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第1章 出会い
Act.12 気になる存在(佐紀)
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❀.*・゚
誰もいない寮の部屋に戻った佐紀は、制服を脱ぎ捨てると、そのままベッドへダイブした。
(さすがに疲れたぜ……。入学初日からあんなことになるとはな)
先ほどの光景を思い出しながら、佐紀は苦笑する。しかし、すぐに真剣な顔つきに変わった。
(これからどうするかだ。莉々亜や火煉のヤツは姉探しに夢中になってるが、オレの目的はあくまでも強くなることだ。この学園には強者がたくさんいる。まずはそいつらを見てみたい。できれば戦ってみてぇところだが、さっきみたいな騒ぎになるのはごめんだからな。となると、あまり目立たないように動くか? いや、それだと強くなれねえしな……)
頭を悩ませていた佐紀の脳内に、ふと昨日の光景が浮かんできた。
ボロボロの制服を身につけた金髪の3年生。上品な口調の中に優しさと真っ直ぐさと荒々しさと危なっかしさを内包したような、よく分からない上級生だった。佐紀は無意識に彼女のことを考えていた。
(名前くらいは聞いておくべきだったか……)
しかし、彼女が名前を言う前に佐紀は立ち去ってしまったのだ。
両親のことも思い出してしまって嫌な気分になった佐紀は、おもむろに起き上がると机に向かい、引き出しの中からメモ帳を取り出した。そしてそこに『3年生で、制服に傷だらけの女子』と書き込む。
それからしばらく考えた後、再びペンを走らせた。
今度は『強いか弱いか』という質問を書いた。もし、あの上級生が見た目通り強かったとしたら……姉妹になってみてもいいだろうか。
書き終わった佐紀は再びベッドに飛び込んだ。
「ま、明日になれば分かることだけどな」
佐紀がそう呟いた時、大きな音を立てて部屋の扉が開いた。何事かと振り向いた佐紀の目の前に、血相を変えた莉々亜が転がり込んできた。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
「んだよ騒がしいなモヤシ……」
「佐紀さんっ!」
莉々亜は今にも泣き出しそうな表情で佐紀の肩を掴む。
「なんだよ……」
「私はいったいどうすれば……!」
「ふーん、さてはてめぇ、フられたな?」
「うぐぉぉぉぉっ!」
図星だったのか、奇声を上げて床に転がる莉々亜。その様子は真面目そうな見た目とはかけ離れている。きっと火煉や紫陽花が見たら爆笑するだろう。
「もう既に先約がいたか」
「いいえ、アンナお姉様ったら『わたくしは妹を募集しておりませんの』と取り付く島もありませんでしたっ!」
「へぇ、そのアンナってのはそんなにガードが堅いのか」
「えぇ、あれだけ美しい方ですから、無理もないことですけど……」
そこまで言って莉々亜はハッと我に帰った。
「すみません佐紀さん、私としたことがつい興奮してしまいました」
「気にするなよ。ショックだったんだろ? お前だって可愛いもんな」
「いえ、それほどでも……」
不意に『可愛い』と言われ、分かりやすく照れる莉々亜。佐紀だって思ったことをポンと口にしただけだ。彼女は真っ直ぐで嘘がつけない性格だというのは、莉々亜もなんとなく分かっていた。
「それで、これからどうすんだ?」
「とりあえず姉妹契約は保留にしておきます」
「いいのかよ。まだチャンスはあるかもしれねぇぞ」
「ふっ、その言葉はそっくりそのまま佐紀さんに返しましょう」
「オレはいらん」
「まあまあ、そんなに片意地張ってしまって」
「……うるせぇなどいつもこいつも。オレは群れるのは性にあわねぇんだよ!」
「あ、ちょっと!どこに行くんですか!?」
面倒くさくなった佐紀が一旦寮から逃げ出したのは言うまでもない。適当にそこら辺をふらついて、佐紀が101号室に戻ってきたのは夕方になってからだった。
佐紀が再び部屋に戻ると、ルームメイトの4人は各々ベッドの上に座って話していた。
「あっ、佐紀ちゃん聞いて聞いて! わたしねっ、何人もの先輩から声掛けられちゃった! 誰にしようかなー?」
「火煉ちゃんは羨ましいなぁ……さかまきは総スカンだよぉ」
