしいことが分かった。

「遅かったじゃないの」
「……」

 彼女の言葉を聞いても、アンナはただ無言で睨みつけるだけで、それ以上何も言わなかった。その目は闘志で溢れている。
 その様子を見て瑠璃はますます笑みを深めた。

「そういう目、嫌いじゃないわ?」
「御託は結構ですので、そろそろ始めますわよ」

 挑発には乗らずにアンナは冷静に切り返す。その様子を見ていた瑠璃は、一瞬つまらなさそうにため息をついたあと、改めて彼女に告げた。

「そうね……。でもまぁそんなに焦らなくても良いんじゃない? シングルナンバーの決闘にはちゃんとしたお作法があるのよ、知ってるでしょ」

 そう言うと彼女は、人差し指を立てて、アンナを挑発するように言葉を続けた。

「まずは、教官を見届け人として立てなければならない。これは学園でもトップクラスの実力者であるシングルナンバー入れ替えの可能性があるあるからよ。そして次に──短杖以外の武器の使用は基本的に認めない。これは、相手を殺さないための手加減ってところかしらね。──シングルナンバーは武器なんて使わなくても十分強いの」

 そう言いながら、瑠璃は虚空から取り出した大鎌を傍らの取り巻きのうちの一人に手渡した。

「でも、アナタは別に武器使ってもいいのよ?」

 そう言って、ニヤリと笑みを浮かべる。それは挑発ではなく、純粋に彼女の実力を試すような目つきだった。
 アンナはそれに対して無言のまま瑠璃を睨みつけることしかできない。

(くっ……この方は……わたくしに対して、まるで見くびったような言動を取りますわね!)

 そう考えた瞬間──彼女の中に言いようのない怒りが込み上げて来ていた。そして、それが頂点に達したとき、ついに彼女の中の何かが音を立ててキレるのだった──!

(良いですわ……! そこまで言うのなら見せて差し上げますわ!)

 次の瞬間、アンナの身体が紫電に包まれる。それを見たギャラリーたちは思わず後退りをしたが、それでも瑠璃だけは全く動じた様子を見せなかった。

「ふーん、さすが期待の3年生ってとこかしらね」
「わたくしも、あなたごときに武器を使うまでもありませんわ」
「あっそ、後で泣いても知らないわよ?」


「えっと、それじゃあ両者構えて……」

 瑠璃が連れてきたらしい気弱そうなメガネの教官が、おずおずとした口調で言う。

(あの教官は見覚えがありますわ……確か名前は……)

「──はじめっ」

 アンナの思考はその声によって中断された。と同時に、彼女は反射的に動いた。勇者としての身体能力に己の魔力を載せて、雷をまといながら常人の目には追えないような加速で瑠璃の目前に迫り拳を振り抜く。

「──はああッ!!」

 ギャラリーの誰もが息を飲んだ。決着はついたかに思われた。──が、次の瞬間、瑠璃の姿が視界から消える。

「──甘いわねッ」

(!?)

 直後背後に殺気を感じてアンナは反射的に身体を捻ると、瑠璃の手のひらが目前に迫っていた。

「……っ!」

 反射的にその手を右腕で払い除けたその瞬間。アンナは右腕に激しい痛みをおぼえた。まるで、腕を思いっきり捻り上げられているかのような痛みが。

(これが廻転ツイストっ!?)

 咄嗟に右腕に固有魔法の『硬化』を使うが、それを嘲笑うかのように見えざる廻転の力がアンナの腕を破壊しにかかる。

(……でしたら!)

 アンナは廻転の力がかかる方向に身体を捻ることで、無理やり瑠璃の能力から逃れた。しかし、右腕は既にほとんど力が入らない状態になっている。骨はなんとか無事だが、腱や筋肉を痛めたのかもしれない。

 たまらず距離を取ったアンナは痛みを堪えながら、瑠璃に対して叫んだ。

「あなた卑怯ですわよ!!」

 その言葉に対して、瑠璃は全く動じることなく余裕の表情で応えるのだった。

「アタシはただ単に固有魔法を使っただけ。卑怯でもなんでもないわ」
「くっ……」
「初見で廻転ツイストから逃れられたのは、あなたと片桐ハイネだけよ? それは褒めてあげる。──でも」

 彼女はニヤリと口角を上げて笑う。それはさながら悪鬼の如き邪悪な微笑だった。
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