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第1章 出会い
Act.4 害虫駆除(アンナ)
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早速、前方の魔物たちがみやこの魔力に反応した。小さな魔物たちがわらわらとこちらに押し寄せ始め、黒い影のようなもので構成されたカマキリのような形の魔物が口から魔力の塊を放つ。
「みんな、盾の後ろへ!」
瑞希の号令で素早く5人が大盾の後ろに隠れると、みやこの盾にカマキリの魔力が衝突し、金属を思いっきり打ったような轟音と衝撃が走った。
「ふふん、そんな攻撃じゃあこの大盾タリスはビクともしないのです!」
得意げなみやこの隣で瑞希が頷いた。
「距離があるからね。……にしても数百メートルの距離からこの正確な攻撃……アイツがこの群れの頭と見て間違いないだろうね」
「ということは……?」
「アレを倒せばいいんですのね?」
「あっ、ちょっと待って二人とも!」
瑞希の制止を振り切って、かなでとアンナが一直線にカマキリを目がけて駆け出した。瑞希とみやこは頭を抱えた。
「あーもう知らない!」
「援護はしなくていいの?」
「できないでしょこんな状況じゃあ」
盾から顔を出して前方に目を向ける瑞希とみやこと玲果の3人。そして、すぐに玲果以外の2人が顔をしかめた。地面を埋め尽くさんばかりに押し寄せてくる小型の魔物は、黒光りする甲虫のような見た目をしていたのだ。小型といえども1メートルほどの体長がある。家庭内の厄介ものである害虫が想起されて、正直見ていて気分のいいものではなかった。
「うげぇ……吐きそう」
「虫型の魔物はわたしも苦手かも……」
「そう? 美味しそうじゃない?」
「玲果、あんなのも食べるの?」
「似たようなのなら食べたことあるかなー? 油で揚げるとサクサクして美味し──」
「やめて」
「えー、美味しいのにぃ」
「ほんとにやめて」
みやこに睨まれた玲果はまたしても軽く肩を竦めた。
そうこうしているうちに、カマキリに突撃していった2人は、なんと前方から押し寄せてきた小型の魔物を踏みつけるようにしてカマキリの目前まで迫っている。
その猪突猛進な姿に、瑞希とみやこはもう呆れかえっている。
「あの2人も虫は平気なのかな?」
「ただ単に虫は虫。駆除対象としか見ていないんでしょ」
かなでが、武器の大斧を展開し、グルグルと回転するように振り回しながら周囲の小型魔物をまとめて吹き飛ばしたところで、アンナが仕掛けた。無謀にもカマキリの目の前で拳を構えたアンナに対し、カマキリは右の大鎌を振り下ろす。が、こともあろうにアンナはその大鎌を拳一つで迎え撃った。
バチィッ! となにかが弾けるような音、そして閃光。飛び散った雷撃が周囲の小型魔物を黒焦げにしていく。アンナの身長の5倍以上の体長はあるであろうカマキリの大鎌とアンナの拳は互いにまとった魔力と素のパワーによって弾かれた。が、体重の軽いアンナの方がその反動を直に受け、数メートル吹き飛ばされた。
「あーあー、言わんこっちゃない」
「でも、あんな大鎌とまともに力比べができる時点でうちのじゃじゃ馬も大概バケモノなんだよなぁ」
「って、そろそろこっちもやらないとね」
「じゃあ手はず通りに」
「おっけーまかされた!」
声をかけあって、瑞希と玲果はそれぞれみやこが支配した岩場の別地点へ散っていく。
班とは言っても、戦闘の主軸となるみやこの能力を十分に発揮させるためには結局のところバラバラで動くのが良い。医療科とはいえ瑞希や玲果も十分な戦闘能力があるし、アンナやかなでは自ら敵に突っ込んでいく狂戦士だ。
みやこは「どうしてこうなったのだろう」と内心嘆きながらも、地面に突き刺さっていた大盾に魔力を送り込む。
「八大精霊、大地と静寂のノーム。汝の真名を以って自然の怒りを解き放ち、敵を粉砕する槍と成せ! ──遠隔操作! 『大地の突槍』!」
岩場にさしかかった魔物の群れを、突如として地面から生えてきた無数の土の槍が貫く。多数の魔物がその一撃で動きを止めたが、敵はなおも串刺しにされた仲間の上を乗り越え、みやこに迫ってくる。
「──っ! 土壁!」
そのうち1体が放った魔力の塊を、咄嗟に地面から出現させた土の壁で防いだみやこは、盾を担いでジリジリと後退を始めた。
