SSランク万能ギルドのドジっ娘メイドが、実は最強の【掃除屋】だった件

早見羽流

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第22話 ちょっとくらい触ってもバレないんじゃ?

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 私の考えを代弁するように、ローラがシュナイダー伯爵を問い詰めた。シュナイダー伯爵は少し困った顔をしたが、すぐに観念したかのように両手を上げて見せた。

「やはり、ローラ嬢の目は誤魔化せませんね。実は、王宮の侍従の中に私の息のかかった者がいましてね。おかげで王宮の内情や噂話には事欠かないわけです。──今回のクーデターも事前に察知していましたし」

 シュナイダー伯爵の告白に今度こそ私たちは唖然とした。

「う、嘘でしょ………。じゃあシュナイダー伯爵は元々王宮に反旗を翻すつもりで……」
「いいえ、違いますよ」

 慌てる私とは対照的に、シュナイダー伯爵は落ち着いたものだった。

「私は単に自分の身の振り方を考えるために情報を集めていたに過ぎません。謀反なんて最初から考えていませんよ」
「では、集めた情報を元に考えた結果、クーデターには加わらないことにして、こうして女王に追われる身になったと……」

 コルネリアは呆れた顔をしていた。ローラに至っては軽蔑するような視線をシュナイダー伯爵に送っている。だがシュナイダー伯爵は特に気にならないようで平然として答えた。

「そうですね。──まぁ、こんなところですかね。他に何か聞きたいことはありますか?」

 シュナイダー伯爵はそう言うと、私を見てニヤリと笑った。

「いえ……なにも」

 私は彼の余裕のある表情を見てそう答えるしかなかった。

「アニータちゃん……あの方の言っていることは話半分に聞いておくのがいいですわよ? ああ言ってますけど、裏では何を考えているのか分からない人ですから」

 コルネリアがそっと耳打ちしてくる。

「アニータちゃん言うな。……もちろん分かってるわよ。というか、私はあんたも含めて誰も信用してないけどね」
「あら? 容姿端麗で才色兼備のわたくしのどこが信用ならないのでしょう?」
「はっ倒すぞ、コラ」

 私の軽口に彼女は妖艶な微笑みを浮かべて見せる。全くもって油断ならない奴だ。そんなことを思っているとリサちゃんが再び口を開いた。

「とりあえず、夜の間はアニータさん、コルネリアさん、リサの3人で交代で見張りに立ちます。明日は日が昇るのを待ってから出発しましょう」

 リサちゃんがテキパキと皆に声をかける。すると、ローラが挙手した。

「ねぇ、リサ。ちょっといいかしら」
「どうしました、ローラお嬢様?」
「わたくしも起きていられるわよ」

 ローラの発言に、一瞬の間があった。リサちゃんの瞳に戸惑いの色が見える。

「ええと……それはどういう意味でしょう?」
「わたくしだって見張りくらいはできるわ!」
「いやでも……護衛対象の方に見張りをさせるわけには……」

 リサちゃんは困り顔でそう言いかけた。が、そこでローラが食い気味に言葉を続けた。

「護衛の対象だからこそ! わたくしが起きていることが重要だと思うの! あなたたちは昼間の戦闘で消耗してるでしょう? あれだけ大勢の敵と戦ったのだから」

 私とリサちゃん、コルネリアはお互い顔を見合せた。

「いいえ、まったく? あんなの戦ったうちに入りませんわよ」
「同じく~」

 コルネリアの言葉に私はすぐさま同調する。馬車の操縦をしていて直接戦っていないリサちゃんは言わずもがなである。
 私たちの様子を見たローラは「むっ」と頬を膨らませた。