「私も……。莉奈お姉様もセレーナお姉様もダメでした……あとは……」
「わたくしはまあぼちぼちって感じですわね」
聞くと、入学試験で目立っていた真莉や火煉は3年生の方から姉妹に誘われることが多く、対照的に入学試験が芳しくなかった莉々亜や、問題を起こした紫陽花はこちらからお願いしても断られることが多いらしい。
(入学試験はそういう側面もあったわけか……)
佐紀は何故火煉が試験の時にあんなに気合いが入っていたのか、真莉が必要以上に佐紀のことをボコボコにするパフォーマンスをしたのか、どこか腑に落ちた気がした。
「そういえば、佐紀さんはまだどなたとも姉妹契約をしていないのですわよね?」
「ああ、そうだな。興味ねぇから」
「上級生から声をかけられたりは?」
真莉に尋ねられ、佐紀は昼間声をかけてきた白衣の変な上級生のことを思い出した。
「──1人だけ。変なやつがいたな」
「じゃあその人と姉妹になっちゃえばいいのにぃ!」
火煉が身体をくねくねとさせながら大声を出すが、佐紀は「だから興味ねぇって」と繰り返した。
「佐紀さんってつくづく変わった方ですわね」
「まあ、1人でいることと独断専行が好きな変わり者ですから。せっかく征華には姉妹制度があるのに……征華向いてないんじゃないですか?」
真莉と莉々亜が言葉を交わす。いちいち反論するのも面倒になった佐紀は黙って武器の手入れを始めた。佐紀は既に明日のことを考えていた。
というよりも絶えず何かを考えていないと、両親の死を思い出してしまい、どうにかなってしまいそうだった。佐紀は未だに悲しい出来事から立ち直れたわけではなかった。
(明日、あの金髪の上級生を探し出す。そして模擬戦でも挑んで本当に強いのかどうか確かめてやる)
❀.*・゚
翌日、この日もまともな授業はなく、オリエンテーションだけが行われた後、ルームメイトの皆は姉妹を探しに行ってしまった。
(寮に戻るのもな……。また校舎を探索でもするか)
佐紀のような一匹狼には、1人きりになれる安寧の場所が必要だ。悩み事があるとき、なんとなく1人になりたい時はお決まりの場所を訪れて気持ちの整理をする。そんなお気に入りの場所を求めて、佐紀は人気のない場所を探し続けた。
(といってもそんな場所はそうそう見つからねぇもんだな)
いくつか見つけた人気のない場所も、帯に短し襷に長しといった感じで、なかなか落ち着ける場所は見つからない。そもそもそんな簡単に見つかってしまっては意味がない。
探索しながら、佐紀は校舎裏にやってきた。中庭とは違ってこちらは雑草が生い茂っており、期待できそうだ。だが、良くないことに先客がいたようだった。
「だーかーらー、誠意が足りないって言ってんの! 謝り方が分からないなら教えてあげましょうか? 地面に手と頭つけて『申し訳ありませんでした』ってちゃんと謝ってください」
「謝れ」
「早くしろ」
5人ほどの生徒が、1人を取り囲んで責めている。よく見ると、取り囲んでいる方は1年生であり……
(あいつは……!)
なんと、取り囲まれて盛んに罵声を浴びせられているのは、以前佐紀と遭遇した金髪の上級生だった。
上級生は悔しさを顔に滲ませながらも、ゆっくりと膝を折り土下座をする。
「……も、申し訳ありませんでした」
「はぁ? 聞こえませんねぇ、もう1回!」
「申し訳ありませんでしたっ!」
「──謝っても失われた命は戻ってこねーんだよ!」
校舎裏に鈍い音とうめき声が響く。取り囲んでいた1年生が上級生を蹴り回し始めたのだ。佐紀は見ていられなくなってその場を後にした。胸が苦しくなった。
自分が受けてきた嫌がらせと似たようなものを見てしまったというのもあるが、なんといっても、強いと思った相手が目の前で為す術もなく蹂躙されているという事実が我慢ならなかったのだ。
かといって、助けに入る気にもならなかった。真の強者であれば、あの程度の人数の1年生など簡単に無力化できるはずであって、佐紀自身嫌がらせをしてくる相手を実力で黙らせてきた。むしろ、事情をよく知らないまま手を差し伸べられることに不快感すら抱いた。ただ、甘んじて屈辱を受けているということは、彼女に力がない何よりの証だと佐紀は思った。
(……ふざけんなクソッ! 胸糞の悪い!)