「……この数じゃああまり長くはもたないからね。倒すなら早くしてよ。かなで、アンナ」
❀.*・゚
一方その頃、朝木かなでは多数の小型魔物の群れに囲まれながら奮戦していた。大斧に得意魔法の炎をまとわせ、一振りで数体の魔物を文字通り消し炭にしながら、かなでの勢いは止まらない。
「おらぁぁぁぁっ! 消し飛べぇぇぇぇっ!」
ブゥン! と斧が唸り、また3体ほどの魔物が塵と化した。彼女の動きに合わせて、真っ赤なツインテールが踊り舞う。普段の可愛らしいかなでの姿とは一変し、雄叫びを上げながら敵を蹂躙するその様子は常に戦いの中に身を置く修羅を思わせる。
そして、かなでが雑魚を引き付けている中、中型魔物と対峙するのは神田班のエースであるアンナの役目だった。
カマキリに正面から力比べを挑んでみたアンナであるが、そう易々と倒せる相手ではないと悟っていた。
(正面から撃ち合っていてはこちらが削られるだけ……ならば、相手の攻撃を受け流し、隙をうかがいますわ)
アンナは構えを変えた。足を前後に開いて半身になり、手を握りこぶしから平手へ。ソフィーから教わった空手の構えから截拳道の構えに切り替える。
ソフィーが教えてくれた日本の言葉に『柔よく剛を制す』というものがあった。真っ向勝負だけでは強大な相手に勝つことはできない。時に柔軟な戦い方を求められるのがこの世の常だ。截拳道は攻撃よりも防御に優れた武術で、アンナはこれを用いてカマキリの攻撃を捌こうとしていた。
超人的な動体視力で、振り下ろされた鎌の腹に平手を押し当て軌道を逸らす。カマキリの動きは大して俊敏ではなく、追撃も軽く体をひねるだけで回避は容易だった。あとは機会をうかがって反撃をするだけだ。
(……なるほど、予想外にワンパターンのようですわね。楽しめそうだと思ったのに期待はずれですわ)
大振りの鎌をいなした後、アンナが狙ったのはカマキリの脚だった。素早く右拳を握り、右脚に一撃、体をひねって攻撃をかわし、左脚に当て身。最小限の動きで最大効率エネルギーを生み出すアンナの2連撃を両脚に受け、カマキリが大きくバランスを崩した。
(もらいましたわ!)
アンナは再び右拳を握ると、地面を蹴って跳び上がり、素早く呪文を唱える。
「──八大精霊、紫電と雷光のスプライト。汝の真名を以って蒼天を翔け、破断の一撃で闇を滅す導となれ! ──『雷撃一閃』!」
──ズガガガッ!
アンナの渾身の一撃は、カマキリの頭部を綺麗に捉え、それを丸ごと消し去った。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
頭部などの急所を破壊された魔物は動きを止め、再生には時間がかかる。その隙に、アンナはカマキリの胸部に雷撃で穴を開け、中から30センチ四方ほどの赤黒く禍々しい光を放つ四角い物体を取りだした。──魔物のコアである魔核だ。
「取りましてよ!」
魔核は要するに魔力の塊だ。以前の機械文明が滅びかけ、アステリオンの魔法技術によって発展している現在においては、魔核は重要なエネルギー源となる。魔導士は魔物を倒すだけでなく、その体内から魔核を取り出して持ち帰ることも役割とされていたのだ。
だが、荒っぽい戦い方をするアンナは魔物を魔核ごと葬り去ってしまうため、魔物の撃破数に対して持ち帰る魔核の数が明らかに少なかった。魔核を狙って取り出すことを覚えたのもつい最近だった。
「わたくしにかかればこの程度おちゃのこさいさいですわ!」
上機嫌のアンナ。しかし、倒れたはずのカマキリ型の魔物は予想外の反撃をしてきた。放置され地面に転がされていた腹部。それだけでも5メートルほどはある巨大なカマキリの腹から、体長20センチほどの無数の小型カマキリが飛び出してきたのだ。これにはさしものアンナも驚いた。
「ちょっ、そんなの聞いてませんわよ!」
対象が小さいのと数が多すぎて、どこを狙ってどんな魔法を使ったらいいのかが分からない。一旦退いて体勢を立て直そうとしたアンナだったが、子カマキリたちがそれを許さず、我先にとアンナに飛びかかっていった。
「うわぁぁぁぁっ! ちょっと! タンマタンマですわぁぁぁ!」
小さいといっても、20センチ。しかもそれが大量に飛びかかってきたので、アンナはたまらずに尻もちをついてしまった。そして小型とはいえれっきとした魔物だ。手で払ったところでなんとかなる相手でもない。
(魔力の消耗が激しいので使いたくはなかったのですが、仕方ありませんわね……!)