「もうっ、どうしてみんな強がっちゃうの! もっと自分の体を大事にしなさい!」

 プンスカ怒っている。どうも本気で心配しているようだ。彼女の様子を見ていると何とも言えない気持ちになる。
 私たちはしばらく無言で目配せをしあった。

「分かったわ、ローラさん。ではお願いします」

 結局、折れたのはリサちゃんだった。私とコルネリアは苦笑いを浮かべるしかない。そしてローラの目が輝いた。
 こうして私たち4人は交替で夜の番をすることになった。


 ☆


「ん……」

 ふと私は意識を取り戻す。
 どれぐらい時間が経っただろうか? 目をこすりながら辺りを確認すると、まだ薄暗いのが見えた。少し寝過ごしたみたいだ。……やばい、見張りは交代制なのに完全にやってしまった。
 慌てて私は体を起こしたが、隣の気配に気づいてすぐに思い止まる。コルネリアが私の方を向いて、安らかな寝息を立てていた。

(……可愛い)

 その寝顔を見ていると自然と胸が高鳴ってくる。普段は生意気な厨二娘だけど、こうやって静かにしてるとやっぱり美少女なんだよね。

(……ちょっとくらい触ってもバレないんじゃ?)

 私の手がコルネリアの顔に向かって伸びていく。だが、すんでのところで思い留まった。

「はぁ……」

 小さくため息をつく。
 こんな時に限って変なことばかり考える自分に嫌気がさした。


「……起きてますわよ」

 はい、死にました。私の中で。いやむしろ、死んでくれ、今すぐ。なんで分かるんだよ。
 恐る恐る横を見るとコルネリアはこちらを見て微笑んでいた。

「ごめん……」
「よりにもよってアニータちゃんの方からわたくしに手を出してくるなんて」

 そう言って彼女は笑った。いつものように妖艶な雰囲気ではなく、子供っぽい悪戯な笑顔で笑うのだ。
 心臓が大きく脈打っていた。……ああ、ダメだ。これはきっと恋なんかじゃない。もっと別の、本能的な何かだ。

 私は心の底から湧き上がる衝動を抑えつけた。これ以上、彼女に近づいてはいけないと思った。
 だが同時にこのよく分からない少女についてもっと知りたいとも思った。
 矛盾した感情を持て余す。それがどうしようもなく苦しかった。

「……ねえ、アニータちゃん」

 私が黙って考え込んでいると、不意にコルネリアが声をかけてきた。

「アニータちゃん言うなって」

 私は平静を装って答える。だがコルネリアはそれを無視して言葉を続けた。

「最後までしてもいいんですのよ?」
「なっ!?」

 私は思わず絶句した。まさか彼女がそんなことを言うとは思わなかった。

「……本気?」

 自分でも驚くほど低い声で聞き返す。すると、彼女はクツクツと笑い始めた。

「あーら、わたくしが冗談を言うと思っていますの?」

 確かに……こいつはそういうタイプか。人を驚かせて反応を楽しむのが趣味みたいなところがある。
 完全に遊ばれている。そう思った瞬間、私の中で何かが吹っ切れた。もうこうなったらこいつがどれくらい本気なのか試してやろうじゃない!

「じゃあさ、ここで襲っていい?」

 私は努めて冷たい視線を送るように彼女を見る。我ながら中々に酷い台詞だ。でもしょうがない。こういう言い方をしておかないと私の方が保ちそうにない。

「あらあら」

 コルネリアは驚いた様子もなくクスリと笑って見せる。その態度が果てしなく気に食わない。

「余裕そうだね?」
「いいえ? 結構、ドキドキしてますわよ? わたくし、こういうことに慣れていませんもの。どうしましょう……?」

 彼女の目が楽しげに細められる。口元は微かに笑みをたたえているが、緊張しているというのは嘘だろう。だって、顔に汗ひとつかいていない。
 私は彼女を睨んだ。だが、それもすぐに諦めた。何せ私の顔も多分、真っ赤になっているからだ。
 これでは説得力など皆無である。

「……」

 結局、私は何もせずに立ち上がった。そのまま振り返らず馬車の中へと入っていく。……二度寝しよ! 
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