どうしたらいいか分からなくなった佐紀は、寮へと帰ることにした。
(弱い奴に用はねぇよ……)
寮の部屋にたどり着いた佐紀は、昨日書いたメモをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り込んだのだった。
誰もいない寮の部屋に戻った佐紀は、制服を脱ぎ捨てると、そのままベッドへダイブした。
(さすがに疲れたぜ……。入学初日からあんなことになるとはな)
先ほどの光景を思い出しながら、佐紀は苦笑する。しかし、すぐに真剣な顔つきに変わった。
(これからどうするかだ。莉々亜や火煉のヤツは姉探しに夢中になってるが、オレの目的はあくまでも強くなることだ。この学園には強者がたくさんいる。まずはそいつらを見てみたい。できれば戦ってみてぇところだが、さっきみたいな騒ぎになるのはごめんだからな。となると、あまり目立たないように動くか? いや、それだと強くなれねえしな……)
頭を悩ませていた佐紀の脳内に、ふと昨日の光景が浮かんできた。
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(名前くらいは聞いておくべきだったか……)
しかし、彼女が名前を言う前に佐紀は立ち去ってしまったのだ。
両親のことも思い出してしまって嫌な気分になった佐紀は、おもむろに起き上がると机に向かい、引き出しの中からメモ帳を取り出した。そしてそこに『3年生で、制服に傷だらけの女子』と書き込む。
それからしばらく考えた後、再びペンを走らせた。
今度は『強いか弱いか』という質問を書いた。もし、あの上級生が見た目通り強かったとしたら……姉妹になってみてもいいだろうか。
書き終わった佐紀は再びベッドに飛び込んだ。
「ま、明日になれば分かることだけどな」
佐紀がそう呟いた時、大きな音を立てて部屋の扉が開いた。何事かと振り向いた佐紀の目の前に、血相を変えた莉々亜が転がり込んできた。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
「んだよ騒がしいなモヤシ……」
「佐紀さんっ!」
莉々亜は今にも泣き出しそうな表情で佐紀の肩を掴む。
「なんだよ……」
「私はいったいどうすれば……!」
「ふーん、さてはてめぇ、フられたな?」
「うぐぉぉぉぉっ!」
図星だったのか、奇声を上げて床に転がる莉々亜。その様子は真面目そうな見た目とはかけ離れている。きっと火煉や紫陽花が見たら爆笑するだろう。
「もう既に先約がいたか」
「いいえ、アンナお姉様ったら『わたくしは妹を募集しておりませんの』と取り付く島もありませんでしたっ!」
「へぇ、そのアンナってのはそんなにガードが堅いのか」
「えぇ、あれだけ美しい方ですから、無理もないことですけど……」
そこまで言って莉々亜はハッと我に帰った。
「すみません佐紀さん、私としたことがつい興奮してしまいました」
「気にするなよ。ショックだったんだろ? お前だって可愛いもんな」
「いえ、それほどでも……」
不意に『可愛い』と言われ、分かりやすく照れる莉々亜。佐紀だって思ったことをポンと口にしただけだ。彼女は真っ直ぐで嘘がつけない性格だというのは、莉々亜もなんとなく分かっていた。
「それで、これからどうすんだ?」
「とりあえず姉妹契約は保留にしておきます」
「いいのかよ。まだチャンスはあるかもしれねぇぞ」
「ふっ、その言葉はそっくりそのまま佐紀さんに返しましょう」
「オレはいらん」
「まあまあ、そんなに片意地張ってしまって」
「……うるせぇなどいつもこいつも。オレは群れるのは性にあわねぇんだよ!」
「あ、ちょっと!どこに行くんですか!?」
面倒くさくなった佐紀が一旦寮から逃げ出したのは言うまでもない。適当にそこら辺をふらついて、佐紀が101号室に戻ってきたのは夕方になってからだった。
佐紀が再び部屋に戻ると、ルームメイトの4人は各々ベッドの上に座って話していた。
「あっ、佐紀ちゃん聞いて聞いて! わたしねっ、何人もの先輩から声掛けられちゃった! 誰にしようかなー?」
「火煉ちゃんは羨ましいなぁ……さかまきは総スカンだよぉ」
「私も……。莉奈お姉様もセレーナお姉様もダメでした……あとは……」
「わたくしはまあぼちぼちって感じですわね」