アンナはグッと腹に力を入れ、魔力を瞬時に丹田から全身へと巡らせた。
「食らいなさい、『超電磁放電』!」
バチバチバチィ! とアンナの全身から閃光と火花が散り、アンナの周囲に群がっていた子カマキリたちが一斉に黒焦げになって地面へと落ちた。
「はぁ……はぁ……やりましたわ」
だが、先程までの激しい戦闘と、自分の身体を依り代にした放電によって特殊繊維で作られたアンナの制服はボロボロになってしまい、抱えていたはずの魔核も粉々に砕けていた。
「これは……またあとで教官と工廠科の方々に小言を言われますわね」
肩で息をしながら、アンナがやっとのことで立ち上がると、その背中をポンポンと誰かに叩かれた。振り向くとそこには大斧を担いだ赤髪の少女がいた。周囲の小型魔物をあらかた片付けたかなでだった。かなでの制服もアンナと同様にボロボロで所々焼け焦げており、戦闘の激しさをうかがい知ることができる。
「おつかれーアンナ。まさかあのカマキリを一人で倒しちゃうなんてさすがじゃん」
「かなでさんも、あれだけの小型魔物を一人で片付けてしまうなんてさすがですわ」
「まーね」
その時、大きな音がして2人が振り向くと、みやこたちが陣取っている岩場の方でも激しい戦闘が繰り広げられているらしかった。いかんせん砂埃が酷くてよく見えない。
「みやこたち、大丈夫かな?」
「……もうひと働きします?」
「もちろん」
2人は顔を見合わせて頷くと、すぐさま仲間の元へ駆け出した。
「みんな、盾の後ろへ!」
瑞希の号令で素早く5人が大盾の後ろに隠れると、みやこの盾にカマキリの魔力が衝突し、金属を思いっきり打ったような轟音と衝撃が走った。
「ふふん、そんな攻撃じゃあこの大盾タリスはビクともしないのです!」
得意げなみやこの隣で瑞希が頷いた。
「距離があるからね。……にしても数百メートルの距離からこの正確な攻撃……アイツがこの群れの頭と見て間違いないだろうね」
「ということは……?」
「アレを倒せばいいんですのね?」
「あっ、ちょっと待って二人とも!」
瑞希の制止を振り切って、かなでとアンナが一直線にカマキリを目がけて駆け出した。瑞希とみやこは頭を抱えた。
「あーもう知らない!」
「援護はしなくていいの?」
「できないでしょこんな状況じゃあ」
盾から顔を出して前方に目を向ける瑞希とみやこと玲果の3人。そして、すぐに玲果以外の2人が顔をしかめた。地面を埋め尽くさんばかりに押し寄せてくる小型の魔物は、黒光りする甲虫のような見た目をしていたのだ。小型といえども1メートルほどの体長がある。家庭内の厄介ものである害虫が想起されて、正直見ていて気分のいいものではなかった。
「うげぇ……吐きそう」
「虫型の魔物はわたしも苦手かも……」
「そう? 美味しそうじゃない?」
「玲果、あんなのも食べるの?」
「似たようなのなら食べたことあるかなー? 油で揚げるとサクサクして美味し──」
「やめて」
「えー、美味しいのにぃ」
「ほんとにやめて」
みやこに睨まれた玲果はまたしても軽く肩を竦めた。
そうこうしているうちに、カマキリに突撃していった2人は、なんと前方から押し寄せてきた小型の魔物を踏みつけるようにしてカマキリの目前まで迫っている。
その猪突猛進な姿に、瑞希とみやこはもう呆れかえっている。
「あの2人も虫は平気なのかな?」
「ただ単に虫は虫。駆除対象としか見ていないんでしょ」
かなでが、武器の大斧を展開し、グルグルと回転するように振り回しながら周囲の小型魔物をまとめて吹き飛ばしたところで、アンナが仕掛けた。無謀にもカマキリの目の前で拳を構えたアンナに対し、カマキリは右の大鎌を振り下ろす。が、こともあろうにアンナはその大鎌を拳一つで迎え撃った。