聞くと、入学試験で目立っていた真莉や火煉は3年生の方から姉妹に誘われることが多く、対照的に入学試験が芳しくなかった莉々亜や、問題を起こした紫陽花はこちらからお願いしても断られることが多いらしい。
(入学試験はそういう側面もあったわけか……)
佐紀は何故火煉が試験の時にあんなに気合いが入っていたのか、真莉が必要以上に佐紀のことをボコボコにするパフォーマンスをしたのか、どこか腑に落ちた気がした。
「そういえば、佐紀さんはまだどなたとも姉妹契約をしていないのですわよね?」
「ああ、そうだな。興味ねぇから」
「上級生から声をかけられたりは?」
真莉に尋ねられ、佐紀は昼間声をかけてきた白衣の変な上級生のことを思い出した。
「──1人だけ。変なやつがいたな」
「じゃあその人と姉妹になっちゃえばいいのにぃ!」
火煉が身体をくねくねとさせながら大声を出すが、佐紀は「だから興味ねぇって」と繰り返した。
「佐紀さんってつくづく変わった方ですわね」
「まあ、1人でいることと独断専行が好きな変わり者ですから。せっかく征華には姉妹制度があるのに……征華向いてないんじゃないですか?」
真莉と莉々亜が言葉を交わす。いちいち反論するのも面倒になった佐紀は黙って武器の手入れを始めた。佐紀は既に明日のことを考えていた。
というよりも絶えず何かを考えていないと、両親の死を思い出してしまい、どうにかなってしまいそうだった。佐紀は未だに悲しい出来事から立ち直れたわけではなかった。
(明日、あの金髪の上級生を探し出す。そして模擬戦でも挑んで本当に強いのかどうか確かめてやる)
❀.*・゚
翌日、この日もまともな授業はなく、オリエンテーションだけが行われた後、ルームメイトの皆は姉妹を探しに行ってしまった。
(寮に戻るのもな……。また校舎を探索でもするか)
佐紀のような一匹狼には、1人きりになれる安寧の場所が必要だ。悩み事があるとき、なんとなく1人になりたい時はお決まりの場所を訪れて気持ちの整理をする。そんなお気に入りの場所を求めて、佐紀は人気のない場所を探し続けた。
(といってもそんな場所はそうそう見つからねぇもんだな)
いくつか見つけた人気のない場所も、帯に短し襷に長しといった感じで、なかなか落ち着ける場所は見つからない。そもそもそんな簡単に見つかってしまっては意味がない。
探索しながら、佐紀は校舎裏にやってきた。中庭とは違ってこちらは雑草が生い茂っており、期待できそうだ。だが、良くないことに先客がいたようだった。
「だーかーらー、誠意が足りないって言ってんの! 謝り方が分からないなら教えてあげましょうか? 地面に手と頭つけて『申し訳ありませんでした』ってちゃんと謝ってください」
「謝れ」
「早くしろ」
5人ほどの生徒が、1人を取り囲んで責めている。よく見ると、取り囲んでいる方は1年生であり……
(あいつは……!)
なんと、取り囲まれて盛んに罵声を浴びせられているのは、以前佐紀と遭遇した金髪の上級生だった。
上級生は悔しさを顔に滲ませながらも、ゆっくりと膝を折り土下座をする。
「……も、申し訳ありませんでした」
「はぁ? 聞こえませんねぇ、もう1回!」
「申し訳ありませんでしたっ!」
「──謝っても失われた命は戻ってこねーんだよ!」
校舎裏に鈍い音とうめき声が響く。取り囲んでいた1年生が上級生を蹴り回し始めたのだ。佐紀は見ていられなくなってその場を後にした。胸が苦しくなった。
自分が受けてきた嫌がらせと似たようなものを見てしまったというのもあるが、なんといっても、強いと思った相手が目の前で為す術もなく蹂躙されているという事実が我慢ならなかったのだ。
かといって、助けに入る気にもならなかった。真の強者であれば、あの程度の人数の1年生など簡単に無力化できるはずであって、佐紀自身嫌がらせをしてくる相手を実力で黙らせてきた。むしろ、事情をよく知らないまま手を差し伸べられることに不快感すら抱いた。ただ、甘んじて屈辱を受けているということは、彼女に力がない何よりの証だと佐紀は思った。
(……ふざけんなクソッ! 胸糞の悪い!)
どうしたらいいか分からなくなった佐紀は、寮へと帰ることにした。
(弱い奴に用はねぇよ……)
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