バチィッ! となにかが弾けるような音、そして閃光。飛び散った雷撃が周囲の小型魔物を黒焦げにしていく。アンナの身長の5倍以上の体長はあるであろうカマキリの大鎌とアンナの拳は互いにまとった魔力と素のパワーによって弾かれた。が、体重の軽いアンナの方がその反動を直に受け、数メートル吹き飛ばされた。
「あーあー、言わんこっちゃない」
「でも、あんな大鎌とまともに力比べができる時点でうちのじゃじゃ馬も大概バケモノなんだよなぁ」
「って、そろそろこっちもやらないとね」
「じゃあ手はず通りに」
「おっけーまかされた!」
声をかけあって、瑞希と玲果はそれぞれみやこが支配した岩場の別地点へ散っていく。
班とは言っても、戦闘の主軸となるみやこの能力を十分に発揮させるためには結局のところバラバラで動くのが良い。医療科とはいえ瑞希や玲果も十分な戦闘能力があるし、アンナやかなでは自ら敵に突っ込んでいく狂戦士だ。
みやこは「どうしてこうなったのだろう」と内心嘆きながらも、地面に突き刺さっていた大盾に魔力を送り込む。
「八大精霊、大地と静寂のノーム。汝の真名を以って自然の怒りを解き放ち、敵を粉砕する槍と成せ! ──遠隔操作! 『大地の突槍』!」
岩場にさしかかった魔物の群れを、突如として地面から生えてきた無数の土の槍が貫く。多数の魔物がその一撃で動きを止めたが、敵はなおも串刺しにされた仲間の上を乗り越え、みやこに迫ってくる。
「──っ! 土壁!」
そのうち1体が放った魔力の塊を、咄嗟に地面から出現させた土の壁で防いだみやこは、盾を担いでジリジリと後退を始めた。
「……この数じゃああまり長くはもたないからね。倒すなら早くしてよ。かなで、アンナ」
❀.*・゚
一方その頃、朝木かなでは多数の小型魔物の群れに囲まれながら奮戦していた。大斧に得意魔法の炎をまとわせ、一振りで数体の魔物を文字通り消し炭にしながら、かなでの勢いは止まらない。
「おらぁぁぁぁっ! 消し飛べぇぇぇぇっ!」
ブゥン! と斧が唸り、また3体ほどの魔物が塵と化した。彼女の動きに合わせて、真っ赤なツインテールが踊り舞う。普段の可愛らしいかなでの姿とは一変し、雄叫びを上げながら敵を蹂躙するその様子は常に戦いの中に身を置く修羅を思わせる。
そして、かなでが雑魚を引き付けている中、中型魔物と対峙するのは神田班のエースであるアンナの役目だった。
カマキリに正面から力比べを挑んでみたアンナであるが、そう易々と倒せる相手ではないと悟っていた。
(正面から撃ち合っていてはこちらが削られるだけ……ならば、相手の攻撃を受け流し、隙をうかがいますわ)
アンナは構えを変えた。足を前後に開いて半身になり、手を握りこぶしから平手へ。ソフィーから教わった空手の構えから截拳道の構えに切り替える。
ソフィーが教えてくれた日本の言葉に『柔よく剛を制す』というものがあった。真っ向勝負だけでは強大な相手に勝つことはできない。時に柔軟な戦い方を求められるのがこの世の常だ。截拳道は攻撃よりも防御に優れた武術で、アンナはこれを用いてカマキリの攻撃を捌こうとしていた。
超人的な動体視力で、振り下ろされた鎌の腹に平手を押し当て軌道を逸らす。カマキリの動きは大して俊敏ではなく、追撃も軽く体をひねるだけで回避は容易だった。あとは機会をうかがって反撃をするだけだ。
(……なるほど、予想外にワンパターンのようですわね。楽しめそうだと思ったのに期待はずれですわ)
大振りの鎌をいなした後、アンナが狙ったのはカマキリの脚だった。素早く右拳を握り、右脚に一撃、体をひねって攻撃をかわし、左脚に当て身。最小限の動きで最大効率エネルギーを生み出すアンナの2連撃を両脚に受け、カマキリが大きくバランスを崩した。
(もらいましたわ!)
アンナは再び右拳を握ると、地面を蹴って跳び上がり、素早く呪文を唱える。
「──八大精霊、紫電と雷光のスプライト。汝の真名を以って蒼天を翔け、破断の一撃で闇を滅す導となれ! ──『雷撃一閃』!」
──ズガガガッ!
アンナの渾身の一撃は、カマキリの頭部を綺麗に捉え、それを丸ごと消し去った。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
頭部などの急所を破壊された魔物は動きを止め、再生には時間がかかる。その隙に、アンナはカマキリの胸部に雷撃で穴を開け、中から30センチ四方ほどの赤黒く禍々しい光を放つ四角い物体を取りだした。──魔物のコアである魔核だ。
「取りましてよ!」
魔核は要するに魔力の塊だ。以前の機械文明が滅びかけ、アステリオンの魔法技術によって発展している現在においては、魔核は重要なエネルギー源となる。魔導士は魔物を倒すだけでなく、その体内から魔核を取り出して持ち帰ることも役割とされていたのだ。
だが、荒っぽい戦い方をするアンナは魔物を魔核ごと葬り去ってしまうため、魔物の撃破数に対して持ち帰る魔核の数が明らかに少なかった。魔核を狙って取り出すことを覚えたのもつい最近だった。
「わたくしにかかればこの程度おちゃのこさいさいですわ!」
上機嫌のアンナ。しかし、倒れたはずのカマキリ型の魔物は予想外の反撃をしてきた。放置され地面に転がされていた腹部。それだけでも5メートルほどはある巨大なカマキリの腹から、体長20センチほどの無数の小型カマキリが飛び出してきたのだ。これにはさしものアンナも驚いた。
「ちょっ、そんなの聞いてませんわよ!」
対象が小さいのと数が多すぎて、どこを狙ってどんな魔法を使ったらいいのかが分からない。一旦退いて体勢を立て直そうとしたアンナだったが、子カマキリたちがそれを許さず、我先にとアンナに飛びかかっていった。
「うわぁぁぁぁっ! ちょっと! タンマタンマですわぁぁぁ!」
小さいといっても、20センチ。しかもそれが大量に飛びかかってきたので、アンナはたまらずに尻もちをついてしまった。そして小型とはいえれっきとした魔物だ。手で払ったところでなんとかなる相手でもない。
(魔力の消耗が激しいので使いたくはなかったのですが、仕方ありませんわね……!)
アンナはグッと腹に力を入れ、魔力を瞬時に丹田から全身へと巡らせた。
「食らいなさい、『超電磁放電』!」
バチバチバチィ! とアンナの全身から閃光と火花が散り、アンナの周囲に群がっていた子カマキリたちが一斉に黒焦げになって地面へと落ちた。
「はぁ……はぁ……やりましたわ」
だが、先程までの激しい戦闘と、自分の身体を依り代にした放電によって特殊繊維で作られたアンナの制服はボロボロになってしまい、抱えていたはずの魔核も粉々に砕けていた。
「これは……またあとで教官と工廠科の方々に小言を言われますわね」
肩で息をしながら、アンナがやっとのことで立ち上がると、その背中をポンポンと誰かに叩かれた。振り向くとそこには大斧を担いだ赤髪の少女がいた。周囲の小型魔物をあらかた片付けたかなでだった。かなでの制服もアンナと同様にボロボロで所々焼け焦げており、戦闘の激しさをうかがい知ることができる。
「おつかれーアンナ。まさかあのカマキリを一人で倒しちゃうなんてさすがじゃん」
「かなでさんも、あれだけの小型魔物を一人で片付けてしまうなんてさすがですわ」
「まーね」
その時、大きな音がして2人が振り向くと、みやこたちが陣取っている岩場の方でも激しい戦闘が繰り広げられているらしかった。いかんせん砂埃が酷くてよく見えない。
「みやこたち、大丈夫かな?」
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